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地域に根ざした持続可能なデザイン。ヴァナキュラー住宅から学べること
ヴァナキュラー住宅と周辺環境との関係から知る、持続可能な建築の在り方とは。
Rebecca Gross
2018年10月3日
ヴァナキュラー住宅とは、特定の地域に適した建築のことです。その地域のニーズや伝統に応じて設計され、地域の材料と技術を使い、よりよいエネルギー効率と持続可能性のために気候や環境も考慮されます。ヴァナキュラー住宅はそのような地域主義に根ざしており、 文化や地域、さらには国のアイデンティティに貢献するものなのです。
ヴァナキュラー建築のこうした特徴が、持続可能性およびエネルギー効率のための建築デザインとして、ここ数十年で次第に注目されるようになりました。本記事では、オーストラリアのヴァナキュラー住宅と、その環境との関係から学べることについてご紹介します。
ヴァナキュラー建築のこうした特徴が、持続可能性およびエネルギー効率のための建築デザインとして、ここ数十年で次第に注目されるようになりました。本記事では、オーストラリアのヴァナキュラー住宅と、その環境との関係から学べることについてご紹介します。
生活様式にあうデザイン
19世紀にイギリスからの移民がオーストラリアに移住した際、住宅は主にイギリスのそれ、つまりコテージや農家の家、納屋、そして後にはテラスハウスに対応するものでした。しかしながら、オーストラリアの土地、気候、そして生活様式がイギリスとは異なったために、イギリス式建築とは異なるオーストラリア建築が発展し始めました。
その一例がベランダです。住宅の前後に配置されることが多く、時として住宅を完全に囲うベランダは、日中を過ごしたり、特に暑い夏の時期は夜眠るのに理想的な場所でした。
19世紀にイギリスからの移民がオーストラリアに移住した際、住宅は主にイギリスのそれ、つまりコテージや農家の家、納屋、そして後にはテラスハウスに対応するものでした。しかしながら、オーストラリアの土地、気候、そして生活様式がイギリスとは異なったために、イギリス式建築とは異なるオーストラリア建築が発展し始めました。
その一例がベランダです。住宅の前後に配置されることが多く、時として住宅を完全に囲うベランダは、日中を過ごしたり、特に暑い夏の時期は夜眠るのに理想的な場所でした。
ここから私たちが学べること:伝統的なヴァナキュラー住宅は、必要性の結果です。必要不可欠なものだけを提供し、必要のない余分なものは排除しています。もしもあなたが住宅を設計、またはリフォームしているのなら、家族のニーズと暮らし方、または理想の暮らし方を注意深く考慮しましょう。最も多くの時間を過ごしたいのは、どの部屋ですか?屋内と屋外、どちらを中心にした暮らしをが好きですか?キッチンに求める条件はどんなことですか?
南オーストラリア州にある、この1920年代の下見板張りの家の増築部分は、モロニー・アーキテクツの共同創設者である建築家、ミック&ジュールズ・モロニーにより、自分たちの若い家族に必要となった追加の居住空間を提供するシンプルな箱型の空間です。
二人は数多くの設計を繰り返した後、自分たちの新しいキッチン、リビング、およびダイニングスペースに必要なのは、実用的な木製の箱で十分だと判断しました。
二人は数多くの設計を繰り返した後、自分たちの新しいキッチン、リビング、およびダイニングスペースに必要なのは、実用的な木製の箱で十分だと判断しました。
「どんなふうに過ごしたいか、料理をしながらどんなふうに友人とおしゃべりしたいか、空間を圧迫することなくテレビを設置するにはどうしたらいいかについて、内装部分から検討を始めました」とジュールは話します。最終的にたどりついた手間の少ない建築資材は、安価で加工されておらず、子どもたちによる日常的な衝撃に耐えうる強さもありました。
地元の材料を使って建てる
ここ数世紀までは、輸送手段の利用しやすさや材料を運べる距離には限りがありました。施工業者や職人は便利で手頃なものを使うことから、現場の近くで調達できる材料や資源を利用して家を建てていたのです。オーストラリアでは、青石、砂岩、土、木材など、さまざまな天然素材を用いて住宅が建てられました。
ここ数世紀までは、輸送手段の利用しやすさや材料を運べる距離には限りがありました。施工業者や職人は便利で手頃なものを使うことから、現場の近くで調達できる材料や資源を利用して家を建てていたのです。オーストラリアでは、青石、砂岩、土、木材など、さまざまな天然素材を用いて住宅が建てられました。
ここから私たちが学べること:地元の資源を使用するということは、再生可能な素材であったり、長距離の運搬に必要なエネルギーを削減できるため、より持続可能な選択肢です。もしもあなたが住宅を設計またはリフォームしているのなら、持続可能性だけでなく、地域の景観と調和する家を作るためにも、その地域原産の材料を探してみましょう。
2世紀以上にわたり、砂岩はオーストラリア建築の構成要素であり続け、その強度と耐久性は他の建築資材を上回るものでした。長年にわたり、砂岩は、シドニー郊外のバルメイン やハンターズ・ヒルなどオーストラリア国内および多くの地域で住宅や建物に使用されており、ほとんど現場で切り出されていました。
ニューサウスウェールズ州にあるこの住宅では、砂岩が水辺の土地に見事に映えています。砂岩でできた壁の曲線は港周辺の砂岩を模しており、土地と住宅が視覚的につながっています。
ニューサウスウェールズ州にあるこの住宅では、砂岩が水辺の土地に見事に映えています。砂岩でできた壁の曲線は港周辺の砂岩を模しており、土地と住宅が視覚的につながっています。
西オーストラリア州の地域にあるこの12世帯の集合住宅は、砂の丘に埋め込まれています。練り土の壁の材料は、掘削した丘面と近隣の川から出た土と砂利です。自然のままで涼しいので、この地域の極端な気温にもかかわらず、快適に生活できます。
地元の知識と技術を資本化する
地元の職人たちは歴史的に、その地域に住む人々の住宅を建ててきました。彼らは代々、環境、資源、および生活様式に対する理解を受け継いできており、世代を超えて受け継がれた建設技術を発展させました。
地元の職人たちは歴史的に、その地域に住む人々の住宅を建ててきました。彼らは代々、環境、資源、および生活様式に対する理解を受け継いできており、世代を超えて受け継がれた建設技術を発展させました。
ここから私たちが学べること:地元の建設業者や職人に依頼することで、地域経済および雇用に貢献できるだけでなく、彼らが学び身につけた知識や技術を生かすことができるということです。もしもあなたが住宅を設計またはリフォームしているのなら、地元の建築家、施工業者、そして職人を巻き込み、地元での彼らの経験を活かせるようにしてみましょう。
クイーンズランド州のサンシャイン・コーストにあるスプーンビル・ハウス(こちらの写真)は、植物に覆われた沿岸地に思慮深い対応で建てられています。バーク・デザイン・アーキテクツのスティーブン・ガスリーは「真に効率的な手段、自然でカジュアルな優美さ、明るさ、思い描いていた理想的な場所」と説明しています。
クイーンズランド州のサンシャイン・コーストにあるスプーンビル・ハウス(こちらの写真)は、植物に覆われた沿岸地に思慮深い対応で建てられています。バーク・デザイン・アーキテクツのスティーブン・ガスリーは「真に効率的な手段、自然でカジュアルな優美さ、明るさ、思い描いていた理想的な場所」と説明しています。
内装は地元の大工が、近隣の供給業者から中古で手に入れた地域材のスポッティドガムの木を使用して仕上げられました。「この家では、このプロジェクトのために技術と専門知識に基づいて選ばれた、誇り高き地元の大工による木材建築の職人技を見ることができます」とガスリー氏は言います。
タスマニア州では、ジェーン&オーウェン・トンプソンがモジュラー方式の住宅システム、NEATハウスを立ち上げました。NEATは新しい環境(New Environment)、手頃な価格(Affordable)、タスマニア(Tasmanian)、の頭文字です。タスマニアの環境を理解することにより、トンプソン夫妻は気候、景観、および生活様式にあわせたNEATハウスを特別に設計しました。このデザインはシンプルではあるものの、最大限の使いやすさと快適さのために慎重につくられており、地元の知識、技術、専門知識、および材料を活用しています。
地元の景観にあうデザイン
ヴァナキュラー住宅では、景観に関する注意深い配慮と調査により、住宅の建つ環境との注意深い関係が成り立っています。グレン・マーカットはオーストラリアで最も崇拝されている建築家のひとりであり、彼の作品には際立った特徴と、オーストラリアの景観だけでなく、風向き、水の動き、気温や自然光などの気候条件への繊細な配慮があります。建物は「地面に軽く触れているもの」であるべきだとの主義に基づき、マーカットの建てる家は非常に経済的かつ機能的で、エネルギーを節約して環境に溶け込むような設計になっています。
ヴァナキュラー住宅では、景観に関する注意深い配慮と調査により、住宅の建つ環境との注意深い関係が成り立っています。グレン・マーカットはオーストラリアで最も崇拝されている建築家のひとりであり、彼の作品には際立った特徴と、オーストラリアの景観だけでなく、風向き、水の動き、気温や自然光などの気候条件への繊細な配慮があります。建物は「地面に軽く触れているもの」であるべきだとの主義に基づき、マーカットの建てる家は非常に経済的かつ機能的で、エネルギーを節約して環境に溶け込むような設計になっています。
ここから私たちが学べること:地域の景観を考慮し尊重することで、建設中から住宅が建っている間ずっと、周辺環境にもたらす障害や影響を最小限にすることができます。もしもあなたが住宅を設計またはリフォームしているのなら、既存の景観を尊重し、その家がもたらす未来への影響について考慮しましょう。
クイーンズランド州のケープ・トリビュレーションでは、このような自給自足の家によって太古からのデインツリー・レインフォレストと共存しています。生態系を考慮して持続可能なデザインが求められたこの住宅は、自然にできた空き地に建てられており、その結果、成熟した樹木の伐採を回避できました。外観は黒いプラスチック製の被覆材と鏡面仕上げのガラスでカモフラージュされており、熱帯雨林の林冠の陰にまぎれるようになっています。
南オーストラリア州のフルリオ半島にあるこの別荘は、自然の地形を残すために高床式になっています。この住宅では、この地域一帯にある古いトタンでできた羊毛刈り小屋のシンプルな形状と、それに使われているトタン板、ブラックバット材、繊維セメントシートやガラスといった丈夫な素材を参考にしています。
地域の気候にあうデザイン
電気やガスが普及する以前は、住宅を暖める、冷やす、明るくするといったことには、太陽と空気、そして風を利用していました。住宅の向きによって、自然光とぬくもりを得るために太陽を利用できます(例外的に、熱帯気候の地域に住む場合には、日陰が重要となります)。軒や日よけが日光の調節をしてくれます。窓やドアなどの開口部によって、自然換気と冷却が可能です。石や練り土などサーマルマス(蓄熱体)を伴う材料は、室内に熱を閉じ込めることができます。こうしたパッシブソーラー設計の仕組みは、住宅の性能、エネルギー効率、および持続可能性を高めてくれます。
電気やガスが普及する以前は、住宅を暖める、冷やす、明るくするといったことには、太陽と空気、そして風を利用していました。住宅の向きによって、自然光とぬくもりを得るために太陽を利用できます(例外的に、熱帯気候の地域に住む場合には、日陰が重要となります)。軒や日よけが日光の調節をしてくれます。窓やドアなどの開口部によって、自然換気と冷却が可能です。石や練り土などサーマルマス(蓄熱体)を伴う材料は、室内に熱を閉じ込めることができます。こうしたパッシブソーラー設計の仕組みは、住宅の性能、エネルギー効率、および持続可能性を高めてくれます。
ここから私たちが学べること:気候対応型の建築によって住宅の寿命が続く限り、光熱費と維持費を大幅に削減できるということです。もしもあなたが住宅を設計またはリフォームしているのなら、最も多くの時間を過ごす場所に合わせて、太陽の動きを考慮してみましょう。たとえば、日中を通して南 からの光を受ける場所に生活空間を配置し、通風のため窓は互いに向かい合うように配置します。そして日光を調節するために、住宅の屋根を延長してみましょう。
ビクトリア州マウント・ブラーでは、このようなプレハブの山小屋が山の輪郭に沿って設計され、北側の中庭に太陽が降り注いでいます。
この建物は、南側の眺めをフレーミングで調整することで熱損失を最小限に抑えながら、北側に向かって天井を傾けることで日光が建物の奥まで入るようになっているパッシブソーラー設計を最大限に利用しています。磨き上げられたコンクリート床と石造りの暖炉は、住宅の暖かさを保つためにエネルギーを吸収するサーマルマスを提供しています。
この建物は、南側の眺めをフレーミングで調整することで熱損失を最小限に抑えながら、北側に向かって天井を傾けることで日光が建物の奥まで入るようになっているパッシブソーラー設計を最大限に利用しています。磨き上げられたコンクリート床と石造りの暖炉は、住宅の暖かさを保つためにエネルギーを吸収するサーマルマスを提供しています。
さらにビクトリア州では、建築家ベン・キャラリー 一家の住宅が、できるだけ低炭素になるよう設計されています。よく考えられた方位と厳重な断熱構造により、熱効率がよい、内包エネルギーが低い建築に仕上げています。
キャラリーは自身の家族用の住宅を設計しただけでなく、自身の手で(家族や友人の助けを得て)この家を建てました。彼の目標は、自然な快適さと暮らす喜びのある、土地に合っていて、視覚的にも魅力的な住宅を建てることであり、まさにその通りに達成されたのです。
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キャラリーは自身の家族用の住宅を設計しただけでなく、自身の手で(家族や友人の助けを得て)この家を建てました。彼の目標は、自然な快適さと暮らす喜びのある、土地に合っていて、視覚的にも魅力的な住宅を建てることであり、まさにその通りに達成されたのです。
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