日本の匠の技をモダンに。ここちよさを追求した、光と風が通る家
忙しい生活から抜け出し、最大限リラックスできる空間を求めて。建築家、施工者、施主がチームで考え、実現させました。
Mamiko Nakano
2018年6月24日
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香港在住のオーナー夫妻が日本での拠点になる家に求めたのは、とにかくリラックスできる居心地のよさだった。普段は海外に住んでいるため、土地や建築家を探すのにも、現場とのコミュニケーションにもインターネットをかなり活用した。
「遠隔にいながら、本当に家を建てられるのか?」と不安もあったが、地域の特性を知り尽くした建築家との幸運な出会いと、数寄屋大工たちとのチームプレイの結果、光と風が気持ちよく通り抜ける唯一無二の空間が完成した。
「遠隔にいながら、本当に家を建てられるのか?」と不安もあったが、地域の特性を知り尽くした建築家との幸運な出会いと、数寄屋大工たちとのチームプレイの結果、光と風が気持ちよく通り抜ける唯一無二の空間が完成した。
どんなHouzz?
家族構成:香港在住の夫妻
所在地:神奈川県鎌倉市
入居時期:2017年3月
敷地面積:357.50㎡(107坪)
延床面積:140.44㎡(42.48坪)
間取り:2LDK
設計:アット・ピース・アーキテクツ
こちらの家は、神奈川県鎌倉市七里ガ浜の閑静な住宅街の一角にある。オーナーご夫妻は、アメリカ人と日本人のカップル。元々茶室つきの平屋の日本家屋があった庭の和の雰囲気と、二人が好きなミッドセンチュリーモダンのテイストをミックスさせている。
妻のYさんが古家のあるこの土地を見つけたのは2015年の秋頃。当初は新築ではなく、リノベーションできる中古の建物のある土地を探していた。香港に住みながら新築を建てるのは無理だろうと考えていたからだ。
家族構成:香港在住の夫妻
所在地:神奈川県鎌倉市
入居時期:2017年3月
敷地面積:357.50㎡(107坪)
延床面積:140.44㎡(42.48坪)
間取り:2LDK
設計:アット・ピース・アーキテクツ
こちらの家は、神奈川県鎌倉市七里ガ浜の閑静な住宅街の一角にある。オーナーご夫妻は、アメリカ人と日本人のカップル。元々茶室つきの平屋の日本家屋があった庭の和の雰囲気と、二人が好きなミッドセンチュリーモダンのテイストをミックスさせている。
妻のYさんが古家のあるこの土地を見つけたのは2015年の秋頃。当初は新築ではなく、リノベーションできる中古の建物のある土地を探していた。香港に住みながら新築を建てるのは無理だろうと考えていたからだ。
横浜出身のYさん。「香港に住んで5年くらいたった頃、日本にすごく帰りたくなった」という。香港はビルが多くて自然が少なく、忙しい街だからだ。
東京にマンションを買おうとも思ったそうだが「東京は都会すぎて香港とあまり環境が変わらないのでは?」と夫に指摘され、より自然が身近に感じられる場所を探し始めた。出身地でもあり、好きな海が近くにある神奈川県での住宅購入を検討しはじめて半年たったころ、七里ガ浜で古家つきのこの土地出会った。「すごく癒される感じ」がした上に「地域の中にいる自分が想像できた」とYさんは語る。
すぐにインターネットでリノベーションをしてくれる建築家を探し始めたところ、検索で鎌倉山に事務所を構えるアット・ピース・アーキテクツ島田浩由さんのHouzzプロフィールが出てきた。購入する物件がある地域をよく知っている人に設計してほしいと思っていたYさん。さっそく島田さんに連絡をとると「すぐそばに住んでいるので、見にいきますね 」との返答がかえってきた。
東京にマンションを買おうとも思ったそうだが「東京は都会すぎて香港とあまり環境が変わらないのでは?」と夫に指摘され、より自然が身近に感じられる場所を探し始めた。出身地でもあり、好きな海が近くにある神奈川県での住宅購入を検討しはじめて半年たったころ、七里ガ浜で古家つきのこの土地出会った。「すごく癒される感じ」がした上に「地域の中にいる自分が想像できた」とYさんは語る。
すぐにインターネットでリノベーションをしてくれる建築家を探し始めたところ、検索で鎌倉山に事務所を構えるアット・ピース・アーキテクツ島田浩由さんのHouzzプロフィールが出てきた。購入する物件がある地域をよく知っている人に設計してほしいと思っていたYさん。さっそく島田さんに連絡をとると「すぐそばに住んでいるので、見にいきますね 」との返答がかえってきた。
物件のある土地に行き、屋根にも登って景色を眺めてみた島田さんの直感は「リノベーションではなく、新築のほうがよさそう」だった。富士山が見える、2階の高さからの眺めがよすぎたので、平屋ではもったいないと思ったのだ。「でも予算の関係でリノベーションと言われていたので、リノベーションと新築、二つのプランを作り、反応を確かめることに決めました」
リノベーションの提案だけされると思っていたYさんは、島田さんの二つのプランをみて驚いた。夫妻は予算の関係も含めて半年ほど悩み、島田さんはその間二つのプランを並行して調整し続けた。夫妻の住む香港にも行き、夫のJさんを前にプレゼンテーションもした。
リノベーションの提案だけされると思っていたYさんは、島田さんの二つのプランをみて驚いた。夫妻は予算の関係も含めて半年ほど悩み、島田さんはその間二つのプランを並行して調整し続けた。夫妻の住む香港にも行き、夫のJさんを前にプレゼンテーションもした。
上は島田さんの最終案の図面。L字型に曲がっているのがわかる。
島田さんの最初の新築の提案は、土地に対してまっすぐ平行に建つような設計だった。その後、Jさんの希望もあり、茶室のような小屋を追加していたが、予算を考えると厳しく、リノベーションに戻りそうになった。しかし、島田さんの最終的な提案では、小屋の部分を無くし、それを取り込むような形で家をLの字型に曲げ、左右に開く設計になった(上の図面参照)。こうすることで、光と緑がもっとも楽しめるつくりになり、予算ともバランスがとれた。
島田さんの最初の新築の提案は、土地に対してまっすぐ平行に建つような設計だった。その後、Jさんの希望もあり、茶室のような小屋を追加していたが、予算を考えると厳しく、リノベーションに戻りそうになった。しかし、島田さんの最終的な提案では、小屋の部分を無くし、それを取り込むような形で家をLの字型に曲げ、左右に開く設計になった(上の図面参照)。こうすることで、光と緑がもっとも楽しめるつくりになり、予算ともバランスがとれた。
熟考して決定した設計に加え、本物の素材と日本の伝統の技が全体に生かされているのもこの家のよさだ。玄関の手前の壁は土壁、アプローチの階段部分は伊勢砂利を使っている。
玄関の柱は、数寄屋大工で、田中建設の田中幸徳さんが、木材の荒削り用の道具である「ちょうな」で削りあげた 。主張しすぎず、匠の技をさりげなくみせる、この家のスタンスを象徴するような柱だ。
玄関の柱は、数寄屋大工で、田中建設の田中幸徳さんが、木材の荒削り用の道具である「ちょうな」で削りあげた 。主張しすぎず、匠の技をさりげなくみせる、この家のスタンスを象徴するような柱だ。
木目が美しい淡い色の玄関ドアを通って入った室内にも、外から続く伊勢砂利が続いて敷き詰められている。〈柳宗理〉の《バタフライスツール》がさりげなく和と洋の融合の雰囲気を出している。
玄関横からリビングに続く壁の版築(はんちく)の仕上げは、間違いなくこの家の見所の一つだ。4種類の土に微妙に砂利を混ぜたり、削るなどして、異なる表情の14層を作りあげた。完成までには、丸2日かかったという。
この芸術作品のような、こだわりの壁を作ることになった経緯を島田さんはこう語る。「壁は全部シンプルにしていていたのですけど、ここだけ最終的にアクセントにしようと思って決めていませんでした。そうしたら、Yさんが現場で『島田さん、版築って知ってますか?』って。みんなで話し合って、おもしろそうなのでやることにしました」
そう。この家には、Yさん自身が住みたい家を考え抜いてリサーチし、島田さんたち専門家チームに伝え続けたからこそ、実現した部分も多い。施工期間中も、Yさんは2週間に一度ほど香港から現場を訪れ続けたという。
島田さんも工事の過程や、使うとよさそうな素材の提案などを写真で香港にいるYさんにメッセージし続けた。こういった密なコミュニケーションが、最終的に満足度の高い家の実現に寄与している。
この芸術作品のような、こだわりの壁を作ることになった経緯を島田さんはこう語る。「壁は全部シンプルにしていていたのですけど、ここだけ最終的にアクセントにしようと思って決めていませんでした。そうしたら、Yさんが現場で『島田さん、版築って知ってますか?』って。みんなで話し合って、おもしろそうなのでやることにしました」
そう。この家には、Yさん自身が住みたい家を考え抜いてリサーチし、島田さんたち専門家チームに伝え続けたからこそ、実現した部分も多い。施工期間中も、Yさんは2週間に一度ほど香港から現場を訪れ続けたという。
島田さんも工事の過程や、使うとよさそうな素材の提案などを写真で香港にいるYさんにメッセージし続けた。こういった密なコミュニケーションが、最終的に満足度の高い家の実現に寄与している。
リビングの開口部。窓からは、既存の樹木を生かした茶庭の風情が残る庭が見える。その手前にはハンマーミラーの「イームズ ラウンジチェア」がある。床はチークの無垢材。
写真の左手がリビング、右手がダイニングキッチンのスペース。L字に曲がっているのがわかる。
元々あった家は南方向にだけ開口していたが、左右に開けたL字型の設計で、南にある庭と、西側の木々の緑が両方楽しめるようになっている。風もよく通る。
元々あった家は南方向にだけ開口していたが、左右に開けたL字型の設計で、南にある庭と、西側の木々の緑が両方楽しめるようになっている。風もよく通る。
キッチンはウォールナットの無垢の造作で、フランクファーニチャー笛木さんのもの。コンロとシンクが2列に分かれているII型だ。
また、右手のスライディングドアの向こうには収納スペースがたっぷりあるパントリーがある。
また、右手のスライディングドアの向こうには収納スペースがたっぷりあるパントリーがある。
洗面所の棚と鏡はキッチンと同じフランクファーニチャーのもので、ウォールナット製。ボウルはサンワカンパニー。
「ドアを開け放したままにしていることも多いので、その状態でもバランスがよいようにタオルかけの位置なども気にしました」
「ドアを開け放したままにしていることも多いので、その状態でもバランスがよいようにタオルかけの位置なども気にしました」
玄関まわりと並ぶ数奇屋師の技の見せ所が階段だ。蹴込と段板が一枚になっており、さらに回り階段になっている。
「立体で計算して作るのは大変みたいで、階段は一番最後でした。いつまでたっても二階はハシゴと脚立でないと上がれなかった」とYさんは笑う。「これを作っている最中に、YさんにiPhoneでライブ画像を送りました。組み立てながら手すりの鉄骨を入れていかないといけないので、同時に2工程かかっちゃうんですけれど。この家には絶対これだろうなって」と島田さん。
「立体で計算して作るのは大変みたいで、階段は一番最後でした。いつまでたっても二階はハシゴと脚立でないと上がれなかった」とYさんは笑う。「これを作っている最中に、YさんにiPhoneでライブ画像を送りました。組み立てながら手すりの鉄骨を入れていかないといけないので、同時に2工程かかっちゃうんですけれど。この家には絶対これだろうなって」と島田さん。
バスルームは2階にある。タイル貼りの壁と、ドアまわりの黒がアクセントになっており、ここだけはニューヨークスタイルだ。壁の白いタイルはLIXIL。
2シンクの下の棚とミラーキャビネットは、1階のキッチン、洗面所と同じフランクファーニチャーのもの。
2シンクの下の棚とミラーキャビネットは、1階のキッチン、洗面所と同じフランクファーニチャーのもの。
2階にある主寝室はとにかく天井が高い。そしてなにより、角の部分にある窓からは見える景色が素晴らしい。「海は見えないけれど、晴れてると江ノ島タワーがや富士山が見える」とYさん。
寝室からは、苔むした木のある自宅の庭も見降ろせる。訪れるたびに「香港にはない日本の花々と出会うのが花を見るのが楽しみ」なのだそう。
寝室からは、苔むした木のある自宅の庭も見降ろせる。訪れるたびに「香港にはない日本の花々と出会うのが花を見るのが楽しみ」なのだそう。
今は香港在住で、別荘として使っているこの家。夫が仕事を引退した際には、ここに拠点を移したいとYさんは話す。
息のあったチームで進める家づくり。その楽しさを感じさせてくれた、七里ガ浜の家だった。
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息のあったチームで進める家づくり。その楽しさを感じさせてくれた、七里ガ浜の家だった。
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