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狭小空間をすみずみまで活かしたチャールズ・ムーアのアトリエ棟
テキサス州オースティンにある、建築家チャールズ・ムーアとアーサー・アンダーソンの事務所兼自宅。その敷地内にある小さなアトリエを改築し、狭小空間を徹底的に活用した空間を実現。
Annie Thornton
2015年6月15日
ポストモダン建築の旗手として、作品を制作したほか、大学で教鞭を執り、著作を執筆した建築家のチャールズ・ムーア。彼がテキサス大学オースティン校建築学部の教授に着任するためにオースティンに移り住んだのは1984年のことだった。ムーアは建築家アーサー・アンダーソンとともに事務所を設立。敷地内に2人の住居と2つのアトリエを建てたムーアは、1993年に亡くなるまでここに暮らしながら仕事をした。
ムーアが亡くなった後、財団が設立され、事務所兼住宅とともに膨大なコレクションと蔵書が保存されることになった。チャールズ・ムーア財団は、建物の中にある2.7x2.7メートルの部屋を拠点とすることに。ここはかつてアンダーソンが絵を描くためのアトリエとしてつくった部屋だった。
財団がここに入居して以来、見学者が宿泊していくこともあった。そこで、財団の設立者・理事長のケヴィン・ケイムは、もっと快適な宿泊スペースにすれば、より多くの見学者が来てくれて、財団の収入にもなるのではないか、と思いついた。オースティンに滞在する建築家やデザイナー、アーティスト、研究者などが泊まりたくなるような場所するため、改装案に知恵を絞った。
アンダーソンは、建築学部を卒業してまもないアダム・ワード・ゲイツと一緒にリモデル案を練った。〈キューブ・ロフト〉と名付けられたアトリエには、小さな空間をすみずみまで活用しつくすクリエイティブなアイデアが詰まっている。
ムーアが亡くなった後、財団が設立され、事務所兼住宅とともに膨大なコレクションと蔵書が保存されることになった。チャールズ・ムーア財団は、建物の中にある2.7x2.7メートルの部屋を拠点とすることに。ここはかつてアンダーソンが絵を描くためのアトリエとしてつくった部屋だった。
財団がここに入居して以来、見学者が宿泊していくこともあった。そこで、財団の設立者・理事長のケヴィン・ケイムは、もっと快適な宿泊スペースにすれば、より多くの見学者が来てくれて、財団の収入にもなるのではないか、と思いついた。オースティンに滞在する建築家やデザイナー、アーティスト、研究者などが泊まりたくなるような場所するため、改装案に知恵を絞った。
アンダーソンは、建築学部を卒業してまもないアダム・ワード・ゲイツと一緒にリモデル案を練った。〈キューブ・ロフト〉と名付けられたアトリエには、小さな空間をすみずみまで活用しつくすクリエイティブなアイデアが詰まっている。
空間を広く使うため、ケイムは最初、出窓をつくりたいと考えた。しかし、ロフトのある場所は市の規制があり、2.7x2.7メートルの建築面積からはみ出す出窓をつくることはできない。
そこで、建物を外側に押し出して空間を捻出できないなら、上に押し出せばいい、とケイムは考えた。屋根裏を活用することにしたのだ。ケイムとゲイツは2.7メートルの天井を外し、屋根裏の梁の上の空間を露出させた。こうして、床から4.9メートルの高さのある空間を生み出した。
キューブの下層にはベルトイアのダイアモンド・チェアとヴィクトリア調の読書用の椅子、イームズ・チェアを円形に並べてリビングにした。読書用の椅子はキャスターをつけて可動式にし、背の前面には本を1冊置ける棚をつけた。
そこで、建物を外側に押し出して空間を捻出できないなら、上に押し出せばいい、とケイムは考えた。屋根裏を活用することにしたのだ。ケイムとゲイツは2.7メートルの天井を外し、屋根裏の梁の上の空間を露出させた。こうして、床から4.9メートルの高さのある空間を生み出した。
キューブの下層にはベルトイアのダイアモンド・チェアとヴィクトリア調の読書用の椅子、イームズ・チェアを円形に並べてリビングにした。読書用の椅子はキャスターをつけて可動式にし、背の前面には本を1冊置ける棚をつけた。
マーフィー・テーブル(折りたたんで壁にしまえるテーブル)は、改装前からリビングルームにあったもの。椅子を片付けてテーブルを広げると、グラスが並んだ棚があり、宿泊者が食事や仕事をしたり集まって話したりできる。
ケイムとゲイツは、デザインも素材もシンプルなものを選び抜いた。「修道院で修道士が暮らす個室をイメージして、室内は白がいいと考えました。空間も大きく感じられますから」とケイムは言う。キャビネットはカバ材のプライウッド製で、テーブルは、ソリッドコア材のドアでできている。棚と階段はカバ材のプライウッド製。寝室の床は、マツ材にペンキを塗った。
予算を考えての素材の選択だったが、そもそも「高い素材を使えば良いデザインになるわけではない」というのがムーアの教えだった。「まさにムーアの言葉どおりでしたね」とケイムは言う。
ケイムとゲイツは、デザインも素材もシンプルなものを選び抜いた。「修道院で修道士が暮らす個室をイメージして、室内は白がいいと考えました。空間も大きく感じられますから」とケイムは言う。キャビネットはカバ材のプライウッド製で、テーブルは、ソリッドコア材のドアでできている。棚と階段はカバ材のプライウッド製。寝室の床は、マツ材にペンキを塗った。
予算を考えての素材の選択だったが、そもそも「高い素材を使えば良いデザインになるわけではない」というのがムーアの教えだった。「まさにムーアの言葉どおりでしたね」とケイムは言う。
空間の大部分はシンプルかつクリーンにまとめているが、ケイムが置いたカラフルな小物が、見学者は、敷地内にある母屋のデザインでムーアが発揮したあの大胆なセンスを思い出すはずだ。地元の収集家であるマージー・シャッケルフォードさんと彼女の亡き夫アレクサンダー・キャラゴンが、膨大なメキシコのフォーク・アートのコレクションからいくつかのアイテムを提供。部屋を取り巻くように設置された棚にディスプレイされ、空間のアクセントになっており、ケイムのコレクションであるバウハウスのデザイナー、ヘルベルト・バイヤーの幾何学プリントとのコントラストが印象的だ。「白い空間に、適切な量の色を浮かべたいと思ったのです」とケイムは言う。飾られているプリントは『Triangulation With Hidden Square』という作品である。
下の写真にあるように、リビングの上に、寝室用ロフトが新設されている。造作デスクが左側に、造作テレビキャビネットと階段が右側にある。ベッドの上方のスリムな窓から、リビングを見渡すことができる。
デスク周りの空間から、ロフトの中を行き交う2本のリボンのような木の板が設置されている。「このリボンにはとてもピュアな存在。部屋の中を流れるように存在しています」とケイムは説明する。上へ下へと伸びるリボンは、壁のレッジや棚の一部となり、キューブの反対側では階段の手すりになっている。「まるでメビウスの輪のようでしょう」とケイムは話す。
スリムでエレガントなリボンに、棚や手すりといった機能を持たせるためには、構造的に補強する必要があった。通常は壁につける棚に使うスタンダードな約23センチのL型金具を、側面に使用。片側を壁のスタッドとブロッキングにボルト留めし、もう片側を棚に設けた隙間に差しこんで補強した。補強した棚は、壁ぞいに浮遊感をを与えている。
デスク周りの空間から、ロフトの中を行き交う2本のリボンのような木の板が設置されている。「このリボンにはとてもピュアな存在。部屋の中を流れるように存在しています」とケイムは説明する。上へ下へと伸びるリボンは、壁のレッジや棚の一部となり、キューブの反対側では階段の手すりになっている。「まるでメビウスの輪のようでしょう」とケイムは話す。
スリムでエレガントなリボンに、棚や手すりといった機能を持たせるためには、構造的に補強する必要があった。通常は壁につける棚に使うスタンダードな約23センチのL型金具を、側面に使用。片側を壁のスタッドとブロッキングにボルト留めし、もう片側を棚に設けた隙間に差しこんで補強した。補強した棚は、壁ぞいに浮遊感をを与えている。
改築前は、屋根裏へははしごと跳ね上げ戸で出入りしていたが、ケイムとゲイツはもっとしっかりとした移動用通路をつけたいと考えていた。そこで、キューブの中を快適に移動できる互い違い階段を設置した。空間を節約できるこのタイプの階段は、敷地内にあるムーアの自邸も使われている。またさらに古くは、1960年代に北カリフォルニアの別荘地開発プロジェクト〈シー・ランチ〉のために彼が設計した画期的なコンドミニアムにも使われていた。
ケイムとゲイツは、階段の下に収納用キャビネットを設置。また、元のロフトにあったキッチン設備を拡張し、フリーザー、電子レンジ、シンクを設置した。
ケイムとゲイツは、棟梁の高さを越えないようにしながら、敷地内の反対側にある別棟と同じ破風をつくり、約7.2平方メートルの空間を新たに生み出した。ケイムはロフトの幅いっぱいに広がるガラス壁を手作業で新設。木々の下に広がる敷地内の風景が見渡せる。端にある小窓は開閉可能になっており、さわやかな空気や鳥やリスの声を室内に入れることができる。留め具はマグネット式になっている。
ベッドの下部を取り巻くように造作のカップボードが設置されており、階段の手すりも兼ねている。ドア付きキャビネットの中にはテレビがあり、細長い棚には、ロフトに飾られているメキシコの民芸アートの1つ、セラミックの悪魔人形が置かれている。テレビの後ろには、ロフトの下層部分に降りる階段がある。
新設されたガラスの破風の脇のベッドは、下のリビングの空間に突き出すように設置されている。写真ではツインベッドになっているが、ベンチを引っ張りだしてマットレスを変えればダブルに変更可能。ベッドのヘッドボードの裏側はロフトの隅を利用した造作デスクの支えになっている。
キューブの照明にはブロードウェイ・スタイルのシンプルな電球を使用しているが、これはムーアもよく使っていたもの。優れたデザインで価格は手頃なこの電球は、先端部のメタルが光を屈折させ、柔らかな光を放つ。
ロフトの下にある約4.6平方メートルのタイル張りのトイレとシャワーは、既存のものをそのまま使用。
BEFORE: 7.5平方メートルの建築面積では使える空間は限られているが、既存のキューブは最大限効率的に空間を利用しているとはいえない状態だった。コーナーにベッドを寄せ、長椅子を置いていたものの、座るには大きすぎるし眠るには狭すぎる代物だった。長椅子の脇にコーヒー・テーブルを置くと、部屋の中を動き回るのも不可能な状態。収納は一方の壁に造作されており、その中にミニ冷蔵庫を1つ置く場所もあった。
BEFORE: アーサー・アンダーソンは、敷地内の自宅の隣にこの2.7x2.7メートルののアトリエを建てた。「基本的には、ゲスト用トイレのついた絵を描くための小さなアトリエだったんです」とケイムは言う。写真は、1997年に財団が設立された当時の状態。
宿泊は1泊でも、週単位や月単位でも可能。「多くの方に使っていただければと思います」とケイム。財団は主に建築家やデザイナー、アーティスト、キュレーター、研究者向けに利用の案内を行っているが、利用者の職業に制限はない。宿泊料は、1泊160ドル。売上は財団の活動資金となる。
ケイムは敷地内の別棟に暮らしているが、宿泊者のいないときには数時間をキューブ・ロフトで過ごすことがあるという。「とても静かですからね。ものを書かなければいけないときには、ラップトップをもっていって、ゆっくりと考えるんですよ」とケイムは言う。
チャールズ・ムーアについてもっと知る
ケイムは敷地内の別棟に暮らしているが、宿泊者のいないときには数時間をキューブ・ロフトで過ごすことがあるという。「とても静かですからね。ものを書かなければいけないときには、ラップトップをもっていって、ゆっくりと考えるんですよ」とケイムは言う。
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