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建物環境からのストレスを減らす「バイオフィリックデザイン」とは?
自然の恩恵を受けて健康的な暮らしをするために提唱されている、古くて新しいコンセプトです。
Janet Dunn
2018年10月20日
現代的な生活は便利ですが、多くの人は十分に健康や幸福とはいえないままです。新しいようでいて実はとても古い建築的コンセプトの中に、この問題の治療法が見つかるかもしれません。「バイオフィリックデザイン」の考え方を知り、ストレスを減らせて健康的な暮らしができる住宅について考えてみましょう。
ある虎の物語
シベリアベンガル虎のトニーは最近まで、アメリカ・ルイジアナ州のトラック運転手向けのドライブインの呼び物でした。彼はガソリンスタンドの外にある檻の中でずっと生きてきましたが、病気でその生は絶たれてしまいました。
この虎は17年の生涯をガソリンの匂いに満ちた人工的な住処で過ごしましたが、もし彼のオーナーが動物の周辺環境とその健康や幸福度の関係についてもっとよく知っていたならば、トニーの物語は別の終わり方になっていたかもしれません。
写真:pixabay
シベリアベンガル虎のトニーは最近まで、アメリカ・ルイジアナ州のトラック運転手向けのドライブインの呼び物でした。彼はガソリンスタンドの外にある檻の中でずっと生きてきましたが、病気でその生は絶たれてしまいました。
この虎は17年の生涯をガソリンの匂いに満ちた人工的な住処で過ごしましたが、もし彼のオーナーが動物の周辺環境とその健康や幸福度の関係についてもっとよく知っていたならば、トニーの物語は別の終わり方になっていたかもしれません。
写真:pixabay
トニーの運命から私たち人間が学び得る教訓はあるでしょうか? 感覚の刺激や社会的なつながり、自然との関係が私たちの家や職場から奪われた時、私たちはトニーの運命と同じ道筋をたどっているのかもしれません。
「バイオフィリックデザイン」は建築業界における次の重要な着目点として、また現代の街に溢れている、疲労感やストレスにつながる環境の改善案として促進されています。
「バイオフィリックデザイン」は建築業界における次の重要な着目点として、また現代の街に溢れている、疲労感やストレスにつながる環境の改善案として促進されています。
バイオフィリックデザインとは?
「バイオフィリック」という言葉の元になっている「バイオフィリア」とは元々「生物、あるいは生命のシステムに対する愛情」を意味します。1980年代、アメリカ人生物学者のE.O.ウィルソンは、私たちは建築物のような作られた環境より自然環境を好むよう進化してきた、と提唱しました。ウィルソンの言葉によれば、私たちは「本能的、また遺伝的に自然界への親和性を持っている」と言います。バイオフィリックデザインの主唱者たちは、この本能に対する建築的な取り組みを試みているのです。
地域に根ざした持続可能なデザイン。ヴァナキュラー住宅から学べること
「バイオフィリック」という言葉の元になっている「バイオフィリア」とは元々「生物、あるいは生命のシステムに対する愛情」を意味します。1980年代、アメリカ人生物学者のE.O.ウィルソンは、私たちは建築物のような作られた環境より自然環境を好むよう進化してきた、と提唱しました。ウィルソンの言葉によれば、私たちは「本能的、また遺伝的に自然界への親和性を持っている」と言います。バイオフィリックデザインの主唱者たちは、この本能に対する建築的な取り組みを試みているのです。
地域に根ざした持続可能なデザイン。ヴァナキュラー住宅から学べること
バイオフィリック理論の根底にあるのは、建物は全体論的視点から設計された時にのみ、私たちの身体的・精神的健康を促進するという考え方です。私たちは孤立した要素(たとえば、単に植物を建物内に置くこと)からよりも、多種多様で互いに補い合う要素により自然の中にいるような感覚を強められた方が、その恩恵を受けることができるのです。
ウィルソンの同僚であるスティーブン・ケラート博士は、植物や自然採光、そして自然界に由来する形状や素材を通じた間接的影響を、この種のデザインの特徴の一部として挙げました。
ウィルソンの同僚であるスティーブン・ケラート博士は、植物や自然採光、そして自然界に由来する形状や素材を通じた間接的影響を、この種のデザインの特徴の一部として挙げました。
グリーンアーキテクチャーの単なる別名では?
グリーンビルディングの考え方では、環境への責任と持続可能な資源の効率的な使用が重要とされます。バイオフィリックデザインではこうした目標も持ちつつも、空間を使用する人たちの健康や幸福により焦点を当てています。
地球を基本にする考え方と人を基本にする考え方の融合は、建築界の中で騒ぎを引き起こしています。BVDドノヴァン・ヒル建築事務所のブライアン・ドノヴァンは、「建築は今後、大きく変わるでしょう」と話しました。
グリーンビルディングの考え方では、環境への責任と持続可能な資源の効率的な使用が重要とされます。バイオフィリックデザインではこうした目標も持ちつつも、空間を使用する人たちの健康や幸福により焦点を当てています。
地球を基本にする考え方と人を基本にする考え方の融合は、建築界の中で騒ぎを引き起こしています。BVDドノヴァン・ヒル建築事務所のブライアン・ドノヴァンは、「建築は今後、大きく変わるでしょう」と話しました。
バイオフィリックデザインの何が新しい?
バイオフィリックデザインは、古代に実践されていたことの再発見であって、新しい考え方ではありません。長い間ずっと、建築家たちはより大きな生態系の中での人間の立場を認識し、建築形状に自然の要素を融合させてきました。アテネのパルテノン神殿とローマのパンテオン神殿(上)、そして古代ベトナムの都市であるホイアンは、実際に機能しているバイオフィリックデザインですが、そのように呼ばれだしたのは1980年代に入ってからのことです。
写真:pixabay
バイオフィリックデザインは、古代に実践されていたことの再発見であって、新しい考え方ではありません。長い間ずっと、建築家たちはより大きな生態系の中での人間の立場を認識し、建築形状に自然の要素を融合させてきました。アテネのパルテノン神殿とローマのパンテオン神殿(上)、そして古代ベトナムの都市であるホイアンは、実際に機能しているバイオフィリックデザインですが、そのように呼ばれだしたのは1980年代に入ってからのことです。
写真:pixabay
フランク・ロイド・ライトは近代におけるバイオフィリアの主唱者の1人です。「自然を学び、自然を愛し、自然に寄り添いなさい。自然は決してあなたを裏切ることはありません」と勧め、彼の多くの建築がこの言葉を裏づけています。特に、彼のパイオニア的作品「落水荘」は切っても切り離せないというほど自然と融合しています。
なぜ今注目されているのか?
今日、建物に影響された健康状態における心理的側面をより科学的に理解することで、バイオフィリアのコンセプトが裏づけられています。
バイオフィリックデザインの主唱者たちは、私たちが建物環境の中で長時間過ごしていることが孤独や不安、倦怠感や無気力といった感情に大きく影響していると考えています。
今日、建物に影響された健康状態における心理的側面をより科学的に理解することで、バイオフィリアのコンセプトが裏づけられています。
バイオフィリックデザインの主唱者たちは、私たちが建物環境の中で長時間過ごしていることが孤独や不安、倦怠感や無気力といった感情に大きく影響していると考えています。
今、自然のシステムと持続的に関わりあえ、気力を回復させ、生産性を高める、魅力ある建物設計に対する関心が高まりつつあります。職場、医療や高齢者ケア施設、そして特に住宅は、このトレンドから非常に大きな利益を得られることでしょう。
バイオフィリックデザインの要素とは何か?
- 窓や天窓、採光窓からの自然光、昼光を補うフルスペクトルの人工光源、ファサードや日除け、シャッターや開口部を通じたさまざまな強さの動的な光。
- 近景と遠景による遠近感で、より大きな生態系とのつながりの感覚が生じるような外観。
- 目で見て、耳で聞き、触れることのできる、噴水や池、水盤のような水源。
- 自然を思い起こさせる豊かな刺激。香りのある植物、季節により色が変わる植物、通路に突き出すように置かれた植物、そのままの炎、独特な触感のある素材。
- 地元の自然環境を反映した、加工を最小限に抑えた素材。皮革のような自然の繊維や石材、木材や手作りのオブジェ。
バイオフィリックデザインの興味深いところは、実際の自然環境の不在、つまり、自然の擬態が同等の恩恵を備えているという点です。これは「バイオミミクリー(生物模倣性)」として知られ、 おそらく都市空間においてもっとも有用で実現しやすい特徴と言えます。以下に例を挙げます。
- 有機的な形状の建築物や家具における(幾何学的な形状は自然界においてはほとんど見られない)。
- 自然に由来する色彩体系。アーストーンや草木由来のトーン、水や空に見出せる色彩。
- 写実的、抽象的な自然のイメージ。たとえば、写真、アート、壁画、彫刻、花や草木模様のアイテム等。
ある建築家によるバイオフィリックデザインについての話
建築家、アントニー・マーティン は、自身によるMRTNアーキテクツのプロジェクトにおいてバイオフィリックのコンセプトはとても重要だと話します。たとえば、「フェアフィールド・アシエンダ (Fairfield Hacienda)」(上)には、身体的・精神的な健康への恩恵と関連する自然光源や通気性がたくさんあり、自然素材が使用されています。マーティンは杉材に覆われた起伏のある天井について、「どこにでもある平らで白い石膏ボードの天井へのアンチテーゼであり、より環境的に進化した形状」と描写します。
建築家、アントニー・マーティン は、自身によるMRTNアーキテクツのプロジェクトにおいてバイオフィリックのコンセプトはとても重要だと話します。たとえば、「フェアフィールド・アシエンダ (Fairfield Hacienda)」(上)には、身体的・精神的な健康への恩恵と関連する自然光源や通気性がたくさんあり、自然素材が使用されています。マーティンは杉材に覆われた起伏のある天井について、「どこにでもある平らで白い石膏ボードの天井へのアンチテーゼであり、より環境的に進化した形状」と描写します。
道路との間にある緑は、住人や通行人に対して、植物とのつながりや相互作用をもたらし、また景観の一部となります。内部においては、中央の中庭が家の他の場所同士を視覚的につなげ、また自然に温度調整をする熱の「循環」を作りだしています。
また、ラスミネスのプロジェクトで再利用されている廃材は、日本の伝統であり、不完全性や自然のプロセスに見出される美である「侘び寂び」と関連づけられています。アイランドキッチンの天板には、風合いのある岸壁が再利用されており、内壁と屋外のバーベキューエリアは廃品利用のレンガで施工されています。
マーティンの「トレンタム・ロング・ハウス」においては、単調な色よりもテクスチャーを表現できる色の素材が好んで使われ、自然環境と呼応しています。木材による覆いは経年により銀色になり、個性あふれるスレート石材のタイル床とコントラストを成しています。石籠を用いた石壁は戸外リビングエリアを保護し、風の強い日でも戸外とのつながりを可能にしています。
木製の格子は、スレート床にまだらに影を落とします。「この動くパターンは、森の地面を守る樹冠を想起させるものです」とマーティンは言います。
「カールトン・クロイスター 」の増築は、母屋と二階建ての増築部を通路で接続することによって成し遂げられました。覆いのある歩行者通路は、北向きのガラス窓により、常に庭と繋がったつくりになっています。このプロジェクトは赤レンガとブラックバット木材の外装で建てられ、使用素材は内部空間よりも外部空間と密接に共鳴しており、通路は屋外の要素としてより際立っています。
この住宅は中央の中庭の周りに配置され、全ての側面から層的な景観が観られます。庭を太陽の側に集中させることにより、昼には最適な自然光が得られます。内部の赤レンガ壁とコンクリート床の持つ高い熱質量が充電池のように直射太陽熱を吸収して、必要なときに放出します。その結果として、心を癒すのと同じように体も自然に、効果的に癒せる家ができあがるのです。そしてそれを一言で表したのが「バイオフィリック」なのです。
家づくりのヒント|ライフスタイル・暮らし|世界のHouzz
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