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世界のHouzzから:3Dプリンターが建築と住宅の未来を変える?
デザインや建築の世界で利用が進む3Dプリンターは、新たな産業革命を起こすのか? 近年進化が進む3Dプリント技術が人類の住まいの未来に与える可能性を、世界各国の研究者・専門家に取材した。
Eva Zimmermann
2016年1月28日
3Dプリンターの技術は、近年最も話題を集めているテクノロジーの1つだ。これぞ新たなる産業革命の幕開けだと言う人もいる一方、技術的な限界を指摘する声もある。3Dプリンターのどんなところが革新的なのだろうか? そして将来、この技術を使って住まいづくりをする日が来るのだろうか? 今回は、世界の3Dプリンター事情をご紹介しよう。中国の精巧な樹脂製パビリオンから、イタリアのクラシカルなデザインのコンクリート梁、ドイツの「思考する建築」まで、さまざまな試みが進行中だ。
3Dプリント技術とは?
3Dプリンターの技術を発明したのは、アメリカ人エンジニア、チャック・ハル。当初は「ステレオリソグラフィー(光造形法)」と呼ばれていた。レーザー光照射により分子をつなげてポリマーを形成し、立体を造形する技術で、1986年に特許を取得した。
実用化された当初は、自動車メーカーなどが試作品(プロトタイプ)の制作に採用し、「ラピッドプロトタイピング」が実現した。この方法には、型枠が不要なこと、素材を切削して造形するのに比べて無駄が出ないことなどの利点がある。3Dプリンターは、樹脂の層を積み重ねて立体物をつくる。紙の上にインクを乗せる通常の印刷からヒントを得たアイデアだが、インクの代わりに固形素材を使い、微妙な動きを加えながら印刷を繰り返すことで、立体を作り出すことが可能になるのだ。
素材として現在広く使われているのは合成樹脂やプラスチックだが、スチールやコンクリートも使われる。小型の3Dプリンターは、デザイン事務所や学校、一般家庭でも導入され始めている。
3Dプリンターの技術を発明したのは、アメリカ人エンジニア、チャック・ハル。当初は「ステレオリソグラフィー(光造形法)」と呼ばれていた。レーザー光照射により分子をつなげてポリマーを形成し、立体を造形する技術で、1986年に特許を取得した。
実用化された当初は、自動車メーカーなどが試作品(プロトタイプ)の制作に採用し、「ラピッドプロトタイピング」が実現した。この方法には、型枠が不要なこと、素材を切削して造形するのに比べて無駄が出ないことなどの利点がある。3Dプリンターは、樹脂の層を積み重ねて立体物をつくる。紙の上にインクを乗せる通常の印刷からヒントを得たアイデアだが、インクの代わりに固形素材を使い、微妙な動きを加えながら印刷を繰り返すことで、立体を作り出すことが可能になるのだ。
素材として現在広く使われているのは合成樹脂やプラスチックだが、スチールやコンクリートも使われる。小型の3Dプリンターは、デザイン事務所や学校、一般家庭でも導入され始めている。
中国では、3Dプリンターによる最大の建築作品を制作
最大・最高であることが進歩のあかし、という意識が高い中国。3Dプリンターによる史上最大の作品が作られたのも不思議ではない。北京デザインウィーク2015で世界に披露されたのが、2名の建築家、シュー・フェンとユー・レイが設計したパビリオン〈ヴァルカン〉だ(写真)。しかし、建物全体を一気に印刷したわけではない。すべて3Dプリンターで造形した1,023個のパーツを組み立てて、曲線的パビリオンを組制作した。大きさは、長さ8.08メートル、高さ2.88メートルだ。
ギネス世界記録に認定される作品となったものの、現在の3Dプリンター技術の限界も見えてきた。住宅全体を印刷するとなると、とてつもなく大きなプリンターが必要になるし、巨大な足場の上でプリンターを稼動しなければならない。建築において3Dプリンターの活用がまだ初期段階なのは、規模の問題が大きな理由だ。
最大・最高であることが進歩のあかし、という意識が高い中国。3Dプリンターによる史上最大の作品が作られたのも不思議ではない。北京デザインウィーク2015で世界に披露されたのが、2名の建築家、シュー・フェンとユー・レイが設計したパビリオン〈ヴァルカン〉だ(写真)。しかし、建物全体を一気に印刷したわけではない。すべて3Dプリンターで造形した1,023個のパーツを組み立てて、曲線的パビリオンを組制作した。大きさは、長さ8.08メートル、高さ2.88メートルだ。
ギネス世界記録に認定される作品となったものの、現在の3Dプリンター技術の限界も見えてきた。住宅全体を印刷するとなると、とてつもなく大きなプリンターが必要になるし、巨大な足場の上でプリンターを稼動しなければならない。建築において3Dプリンターの活用がまだ初期段階なのは、規模の問題が大きな理由だ。
家をまるごと3Dプリント
とはいえアムステルダムでは、運河沿いに立つ伝統建築「カナルハウス(運河の家)」を一層ずつ印刷して作るプロジェクトが進行している。〈 DUS アーキテクツ〉のプロジェクトで、2017年に完成予定だ。
ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)空間情報建築研究室の准教授、ジェーン・バリー博士は、「まだ比較的基礎的なレベルですが、中国でも3Dプリンターで住宅を作る試みが進行中です」と話す。3Dプリンター建築としてしばしば話題に上る、中国企業〈盈創〉のコンクリート製の住宅のことだ。同社の発表によると、平均的な住宅建設に比べて、材料は60%、時間は70%、そして労働力は80%削減できるという。工場内に設置した150×10×6.60メートルという巨大なプリンターで造形している。
とはいえアムステルダムでは、運河沿いに立つ伝統建築「カナルハウス(運河の家)」を一層ずつ印刷して作るプロジェクトが進行している。〈 DUS アーキテクツ〉のプロジェクトで、2017年に完成予定だ。
ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)空間情報建築研究室の准教授、ジェーン・バリー博士は、「まだ比較的基礎的なレベルですが、中国でも3Dプリンターで住宅を作る試みが進行中です」と話す。3Dプリンター建築としてしばしば話題に上る、中国企業〈盈創〉のコンクリート製の住宅のことだ。同社の発表によると、平均的な住宅建設に比べて、材料は60%、時間は70%、そして労働力は80%削減できるという。工場内に設置した150×10×6.60メートルという巨大なプリンターで造形している。
パーツをプリントして組み立てるドイツ建築家協会のメディア広報コンサルタントを務めるベネディクト・ホッツェさんは「3Dプリントをどう定義するか、というのが問題です」と言う。3Dプリンターの建築への利用に関して、彼自身の専門家としての見方はあまり楽観的ではないようだ。「住宅をまるごと印刷して作るというのは、子どものファンタジーのようなもので、実現はしないでしょう。そうではなく、デジタル制御で建材部品を工場で生産し、それを現場に持っていくというシステムならあると思います。中国の3Dプリント建築の例がよく挙げられますが、あれはとにかく注目を集めるための極端な取り組みだと思います。」
RMITのバリー博士も次のように語る。「3Dプリンターのいちばんの強みは、大量生産ではなく、特注のデザインへや多様なデザインへの対応可能性にあります。ですからRMITでは金属素材を使った3Dプリントに注目し、ある建物の特定の部分に最適化した特殊なジョイントを作る、といった用途を重視しています。ジョイントに使う素材を減らせば、重量が軽くなり、建物を支える基礎構造も減らすことができるので、省エネルギーにもなります。鋳造などのほかの方法で作ると非常にコストがかかる部分なので、3Dプリントで造形できれば大きなメリットになります。また、修理や修復のための1点ものの制作にも活用できるでしょう。」
3Dプリンターによる住宅づくりに熱い視線が集まるが、ホッツェさんはあくまで冷静だ。「有人宇宙飛行と同じで、出来ないことはないけど、あえてする必要もないと思います。オメガは今も腕時計『スピードマスター』の宣伝で、月に行った腕時計ということを売りにしてますけどね(笑)。」
一方、イギリスの建築事務所〈フォスター・アンド・パートナーズ〉の意見は異なる。同事務所は欧州宇宙機関と共同で、「月面居住プロジェクト」のために、3Dプリントで月面基地を作る研究を進めている。早ければ2024年の完成を目指しているのだそうだ。
関連記事:
展覧会:「フォスター+パートナーズ展:都市と建築のイノベーション」
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3Dプリンターによる住宅づくりに熱い視線が集まるが、ホッツェさんはあくまで冷静だ。「有人宇宙飛行と同じで、出来ないことはないけど、あえてする必要もないと思います。オメガは今も腕時計『スピードマスター』の宣伝で、月に行った腕時計ということを売りにしてますけどね(笑)。」
一方、イギリスの建築事務所〈フォスター・アンド・パートナーズ〉の意見は異なる。同事務所は欧州宇宙機関と共同で、「月面居住プロジェクト」のために、3Dプリントで月面基地を作る研究を進めている。早ければ2024年の完成を目指しているのだそうだ。
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一方、地球では……
〈フォスター・アンド・パートナーズ〉の月面基地プロジェクトほど野心的ではないかもしれないが、アムルステルダムのアウデザイツ・アフテルバーフワル運河に橋を架けるプロジェクトも注目を集めている。デザイナーのヨーリス・ラーマン、スチールプリンターを開発する〈MX3D〉社、CAD開発を手がける〈Autodesk〉社がコラボレートするプロジェクトだ。
上の写真では、スチール製の橋が現場の運河で建設されているように思えるが、実際の製造は屋内で行われている。3Dプリントは2015年の秋に〈 MX3D〉社で開始。橋の架構全体を1つにつながったかたちで出力する方法を探りつつ、試行錯誤しながら進んでいる。プリント作業は2017年に終了する計画で、それから完成した橋を現場に架ける。人の渡れる、3Dプリンターで作ったスチール製の橋ということで、こちらも世界初を目指す挑戦となる。
〈フォスター・アンド・パートナーズ〉の月面基地プロジェクトほど野心的ではないかもしれないが、アムルステルダムのアウデザイツ・アフテルバーフワル運河に橋を架けるプロジェクトも注目を集めている。デザイナーのヨーリス・ラーマン、スチールプリンターを開発する〈MX3D〉社、CAD開発を手がける〈Autodesk〉社がコラボレートするプロジェクトだ。
上の写真では、スチール製の橋が現場の運河で建設されているように思えるが、実際の製造は屋内で行われている。3Dプリントは2015年の秋に〈 MX3D〉社で開始。橋の架構全体を1つにつながったかたちで出力する方法を探りつつ、試行錯誤しながら進んでいる。プリント作業は2017年に終了する計画で、それから完成した橋を現場に架ける。人の渡れる、3Dプリンターで作ったスチール製の橋ということで、こちらも世界初を目指す挑戦となる。
こちらの模型は、3Dプリントが終わった時点の橋全体の完成形だ。スチールを利用した印刷の利点は2つ。1つは、通常の製法よりも有機的で流れるような形がデザインできること。もう1つは、鋳型が不要なためコストが削減できることだ。
イタリアでは、3Dプリンターでコンクリートをエレガントに成形
ナポリ大学と最先端テクノロジー企業〈WASP (World’s Advanced Saving Project)〉のコラボレーションでは、イタリア建築の美しさとモジュラー建設技術を組み合わせた試みが行われている。
〈WASP〉は2012年にイタリア人実業家マッシモ・モレッティが設立した企業で、サステナブルな建設手法と自社内製造システムを推進している。同社はナポリ大学と共同で、3Dプリンターで造形して建造物に使用できるコンクリートの梁を開発した。
ナポリ大学構造工学部助教授のドメニコ・アスプローネさん(写真)が、このプロジェクトの建設技師を務めた。「曲線形のコンクリート梁をプリントして作ることで、コンクリートの使用量を最適化し、複雑な型枠を作るコストを減らそうと考えたんです。コンクリートの梁を分割したパーツとして別々に出力し、それをレゴのように組み立て、スチールの補強システムで補強してひとつの大きな部品を作ろうというアイデアでした。3Dプリンターだと、一般的なコンクリートの成形方法に比べ、断面図が一様でない曲線の形状も容易に作り出すことができると思います。これによって、構造エンジニアがより自由に創造できることにもつながるでしょう」とアスプローネさんは言う。
ナポリ大学と最先端テクノロジー企業〈WASP (World’s Advanced Saving Project)〉のコラボレーションでは、イタリア建築の美しさとモジュラー建設技術を組み合わせた試みが行われている。
〈WASP〉は2012年にイタリア人実業家マッシモ・モレッティが設立した企業で、サステナブルな建設手法と自社内製造システムを推進している。同社はナポリ大学と共同で、3Dプリンターで造形して建造物に使用できるコンクリートの梁を開発した。
ナポリ大学構造工学部助教授のドメニコ・アスプローネさん(写真)が、このプロジェクトの建設技師を務めた。「曲線形のコンクリート梁をプリントして作ることで、コンクリートの使用量を最適化し、複雑な型枠を作るコストを減らそうと考えたんです。コンクリートの梁を分割したパーツとして別々に出力し、それをレゴのように組み立て、スチールの補強システムで補強してひとつの大きな部品を作ろうというアイデアでした。3Dプリンターだと、一般的なコンクリートの成形方法に比べ、断面図が一様でない曲線の形状も容易に作り出すことができると思います。これによって、構造エンジニアがより自由に創造できることにもつながるでしょう」とアスプローネさんは言う。
「梁は複数のパーツに分割された状態で印刷されます。それぞれのコンクリートが固まってから、補強用の鉄筋を設置してパーツを固定し、一本の梁として強化します。」
〈WASP〉のエンジニアたちは、すでに3.2メートルの鉄筋コンクリート梁の印刷を成功させている。こちらでは粘度の低いコンクリートを使用した。「コンクリート技術は100年以上の歴史の中で進化を重ねてきました。私たちはその技術を3Dプリンターに応用しているに過ぎません。結合材にはセメントのほか、環境に優しい粘土ベースの素材や、耐水性があり下水道システムにも使用可能なジオポリマーなどを使用しています。」
〈WASP〉の次のステップは? オランダでヨーリス・ラーマンが作っている橋のように、歩道橋をコンクリートで作成する計画もある。
〈WASP〉のエンジニアたちは、すでに3.2メートルの鉄筋コンクリート梁の印刷を成功させている。こちらでは粘度の低いコンクリートを使用した。「コンクリート技術は100年以上の歴史の中で進化を重ねてきました。私たちはその技術を3Dプリンターに応用しているに過ぎません。結合材にはセメントのほか、環境に優しい粘土ベースの素材や、耐水性があり下水道システムにも使用可能なジオポリマーなどを使用しています。」
〈WASP〉の次のステップは? オランダでヨーリス・ラーマンが作っている橋のように、歩道橋をコンクリートで作成する計画もある。
ロシアでは、装飾的なディテールに活用
イタリアの〈WASP〉と同様に、ロシアの〈スペサヴィア〉もコンクリートを使った3Dプリントで建材を製造し、主に建設請負業者に提供している。CEOのアレクサンドル・マスロフさんは、すでに複雑な建材のプリントが可能になっているという。「06044シリーズという機種のプリンターでは、最長12.3メートルの部品を作成することができます。これを使えば、住宅で装飾的に用いるタワーやアーチ、パーティションなど、複雑な造形もたいてい可能です。これまで造園や屋外の装飾用途にいろんなものをプリントしました。小さな池や子ども用のおもちゃの町を作ったこともあります。カオリン(陶土)の混合素材を使えば、ストーブや暖炉、バーベキューセットなど、耐火性が必要な製品も作ることができます。」
イタリアの〈WASP〉と同様に、ロシアの〈スペサヴィア〉もコンクリートを使った3Dプリントで建材を製造し、主に建設請負業者に提供している。CEOのアレクサンドル・マスロフさんは、すでに複雑な建材のプリントが可能になっているという。「06044シリーズという機種のプリンターでは、最長12.3メートルの部品を作成することができます。これを使えば、住宅で装飾的に用いるタワーやアーチ、パーティションなど、複雑な造形もたいてい可能です。これまで造園や屋外の装飾用途にいろんなものをプリントしました。小さな池や子ども用のおもちゃの町を作ったこともあります。カオリン(陶土)の混合素材を使えば、ストーブや暖炉、バーベキューセットなど、耐火性が必要な製品も作ることができます。」
マスロフさんは、技術的には家をまるごとつくることも可能なはずだと言いつつも、より実際的な方法を支持するようだ。「やはり、それぞれのパーツを作ってから現場で組み立てることになるでしょうね。この方法のメリットは、屋内で製造できるので温度や湿度の変化による影響を受けないこと。デメリットは、輸送コストと、工期が長くなることですね。それから、パーツを組み立てるプロセスでは、補強面での技術的な問題を今後解決していく必要があります。」
まず実用ありきで、遠い先のことはあまり考えていない、と言うマスロフさんだが、このような建設技術は数年後には一般的な家作りにも広く取り入れられるだろうと予想している。
ドイツ、未来の革新的技術
アヒム・メンゲス教授が所長を務める、シュトゥットガルト大学の有名研究機関、計算設計研究所。ここでは、新技術を現実世界に活用するための研究が進んでいる。革新というのは、古い思考パターンを捨て去ることだと教授は考える。「最初は、新しいテクノロジーを使いながらも今までと同じやり方でものを作ります。それが中国で行っているような、3Dプリンターで従来からある建築を作るということです。そして次のステップが、3Dプリンター技術だからこそできる新しい設計やデザインを生み出すことなんです。」
例えば、「3Dプリンターを使えば、幾何学的に複雑な建築でも余計な費用や労力を使わずに実現できるようになります。すると、設計するときの考え方も変わってきます」とメンゲス教授は言う。3Dやスタティックソフトウェアの開発によって建築デザインに変化が起きたように、3Dプリント技術もデザインに影響を与えるということだ。
さらに、3Dプリンターで作ったパーツは複数の層から成っているため、「材質がグラデーションするような非常に複雑な建築部品を作ることも可能でしょう。複数の素材に対応した3Dプリンターを使い、素材を変えながら印刷することで、1つの部品でも片面が柔らかくもう片面が硬いものを作ることができるかもしれません」と言う。
まず実用ありきで、遠い先のことはあまり考えていない、と言うマスロフさんだが、このような建設技術は数年後には一般的な家作りにも広く取り入れられるだろうと予想している。
ドイツ、未来の革新的技術
アヒム・メンゲス教授が所長を務める、シュトゥットガルト大学の有名研究機関、計算設計研究所。ここでは、新技術を現実世界に活用するための研究が進んでいる。革新というのは、古い思考パターンを捨て去ることだと教授は考える。「最初は、新しいテクノロジーを使いながらも今までと同じやり方でものを作ります。それが中国で行っているような、3Dプリンターで従来からある建築を作るということです。そして次のステップが、3Dプリンター技術だからこそできる新しい設計やデザインを生み出すことなんです。」
例えば、「3Dプリンターを使えば、幾何学的に複雑な建築でも余計な費用や労力を使わずに実現できるようになります。すると、設計するときの考え方も変わってきます」とメンゲス教授は言う。3Dやスタティックソフトウェアの開発によって建築デザインに変化が起きたように、3Dプリント技術もデザインに影響を与えるということだ。
さらに、3Dプリンターで作ったパーツは複数の層から成っているため、「材質がグラデーションするような非常に複雑な建築部品を作ることも可能でしょう。複数の素材に対応した3Dプリンターを使い、素材を変えながら印刷することで、1つの部品でも片面が柔らかくもう片面が硬いものを作ることができるかもしれません」と言う。
「思考する家」も実現?
現在、メンゲス教授はシュトゥットガルトで環境に合わせて形を変える建築部品を開発中だ。「松ぼっくりを想像してみてください。松ぼっくりが木に付いているときには表面の鱗片が閉じていて、地面に落ちて乾燥すると鱗片が開きます。柔らかい素材と硬い素材のような、湿度などの環境への反応が異なる素材を使って3Dプリンターで造形すれば、この現象を作り出すことができるんです。これを利用すれば、機械やコンピュータで制御をしなくても、気候の変化に自動的に対応する建築部品ができるでしょう。」(上の写真はそのプロトタイプ)
このアイデアをさらに押し進める人たちもいる。「Industry 4.0、言ってみれば第4次産業革命として取り組む動きも起こっています。物質とデジタルの世界を、いわゆる『サイバーフィジカルシステム』(現実世界とITを連携させるシステム)によってつなぐという考え方です」とメンゲス教授は言う。ソフトウェアと機械や電子機器をインターネットのようなデータインフラで結ぶIoT、「モノのインターネット」とも呼ばれる仕組みだ。このような建築技術は、私たちの世界感や日常生活を完全に変えてしまうだろう。
関連記事:
「スマートハウス」で未来の住宅はどうなっていく?
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このアイデアをさらに押し進める人たちもいる。「Industry 4.0、言ってみれば第4次産業革命として取り組む動きも起こっています。物質とデジタルの世界を、いわゆる『サイバーフィジカルシステム』(現実世界とITを連携させるシステム)によってつなぐという考え方です」とメンゲス教授は言う。ソフトウェアと機械や電子機器をインターネットのようなデータインフラで結ぶIoT、「モノのインターネット」とも呼ばれる仕組みだ。このような建築技術は、私たちの世界感や日常生活を完全に変えてしまうだろう。
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結論:夢の世界? それとも危険な世界?
最新テクノロジーが好きな人にとっては、新時代の幕開けに違いない。「オープンハードウェア」として共有され、誰にでも利用できる状態になれば、3Dプリント技術は世界を変えるかもしれない。自宅のリビングでもモノを製造することが可能になり、製品の輸送が減るため、そのぶん汚染物質の排出も減ることになるだろう。
しかし建築については、プロジェクトの規模が大きいことがネックになる。建設業に適した3Dプリント用素材も、まだ開発の途上だ。
ジェーン・バリー博士は、3Dプリントでつくられる建材のライバルとなる素材があるという。「これからの10年で、3Dプリントはほかの技術と並行して利用が進むでしょう。でも私は、木材こそ次の大きなトレンドに違いないと考えています」と言う。バリー博士が「究極の合板ともいえる素材」という直交集成板(CLT)は、コンクリート構造にも似て、内部の骨組みを作らなくてもパネルで家全体を構築することが出来る。このため工期が短期間で済み、値段を安く抑えることも可能になるのだ。「もちろん、両方の技術が同時に進歩することは可能です。木質素材を利用した3Dプリントも実現するかもしれませんね。」
まだまだ研究の余地はある。月面で家を3Dプリントする日ももうすぐ……とは言えないかもしれないが、より複雑なデザインの造形が可能になることは間違いないし、さらに気候の変化に適応する建築部品や、さまざまな素材を組み合わせたパーツをつくることも可能になるだろう。これからが楽しみなテクノロジーだ。
最新テクノロジーが好きな人にとっては、新時代の幕開けに違いない。「オープンハードウェア」として共有され、誰にでも利用できる状態になれば、3Dプリント技術は世界を変えるかもしれない。自宅のリビングでもモノを製造することが可能になり、製品の輸送が減るため、そのぶん汚染物質の排出も減ることになるだろう。
しかし建築については、プロジェクトの規模が大きいことがネックになる。建設業に適した3Dプリント用素材も、まだ開発の途上だ。
ジェーン・バリー博士は、3Dプリントでつくられる建材のライバルとなる素材があるという。「これからの10年で、3Dプリントはほかの技術と並行して利用が進むでしょう。でも私は、木材こそ次の大きなトレンドに違いないと考えています」と言う。バリー博士が「究極の合板ともいえる素材」という直交集成板(CLT)は、コンクリート構造にも似て、内部の骨組みを作らなくてもパネルで家全体を構築することが出来る。このため工期が短期間で済み、値段を安く抑えることも可能になるのだ。「もちろん、両方の技術が同時に進歩することは可能です。木質素材を利用した3Dプリントも実現するかもしれませんね。」
まだまだ研究の余地はある。月面で家を3Dプリントする日ももうすぐ……とは言えないかもしれないが、より複雑なデザインの造形が可能になることは間違いないし、さらに気候の変化に適応する建築部品や、さまざまな素材を組み合わせたパーツをつくることも可能になるだろう。これからが楽しみなテクノロジーだ。
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