元ストーブ機器工場を改装。光と緑が心地よい自宅兼スタジオ
デザインデュオFormafantasmaの二人が過ごす、アムステルダムの「設計しすぎない」空間を拝見しました。
Giulia Zappa
2018年11月13日
国際的なデザインシーンを牽引するイタリアのデザインスタジオFormafantasma。共同創業者である二人は今、オランダ・アムステルダムの元ストーブ機器工場を自宅兼スタジオとして使っています。このスペースを二人が、どのようにして心地よい多機能空間にしたのか聞きました。
全ての写真:Anna Giulia Gregori撮影
どんなHouzz?
住まい手:Studio Formafantasmaの創設者であるAndrea TrimarchiとSimone Farresin
所在地:アムステルダム、オランダ
面積と間取り:約150平米。1階には広いオープンスペースとキッチン、中2階にはリビングルームとベッドルーム。庭にある約30平米の増築部は、模型制作スペースとして利用されています。
Studio Formafantasmaはイタリアの、そして国際的なデザインシーンを牽引するスタジオの一つです。現代のニーズや矛盾を解釈しながら、美術館やコレクター向けのアイコン的なプロジェクトに昇華させる、精力的な活動で知られています。Andrea Trimarchi(1983年生まれ)とSimone Farresin(1980年生まれ)は、人類学的な深い分析と素材の実験に特徴づけられる、独特でとてもパーソナルなデザイン・カルチャーを作りだしました。
写真の本棚の一番上の段には、Formafantasmaのデザイン作品がいくつか置いてあります。左から:Crafticaシリーズのスポンジスツール(2012年)、BotanicaコレクションからBotanica I vase(2011年)、同じくCrafticaシリーズから、Bladder Water Container(2012年)。
どんなHouzz?
住まい手:Studio Formafantasmaの創設者であるAndrea TrimarchiとSimone Farresin
所在地:アムステルダム、オランダ
面積と間取り:約150平米。1階には広いオープンスペースとキッチン、中2階にはリビングルームとベッドルーム。庭にある約30平米の増築部は、模型制作スペースとして利用されています。
Studio Formafantasmaはイタリアの、そして国際的なデザインシーンを牽引するスタジオの一つです。現代のニーズや矛盾を解釈しながら、美術館やコレクター向けのアイコン的なプロジェクトに昇華させる、精力的な活動で知られています。Andrea Trimarchi(1983年生まれ)とSimone Farresin(1980年生まれ)は、人類学的な深い分析と素材の実験に特徴づけられる、独特でとてもパーソナルなデザイン・カルチャーを作りだしました。
写真の本棚の一番上の段には、Formafantasmaのデザイン作品がいくつか置いてあります。左から:Crafticaシリーズのスポンジスツール(2012年)、BotanicaコレクションからBotanica I vase(2011年)、同じくCrafticaシリーズから、Bladder Water Container(2012年)。
オランダに10年以上住んでいる二人。2015年にアムステルダムに移り、この元ストーブ機器工場に落ち着き、ここを住まいとアトリエに変身させました。広々としたアトリエには天窓や大きな窓からの日光が一日中ふり注ぎ、過ごしやすい環境を作りだしています。日が暮れると、特に2階の2つの部屋は、より落ち着いた雰囲気になります。
試作品から無名デザイナーの作品、よく知られた作品が共存しています。手作り品と工業製品が調和したリラックス感のある空間は個性があり、魅力的です。
HouzzはSimone Farresinにどのようにここで暮らしていて、この空間がFormafantasmaの仕事と哲学にどのように反映されているのかを尋ねました。
写真:Cassinaのヴィンテージのランプとソファ
試作品から無名デザイナーの作品、よく知られた作品が共存しています。手作り品と工業製品が調和したリラックス感のある空間は個性があり、魅力的です。
HouzzはSimone Farresinにどのようにここで暮らしていて、この空間がFormafantasmaの仕事と哲学にどのように反映されているのかを尋ねました。
写真:Cassinaのヴィンテージのランプとソファ
オランダで10年以上過ごされていますが、アイントホーフェンからアムステルダムに移りましたね。なぜ住む街を変えようと決めたのですか?また、いま住んでいる物件にはどうやって出会いましたか?
オランダの家探しはとても難しいです。空きがあるのは小さな家ばかりです。観光業のせいで多くのダウンタウンのエリアが住むのには魅力的ではなくなっています。私たちは運よくオンライン広告で、アムステルダム北部のVogelbuurt地区にあるアーティスト専用のスタジオを見つけたのです。このエリアはダウンタウンにも近いのですが、観光客はまだあまり見かけません。
ここは最初に訪れた物件でしたが、一目ぼれしてしまい、すぐに決めてしまいました。当初は仕事場としてのみ使う予定でしたが、引っ越せる家を見つけるに苦労して。そのとき、このスペースならアトリエと住宅の両方のニーズに簡単に合わせられることに気がついたんです。
左側の手前には、CrafticaコレクションのWolffish スツール (2012年) があります。後方にはヴィトラのチャールズ&レイ・イームズのPlastic Armchair RAR、右の壁にはFormafantasma for Flos のWireRing (2017年)。
オランダの家探しはとても難しいです。空きがあるのは小さな家ばかりです。観光業のせいで多くのダウンタウンのエリアが住むのには魅力的ではなくなっています。私たちは運よくオンライン広告で、アムステルダム北部のVogelbuurt地区にあるアーティスト専用のスタジオを見つけたのです。このエリアはダウンタウンにも近いのですが、観光客はまだあまり見かけません。
ここは最初に訪れた物件でしたが、一目ぼれしてしまい、すぐに決めてしまいました。当初は仕事場としてのみ使う予定でしたが、引っ越せる家を見つけるに苦労して。そのとき、このスペースならアトリエと住宅の両方のニーズに簡単に合わせられることに気がついたんです。
左側の手前には、CrafticaコレクションのWolffish スツール (2012年) があります。後方にはヴィトラのチャールズ&レイ・イームズのPlastic Armchair RAR、右の壁にはFormafantasma for Flos のWireRing (2017年)。
デザイナーや建築家が、自分のためにデザインや設計をすることはとても難しいとよくいわれます。
私も同じ意見です。どういったものであれ、自分のためのデザインは容易ではありません。このスペースはフレキシブルでとても住みやすいです。大きなオープンスペースがあることと、2階に分かれていることで空間が分割でき、整理できます。この家にはこれまでに手がけた作品や仕事のための道具がたくさんあります。そういったものの定位置も自然に決まっていったり、プロセス全体が自然に進化してきました。
右側、キッチンの手前には、FormafantasmaによるDe Natura Fossiliumシリーズの1892スツールがあります。
私も同じ意見です。どういったものであれ、自分のためのデザインは容易ではありません。このスペースはフレキシブルでとても住みやすいです。大きなオープンスペースがあることと、2階に分かれていることで空間が分割でき、整理できます。この家にはこれまでに手がけた作品や仕事のための道具がたくさんあります。そういったものの定位置も自然に決まっていったり、プロセス全体が自然に進化してきました。
右側、キッチンの手前には、FormafantasmaによるDe Natura Fossiliumシリーズの1892スツールがあります。
プライベートと仕事がこうして密接に繋がっていることで、何か問題はありますか? 2つの要素を分けるために意識していることはありますか?
私たちは週に6日働き、その内の1日はコラボレーターがいない状態で仕事をします。仕事は、私たちの生活や毎日のサイクルの中で重要な部分を占めてます。バランスを保つためにはルールが必要です。私たちの場合は、夕方以降は決して働かないことにしています。
この家が2階建て構造であることも、生活を分けるのに役立っています。広いオープンスペースが仕事場で、2階は寝室とリビングルームに分けられた生活空間になっています。この区切りを強調するもう1つの要素である照明を調整して、円錐状の影と暗いエリアで空間を分けることができます。
左手の長方形のテーブル、1123 xF はEnzo Mari, Corraini(1974)の self-design book ? に含まれていたドローイングを見て、Formafantasmaが作った
私たちは週に6日働き、その内の1日はコラボレーターがいない状態で仕事をします。仕事は、私たちの生活や毎日のサイクルの中で重要な部分を占めてます。バランスを保つためにはルールが必要です。私たちの場合は、夕方以降は決して働かないことにしています。
この家が2階建て構造であることも、生活を分けるのに役立っています。広いオープンスペースが仕事場で、2階は寝室とリビングルームに分けられた生活空間になっています。この区切りを強調するもう1つの要素である照明を調整して、円錐状の影と暗いエリアで空間を分けることができます。
左手の長方形のテーブル、1123 xF はEnzo Mari, Corraini(1974)の self-design book ? に含まれていたドローイングを見て、Formafantasmaが作った
この家の改装と内装において「これだけは絶対にしない」と決めていた、タブーのようなことはありますか?
あまりに設計されすぎた家が嫌だったのは確かです。住む前から既に、隅から隅まで設計されてしまっているという感じの、住み心地が悪い家です。そういった家は、私たちの手がけるデザインにも合いません。私たちのデザインアプローチは、必ずアイデアのディスカッションで始まります。作業プロセスを経ると、予想外のものができたりします。当初求めていたものと違うこともよくありますし、最後にどうなっているかは、自分たちですら分からないのです。
とはいえ、この家が私たちのデザイン・コンセプトを反映しているかというと、はっきりそうとはいえません。ここ数か月取りくんでいた個人宅の内装プロジェクトがありますが、仕上がりはこの家の様子とは全く違うものでした。
あまりに設計されすぎた家が嫌だったのは確かです。住む前から既に、隅から隅まで設計されてしまっているという感じの、住み心地が悪い家です。そういった家は、私たちの手がけるデザインにも合いません。私たちのデザインアプローチは、必ずアイデアのディスカッションで始まります。作業プロセスを経ると、予想外のものができたりします。当初求めていたものと違うこともよくありますし、最後にどうなっているかは、自分たちですら分からないのです。
とはいえ、この家が私たちのデザイン・コンセプトを反映しているかというと、はっきりそうとはいえません。ここ数か月取りくんでいた個人宅の内装プロジェクトがありますが、仕上がりはこの家の様子とは全く違うものでした。
写真にあるように、家具はかなりおとなしい印象ですね。たとえば、このオフィス用のメタルブックシェルフはとても意外に感じます。
こういう言い方しか思いつかないのですが、私たちは家を『ステートメント』として考えていません。物を選ぶときにも先入観はありません。この家には工業用メタルブックシェルフがいくつかありますが、機能が完璧なので気に入っています。さらに、芸術作品や特別なものは何も飾っていません。仕事用のプロトタイプやリサーチ用アイテムのほかには、世界各地への旅行の思い出の品などが家のあちこちに置いてあります。
こういう言い方しか思いつかないのですが、私たちは家を『ステートメント』として考えていません。物を選ぶときにも先入観はありません。この家には工業用メタルブックシェルフがいくつかありますが、機能が完璧なので気に入っています。さらに、芸術作品や特別なものは何も飾っていません。仕事用のプロトタイプやリサーチ用アイテムのほかには、世界各地への旅行の思い出の品などが家のあちこちに置いてあります。
家具はどこで揃えましたか?
何年もかけ、フリーマーケットで買い集めました。オランダではフリーマーケットがたくさん開かれ、ものすごくお得な買い物ができるんです。あとはイケアでちょっとしたものを買ったり、Enzo Mari では『Autoprogettazione?(1974年) 』モデルのテーブルをいくつか買い、自分たちで組み立てました。椅子はVitraのアイコン的なモデルや、ジャン・プルーヴェの新作を買いました。
何年もかけ、フリーマーケットで買い集めました。オランダではフリーマーケットがたくさん開かれ、ものすごくお得な買い物ができるんです。あとはイケアでちょっとしたものを買ったり、Enzo Mari では『Autoprogettazione?(1974年) 』モデルのテーブルをいくつか買い、自分たちで組み立てました。椅子はVitraのアイコン的なモデルや、ジャン・プルーヴェの新作を買いました。
この古いスタジオとはちょっと雰囲気が異なる、シチリア島関連のものもありますね。これはどうしてですか? どういった意味があるのでしょうか?
シチリアはアンドレアの出身地で、Teste di Moroのセラミックヘッドの伝統に呼応してつくったMoulding Tradition(2010年)等の作品のインスピレーションを得た土地でもあります。ですが今のシチリア島は、現代社会で顕著になっている矛盾を分かりやすい形で反映している場所になっていると思います。シチリア島は古風な場所で、昔ながらの文化はほぼ無くなりかけているものの、興味深い職人技術があります。ただ観光産業との繋がりが強いため、それを刷新していくのは難しいのです。
それに、ほとんど独占的な重工業の存在と、移民の最初の目的地であるという事実がシンボルのようになっています。これはこういったことの典型例として、心に留めておくべきだと思います。デザイナーはいつの時代も社会的、文化的な世相や動向の『解説者』となってきたのですから、こういう点を考慮するべきでしょうね。
シチリアはアンドレアの出身地で、Teste di Moroのセラミックヘッドの伝統に呼応してつくったMoulding Tradition(2010年)等の作品のインスピレーションを得た土地でもあります。ですが今のシチリア島は、現代社会で顕著になっている矛盾を分かりやすい形で反映している場所になっていると思います。シチリア島は古風な場所で、昔ながらの文化はほぼ無くなりかけているものの、興味深い職人技術があります。ただ観光産業との繋がりが強いため、それを刷新していくのは難しいのです。
それに、ほとんど独占的な重工業の存在と、移民の最初の目的地であるという事実がシンボルのようになっています。これはこういったことの典型例として、心に留めておくべきだと思います。デザイナーはいつの時代も社会的、文化的な世相や動向の『解説者』となってきたのですから、こういう点を考慮するべきでしょうね。
この家にもあるWireringランプ(Flos用にデザインされたもの)は、一般的にあなた方の最初の大量生産用の作品とされていますね。この照明がどうやって生まれたのか、あなた方の室内照明への考え方にどう呼応しているのか、聞かせていただけますか。
Wireringは、リサーチ期間が長くかかり、発表までの立ち上げが長いプロジェクトでした。コード付き白熱電球でありながらLEDライトに似たものを考えだしたかったのです。私たちはデザイナーとして、産業的文脈で仕事をするときは特に、長く愛される商品を市場に送りだす責任があると考えています。そこでWireringは、どこにでも馴染むようなごくシンプルな形状を意識して作りました。じつは難しい工業技術で作られていながらそう見せない、最新技術によるプロジェクトです。
室内の明かりについては、天窓のおかげでオープンスペースは常に明るいため日中は人工の照明を使う必要はありません。また、私たちは基本的に目的と気分に合わせて照明を調整したいので、種類の違ういろいろな光源があるほうが好きです。
Wireringは、リサーチ期間が長くかかり、発表までの立ち上げが長いプロジェクトでした。コード付き白熱電球でありながらLEDライトに似たものを考えだしたかったのです。私たちはデザイナーとして、産業的文脈で仕事をするときは特に、長く愛される商品を市場に送りだす責任があると考えています。そこでWireringは、どこにでも馴染むようなごくシンプルな形状を意識して作りました。じつは難しい工業技術で作られていながらそう見せない、最新技術によるプロジェクトです。
室内の明かりについては、天窓のおかげでオープンスペースは常に明るいため日中は人工の照明を使う必要はありません。また、私たちは基本的に目的と気分に合わせて照明を調整したいので、種類の違ういろいろな光源があるほうが好きです。
すべての部屋に植物が置いてありますね。インテリアにおける植物の重要性は何ですか?また、ここではどのように使用しましたか?
私たちは本当に植物が好きで、その世話を楽しんでいます。植物は、住まい手がその住環境をどれだけ気にかけて管理しているかが分かる、生きた要素です。ゲストが玄関を通るときに植物を目にすると、その家の住人が空間だけではなく、人のことも気にかけていることがなんとなく伝わります。
倉庫をリノベーションして、大きな本棚のある快適な自宅兼オフィスに
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私たちは本当に植物が好きで、その世話を楽しんでいます。植物は、住まい手がその住環境をどれだけ気にかけて管理しているかが分かる、生きた要素です。ゲストが玄関を通るときに植物を目にすると、その家の住人が空間だけではなく、人のことも気にかけていることがなんとなく伝わります。
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