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今週の部屋:赤いベリーカラーのヴィンテージ絵本ライブラリー
「世界の暮らしとデザイン:9ヵ国のコレクターに聞いた『コレクションの密やかな愉しみ』」に登場した、ティーテイスターで絵本作家、山田詩子さんの素敵な絵本ライブラリーと、絵本への思い。
田村敦子|Atsuko Tamura
2015年11月13日
Freelance Editor
絵本コレクションの始まりは、英語の先生だったお母様が、教材や自身の勉強のために買い集めていたイラスト入りの英語テキストや英米の児童書。1960年代当時、新品で買い求められたそれらの本が、娘の山田詩子さんの手元でそのまま時を経てヴィンテージになり、その過程でコレクションももどんどん増えていった、という成り立ちだ。
お母様の本棚の「絵本の森」の中で育った4姉妹のうち、最もその影響を強く受けたのは次女の詩子さんだった。名古屋の実家にあった絵本を、大学生になったときに京都の下宿先に持っていき、卒業後東京で仕事を始めた際も、家族を持ったときも、引っ越しのたびにいつもこれらの本を一緒に連れてきた。
今や4,000冊を超える、その“自家製ヴィンテージコレクション”を収蔵するために、4年前の自宅新築の際に希望したのが、この地下のライブラリー。人生の歩みとともにさらに大きく育った、豊かな「絵本の森」だ。
こちらの記事もおすすめ:「世界の暮らしとデザイン:9ヵ国のコレクターに聞いた『コレクションの密やかな愉しみ』」
お母様の本棚の「絵本の森」の中で育った4姉妹のうち、最もその影響を強く受けたのは次女の詩子さんだった。名古屋の実家にあった絵本を、大学生になったときに京都の下宿先に持っていき、卒業後東京で仕事を始めた際も、家族を持ったときも、引っ越しのたびにいつもこれらの本を一緒に連れてきた。
今や4,000冊を超える、その“自家製ヴィンテージコレクション”を収蔵するために、4年前の自宅新築の際に希望したのが、この地下のライブラリー。人生の歩みとともにさらに大きく育った、豊かな「絵本の森」だ。
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1階のリビングルームから地下へ続く階段を下りると目の前に広がるのは、赤いベリーの実のような色にペイントされた本棚のある、秘密の図書室。全コレクションの半分にあたる約2,000冊を、このライブラリーに置いている。「この絵本コレクションはある意味、自分の内面やルーツ、歴史のようなものなので、そんなことも表現できるようなスペースにしたかったんです」と詩子さんは言う。
どんな部屋?
何をする部屋?:約2,000冊の絵本コレクションを収蔵し、紅茶を飲みながら読んでくつろぐ部屋
居住者:山田詩子さん(ティーテイスター、カレルチャペック紅茶店経営、絵本作家)とその家族
所在地:東京都三鷹市
設計:NOAH architects一級建築士事務所
どんな部屋?
何をする部屋?:約2,000冊の絵本コレクションを収蔵し、紅茶を飲みながら読んでくつろぐ部屋
居住者:山田詩子さん(ティーテイスター、カレルチャペック紅茶店経営、絵本作家)とその家族
所在地:東京都三鷹市
設計:NOAH architects一級建築士事務所
このスペースのテーマカラーとして、詩子さんが迷わず選んだのは、ベリーの実のような深い赤。元気のよさ、女性らしさ、そしてあたたかさを併せ持つこの色の存在感は、膨大な数の色が躍る絵本の表紙の、理想的な“フレーム”になると考えたのだそう。「ワインベリー」という名前のこの色を、好みのトーンに調合してもらい、本棚全体を適度なつやのあるペイントで仕上げてある。オフホワイトの天井にサンドベージュのブリックウォール、オーク材の床に、学校の図書室を思わせる小さなテーブルと椅子。古き良き時代の絵本に似合う、ノスタルジックな雰囲気のある空間だ。
ガラス窓の嵌ったドアの向こうには、詩子さんの仕事場がある。
ガラス窓の嵌ったドアの向こうには、詩子さんの仕事場がある。
「ここで過ごしているといつでも、今の自分を確かめられるような気がします」と詩子さん。紅茶を片手に、何時間でもここで過ごせるのだという。奥のドアの向こうにはご主人の書斎もあり、この地下のスペースは一家にとって、静かで居心地のいい特別の場所だ。2人の息子さんもよく階下に降りてきてくつろいでいる。まるで第二のリビングのようだ。
本棚のあちこちに、表紙を見せて本をディスプレイできる小さな棚が設えてある。本棚にはアカンサス(葉アザミ)をモチーフにしたモールディングや付柱風の装飾を施し、クラシックなデザインをスパイス的に取り入れた。海外の絵本も多いので、外国のライブラリーのような雰囲気を出したかったのだそう。
一面だけ、砂色のレンガの壁面をつくり、マントルピースと、ブロンズフレームのミラーを設置。シンプルなシャンデリアや間接照明が部屋を優しく照らす。ダークレッドの本棚を引き立てる、落ち着いた上品なディテールだ。
コレクションには、海外の絵本だけでなく日本の児童文学も多い。「岩波少年文庫」専用につくってもらった、ぴったりサイズの棚もあるほどだ。自身のが手がけた児童書や絵本の著作も置いてある。
高い位置にいくつか、中庭に向けた小窓がついているので、地下室でも日中は自然光が射し込む。
高い位置にいくつか、中庭に向けた小窓がついているので、地下室でも日中は自然光が射し込む。
コレクションをいくつか見せてもらった。「これは、母から譲り受けた本の中でもごく初期のものです。当時は英語は読めなかったけれど、このリアルな楽しい絵を見ながら、自分で物語を考えたりして楽しんでいました。1冊1冊にイマジネーションの世界が広がっていて、そこで思う存分遊ぶのが、本当に楽しかったですね」
お母様は、童話の読み聞かせを熱心にするわけでも、絵本について多くを語るわけでもなかったそうだが、さりげなく手渡した数冊の絵本を通して、詩子さんが生涯かけて楽しみ、仕事としても取り組むことになった一大テーマへの、素敵な出会いをつくってくれたのだ。
お母様は、童話の読み聞かせを熱心にするわけでも、絵本について多くを語るわけでもなかったそうだが、さりげなく手渡した数冊の絵本を通して、詩子さんが生涯かけて楽しみ、仕事としても取り組むことになった一大テーマへの、素敵な出会いをつくってくれたのだ。
「本をコレクションに加えよう、と決めるときは、必ずストーリーを読みます。物語がおもしろいことは私にとってとても重要です」と詩子さん。「挿絵でいうと、メロウで印象的な色づかいのものが好きかもしれませんね。希少なものであるとか、流行とか、市場で価値が出そうだとかいうことはあまり気にしません。また、ブックデザインがいいからという理由だけで本を選ばないので、安価なモノクロ印刷のペーパーバックや、特におしゃれでもなんでもない普通の教科書みたいな本も持っていたりします。名作絵本だけではなく、そういう種類の“さもないリアリティ”も好きだったりするんですね」
一番好きな絵本作家、ロジャー・デュボアザンの絵本は、100冊以上持っている。20世紀初めにスイスで生まれてアメリカに渡り、デザインやイラストレーションの仕事もしていたデュボアザンの絵本には、独特の画面構成や色づかいのセンスがあり、詩子さんの作風にも少なからぬ影響を与えたそう。
ライブラリーの隣は、絵を描いたりデスクワークをしたりするアトリエだ。ここのキーカラーもやはりベリーレッド。「絵本を読み終わって、パタンと本を閉じたときの気持ちって、とてもプライベートな幸福感、という感じがするんです。誰かにこの感動を伝えたいとか、読んでみて~とおすすめしたいとか、そういう大げさなものじゃなくてね」。詩子さんが仕事に選んだ紅茶と絵本、両者にもそんな共通点があるのかもしれない。
詩子さんの紅茶のお店、カレルチャペックのオリジナル紅茶の缶を彩るのは、もちろん詩子さんのイラストレーション。豊かな絵本の森の中で培われたイマジネーションが、今の仕事に存分に生かされていることはまちがいない。ノスタルジックで独特のユーモアとエスプリの効いた画風には、熱心な大勢のファンがいる。
東京・吉祥寺にあるカレルチャペック本店のインテリアも、「ライブラリー」をコンセプトにしている。店舗デザインは自宅同様、NOAH architectsの根岸良範さんに依頼した。こちらのベースカラーは、カラフルな紅茶の缶を引き立てるあたたかなグレー。ライブラリーに並べられた絵本コレクションのように、愛着を持って楽しんでもらえるように、との願いを込めた内装だ。
紅茶と絵本とライブラリー。詩子さんの豊かな森は、これからも大きく育ち、多くの実りがもたらされることだろう。
「世界の暮らしとデザイン:9ヵ国のコレクターに聞いた『コレクションの密やかな愉しみ』」の記事を読む
「世界の暮らしとデザイン」シリーズの記事を読む
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