タイムレスデザインの名作椅子:ベントウッドチェアの代表格〈トーネット〉の《214》
ベントウッドチェアといえば、〈トーネット〉社のカフェチェア《214》が最も有名です。この椅子の生まれた時代背景や魅力を解説します。
西谷典子|Noriko Nishiya
2015年11月19日
曲げ木で作られた有名な「ベントウッドチェア」は、1850年代にドイツの〈トーネット〉社によって製造され、デザインクラシックの椅子として現在も広く愛用されています。激動の時代背景から考えても、創立者マイケル・トーネットの成功は一夜にして始まったのではなく、さまざまな苦難を乗り越えて手にした成功といえるものでした。1930年頃から、この曲げ木の製法はスチールに変わり、その後巨匠と呼ばれるようになるデザイナーたちの革新的なデザイン椅子の数々を生み出す契機となっていきます。モダニズムの建築家ミース・ファン・デル・ローエやマルセル・ブロイヤーの椅子のアイデアが、実はベントウッドチェアから来ています。現代でももっとリスペクトされるべき椅子といえるのではないでしょうか。
曲木で作られたベントウッドチェアは、1850年代にドイツのマイケル・トーネットによってつくられ、現在でもカフェや一般の家の中で広く愛用されています。トーネット社のこの成功は、たゆみない努力の歴史によって存在しています。1920〜30年代には高名なデザイナーとのコラボレーションにより、アバンギャルドなプロダクトも生み出したトーネット社。今回はその歴史と、奥の深いベントウッドチェアのデザインについてご紹介しましょう。
古代からあった曲げ木の技術
ベントウッドチェア(曲げ木の椅子)は、実はマイケル・トーネットが発明したものではなく、木を曲げるという技法は既に古代エジプトやギリシャでも使われていました。イギリスでも17世紀には曲げ木を使ったウィンザーチェアとして、特許も取得されています。
その根本の技法とは、まず木を煮立て、または水蒸気に(ときには火の近くに)当てて曲げることにあります。この技法は家具づくりというより、当時は造船や螺旋階段や窓の製作などに多く使われ、マイケル・トーネット自身も最初は荷馬車の車輪をつくり、プロシアの軍隊に売っていたそうです。
ベントウッドチェア(曲げ木の椅子)は、実はマイケル・トーネットが発明したものではなく、木を曲げるという技法は既に古代エジプトやギリシャでも使われていました。イギリスでも17世紀には曲げ木を使ったウィンザーチェアとして、特許も取得されています。
その根本の技法とは、まず木を煮立て、または水蒸気に(ときには火の近くに)当てて曲げることにあります。この技法は家具づくりというより、当時は造船や螺旋階段や窓の製作などに多く使われ、マイケル・トーネット自身も最初は荷馬車の車輪をつくり、プロシアの軍隊に売っていたそうです。
技術改良と椅子への応用
その後、薄いベニヤ板を何枚も重ねて接着剤に入れて煮つめ、そして型に入れて成形するという画期的な技法が開発され、これにより大変強くて軽く、何より自由自在な形の椅子をつくれるようになりました。1855年のパリ万博では、南アフリカへ初の輸出の仕事を引き受け、高温多湿の土地で接着剤が溶け出して大クレームになるという経験もしますが、その後、曲げ木の技術そのものを改良し、製品のクオリティを向上させます。
さまざまな苦難を乗り越えつつ、1865年には工場は3つに増え、生産量も10倍になりました。1899年には工場の敷地内に、労働者の家や学校、お店や図書館も設立され、そこだけで流通する貨幣までつくられたといわれます。
その後、薄いベニヤ板を何枚も重ねて接着剤に入れて煮つめ、そして型に入れて成形するという画期的な技法が開発され、これにより大変強くて軽く、何より自由自在な形の椅子をつくれるようになりました。1855年のパリ万博では、南アフリカへ初の輸出の仕事を引き受け、高温多湿の土地で接着剤が溶け出して大クレームになるという経験もしますが、その後、曲げ木の技術そのものを改良し、製品のクオリティを向上させます。
さまざまな苦難を乗り越えつつ、1865年には工場は3つに増え、生産量も10倍になりました。1899年には工場の敷地内に、労働者の家や学校、お店や図書館も設立され、そこだけで流通する貨幣までつくられたといわれます。
業務用チェアとして大ヒット
ベントウッドチェアの人気の理由は、やはり低価格で長持ちするという点でしょう。劇場やレストラン、病院、法廷、教会、療養所、そして監獄まで、世界中のあらゆる場所で使われるようになり、1912年には1年に180万脚ものベントウッドチェアが製作されました。
業務用チェアとして頂点を極めたその後は、建築分野のマーケットに注目し、建築家とのパイプラインを強化するようになっていきます。1920年代後半からは、建築家がデザインする新しいマテリアル「チューブラー・スティール(鉄のチューブ)」のデザインの権利を買収し、それまでの曲げ木から、次世代のハイテクな「曲げ鉄」の椅子を発表するのです。
ベントウッドチェアの人気の理由は、やはり低価格で長持ちするという点でしょう。劇場やレストラン、病院、法廷、教会、療養所、そして監獄まで、世界中のあらゆる場所で使われるようになり、1912年には1年に180万脚ものベントウッドチェアが製作されました。
業務用チェアとして頂点を極めたその後は、建築分野のマーケットに注目し、建築家とのパイプラインを強化するようになっていきます。1920年代後半からは、建築家がデザインする新しいマテリアル「チューブラー・スティール(鉄のチューブ)」のデザインの権利を買収し、それまでの曲げ木から、次世代のハイテクな「曲げ鉄」の椅子を発表するのです。
モダニズムの巨匠のデザインのヒントに
その中には、モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエのサスペンションの原理を使ったカンチレバーチェア《Range S533》やマルセル・ブロイヤーの《ワシリーチェア》(現在はノル (Knoll) 社が製造)など、名だたる建築家によるデザインも。そんなアヴァンギャルドな椅子が、次々とトーネットから発表されました。
また、1883年にトーネットから発表されていた曲げ木のロッキングチェアをヒントに、ル・コルビュジエが弟子たちとともにスチールを使って改造し、1928年に発表したのが《シェーズロング》です。1960年からカッシーナの販売となりますが、この有名なデイベッドは、実はベントウッドチェアのロッキングチェアが原型なのです。
その中には、モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエのサスペンションの原理を使ったカンチレバーチェア《Range S533》やマルセル・ブロイヤーの《ワシリーチェア》(現在はノル (Knoll) 社が製造)など、名だたる建築家によるデザインも。そんなアヴァンギャルドな椅子が、次々とトーネットから発表されました。
また、1883年にトーネットから発表されていた曲げ木のロッキングチェアをヒントに、ル・コルビュジエが弟子たちとともにスチールを使って改造し、1928年に発表したのが《シェーズロング》です。1960年からカッシーナの販売となりますが、この有名なデイベッドは、実はベントウッドチェアのロッキングチェアが原型なのです。
コルビュジエのプロジェクトでよく取り入れられ、自身も愛用していた椅子があります。当時《ヴィエナチェア》と呼ばれていたこの椅子は、1900年に3代目の時代のトーネットがデザインし、その美しい曲線は現代にも通じる素のままの美しさがあります。デンマークの建築家ポール・ヘニングセンは1927年に「もしこの椅子を今の建築家がつくったら、価格は5倍高くなり、重さは3倍になって、心地よさは2分の1になり、見た目のよさは4分の1になってしまうでしょう」という表現で、この椅子の完璧さを絶賛しています。
《ヴィエナチェア》に形や構造がよく似ている、ジョージ・ネルソンの《プレッツェルチェア》を見ると、この椅子がどれだけ影響力のある優れたデザインだったかということもわかるでしょう。
《ヴィエナチェア》に形や構造がよく似ている、ジョージ・ネルソンの《プレッツェルチェア》を見ると、この椅子がどれだけ影響力のある優れたデザインだったかということもわかるでしょう。
座面のデザイン、普遍的な実用性
ベントウッドチェアのオリジナルの座面や背もたれにはラタンが使われており、それがトーネットの顔にもなっているわけですが、近年はベニヤの座面が一般的になっています。1900年ごろには美しいアールヌーボーのデザインの型押しの座面や、その後にはビストロスタイルの貝のデザインも大量に生産されており、座面のデザインでおおよその製作年代が判断できます。
ベニヤの座面の場合は、クラシックに見えるそのままの色で使うのもいいのですが、ペイントするとコンテンポラリーなイメージにチェンジすることもできます。150年の歴史がありつつも、現代の暮らしに合う実用的なダイニングチェアとして、今でも大活躍の存在です。
ベントウッドチェアのオリジナルの座面や背もたれにはラタンが使われており、それがトーネットの顔にもなっているわけですが、近年はベニヤの座面が一般的になっています。1900年ごろには美しいアールヌーボーのデザインの型押しの座面や、その後にはビストロスタイルの貝のデザインも大量に生産されており、座面のデザインでおおよその製作年代が判断できます。
ベニヤの座面の場合は、クラシックに見えるそのままの色で使うのもいいのですが、ペイントするとコンテンポラリーなイメージにチェンジすることもできます。150年の歴史がありつつも、現代の暮らしに合う実用的なダイニングチェアとして、今でも大活躍の存在です。
さまざまなインテリアテイストに
写真右奥はブナの木でできたベントウッドチェア。この椅子の最大の売りは、軽くて長持ちすることです。長年使っているとぐらつきは生じますが、ときどきネジを締め直すことが長く使うポイントです。
高い機能性からダイニングチェアとして使われるのが一般的ですが、このシンプルで美しい曲線を強調すれば、エレガントな感じのインテリアにも合わせることができます。また、1930〜40年代などのヴィンテージ家具や小物を合わせてインダストリアルなイメージにスタイリングするのも似合い、さまざまなスタイルに溶け込むマルチな使い方ができる椅子とも言えます。
写真右奥はブナの木でできたベントウッドチェア。この椅子の最大の売りは、軽くて長持ちすることです。長年使っているとぐらつきは生じますが、ときどきネジを締め直すことが長く使うポイントです。
高い機能性からダイニングチェアとして使われるのが一般的ですが、このシンプルで美しい曲線を強調すれば、エレガントな感じのインテリアにも合わせることができます。また、1930〜40年代などのヴィンテージ家具や小物を合わせてインダストリアルなイメージにスタイリングするのも似合い、さまざまなスタイルに溶け込むマルチな使い方ができる椅子とも言えます。
飾り気のない自然なデザイン
ベントウッドチェアはあくまでも一般市民を対象に、よいものを安価に提供したいというマイケル・トーネットの願いから生まれたものです。巨匠と呼ばれる建築家たちも賞賛する、飾り気がなくオーガニックなデザインと高い機能性を持つベントウッドチェア。シンプルなようで実に奥の深いこの椅子は、どの時代にあっても普遍的にインテリアに合わせられる素晴らしいオールラウンドプレイヤーなのです。
トーネット社のチェアは、アイデックが日本の輸入総代理店となっています。
ベントウッドチェアはあくまでも一般市民を対象に、よいものを安価に提供したいというマイケル・トーネットの願いから生まれたものです。巨匠と呼ばれる建築家たちも賞賛する、飾り気がなくオーガニックなデザインと高い機能性を持つベントウッドチェア。シンプルなようで実に奥の深いこの椅子は、どの時代にあっても普遍的にインテリアに合わせられる素晴らしいオールラウンドプレイヤーなのです。
トーネット社のチェアは、アイデックが日本の輸入総代理店となっています。
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基本的に私の感性では~あまり好きな椅子と言えるデザインが無いですね。
歳を重ねるとやはり「ファブリック」タイプの重厚感ある椅子のほうが落ち着くし座り心地も断然良いんですよね。
あくまでも私的なコメントです!
カッシーナ製造のコルビュジエのシェーズやLCシリーズ、パントンチェアの原型もトーネット社で試作されました。
当時の家具製造の最高技術を持っていたのがトーネット。デザイナーがトーネットで試作をしてもらい、出来れば生産可能、出来なければお蔵行きというくらいの信頼のあるメーカーでした。
CUBEさま、貴重なお話しありがとうございました。