My Houzz:日本の伝統工芸品とヴィクトリア様式の空間が出会った、ロンドンのエクレクティックなインテリア
ヴィクトリア時代の小学校をリノベーションした家に、和の伝統工芸などのアート要素をハイセンスにミックス。エクレクティックスタイルの真髄を見せてくれる、インテリアデザイナーの住まい。
Nayo Suzuki
2016年2月3日
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける。趣味はインテリアとアート鑑賞。
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける... もっと見る
イギリスと日本の両国を舞台に、インテリア・家具デザイナー、デザインコンサルタントとして、多方面で活躍する澤山乃莉子さん。1995年に日本からロンドンに移り、インテリアの勉強をしたのち、プロとして日英の数々の物件を手がけ、家具のデザインからコンサルティング、またインテリアデザイン界における後継者の育成も行っています。
そんな澤山さんの現在のロンドンのご自宅は、1870年代に建てられたヴィクトリア様式の建物。1970年代までは小学校として使われており、2000年に住宅として転換され、翌年から販売され始めたのだとか。「この手の学校を住宅に転換した物件は、ロンドンだけでも20~30件あり、レンガ造りのダイナミックな外観や、天井が高いゆえの開放感、空間のおもしろさから、とても人気が高いんです」と澤山さん。2009年にこの建物の一区画を購入し、自らデザインしてリノベーションを実施しました。2012年には、住みながらキッチンのリノベーションをするなど手を加え、現在も娘さんと愛犬と暮らしています。
どんなHouzz?
家族構成:本人、娘、大型犬
所在地:ロンドン市内
設計:澤山乃莉子デザイン NSDA LONDON (Noriko Sawayama Design & Associates)
延床面積:150平方メートル
竣工:2012年
そんな澤山さんの現在のロンドンのご自宅は、1870年代に建てられたヴィクトリア様式の建物。1970年代までは小学校として使われており、2000年に住宅として転換され、翌年から販売され始めたのだとか。「この手の学校を住宅に転換した物件は、ロンドンだけでも20~30件あり、レンガ造りのダイナミックな外観や、天井が高いゆえの開放感、空間のおもしろさから、とても人気が高いんです」と澤山さん。2009年にこの建物の一区画を購入し、自らデザインしてリノベーションを実施しました。2012年には、住みながらキッチンのリノベーションをするなど手を加え、現在も娘さんと愛犬と暮らしています。
どんなHouzz?
家族構成:本人、娘、大型犬
所在地:ロンドン市内
設計:澤山乃莉子デザイン NSDA LONDON (Noriko Sawayama Design & Associates)
延床面積:150平方メートル
竣工:2012年
澤山さんの住むフラットは、“Victorian School Conversion”と呼ばれ、ヴィクトリア時代の学校をそのまま利用した特徴的な外観。内側もレンガ造りで、天井が高く、イギリスの一般的な住居の天井高が約3.2mなのに対し、4.5mもあるのだとか。窓が大きく、陽ざしが燦々と差し込み、明るいのも人気の理由です。
1階はリビング、ダイニング、書斎、そしてキッチンが67.3平方メートルのワンルームとなり、キッチン以外は吹き抜けとなったのびやかな空間。一部を2層にし、1階にはLDKのほかに寝室を設け、2階には2つの寝室とバスルーム、階下を見下ろすバルコニーを配置しています。LDKのインテリアのテーマは、「和洋のエクレクティック」。エクレクティックとは折衷主義、簡単にいうとごちゃ混ぜスタイルのことで、昨今のインテリアのトレンドのひとつでもあり、ロンドンのインテリアデザイナーたちも、いち早く取り入れてきました。
「エクレクティックスタイルのポイントは4つ。1つめは揃えないこと、2つめは、揃えないにもかかわらず方向性が見えること、3つめは深みのある景色をつくること、そして4つめはアーティスティックであること、です」と澤山さん。澤山さん宅では、ヴィクトリア様式の洋の空間に、日本の優れた伝統工芸品をはじめ、国や時代、スタイルの異なるものを数多く取り入れ、絶妙なさじ加減でミックスさせています。
「私がインテリアデザインをするときは、和の要素をどこかに必ず入れています。和のものを入れると、住み手も訪れた人の心も、地に足が着く感じというのでしょうか、とても落ち着くんです。これは日本人以外の方もみなさんがおっしゃることです。そんな力が、日本でつくられたものにはあるのだと思います」
リノベーションにあたり、澤山さんがまず実行したのが、「空間のプロポーションを整える」こと。LDKの中心、フォーカルポイントとなる暖炉を設置するために壁をつくり、そこにテレビやオーディオ設備も組み込みました。そして、暖炉を中心に、左右対称の空間になるよう、照明や暖房器具の位置を調整していきました。
「左右非対称の空間は、もの(家具や照明)の配置で空間のバランスをとるため、置けるものの数や位置が制限されてしまいます。エクレクティックなインテリアでは、基本的にものをたくさん置いて、空間に深みや奥行きを出していくので、キャパシティの大きさも大切。左右対称に家具をたくさん配置していけるよう、まずは空間を整えます」。
「左右非対称の空間は、もの(家具や照明)の配置で空間のバランスをとるため、置けるものの数や位置が制限されてしまいます。エクレクティックなインテリアでは、基本的にものをたくさん置いて、空間に深みや奥行きを出していくので、キャパシティの大きさも大切。左右対称に家具をたくさん配置していけるよう、まずは空間を整えます」。
「エクレクティックスタイルの場合、空間は左右対称でも、コンテンツ、すなわち置いていくものは左右非対称にするのもポイントです」と澤山さん。暖炉の左右も、まったく異なる家具や小物を配しています。向かって右側には、ドゥ グルネイ社の手描きの壁紙をパネルに仕立てたものを壁に飾り、その前には、自身のデザインによる漆仕上げの棚を置いています。棚には七宝焼の絵皿や、九谷焼の一輪挿しなど、日本の伝統工芸品をあしらいました。
漆塗りのコーヒーテーブルは120cm角。あたたかくふかふかのギャッベの下に、さらにスポンジフォームを敷き、くつろぐための工夫もしているそう。「ダイニングテーブルは小さくても、コーヒーテーブルはなるべく大きめのものを選ぶのがおすすめです。我が家も来客時には、このテーブルのまわりに自然と人が集まり、ギャッベの上に座ってお酒を飲んだり、みなさん、リラックスして過ごしてくださいます」と澤山さん。
暖炉の向かって左側の壁には、澤山さんデザインの箪笥を。ローズウッド材を用い、日本の伝統的な箪笥に用いられてきた金具が使われています。壁にはモノクロームの写真を飾り、箪笥の上にはクローム色で統一したさまざまな小物を置いて、モダンな印象に。
エクレクティックスタイルでは、「アーティスティックであること」も大切なポイント。単にアート作品を飾るということだけでなく、目を惹くもの、おもしろいもの、伝統工芸品などを飾ることも含まれます。ここにあしらった天球儀や、反対側の棚の上に置かれた九谷焼なども、アーティスティックであるための大切な要素なのです。
エクレクティックスタイルでは、「アーティスティックであること」も大切なポイント。単にアート作品を飾るということだけでなく、目を惹くもの、おもしろいもの、伝統工芸品などを飾ることも含まれます。ここにあしらった天球儀や、反対側の棚の上に置かれた九谷焼なども、アーティスティックであるための大切な要素なのです。
リビングスペースの中央に置いたソファと、暖炉の両サイドに置いたラウンジチェア2脚は、澤山さんがカリモク家具のためにデザインしたシリーズ「蓮夕」のもの。そこにゴシック様式の鏡、ギャッベのラグ、さまざまなスタイルの照明(シャンデリアやインダストリアルスタイルのテーブルランプ、舞台用ライトなど)を合わせています。
ひとつひとつを見ると別々の個性という感じもしますが、全体として美しくまとまっているのは、ふたつの共通したエレメントが繰り返し用いられているから。ひとつはコーヒーテーブルやソファなど、家具の脚やフレームに用いられている黒、もうひとつは朱赤やオレンジなどの暖色系でまとめたファブリックの色合いです。このエレメントの繰り返しで、澤山さんの挙げる4つのポイントのうち1つめの「揃えないこと」、2つめの「でも方向性が見えること」が実現し、より奥行きのあるエクレクティックなインテリアに仕上がるのです。
ひとつひとつを見ると別々の個性という感じもしますが、全体として美しくまとまっているのは、ふたつの共通したエレメントが繰り返し用いられているから。ひとつはコーヒーテーブルやソファなど、家具の脚やフレームに用いられている黒、もうひとつは朱赤やオレンジなどの暖色系でまとめたファブリックの色合いです。このエレメントの繰り返しで、澤山さんの挙げる4つのポイントのうち1つめの「揃えないこと」、2つめの「でも方向性が見えること」が実現し、より奥行きのあるエクレクティックなインテリアに仕上がるのです。
大きなコーヒーテーブルは、ものをいろいろ置けるという利点もあり、置く小物も大切な役割を果たします。富山県の伝統工芸品、高岡銅器のランタンやテーブルに施された螺鈿細工には、ポイントの4つめの「アーティスティックであること」の役目が。そして小物を置くことで、テーブル越しに見える景色がより重層的になり、自然に視線が奥へとつながるため、3つめの「深みのある景色」が生まれるのです。
クッションは、古い着物の帯の生地を用いたものもあります。ファブリックのベースカラーとなる朱赤やオレンジ色の入った、暖色系のさまざまな布地を重ねています。
小学校の教室だったこの部屋には、子供たちの転落事故を防ぐためと、授業中に集中力を散らさないために、高い位置から腰高窓が設置されています。澤山さんは外の景色を楽しめるよう、40cmもある壁の厚みも利用して、中央の窓にウィンドウシートをつくり、その下には収納を兼ねた箪笥を置きました。
澤山さんがこの家でいちばん長く過ごすというワークスペース。デスクとその上の照明はアールデコ様式、ラグはペルシャ絨毯、キャビネットは壁紙を市松に貼り、高級箪笥と金具を扱う老舗、西川商店による時代箪笥の金具を取り付けた、和の雰囲気をもつ家具という組み合わせ。和とアールデコをベースにし、リズミカルな家具の置き方にもプロならではの技を感じる、知的で洗練されたスペースです。
ダイニングスペースには、脚の曲線が優美なジュリアン・チチェスター社のダイニングテーブル、澤山さんデザインの「蓮夕」のダイニングチェア、写真では見えませんが、ペンダントランプの代わりにアンドリュー・マーティン社のアングルポイズ型フロアランプを置いています。
イギリスと日本の家具を大胆に組み合わせた、まさにエクレクティックな空間を象徴するようなシーン。「よく見るとテーブルやチェアの脚のシェイプが似ており、そんなところが違和感なくなじんでいる理由でしょうか」と澤山さん。エクレクティックなインテリアでは、このようにダイニングテーブルとチェアはセットで揃えることはせず、また1脚ずつバラバラなものを選ぶケースも多いのだとか。
イギリスと日本の家具を大胆に組み合わせた、まさにエクレクティックな空間を象徴するようなシーン。「よく見るとテーブルやチェアの脚のシェイプが似ており、そんなところが違和感なくなじんでいる理由でしょうか」と澤山さん。エクレクティックなインテリアでは、このようにダイニングテーブルとチェアはセットで揃えることはせず、また1脚ずつバラバラなものを選ぶケースも多いのだとか。
ダイニングスペースの壁側には鏡とコンソールが配されています。漆塗りの鏡には梅をモチーフにした象嵌細工が施され、コンソールは中国のヴィンテージ。鏡に写り込む室内の景色が、空間の奥行きや華やかさを強調しています。ここでは、コンソールの上に飾られた「球体」という形と「赤」という色の小物が、さまざまな個性をもつ家具やインテリアアイテムをつなげる役目を果たします。共通するエレメントやテーマ性のあるものを重ねて置いていくことも、ポイントのひとつです。
住み始めて数年経ってから、最後に仕上げたというキッチン。ここでもアイキャッチとなっているのが日本の伝統工芸です。それらをひきたたせるため、メープル材のメラミン化粧合板だった面材を白いペイントで塗りました。
キッチンのキャビネットの壁は、400年の歴史を持つ老舗、京都・唐長の「南蛮七宝柄」の唐紙を貼り込み、その上からガラスによる加工を施しています。版木で押した文様に、顔料のにじみなど独特の風合いが感じられます。
収納のつまみには、西川商店の金具を選びました。「昔からの型をいぶし銀のような風合いに仕上げた、オブジェのような存在感のある金具に、訪れた方々は『これは何?』と吸い寄せられ、会話を盛り上げるカンバーセーションピースにもなっています。唐長の唐紙もこの金具もそうですが、昔からのデザイン、歴史を経て受け継がれ、確立されたデザインには、絶対的な力があると思います」と澤山さん。
澤山さんはテーブルコーディネートでも、和のものをよく用いるとか。
「インテリアに和のアイテムを取り入れる際に気をつけていることは、『どうだ!』とこれ見よがしに入れるのではなく、目立たせずに紛れ込ませることです。日本の伝統工芸品はそのものの力が強いので、あくまで控え目に。また『質量感』を揃えることも大切です。たとえば我が家でしたら、このヴィクトリア様式の空間や他の家具とのバランスを考えて、濃い色の家具や燻したような色の金具を選ぶ、といった具合です」。
「インテリアに和のアイテムを取り入れる際に気をつけていることは、『どうだ!』とこれ見よがしに入れるのではなく、目立たせずに紛れ込ませることです。日本の伝統工芸品はそのものの力が強いので、あくまで控え目に。また『質量感』を揃えることも大切です。たとえば我が家でしたら、このヴィクトリア様式の空間や他の家具とのバランスを考えて、濃い色の家具や燻したような色の金具を選ぶ、といった具合です」。
海外に暮らして、改めて日本の伝統工芸品の素晴らしい力を感じたという澤山さん。それらを積極的に取り入れた、ロンドンのエクレクティックな住まいは、とかく表層の流行を追いかけたり、欧米のインテリアばかりに目が向きがちな私たち日本人に改めて、自国の文化について考え、見直す機会を与えてくれます。和室そのものや床座の生活とは縁遠くなったとしても、日本の古き佳きものをインテリアに取り入れることで、私たちの心も穏やかに、そして暮らしも豊かになる気がします。
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Avenue様、山本様、Toyama様
コメントありがとうございます。
日本の伝統美の可能性を今後も追い求めていきたいと思っています。
このプロジェクトが The International Design and Architecture Awards
のInterior Design Living Space UKのカテゴリーに於いてShort Listed(入選)を果たしました。
http://thedesignsoc.com/congratulations-noriko-sawayama-de…/
http://thedesignsoc.com/designer-profile-noriko-sawayama-creative-director-noriko-sawayama-design-associates-ltd-nsda/
入選理由は、コスモポリタンシティロンドンに於いて、文化の融合というふさわしいテーマを掲げたこと、それを伝統工芸品をエクレクティックにアレンジすることで唯一無二のデザインで実現したこと、さらに蓮夕をはじめとする自身の家具群も評価されました。
これは私達にとって、非常に意味のある入選です。
なぜなら、このプロジェクトでは洋の空間に日本の伝統工芸品を織り交ぜることをテーマとしており、日本の伝統工芸の素晴らしさが世界のデザインシーンで評価された事に他ならないからです。
NSDAでは日本の伝統工芸品のプロ市場へのプロモーションを一貫して行ってまいりました。
http://www.nsda-uk.com/buy-j-crafts/
http://www.houzz.jp/ideabooks/55209847/thumbs
世界中のプロに日本の伝統工芸品の素晴らしさを伝えられる機会を得たことを、ここにご報告いたします。
澤山さま、ご入選おめでとうございます!澤山さまの素晴らしいインテリアデコレーションのセンス、力量とともに、日本の伝統工芸の素晴らしさも世界中の方々に広まることと存じます。ますます楽しみですね。