建築家の住宅論を読む(2)~宮脇檀『住まいとほどよくつきあう』~
建築家たちの著作を紹介するシリーズ第2弾は、1960年代から70年代にかけて住宅設計の旗手として活躍した、宮脇檀(みやわき・まゆみ)の著書を読み解きます。
大村哲弥
2017年12月20日
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。http://www.projet-ltd.co.jp/
ブロガー。言葉とモノをめぐるブログ<Tokyo Culture Addiction>http://c-addiction.typepad.jp/blog/と料理ブログ<チキテオ>http://c-addiction.typepad.jp/txikiteo/を主宰。
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。
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1950年代、不足する住宅への対応と並行して議論されたのが、それまでの日本の和風住宅に代わる、合理的なアメリカ型の住まいと暮らしをモデルにした「モダンリビング」の実現でした。家族が共有するリビングルーム、洋室のベッドルーム、大型冷蔵庫が置かれた明るいキッチンなど、その後、1960年代以降の高度成長の時代を通じて「モダンリビング」は日本の住宅の主流になり今日に至っています。
宮脇檀(みやわき・まゆみ)は1960年代から70年代にかけて住宅設計の旗手として活躍した建築家です。
そこで、今回は、日本における「モダンリビング」のあり方を問い続けた建築家・宮脇檀の『住まいとほどよくつきあう』(新潮文庫、1994年)を読んでみます。
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住宅は暮らしの器にすぎない。宮脇檀『住まいとほどよくつきあう』
宮脇檀は、東大の大学院に在籍したときから、VANの創業者の石津謙介に可愛がられ、若くして実作に恵まれ、テイジンメンズショップ銀座店や石津謙介の別荘《モビーディック》などの設計で、早くからその才能を発揮しました。
料理、家事、ファッション、旅、家具、車、本、映画など、宮脇檀は、暮らし全般への旺盛な好奇心とダンディなライフスタイルで有名であり、建築家であると同時に、自他共に認める稀代のエピキュリアン(生活と趣味における快楽主義者)でした。
後輩にあたる、同じく住宅建築分野で活躍する中村好文は、宮脇のことを「口八丁手八丁」「多芸多才」で「教えたがり屋」だったと評しています。
宮脇の手になる住まいや暮らしを話題にした著作は、本書『住まいとほどよくつきあう』も含め10冊を超え、エッセイの名手としても名を馳せました。
宮脇檀は、東大の大学院に在籍したときから、VANの創業者の石津謙介に可愛がられ、若くして実作に恵まれ、テイジンメンズショップ銀座店や石津謙介の別荘《モビーディック》などの設計で、早くからその才能を発揮しました。
料理、家事、ファッション、旅、家具、車、本、映画など、宮脇檀は、暮らし全般への旺盛な好奇心とダンディなライフスタイルで有名であり、建築家であると同時に、自他共に認める稀代のエピキュリアン(生活と趣味における快楽主義者)でした。
後輩にあたる、同じく住宅建築分野で活躍する中村好文は、宮脇のことを「口八丁手八丁」「多芸多才」で「教えたがり屋」だったと評しています。
宮脇の手になる住まいや暮らしを話題にした著作は、本書『住まいとほどよくつきあう』も含め10冊を超え、エッセイの名手としても名を馳せました。
モビーディック模型、「宮脇檀 手が考える建築家・宮脇檀のドローイング展(2017)」より
住宅設計のプロであり、暮らしのエピキュリアンを自認する宮脇檀の住宅に対する哲学は、個人の生活が最初にあり、住宅はその器にすぎない、というものでした。
「主婦たちのミステリアスな午後」「住宅設計者の嘆き」「設計者と住み手はすれ違う」「結局マンションなのだろうが」「干し物の美学」「住まい方はしまい方?」「風の通る家」「家で過ごす時間は」「食べる場を大事にしたい」「洋風茶の間風LDのすすめ」「住まいに祭りを取り入れる」など、本書でもそうした宮脇流ライフスタイルと住宅哲学が満載です。
あるときは日本における「モダンリビング」の功罪を説き、あるときは暮らしに無関心な男と家づくりに頑張りすぎる女の双方を批判し、あるときは住宅設計の裏舞台を開陳し、あるときは世界の住宅事情を語り、あるときは都会の住まいの魅力を語り、あるときは日常を輝かせるちょっとしたアイデアを提案し、あるときは自虐ネタで苦笑する。
こうした宮脇檀の生活のダンディズムは、今から見るとやや気取った、スノッブな物言いに聞こえるかもしれませんが、自らの姿勢をも笑い飛ばしながらユーモアを忘れないその語り口は、今、読んでも健全で痛快です。けっして嫌味にならないのはきっと本人のキャラクターによるところが大と思われます。
住宅設計のプロであり、暮らしのエピキュリアンを自認する宮脇檀の住宅に対する哲学は、個人の生活が最初にあり、住宅はその器にすぎない、というものでした。
「主婦たちのミステリアスな午後」「住宅設計者の嘆き」「設計者と住み手はすれ違う」「結局マンションなのだろうが」「干し物の美学」「住まい方はしまい方?」「風の通る家」「家で過ごす時間は」「食べる場を大事にしたい」「洋風茶の間風LDのすすめ」「住まいに祭りを取り入れる」など、本書でもそうした宮脇流ライフスタイルと住宅哲学が満載です。
あるときは日本における「モダンリビング」の功罪を説き、あるときは暮らしに無関心な男と家づくりに頑張りすぎる女の双方を批判し、あるときは住宅設計の裏舞台を開陳し、あるときは世界の住宅事情を語り、あるときは都会の住まいの魅力を語り、あるときは日常を輝かせるちょっとしたアイデアを提案し、あるときは自虐ネタで苦笑する。
こうした宮脇檀の生活のダンディズムは、今から見るとやや気取った、スノッブな物言いに聞こえるかもしれませんが、自らの姿勢をも笑い飛ばしながらユーモアを忘れないその語り口は、今、読んでも健全で痛快です。けっして嫌味にならないのはきっと本人のキャラクターによるところが大と思われます。
宮脇檀プロフィール、「宮脇檀 手が考える建築家・宮脇檀のドローイング展(2017)」より
そうした宮脇檀がどうしても我慢できなかった、あるいは許しがたかったのが、住宅に縛られ、暮らしの自由と愉快さを犠牲にしている日本人の生き方でした。
持ち家や土地付き戸建に執着し、結果的に重いローン返済や長く過酷な通勤に縛られながら疑問に思わない日本人の生き方と、人々にそうしたライフスタイルを強いている背景にある、持ち家に偏った国の住宅政策の両方を、宮脇は糾弾し続けました。
そしてしばしば、自らの住宅設計という仕事自体がその片棒を担いでいるのではないかという複雑な思いを吐露しています。宮脇檀のエッセイの洒脱さの陰に垣間見える、ある種の屈託はここから来ています。
80年代に入り、個人住宅の設計に加え、戸建住宅地の街並み設計を手がけるようになった宮脇はこんな言葉を残しています。
「自分の敷地に自分の家、という願望の現実としての強さをどう評価すべきか」「現実の強さが否定できないのだったら、それを正しく全体の体系の中に組み込み、正統な子として扱うことはできないだろうか」(『コモンで街を作る』丸善プラネット、1999年)
歪んだ日本の住宅事情のなかで、宮脇檀は先のような屈託を抱えながら、建築家という実践者の立場から、決して諦めずに、かといって過剰な期待も持たずに、日本の住宅と住宅地を少しでも良くしようと住宅づくりの現場で最後まで格闘していました。
宮脇檀が亡くなって来年2018年で20年です。折しも日本では、本格的な家余り時代の到来、深刻な空き家問題が話題になっています。
宮脇檀が主張して止まなかった、住宅は暮らしの器にすぎないというまっとうな考え方、盲目的な執着でもなく、無関心な諦めでもない、まさに本書のタイトルである『住まいとほどよくつきあう』ことができる時代がようやくやってくるのかもしれません。
宮脇檀(1936-1998)
東京芸術大学で建築を、東京大学大学院で都市計画を学ぶ。個人住宅を中心とした住宅設計と戸建住宅地の街並みデザインの第一人者として活躍。住まいや暮らしをテーマとしたエッセイや住宅設計に関する専門書など多数の著作を残し、講演なども精力的にこなした。法政大学や日本大学生産工学部などにおいて住宅設計を教えた。代表作に《松川ボックス》、《フォレステージ高幡鹿島台》など。
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東京芸術大学で建築を、東京大学大学院で都市計画を学ぶ。個人住宅を中心とした住宅設計と戸建住宅地の街並みデザインの第一人者として活躍。住まいや暮らしをテーマとしたエッセイや住宅設計に関する専門書など多数の著作を残し、講演なども精力的にこなした。法政大学や日本大学生産工学部などにおいて住宅設計を教えた。代表作に《松川ボックス》、《フォレステージ高幡鹿島台》など。
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