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光庭と思いやりの「5段」の距離感。三世代家族の幸せを育む、築44年の長屋リノベーション
採光の難しい空間に光を届ける工夫、LDKからアクセスしやすい中2階の和室、屋上の物干しに設けた月見台。一家5人の快適で楽しい暮らしを実現した住まいをご紹介します。
takako kawaguchi
2017年12月20日
家づくりの動機は人それぞれだが、「明るさ」を求める気持ちは皆、共通しているのではないだろうか。だが土地、建物の形態が多様化している昨今は、高層建築に取り囲まれていたり、北向きだったりと、採光面でマイナス要素を抱えた物件も多い。今回ご紹介する住まいも、4棟長屋の真ん中2棟。北側が道路に面し、もとは昭和中期に建てられた家である。
2棟間の界壁を一部取り払って中でつなげたり、水回りを手直ししたりと、部分的な改修は行ってきた。だが部屋数はあっても、採光が難しく自然光の入らないスペースや、無駄な動線の長さなど、解決できない問題も。「屋上の物干しから1階まで、ほぼ一直線の急階段から転げ落ちないか心配で……」。オーナーのお母様の訴えも、洗濯物干しという毎日のことだから切実である。そこでオーナー夫妻は、子供の就学を機に、抜本的な解決をしようとフルリノベーションを決意。オープンハウスを訪れて出会ったのが〈一級建築士事務所アトリエm〉の守谷昌紀さんだった。
2棟間の界壁を一部取り払って中でつなげたり、水回りを手直ししたりと、部分的な改修は行ってきた。だが部屋数はあっても、採光が難しく自然光の入らないスペースや、無駄な動線の長さなど、解決できない問題も。「屋上の物干しから1階まで、ほぼ一直線の急階段から転げ落ちないか心配で……」。オーナーのお母様の訴えも、洗濯物干しという毎日のことだから切実である。そこでオーナー夫妻は、子供の就学を機に、抜本的な解決をしようとフルリノベーションを決意。オープンハウスを訪れて出会ったのが〈一級建築士事務所アトリエm〉の守谷昌紀さんだった。
初めて現地の長屋を訪れたときのことを、守谷さんはこう振り返る。「長屋の性質上、光は上からしか入らない。これは思い切った解決策が必要だな、と。ご家族にとって、太陽の光は幸せそのもの。木が太陽を求め、上へ上へと伸びるように、まっすぐにご家族の幸せへ向かっていくような家づくりをしたいと考えました」。
建物のプラスの部分に着目し、そこを伸ばしていく。そんなポジティブ思考をベースに、オーナー家族との工夫と笑いに満ちあふれたリノベーションが進行した。
どんなHouzz?
住まい手:30代夫妻、お母様、子供2人
所在地:大阪府大阪市
敷地面積:75.2平方メートル
1階床面積:60.17平方メートル
2階床面積:52.64平方メートル
設計・監理:一級建築士事務所アトリエm
竣工:2015年8月
写真は、計画から2年を要したフルリノベーション後の、2階リビングダイニング。4棟長屋の中央とは思えない、広々と明るい空間への変貌ぶりには目を見張るばかりである。
建物のプラスの部分に着目し、そこを伸ばしていく。そんなポジティブ思考をベースに、オーナー家族との工夫と笑いに満ちあふれたリノベーションが進行した。
どんなHouzz?
住まい手:30代夫妻、お母様、子供2人
所在地:大阪府大阪市
敷地面積:75.2平方メートル
1階床面積:60.17平方メートル
2階床面積:52.64平方メートル
設計・監理:一級建築士事務所アトリエm
竣工:2015年8月
写真は、計画から2年を要したフルリノベーション後の、2階リビングダイニング。4棟長屋の中央とは思えない、広々と明るい空間への変貌ぶりには目を見張るばかりである。
「思い切った解決策」としての答えが、2階に設けた光庭だ。屋内空間は減築となるが、光庭による家全体へのメリットは計り知れない。このスペースを守谷さんは「親密な外部」と表現する。クローズドな “内部” に、そこと近しい関係性の “外部”(光庭)を挿入する方法は、過去に手掛けた長屋リノベーションでも実証済みだという。
階段を上がった先は物干し台。階段下は少しスペースが開けてあり、裏の路地から風が通り抜けるよう計算されている。
階段を上がった先は物干し台。階段下は少しスペースが開けてあり、裏の路地から風が通り抜けるよう計算されている。
光庭とキッチンの間の床面に注目してほしい。床が一部、四角くくりぬかれているのがわかる。これは1階へ自然光を直接届けるための仕掛け。採光が難しい1階奥に天井窓を設けることで、家のすみずみまで自然光で満たすためのアイデアだ。
窓は耐久性に優れ、ガラスよりも光の透過性が高い、アクリル板を採用した。大きさは60㎝角、板の厚みは25mm。
このように1階から見上げると、光庭からの美しい自然光がさんさんと降り注ぎ、空間に広がりも感じられる。改築前の1階と比べ、同じ場所とは思えないほどの明るさだ。
このように1階から見上げると、光庭からの美しい自然光がさんさんと降り注ぎ、空間に広がりも感じられる。改築前の1階と比べ、同じ場所とは思えないほどの明るさだ。
1階トイレ前の四角い点線が天井窓。奥まった部分に天井から光が差し込む様子がイメージできる。
水色の矢印は、路地から光庭、さらにリビングを通り抜けていく風の流れを表している。夏場は路地で冷やされた涼しい風がとても心地よいのだとか。
水色の矢印は、路地から光庭、さらにリビングを通り抜けていく風の流れを表している。夏場は路地で冷やされた涼しい風がとても心地よいのだとか。
こちらは改築前の1階ダイニング。冒頭でもご紹介したように、自然光が入りにくいため昼間でも薄暗く、いつも照明をつけて生活をしていた。
1階玄関から、2階、さらに屋上の物干し場まで続く急階段。幅も狭く、重い洗濯物を抱えて昇り降りするのが難儀だったことは、容易に想像できる。
お母様が気に入っていたというのがこの物干し場。このスペースは残したいという希望をくみつつ、さらに一歩進んだ形を提案し、実現させた。
リノベーション後。物干し台の半分は月見台として生まれ変わった。昼間は青空、夜は星空を眺め、北に目を転じれば高層のあべのハルカスを望むこともできる贅沢さだ。
屋上で風に吹かれながら、都市部の賑わいを遠望できるのは、この家の長所。「環境のよいところ」と「家族の幸せ」、2つが両輪となった家づくりである。
話を2階リビングに戻そう。ここで目を惹くのは、ダイニング・リビング・ロフトの3空間をつなぐ位置にあるクライミングウォール。もとは界壁だった壁の一部をグレーに塗装したものである。ホールドはオーナーのアイデアにより、カラフルではなく淡いグレーに。インテリアとして主張しすぎず、まとまりのある空間に仕上がっている。
床はオーク材に、深みのある赤系のオイルステイン塗装。ダークカラーを好むオーナーに合わせたカラーチョイスとなっている。左手の階段を上がると、子供たちのスペース、7.4畳のロフトへ。
床はオーク材に、深みのある赤系のオイルステイン塗装。ダークカラーを好むオーナーに合わせたカラーチョイスとなっている。左手の階段を上がると、子供たちのスペース、7.4畳のロフトへ。
元気な子供たちは、ロフトへの階段ができる前の工事途中からここによじ上って、大工さんたちと話をしたり、自分たちのスペースができ上がるのをそれはそれは楽しみにしていた。
そしてついに完成した “僕たちのお城”。階段で上がるか、クライミングウォ―ルから登るか? 冒険心をくすぐるワクワク空間は、子供たちの心をいっそう豊かに育んでいくにちがいない。クライミングウォールはもちろん夫妻の友人もときどき登って楽しんでいる。
ロフト南面には大きな窓があり、北側にも細い小窓をアクセントとしてつけた。子供たちは夕方になるとこの細窓から前道路を見て、パパの帰りを待っているのだそう。
そしてついに完成した “僕たちのお城”。階段で上がるか、クライミングウォ―ルから登るか? 冒険心をくすぐるワクワク空間は、子供たちの心をいっそう豊かに育んでいくにちがいない。クライミングウォールはもちろん夫妻の友人もときどき登って楽しんでいる。
ロフト南面には大きな窓があり、北側にも細い小窓をアクセントとしてつけた。子供たちは夕方になるとこの細窓から前道路を見て、パパの帰りを待っているのだそう。
ここなら遊んでいる子供たちに目配りができ、来客時などにおもちゃが広がっていても気にならない。大人と子供双方にとってストレスのない、絶妙な空間である。
将来的には仕切りを設け、子供2人それぞれのスペースとすることも考えている。
将来的には仕切りを設け、子供2人それぞれのスペースとすることも考えている。
光庭の正面に位置し、明るさ満点のダイニングキッチン。友人家族が訪れることも多く、そんなときにはメインステージとなる場所である。「改築前は友人を呼ぶことがなかったのですが、今は4家族まではいけます(笑)」とオーナー夫妻。
カウンターは置きたいスパイスまで細かく考え抜き、高さを1060mmに設定。リビング側のテレビボードとも揃え、ナラ材で造作した。ガスコンロ奥には、引き戸タイプのパントリーが。ここに冷蔵庫も収納しているため、ダイニングからの見た目はすっきり。
ダイニング壁面収納はルーバー扉にして視覚的なアクセントに。中は〈無印良品〉のボックスなどを活用し、日用品などを整然と収めている。
カウンターは置きたいスパイスまで細かく考え抜き、高さを1060mmに設定。リビング側のテレビボードとも揃え、ナラ材で造作した。ガスコンロ奥には、引き戸タイプのパントリーが。ここに冷蔵庫も収納しているため、ダイニングからの見た目はすっきり。
ダイニング壁面収納はルーバー扉にして視覚的なアクセントに。中は〈無印良品〉のボックスなどを活用し、日用品などを整然と収めている。
ダイニング近くの階段を、5段降りたところにある中2階。ここはお母様のためのリビングだ。ここでポイントになるのが「5段」という距離感。夫妻や子供たちに来客があり、リビングでにぎやかにしているとき、離れた1階だと寂しく感じるのでは?という奥様の心遣いから生まれたレイアウトだ。家族の気配を身近に感じていられる安心感。ここならキッチンにも近く、飲物などをすぐに取りに行くこともできる。
「幸せというのは家族それぞれで、同じ形はありえません。ですからご家族と本気でとことん話し合い、目指す幸せを共有することが大切なのです。そうすることでさまざまなリクエストを尊重しながら、空間、環境、そしてディテールまで、ご家族にとっての最高の答えを実現できると信じています」と守谷さんは語る。
「幸せというのは家族それぞれで、同じ形はありえません。ですからご家族と本気でとことん話し合い、目指す幸せを共有することが大切なのです。そうすることでさまざまなリクエストを尊重しながら、空間、環境、そしてディテールまで、ご家族にとっての最高の答えを実現できると信じています」と守谷さんは語る。
中2階の下は、天井高を2m弱まで抑えた駐車場。上は子供たちのロフト。もともと2階建てだった高さは変えず、3層にしてスペースを最大限に有効活用している。
1階にはそれぞれのプライベートルームが。写真は夫妻の寝室。隣接してクローゼットがあり、廊下の反対側はお母様の寝室となっている。
来客が多いご家族のために、明るく広々とした玄関に。タイルの種類や敷き方は奥様がこだわって選び抜いたものだそう。
外壁はベージュの左官仕上げ。お気に入りのインテリアショップのカフェ外観をイメージし、“土っぽい色” をチョイスした。黒いアイアンフレームの門扉がモダンな印象を添えている。
マイナス条件に屈することなく、念願の光と新鮮な空気を呼び込み、家族に笑顔を咲かせた一流の仕事。この家族ならではの優しい愛情も形となり、「5段」を踏みしめるたびに、あたたかな気持ちに包まれる。
住み始めてからも、「もっとこうしておけばよかった、という部分がまったくないんです」と語るオーナー夫妻。「子供が家を建てるときも、アトリエmさんにお願いします」と笑う奥様の一言が、オーナー家族の家づくりの満足度を物語っている。
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住み始めてからも、「もっとこうしておけばよかった、という部分がまったくないんです」と語るオーナー夫妻。「子供が家を建てるときも、アトリエmさんにお願いします」と笑う奥様の一言が、オーナー家族の家づくりの満足度を物語っている。
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