住まいと防災(1)~地震に強い住まいづくり~
防災の日を機に、もう一度地震に強い住まいづくりを考えてみませんか?
大村哲弥
2018年8月30日
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。http://www.projet-ltd.co.jp/
ブロガー。言葉とモノをめぐるブログ<Tokyo Culture Addiction>http://c-addiction.typepad.jp/blog/と料理ブログ<チキテオ>http://c-addiction.typepad.jp/txikiteo/を主宰。
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。
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9月1日は防災の日です。1923年(大正12年)9月1日に起こった関東大震災に由来して制定されました。
日本は毎日のようにどこかで地震が起こっている地震列島です。直近では2年前(2016年4月)の熊本地震で多くの住宅が損傷・倒壊した映像が記憶に新しいところです。
地震国日本での住まいづくりにおいて、耐震性の視点をおろそかにすることはできません。
日本は毎日のようにどこかで地震が起こっている地震列島です。直近では2年前(2016年4月)の熊本地震で多くの住宅が損傷・倒壊した映像が記憶に新しいところです。
地震国日本での住まいづくりにおいて、耐震性の視点をおろそかにすることはできません。
建築基準法で定められている耐震基準は最低限の水準
現在、すべての建築物は、建築基準法により一定の耐震性能を満たすように義務づけられています。
建築基準法で求めれている耐震基準は、具体的には、震度5強の地震で損傷を生じない、震度6強~7の大地震でも倒壊・崩壊しないという耐震性能です。この基準は住宅性能表示でいうと耐震等級1のレベルにあたります。住宅性能表示における耐震等級は3ランクあり、建築基準法で求められている基準は最も低いレベルです。
建築基準法をクリアするだけで、住まいの耐震性は万全なのでしょうか。
建築基準法で言う「震度6強~7の大地震でも倒壊・崩壊しない」という耐震性能は、大地震において建物は損傷を受けるが人命が損なわれるような壊れ方をしないことを意味しています。最悪の事態は免れるかもしれないが、地震被害後に住宅として機能するかどうか、住み続けるかどうか、あるいは補修できるレベルの被害かどうかは、また別の話だということです。
ちなみに、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)の過去3回の大地震の最大震度は7でした。
現在、すべての建築物は、建築基準法により一定の耐震性能を満たすように義務づけられています。
建築基準法で求めれている耐震基準は、具体的には、震度5強の地震で損傷を生じない、震度6強~7の大地震でも倒壊・崩壊しないという耐震性能です。この基準は住宅性能表示でいうと耐震等級1のレベルにあたります。住宅性能表示における耐震等級は3ランクあり、建築基準法で求められている基準は最も低いレベルです。
建築基準法をクリアするだけで、住まいの耐震性は万全なのでしょうか。
建築基準法で言う「震度6強~7の大地震でも倒壊・崩壊しない」という耐震性能は、大地震において建物は損傷を受けるが人命が損なわれるような壊れ方をしないことを意味しています。最悪の事態は免れるかもしれないが、地震被害後に住宅として機能するかどうか、住み続けるかどうか、あるいは補修できるレベルの被害かどうかは、また別の話だということです。
ちなみに、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)の過去3回の大地震の最大震度は7でした。
熊本地震は震度7クラスの地震が2回観測されるなど、今までに例をみない地震でした。国土交通省の被害調査で明らかになったのは、2000年6月(平成12年6月)以降に建築確認を取得した建物とそれ以前の建物では被害の度合いが大きく異なることでした。
2000年6月の建築基準法の改正では、一戸建てにおいて、地盤調査の義務化、耐力壁のバランス、柱や筋交いの金物の指定などが新たに定められました。
さらに注目しなければならないのは、住宅性能表示の耐震等級1(建築基準法レベル)の建物においては約4割がなんらかの被害を受けている一方で、耐震等級3の建物の場合は、約9割が損傷を受けずに済んでいることです。
2000年6月の建築基準法の改正では、一戸建てにおいて、地盤調査の義務化、耐力壁のバランス、柱や筋交いの金物の指定などが新たに定められました。
さらに注目しなければならないのは、住宅性能表示の耐震等級1(建築基準法レベル)の建物においては約4割がなんらかの被害を受けている一方で、耐震等級3の建物の場合は、約9割が損傷を受けずに済んでいることです。
耐震等級3は建築基準法が要求するレベルの1.5倍の壁量を確保して耐震性を上げたものです。震度5強~7クラスの大地震は「数百年に一度程度」と表現されていますが、わずか二十数年で震度7クラスの地震が3回も起きている日本の現実から考えると、建築基準法レベルの耐震性は今では最低限のレベルと思って備えをしておいたほうが安心だといえます。
意外に知られていない事実。木造一戸建てでは構造計算が求められていない
意外に知られていませんが、一般的な木造一戸建ての場合、政令で定める技術基準に適合していれば、建築確認申請の際に構造計算は不要であり、また建築士が設計すれば構造上の仕様基準に関する審査も特例(通称「四号特例」)で免除されています。
具体的には、木造2階建て、床面積500㎡以下、高さ13m以下、軒の高さ9m以下の通称「四号建築物」と呼ばれている一戸建てがこれにあたります。
「四号特例」は、建築確認申請の審査業務等の簡略化のためですが、先にみたように熊本地震において、建築基準法を遵守して建てられた住宅にも少なからず被害が発生した現実をみると、現行の制度は、厳密な耐震性チェックへの不安が残り、また建築士まかせになっている側面も否めません。実際、「四号特例」の見直しも議論になっています。
木造一戸建てにおいても、全棟で構造計算を実施している建築事務所や工務店やハウスメーカーもあります。耐震性が気になる場合は、パートナー選びの際にこうした視点も考慮するとより安心です。また木造の構造計算を請け負う会社もありますので、不安が残る場合は構造計算を依頼することも考えられます。
意外に知られていない事実。木造一戸建てでは構造計算が求められていない
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具体的には、木造2階建て、床面積500㎡以下、高さ13m以下、軒の高さ9m以下の通称「四号建築物」と呼ばれている一戸建てがこれにあたります。
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地震の揺れをダンパーで吸収する制振(制震)構造
建築基準法で求められている耐震基準の基本は、耐震構造とすることで建物の耐震性能を確保することです。耐震構造とは、建物自体を強固にして損傷や倒壊しないように地震に耐える方法です。
耐震構造による強度の高い建物は、建物の揺れと変形で地震のエネルギーを吸収しようとするため、建物の揺れは大きく、建物が元に戻らないほどく大きく変形した場合は、建物自体が損傷してしまう可能性があります。
建物の揺れは、家具やストーブなどの転倒につながり、人命への影響や火災の原因になります。また損傷が建物の構造におよんだ場合は、修繕に多額の費用がかかったり、修繕自体が不可能になる場合も起こります。
こうした揺れによる人命や建物への影響を可能な限り抑えようとする技術が制振(制震)と免震です。当初は大規模なコンクリート造の建物やマンションに導入された技術ですが、最近では一戸建てでも普及してきました。
制振構造(制震構造)は、変形や抵抗によって地震のエネルギーを吸収するブレーキのような役割の制振部材を組み込んだダンパーを建物に設置して、建物の揺れを少なくし、建物の変形を抑える方法です。
一戸建ての場合、制震部材は金属、ゴムやアクリルなどの粘弾性体、オイルなどであり、壁の中などを利用して設けられます。タンパーの種類によってコストや効果が異なりますが、比較的安価で地震の揺れを軽減できます。
建物を浮かせて地面の揺れが伝わりにくくする免震構造
建物に伝わった地震エネルギーを建物以外のダンパーに吸収させることで揺れや変形を抑えるのが制振構造(制震構造)だとすると、そもそも地面と建物を縁切りしてしまい、地震による地面の揺れが直接建物に伝わらないようにする技術が免震構造です。
具体的は、基礎と建物の間にアイソレータと呼ばれる鋼材、ベアリング、積層ゴムなどを使った柔らかい免震層とダンパーを組み合わせた免震装置を設置します。免震層は地震の際に水平方向に大きく動いて、建物の揺れをゆっくりしたものに変え(長周期化)、建物内にいる人が感じる揺れの強さを大幅に軽減します。
また、地震の揺れがもたらす変形は柔らかい免震層に集中するため、上部の建物が大きく変形するのを防ぐことができます。地震の激しい揺れと変形が集中する免震層に設けられたダンパーは効率的に地震のエネルギーを吸収します。
一般的に地震に対する強さは、免震>制振(制震)>耐震の順と言われますが、かかる費用も同様に高くなります。免震の場合は、免震層を設けるスペースや地震の際に建物が移動する余地を敷地内に確保するなどが必要とされます。
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一戸建ての場合、制震部材は金属、ゴムやアクリルなどの粘弾性体、オイルなどであり、壁の中などを利用して設けられます。タンパーの種類によってコストや効果が異なりますが、比較的安価で地震の揺れを軽減できます。
建物を浮かせて地面の揺れが伝わりにくくする免震構造
建物に伝わった地震エネルギーを建物以外のダンパーに吸収させることで揺れや変形を抑えるのが制振構造(制震構造)だとすると、そもそも地面と建物を縁切りしてしまい、地震による地面の揺れが直接建物に伝わらないようにする技術が免震構造です。
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古い住宅地は安全なところが多いのですが、昔の人はどうやって調べたのでしょうね。
Seigo Miyake様
コメントありがとうございます。
おしゃる通りで、建物の前に地盤の確認が大切です。実は後日掲載予定の記事において地盤のことに言及する予定でおり、ご教示いただいた朝日新聞のサイト(実に簡便で便利ですよね)やその基になっている専門サイトにも言及予定でおります。あわせて、明治・大正・昭和期に水系だった箇所や埋め立ての履歴などが記録された地図データが閲覧できるサイトなども紹介する予定でおります。