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ベントウッドチェアの名作、〈トーネット〉のアームチェア《209》
曲木椅子といえば、〈トーネット〉社のカフェチェア《214》が有名ですが、そのアーム付きバージョンが《209》。同じく人気の高いこのベントウッドアームチェアの魅力をご紹介します。
西谷典子|Noriko Nishiya
2017年7月15日
「名作椅子」と呼ばれる椅子は、少なくとも50年以上ロングセラーを続けているものが多いと思いますが、〈トーネット〉社のアームチェア《209》は、誕生からなんと100年以上。今も変わらず、デザインクラシックとして人気の高い椅子です。その造形的でシンプルな形、高度な職人技の光る機能美は、誕生以来長い間、多くの人々に愛され、デザインの巨匠をも魅了してきました。今回は、このベントウッドチェアの魅力を解き明かします。
アイコン的な存在のカフェチェア《214》
世界で最も古い椅子メーカー〈トーネット〉社の曲木による椅子製作は、1840年代から始まりました。「フープバック」と呼ばれる背もたれが特徴のカフェチェア《214》は、1850年代からヨーロッパで爆発的に売れたモデルです。安価で座り心地のよい椅子づくりという、創業者のマイケル・トーネット率いる会社の、ぶれないコンセプトが成功の大きな理由でした。
世界で最も古い椅子メーカー〈トーネット〉社の曲木による椅子製作は、1840年代から始まりました。「フープバック」と呼ばれる背もたれが特徴のカフェチェア《214》は、1850年代からヨーロッパで爆発的に売れたモデルです。安価で座り心地のよい椅子づくりという、創業者のマイケル・トーネット率いる会社の、ぶれないコンセプトが成功の大きな理由でした。
ここ数年日本をはじめ、世界的にヴィンテージのインテリアによるワインバーやレストランが流行しています。あちこちでこのカフェチェアが使われていることもあり、アンティークではやや入手が難しくなっていますが、新品であれば〈アイデック〉が日本の輸入総代理店をしており、手に入れやすくなっています。
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「三次元」の曲木技術
《214》のアーム付きバージョンが《209》。このアームチェア、誕生まで実に50年かかっています。
チェアを構成するパーツは全部で6つ。背もたれと後ろ脚の部分、シート、シートの下フープ、脚が2本、そしてアームと背もたれが一緒になった部分です。このアームの部分を見ると、曲木が三次元に曲げられていて、職人一人でできる簡単な仕事ではないことがわかります。実際、このアームチェアの曲木の部分は、他の椅子と比較しても大変時間がかかり、正確な技術を求められるそう。開発に長い歳月がかかった理由はここにあるようです。
《214》のアーム付きバージョンが《209》。このアームチェア、誕生まで実に50年かかっています。
チェアを構成するパーツは全部で6つ。背もたれと後ろ脚の部分、シート、シートの下フープ、脚が2本、そしてアームと背もたれが一緒になった部分です。このアームの部分を見ると、曲木が三次元に曲げられていて、職人一人でできる簡単な仕事ではないことがわかります。実際、このアームチェアの曲木の部分は、他の椅子と比較しても大変時間がかかり、正確な技術を求められるそう。開発に長い歳月がかかった理由はここにあるようです。
20世紀初めから長く愛されたデザイン
《209》はその当時《ヴィエナチェア》と呼ばれ、1902年に販売が始まりました。1925年にはパリの万国博覧会にも展示されましたが、この博覧会で注目を浴びたのは、モダニズムの建築家として知られた、ル・コルビュジエ。彼の装飾を排除した前衛的な白い箱型の建物は、それまでのアール・ヌーボー時代の装飾的な建物とは正反対のものでした。このル・コルビュジエの簡素な建物の中に置かれたのが、アームチェア《209》でした。
《209》はその当時《ヴィエナチェア》と呼ばれ、1902年に販売が始まりました。1925年にはパリの万国博覧会にも展示されましたが、この博覧会で注目を浴びたのは、モダニズムの建築家として知られた、ル・コルビュジエ。彼の装飾を排除した前衛的な白い箱型の建物は、それまでのアール・ヌーボー時代の装飾的な建物とは正反対のものでした。このル・コルビュジエの簡素な建物の中に置かれたのが、アームチェア《209》でした。
機能的なものは美しいというモダニズムのコンセプトに合致するデザインだった点も、当時、発売から20年ほどだったこのアームチェアが改めて見直され、受け入れられた理由でした。こうして、アート性とクラフト(職人技)をミックスし、飾り気のない美を強調したこの椅子は、1925年頃にはすでにデザインクラシックとして認められていたのです。
ダイニングチェアの定番
肘をかけて心地よく座れるアームチェア《209》は、ダイニングチェアの定番。トラッドでクラシックテイストのアンティーク家具ともコーディネートできるタイムレスな魅力が光ります。一見、意外に思える組み合わせにも見事に対応。名作椅子ならではの応用力といえます。
肘をかけて心地よく座れるアームチェア《209》は、ダイニングチェアの定番。トラッドでクラシックテイストのアンティーク家具ともコーディネートできるタイムレスな魅力が光ります。一見、意外に思える組み合わせにも見事に対応。名作椅子ならではの応用力といえます。
軽量でコンパクト
重量は約3.5kgと大変軽く、見た目より頑丈で耐久性があることは、昔からベントウッドチェアが公共スペースやカフェで多く使われた理由のひとつです。気軽に持ち運びができて便利ですし、気品がありながら大変シンプルで抜け感のあるデザインなので、狭い空間でも決して圧迫感を感じさせません。コンパクトな空間とも相性がよく、日本のインテリアにもよくなじみます。
重量は約3.5kgと大変軽く、見た目より頑丈で耐久性があることは、昔からベントウッドチェアが公共スペースやカフェで多く使われた理由のひとつです。気軽に持ち運びができて便利ですし、気品がありながら大変シンプルで抜け感のあるデザインなので、狭い空間でも決して圧迫感を感じさせません。コンパクトな空間とも相性がよく、日本のインテリアにもよくなじみます。
多彩なインテリアテイストに合う
トラディショナルからコンテンポラリーまで幅広いテイストのインテリアに合う秘密は、優れたデザインとともにカラーリングにも。現在は10色の中から選べ、写真のようなサンゴを思わせる鮮やかな色まで。シートも籐製のものやクッションが入ったもの、そしてベニヤなどニーズや好みに合わせて選べます。
トラディショナルからコンテンポラリーまで幅広いテイストのインテリアに合う秘密は、優れたデザインとともにカラーリングにも。現在は10色の中から選べ、写真のようなサンゴを思わせる鮮やかな色まで。シートも籐製のものやクッションが入ったもの、そしてベニヤなどニーズや好みに合わせて選べます。
書斎にもおすすめ
黒い塗装のアームチェアはマスキュランで端正な印象を与えます。シンプルなデスクと合わせてワークスペースに置くのにもぴったり。
黒い塗装のアームチェアはマスキュランで端正な印象を与えます。シンプルなデスクと合わせてワークスペースに置くのにもぴったり。
籐の座面は実に19世紀から変わらずつくられている〈トーネット〉ならではのこだわりのシート。長く座っても心地よく、書斎に置くには一押しです。曲木の部分だけでなく、編んだ籐の部分もいまだに手作業。職人の誇りが現代に受け継がれた、まさにアーツ・アンド・クラフツが結集されている椅子です。
いちばん決まるスタイルは
長い間大切に使われた感じがにじみ出るヴィンテージのチェアは、やはり同じ時代のインテリアとの相性抜群です。装飾性を削ぎ落とし、機能性を求めた1930〜40年代デザインのシンプルなオークのデスクや、インダストリアルスタイルのデスクランプなどを合わせると、パーフェクトなヴィンテージスタイルの書斎を演出できます。
長い間大切に使われた感じがにじみ出るヴィンテージのチェアは、やはり同じ時代のインテリアとの相性抜群です。装飾性を削ぎ落とし、機能性を求めた1930〜40年代デザインのシンプルなオークのデスクや、インダストリアルスタイルのデスクランプなどを合わせると、パーフェクトなヴィンテージスタイルの書斎を演出できます。
巨匠たちが愛した椅子
20世紀を代表するデザイナー、チャールズ&レイ・イームズが住んでいた邸宅で当時写された写真にも、大変シンプルなラウンジの中に唯一彼らがデザインしたラウンジチェアとオットマン、そしてこの〈トーネット〉のアームチェア《209》が写っています。ル・コルビュジエ、ポール・ヘニングセン、ジョージ・ネルソン、そしてイームズと、多くの巨匠たちからも愛されたアームチェア《209》。機能的であり、余計なものを排除したスマートな美しさは、やはり誰もが認める名作です。
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20世紀を代表するデザイナー、チャールズ&レイ・イームズが住んでいた邸宅で当時写された写真にも、大変シンプルなラウンジの中に唯一彼らがデザインしたラウンジチェアとオットマン、そしてこの〈トーネット〉のアームチェア《209》が写っています。ル・コルビュジエ、ポール・ヘニングセン、ジョージ・ネルソン、そしてイームズと、多くの巨匠たちからも愛されたアームチェア《209》。機能的であり、余計なものを排除したスマートな美しさは、やはり誰もが認める名作です。
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