家具消費トレンド:アメリカでは価格より質にこだわる若い消費者が増加中
安い家具の人気に陰りが見えてきた? とりわけミレニアル世代の間では、多少値段が高くても「本当に良いもの」を求める人が増えています。
Michael Cannell
2016年3月2日
5年前に買ったお手頃ブランドのテーブル。見つけたときはカントリー風が魅力的に見えたし、しかも安すぎると思えるくらい手頃な価格だった。さて、そのテーブルの今の姿はどうだろう? 永遠の定番スタイルだと思ったのに、だんだん化粧板がはがれてしまい、中のファイバーボード材がのぞいている。こういう場合、あなたなら同じものをもう一度買い直すだろうか? 最近は、しばらく我慢してお金を貯めてでも本当に長持ちするものを買いたいという人が増えているようだ。
「ゆっくり時間をかけて、高くても良い品を買い揃えていくほうがいいと気付きました」と話すのはヘレン・ハワードさんと夫のジョンジーさん。
この15年間、アメリカでは、サイドボードにせよ、オットマンにせよ、ナイトスタンドにせよ、ヴァランスにせよ、とにかく値段の安いものが人気、というトレンドが続いていた。家具小売業界誌『HFN』 『Home & Textiles Today』の編集長を務めるウォーレン・シュルバーグさんによれば、低~中価格帯の家具は1990年代後半に40%も値下がりしたという。製造業がそれまでの米国内拠点から賃金の安い国外へと移ったためである。低金利の住宅ローンでコンドミニアムや建売住宅を購入し、そのインテリアをデザインしたりリノベする消費者にとって、家具価格の低下はありがたいことだった。
「スタイリッシュな家具を低価格で」というトレンドに、メーカーも浮き足立った。デザインと実用性を兼ね備えた家具を誰にでも手に届く価格で提供することは、ミッドセンチュリーモダニズムが目指しつつも実現できなかったテーマだが、これを提供することを売りにした大手チェーンも登場した。著名な建築家のマイケル・グレイブス、インテリアデコレーターのトーマス・オブライエンらも大型店舗向けに自身の名を冠したラインを発表し、スタイリッシュなインテリア用品をリーズナブルに提供できることを証明してみせた。エーロ・サーリネンのチューリップテーブルやミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアなどミッドセンチュリーの名品も、リプロダクト品が半額程度で手に入るようになった。
しかし、安さへの欲求はそろそろ飽和点に達しているようで、品質と職人技の良さを再認識し、そのためなら高いお金を払ってもいいというトレンドが出てきている。「ミレニアル世代にとって、安い家具はデザインに目覚めるきっかけににすぎません」と言うのは、カリフォルニア州バークレーにある1920年代に建てられたクラフツマン様式の家(写真)に住むヘレン・ハワードさん。「最終的には、ゆっくり時間とお金をかけて良い品を選ぶほうが良いと気付きました。」
ジェシカ・シュミットさんと夫のケヴィンさんは、10月にバンクーバーの家から引っ越した際、使い古した安価な家具をそのまま置いてきた。「一見悪くないんですが、よく見るとかなり傷んでいましたから」とシュミットさん。新居となる約140平方メートルの水上住宅には、4000ドルのカウチを購入し、納屋の廃材を利用した造作デスクを特注した。「値段が高くても、より長持ちするものを選ぶようになりました」と言う。
この15年間、アメリカでは、サイドボードにせよ、オットマンにせよ、ナイトスタンドにせよ、ヴァランスにせよ、とにかく値段の安いものが人気、というトレンドが続いていた。家具小売業界誌『HFN』 『Home & Textiles Today』の編集長を務めるウォーレン・シュルバーグさんによれば、低~中価格帯の家具は1990年代後半に40%も値下がりしたという。製造業がそれまでの米国内拠点から賃金の安い国外へと移ったためである。低金利の住宅ローンでコンドミニアムや建売住宅を購入し、そのインテリアをデザインしたりリノベする消費者にとって、家具価格の低下はありがたいことだった。
「スタイリッシュな家具を低価格で」というトレンドに、メーカーも浮き足立った。デザインと実用性を兼ね備えた家具を誰にでも手に届く価格で提供することは、ミッドセンチュリーモダニズムが目指しつつも実現できなかったテーマだが、これを提供することを売りにした大手チェーンも登場した。著名な建築家のマイケル・グレイブス、インテリアデコレーターのトーマス・オブライエンらも大型店舗向けに自身の名を冠したラインを発表し、スタイリッシュなインテリア用品をリーズナブルに提供できることを証明してみせた。エーロ・サーリネンのチューリップテーブルやミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアなどミッドセンチュリーの名品も、リプロダクト品が半額程度で手に入るようになった。
しかし、安さへの欲求はそろそろ飽和点に達しているようで、品質と職人技の良さを再認識し、そのためなら高いお金を払ってもいいというトレンドが出てきている。「ミレニアル世代にとって、安い家具はデザインに目覚めるきっかけににすぎません」と言うのは、カリフォルニア州バークレーにある1920年代に建てられたクラフツマン様式の家(写真)に住むヘレン・ハワードさん。「最終的には、ゆっくり時間とお金をかけて良い品を選ぶほうが良いと気付きました。」
ジェシカ・シュミットさんと夫のケヴィンさんは、10月にバンクーバーの家から引っ越した際、使い古した安価な家具をそのまま置いてきた。「一見悪くないんですが、よく見るとかなり傷んでいましたから」とシュミットさん。新居となる約140平方メートルの水上住宅には、4000ドルのカウチを購入し、納屋の廃材を利用した造作デスクを特注した。「値段が高くても、より長持ちするものを選ぶようになりました」と言う。
この変化には世代交代による影響もある。ほとんどのベビーブーム世代はすでに家具を購入する時期を過ぎ、現在結婚して家作りを始めようとしているのは大半がミレニアル世代(2016年で20~35歳程度に相当)。ヴィンテージ家具や手作りの品、廃材を活用した素敵なインテリアの写真をインターネットでたくさん見て育っている世代である。彼らは、木質ボードやプラスチックのラミネート、スプレー塗装、工場での大量生産、作りがチープなものは好まない。
大学院卒業後、シアトルのロフトを改装した住宅(写真)に引っ越してきたミッチェル・プライドさんは、「チープな家具を買わないのは、意識的な決断でした」と言う。
「家具は数年かけて揃えました。その間は、友達が遊びに来ても、ダイニングの椅子に座ってもらったりしていましたね。本当に気に入って、買い替える必要がなく、長い間使えるものを手に入れることを目標にしていましたから。」
大学院卒業後、シアトルのロフトを改装した住宅(写真)に引っ越してきたミッチェル・プライドさんは、「チープな家具を買わないのは、意識的な決断でした」と言う。
「家具は数年かけて揃えました。その間は、友達が遊びに来ても、ダイニングの椅子に座ってもらったりしていましたね。本当に気に入って、買い替える必要がなく、長い間使えるものを手に入れることを目標にしていましたから。」
「食べ物もファーマーズマーケットのほうが好きだし、小さくても世界に1つしかないものが好きなんです」と言うクリスティン・ミネルヴァさんと夫のクリスさん。
デザインに対する目の肥えたミレニアル世代は、インターネットで手作りの製品を見つけて手に入れることにも慣れている。投稿したお互いのインテリアを見比べてコメント欄で評価し合うのも当たり前。「ミレニアル世代は自分の感性でインテリアを作り上げたいと考えていて、そのためにお金を惜しみません」と『HFN』のシュルバーグ編集長は言う。「服もそうですが、家具を買う前にその背景にあるストーリーも知りたいと考えるんです。」
それは食べ物も同じこと。トロントのこちらのロフトに住むクリスティン・ミネルヴァさんは「両親は、大型店舗やチェーンレストランばかりに行きますが、私はファーマーズマーケットや手作りの1点ものが好き。バゲットに5ドル払ってもいいと思っています。私たちの世代は、生活の基本的なところに立ち返っているんです」と言う。
ニューヨークの建築家、スーザン・ドーバンさんはサイドビジネスとしてプロダクトデザインや特注家具の製造も行っている。彼女によると、数年前と比べても、クライアントの製品に対する知識は深まっているという。「私のところに来るころには、すでに長い間Houzzを見て考えをめぐらせ、スケッチやメモもつくっていたりします。結果として趣味もぐっと良くなっていますね。」携帯電話やコンピュータなど、身の回りに氾濫するプラスチックや合成素材への反動からか、ハードウッドなどの昔ながらの素材を好む傾向が強くなっているという。
この背景には、志向の変化だけではなく経済情勢の変化もある。中国の賃金が2001年から平均12%も上昇したため、低価格帯の製品もいまではそれほど安くなくなっている。「米国内の賃金上昇も理由ですね」とシュルバーグさんは言う。
とはいえ、もう安い家具や家庭用品は一切不要、というわけではない。手に入る価格であってほしいのはもちろんだが、安かろう悪かろうの使い捨て感覚ではなくなってきている。家庭用品や家電を扱うフリーランスライターのスティーブン・トレフィンガーさんは「手の届く値段で、長く使えるものが求められています。買える物は少なくても、節約しても、本当に気に入ったものを手に入れたいと考える若い人たちが増えています」と言う。
教えてHouzz
家具を買うとき、決め手になるのは何ですか? 高くても質のよい家具を手に入れたい、と思いますか?
デザインに対する目の肥えたミレニアル世代は、インターネットで手作りの製品を見つけて手に入れることにも慣れている。投稿したお互いのインテリアを見比べてコメント欄で評価し合うのも当たり前。「ミレニアル世代は自分の感性でインテリアを作り上げたいと考えていて、そのためにお金を惜しみません」と『HFN』のシュルバーグ編集長は言う。「服もそうですが、家具を買う前にその背景にあるストーリーも知りたいと考えるんです。」
それは食べ物も同じこと。トロントのこちらのロフトに住むクリスティン・ミネルヴァさんは「両親は、大型店舗やチェーンレストランばかりに行きますが、私はファーマーズマーケットや手作りの1点ものが好き。バゲットに5ドル払ってもいいと思っています。私たちの世代は、生活の基本的なところに立ち返っているんです」と言う。
ニューヨークの建築家、スーザン・ドーバンさんはサイドビジネスとしてプロダクトデザインや特注家具の製造も行っている。彼女によると、数年前と比べても、クライアントの製品に対する知識は深まっているという。「私のところに来るころには、すでに長い間Houzzを見て考えをめぐらせ、スケッチやメモもつくっていたりします。結果として趣味もぐっと良くなっていますね。」携帯電話やコンピュータなど、身の回りに氾濫するプラスチックや合成素材への反動からか、ハードウッドなどの昔ながらの素材を好む傾向が強くなっているという。
この背景には、志向の変化だけではなく経済情勢の変化もある。中国の賃金が2001年から平均12%も上昇したため、低価格帯の製品もいまではそれほど安くなくなっている。「米国内の賃金上昇も理由ですね」とシュルバーグさんは言う。
とはいえ、もう安い家具や家庭用品は一切不要、というわけではない。手に入る価格であってほしいのはもちろんだが、安かろう悪かろうの使い捨て感覚ではなくなってきている。家庭用品や家電を扱うフリーランスライターのスティーブン・トレフィンガーさんは「手の届く値段で、長く使えるものが求められています。買える物は少なくても、節約しても、本当に気に入ったものを手に入れたいと考える若い人たちが増えています」と言う。
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皆様の写真どれもずっと眺めていたくなるような物ばかりで、素敵ですね。安い家具に流れる、、日本も同じ経緯をたどっているような気がします。弊社では施主さまがこれから買い換える際に、長く使ってもらえるようなもののご提案をしています。「手の届く値段で、長く使えるもの。買える物は少なくても、節約しても、本当に気に入ったものを」まさにこれにつきます。傷が傷や汚れのままではなく、「歴史」になるものをそばにおきたいですね。