ミッドセンチュリーモダンな曲木椅子の隠れた名品《チャーナーチェア》
ベントウッドチェアといえば、〈トーネット〉が有名ですが、名作はここにも。ノーマン・チャーナーが1950年代にデザインした、プライウッドの美しい曲木椅子のストーリーです。
西谷典子|Noriko Nishiya
2017年8月30日
1950年代、アメリカ出身のデザイナー、ノーマン・チャーナーがデザインした《チャーナーチェア》は、今でも世界中で、静かながら根強い人気のある椅子です。ベントウッドの技法を基本とし、プライウッド(成型合板)を使って進歩させた、いわばベントウッドチェアのモダンバージョン。今回はこの隠れた名作《チャーナーチェア》の魅力とストーリーをご紹介します。
フィフティーズ・ファッションの影響を受けたフォルム
チャーナーチェアは、1957年、アメリカの建築家で家具デザイナーでもあるノーマン・チャーナーがデザインした椅子です。1950年代に流行したファッションといえば、ウェストがきゅっと締まったAラインのスカートが有名ですが、この椅子はその影響が見られるくびれた腰のような形。ミッドセンチュリーらしいアイコン的なデザインといえます。
チャーナーチェアは、1957年、アメリカの建築家で家具デザイナーでもあるノーマン・チャーナーがデザインした椅子です。1950年代に流行したファッションといえば、ウェストがきゅっと締まったAラインのスカートが有名ですが、この椅子はその影響が見られるくびれた腰のような形。ミッドセンチュリーらしいアイコン的なデザインといえます。
ノーマン・チャーナーのデザイン哲学
ノーマン・チャーナーはコロンビア大学で建築を学び、その後教鞭もとった人物。第二次世界大戦後の物資不足の中、安価で早く作れるプライウッド製の家具や、低予算で建てられる建築を探求しました。それだけでなく、どうすればそれが実現できるかを解説した「自分で家具を作る」「6000ドル以下で家を建てる」といった内容の本まで出版したほどです。
デザイナーで建築家という彼の立場からすると、安価で早く、それも自分で……という内容はあまり積極的に勧めないほうがいいのではという気もするのですが、彼の強い信念は、人々の平和で豊かな暮らしを第一に考えることでした。その思いは、その後の作品でも表現されるようになります。
ノーマン・チャーナーはコロンビア大学で建築を学び、その後教鞭もとった人物。第二次世界大戦後の物資不足の中、安価で早く作れるプライウッド製の家具や、低予算で建てられる建築を探求しました。それだけでなく、どうすればそれが実現できるかを解説した「自分で家具を作る」「6000ドル以下で家を建てる」といった内容の本まで出版したほどです。
デザイナーで建築家という彼の立場からすると、安価で早く、それも自分で……という内容はあまり積極的に勧めないほうがいいのではという気もするのですが、彼の強い信念は、人々の平和で豊かな暮らしを第一に考えることでした。その思いは、その後の作品でも表現されるようになります。
短期間発売された、幻の《プレッツェルチェア》
実はチャーナーチェアが発売される前、同じようにベントウッドチェアの技法を用いたプライウッド製の椅子がすでにつくられていました。〈トーネット〉のアームチェア《209》からほぼダイレクトにインスピレーションを受けた、写真の《プレッツェルチェア》です。1954年頃〈ハーマンミラー〉から発売された、ジョージ・ネルソンとインハウスデザイナーによる美しいラインが魅力の椅子でした。
しかし残念ながら、この椅子は1957年に生産中止になってしまいます。当時は壊れやすく製造にコストがかかりすぎるというのが理由でした(2008年に〈ヴィトラ〉社から限定復刻版で1000台だけ生産されました)。
実はチャーナーチェアが発売される前、同じようにベントウッドチェアの技法を用いたプライウッド製の椅子がすでにつくられていました。〈トーネット〉のアームチェア《209》からほぼダイレクトにインスピレーションを受けた、写真の《プレッツェルチェア》です。1954年頃〈ハーマンミラー〉から発売された、ジョージ・ネルソンとインハウスデザイナーによる美しいラインが魅力の椅子でした。
しかし残念ながら、この椅子は1957年に生産中止になってしまいます。当時は壊れやすく製造にコストがかかりすぎるというのが理由でした(2008年に〈ヴィトラ〉社から限定復刻版で1000台だけ生産されました)。
《プレッツェルチェア》と《チャーナーチェア》
《プレッツェルチェア》を生産したのは〈プライクラフト〉という会社でした。ジョージ・ネルソンは、友人のノーマン・チャーナーがデザインした、同じプライウッド素材を使った椅子の製造を〈プライクラフト〉に勧めます。新しくしたばかりの曲木の機械をフル活用し、材料の在庫を生産に回せるよう、気を配ってのことでした。
《プレッツェルチェア》を生産したのは〈プライクラフト〉という会社でした。ジョージ・ネルソンは、友人のノーマン・チャーナーがデザインした、同じプライウッド素材を使った椅子の製造を〈プライクラフト〉に勧めます。新しくしたばかりの曲木の機械をフル活用し、材料の在庫を生産に回せるよう、気を配ってのことでした。
しかし、なぜかこの話を断った〈プライクラフト〉はその後、チャーナーの許可なしでこのチェアを製造してしまいます。当然のことながら裁判沙汰に。結局チャーナーは裁判に勝ち、ロイヤリティを支払ってもらうことで一件落着。こういった苦い経験もありましたが、和解後、チャーナーの椅子はかなり長い間〈プライクラフト〉で製造されました。現在の製造元は、ノーマン・チャーナーの息子たちが1999年に設立した〈チャーナーチェア・カンパニー〉となっています。
挿絵や映画にも登場
このチェアがアメリカのアイコン的な存在として有名になったのは、1961年に画家ノーマン・ロックウェルがこの椅子を描いたシーンが『サタデー・イブニング・ポスト』紙の表紙を飾ったことも大きいでしょう。それにちなんで《ロックウェル・チェア》というニックネームもついています。
また、最近では映画『トイ・ストーリー2 』でも、おもちゃ屋さんのオフィスの窓辺にこの椅子が置かれているシーンがありました。一瞬とはいえ目を惹くデザインが印象的でした。
このチェアがアメリカのアイコン的な存在として有名になったのは、1961年に画家ノーマン・ロックウェルがこの椅子を描いたシーンが『サタデー・イブニング・ポスト』紙の表紙を飾ったことも大きいでしょう。それにちなんで《ロックウェル・チェア》というニックネームもついています。
また、最近では映画『トイ・ストーリー2 』でも、おもちゃ屋さんのオフィスの窓辺にこの椅子が置かれているシーンがありました。一瞬とはいえ目を惹くデザインが印象的でした。
繊細なデザインでいて頑丈
《チャーナーチェア》の最大の魅力は、美しい曲線を描くアームの部分です。肩から自然と腕をのせられる形で前に伸びており、後ろのシートも背中を十分に支える高さがあります。見た目の美しさだけではなく、座っても心地よい椅子です。また一見デリケートな作りに見えますが、各パーツは思いのほか堅牢。繊細なデザインでいて実は意外にも頑丈なのです。
今の時代、名作椅子のリプロダクションは数多くありますが、さすがにこのアームチェアはあまり見かけないようです。高度な職人技を必要とし、簡単には作れない構造だからでしょう。
《チャーナーチェア》の最大の魅力は、美しい曲線を描くアームの部分です。肩から自然と腕をのせられる形で前に伸びており、後ろのシートも背中を十分に支える高さがあります。見た目の美しさだけではなく、座っても心地よい椅子です。また一見デリケートな作りに見えますが、各パーツは思いのほか堅牢。繊細なデザインでいて実は意外にも頑丈なのです。
今の時代、名作椅子のリプロダクションは数多くありますが、さすがにこのアームチェアはあまり見かけないようです。高度な職人技を必要とし、簡単には作れない構造だからでしょう。
豊富なデザインバリエーション
現在《チャーナーチェア》は、塗装や材質が異なる11種のデザインから選ぶことができます。表面がウォールナットのベニヤ材で中はビーチ材が使われている「ナチュラルウォールナット」が最もベーシックなモデル。黒いラッカー塗装のバージョン「エボニー」や、アームやシートだけ部分的に黒く塗装を施し、黒とウォールナットのコントラストを楽しむモデルなどもあり、幅広いテイストのインテリアに合わせられるようになっています。
現在《チャーナーチェア》は、塗装や材質が異なる11種のデザインから選ぶことができます。表面がウォールナットのベニヤ材で中はビーチ材が使われている「ナチュラルウォールナット」が最もベーシックなモデル。黒いラッカー塗装のバージョン「エボニー」や、アームやシートだけ部分的に黒く塗装を施し、黒とウォールナットのコントラストを楽しむモデルなどもあり、幅広いテイストのインテリアに合わせられるようになっています。
アームなしのチェアやバースツール、そして長く快適に座れるようにシートパッド付きの椅子も加わり、バリエーションも豊富です。椅子だけではなく、曲木の足がついたテーブルもあります。新しいデザインを加えることにより、ハイエンドなリビングやダイニングエリアをトータルに演出できるようになっています。
使い手目線のサステナブルなものづくり
現在生産されている《チャーナーチェア》はサステナビリティにも配慮しています。管理された森林から木材を調達し、長く使えるようにアフターケアのサービスも充実させ、質の高い椅子を次世代に残す体制を敷いています。使い手の視点に立ったノーマン・チャーナーのものづくり精神は、この名作椅子を通して受け継がれていくことでしょう。
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現在生産されている《チャーナーチェア》はサステナビリティにも配慮しています。管理された森林から木材を調達し、長く使えるようにアフターケアのサービスも充実させ、質の高い椅子を次世代に残す体制を敷いています。使い手の視点に立ったノーマン・チャーナーのものづくり精神は、この名作椅子を通して受け継がれていくことでしょう。
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