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My Houzz:川と緑を眺めて暮らす、建築家の仕事場を兼ねた住まい
快適な仕事場、人が集まる場所、くつろぎのプライベート空間が共存。暮らしを楽しむしかけと洗練されたセンスにあふれた、建築家夫妻の家。
Nayo Suzuki
2016年7月4日
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける。趣味はインテリアとアート鑑賞。
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける... もっと見る
晴れた日には遠く富士山まで望める多摩川の岸辺、どこまでも広がる高く澄んだ空に、思わず深呼吸したくなる。このあたりは、河川敷がまるで森のような豊かな緑に覆われ、その先に川面がキラキラと光り、ちょっと東京とは思えないような景色だ。「自然が好きで、本当は郊外で隠居暮らしをしたいくらいなのですが」と笑うスタジオ CY(サイ)の堀内犀さん、雪さんご夫婦。長く自宅を建てる土地を探し、一度は鎌倉にと決めかけた矢先に、目の前が多摩川というめったにない好条件のこの土地に出会ったとか。
「この家では、都会でいかに自然、緑や光や風を感じて暮らせるかを考えました」と自邸の設計を担当した雪さん。川に面した南側以外は隣家に囲まれた土地ゆえに、家じゅうに光がまわるよう中庭と裏庭を設け、中庭を挟むコの字型に建物を配置。河川敷の緑と川を、1階は下から、2階は横から、3階は上からそれぞれ眺められるよう、南側のほぼ全面を窓にした。また、家のどこにいても川や緑を感じられるよう、スリットを設けたり、北側の棟は南側の棟より少し高く配置して、ゆったりと見下ろせるようになっている。さらに「夫婦ともに自宅を仕事場としているので、1階はパブリック、2階はパブリック&プライベートの両方、3階はプライベートと階ごとに機能を分けました」。1階では、将来的にカフェを開いたりお茶事を催すなど、人が自然と集まるような楽しいしかけも考えてある。「仕事、趣味、日々の暮らしとフレキシブルに使い分けられる、既製の枠にとらわれない自分達らしく暮らせる家を目指しました」。
どんなHouzz?
家族構成:夫婦
所在地:東京都
延床面積:147平方メートル
構造:鉄骨造
竣工:2015年
建築設計:スタジオ CY(サイ)
施工:高政工務店
撮影:傍島利浩、土橋一公
「この家では、都会でいかに自然、緑や光や風を感じて暮らせるかを考えました」と自邸の設計を担当した雪さん。川に面した南側以外は隣家に囲まれた土地ゆえに、家じゅうに光がまわるよう中庭と裏庭を設け、中庭を挟むコの字型に建物を配置。河川敷の緑と川を、1階は下から、2階は横から、3階は上からそれぞれ眺められるよう、南側のほぼ全面を窓にした。また、家のどこにいても川や緑を感じられるよう、スリットを設けたり、北側の棟は南側の棟より少し高く配置して、ゆったりと見下ろせるようになっている。さらに「夫婦ともに自宅を仕事場としているので、1階はパブリック、2階はパブリック&プライベートの両方、3階はプライベートと階ごとに機能を分けました」。1階では、将来的にカフェを開いたりお茶事を催すなど、人が自然と集まるような楽しいしかけも考えてある。「仕事、趣味、日々の暮らしとフレキシブルに使い分けられる、既製の枠にとらわれない自分達らしく暮らせる家を目指しました」。
どんなHouzz?
家族構成:夫婦
所在地:東京都
延床面積:147平方メートル
構造:鉄骨造
竣工:2015年
建築設計:スタジオ CY(サイ)
施工:高政工務店
撮影:傍島利浩、土橋一公
玄関となるスチール枠のガラス扉から室内に入ると、雪さんいわく「土間のようなカフェのようなスペース」が現れる。ここは、施主や業者の方などと打ち合わせをしたり、暖かい季節には食事をとったりする場所。「近い将来ここでカフェを開き、人の集まる場にしていきたいなと思っています」と雪さん。土足のまま入れるよう床はモルタルに、壁の一部を外壁と同じ板張りにすることで、屋外と室内とをゆるやかにつなぎ、人が気軽に入って来られるような半屋外的な空間となっている。犀さんの趣味であるレコードや楽器、取材時には真空管のアンプやスピーカー類も置かれ、心地よい音楽が絶え間なく流れていた。
反対側の壁は窓枠と同じネイビーブルーに塗り、雪さんがひと目惚れをしたという、熊谷綾乃さんの力強いアートが存在感を放っている。イギリス製のヴィンテージのダイニングテーブルには、あえてそれぞれ異なる素材やデザインの椅子を合わせた。中庭側の窓を開け放てば、内外が一体となる大空間になる。右奥がキッチンで、その手前の小上がりで靴を脱ぐようになっている。
中庭から望む土間&カフェスペース。その先にはハーブを植えた玄関脇の庭の緑、そして川岸の緑とつながる。中庭にはアオダモ、ナツハゼ、ウエストリンギアなど、落葉の大木と常緑の低木が植えられ、四季折々の表情が楽しめる。土間&カフェスペースからは、どちらを見ても緑が望める贅沢さ。テラスはタイル張り、手前は御影石を用いた和室の縁側となっている。外壁はレッドシダー板張りと漆喰仕上げ。
アイランド型のオープンキッチンは、手前のアイランド部分と壁の収納部分は家具などを手掛ける〈リビング〉に、奥のコンロの付いたカウンター部分はキッチンを専門に手掛ける〈マードレ〉に依頼するというこだわりよう。木製の扉面はウォールナット材にし、奥の扉面はグレー塗装。天板は作業性を重視したステンレスを選び、一部にクロカワ仕上げのスチールを施すなど、さまざまな素材をミックスさせている。アイランド部分のカウンターとして、また手元隠しにもなっている大きな木の板は、アメリカで梁として使われていた古材。カフェのキッチンとしても機能するよう、シンクを2つ設け、製氷機なども設置されている。
「料理しながら外の景色が見えるのが好き」という犀さん。カウンターに並ぶ業務用サイフォンは、カフェのために設置。ペンダントランプは〈ザ・コンランショップ〉で見つけたもので、内側がゴールドに塗装されている、雪さんのお気に入り。クロカワ仕上げのスチール製の階段は、あえて錆止め塗装をせず、工事用の指示表示なども残したままラフに仕上げている。
「家のどこからでも川や緑の気配が感じられるよう窓を多くし、意識して隙間を設けることで、視線が抜けるようにしました」と雪さん。こうやってキッチンから川方向を見ると、窓が多いのもさることながら、居室をあえて浮かせたり、壁の一部をガラスにすることで生まれたスリットから光がこぼれ、家じゅうに明るさと開放感をもたらしているのがよくわかる。
1階の北側に位置する和室の正方形の窓が、裏庭のイロハモミジを、まるで絵画のように切り取っている。土壁には腰張りを施し、壁床には椿の床柱を選んだ。窓には、京都で見つけた古い雪見障子や書院の障子を用いている。襖に貼った唐紙は、京都の〈かみ添〉のもので、アーティストのミヤケマイさんが更紗柄と知識や神に近づく鍵をモティーフにデザインした版木を用いたもの。唐紙は色を自由に選べることから、少し光沢のあるグレーにと依頼した。「すぐ隣にあるキッチンを水屋に、カフェスペースを待合にして、いつかここでお茶事ができたらいいなと思っています」
2階の南側はリビング兼仕事部屋。「家では仕事をしている時間が圧倒的に長いので」という雪さんのデスクを置き、素晴らしい景色を時折眺めながら、たいていはここで仕事をするとか。作業する場なので、あえて構造体やエアコンをむき出しにし、オフィスのような佇まいにしている。南側は全面が窓になっているが、川沿いの土手を歩く人と視線が合わないよう、テラスに出られる窓以外は腰高窓に。部屋の両端には古材を用いてつくった本棚を設置。壁はウォームグレーのペイント塗装、床にはラフな無垢のオーク材を選んだ。
リビングから北側の洗面所方面を見たところ。右側の宙に浮いたような板張りの箱は、鉄骨造ゆえに実現した構造で、犀さんの趣味の機材置き場となっている。隙間にできたスリットによって、2階で雪さんが仕事をしていても、1階にいる犀さんの気配をガラス越しに感じることができる。リビングに出入りする大きな扉は、手前にも奥にも開閉可能。その横にはミニキッチンを設置し、2階でもお茶や食事ができるようになっている。ダイニングテーブルは〈ザ・コンランショップ〉、ソファは〈アルフレックス〉が扱う、〈セブン サロッティ〉の《ナヴィリオ》。
中庭を挟み、北側に位置する洗面バスルーム。大きな窓のおかげで明るく、風通しもよい広々とした空間になった。「明るくて広いトイレが好き」と雪さん。トイレの後ろの壁は十和田石で、洗面スペースの床は「家では裸足で過ごすことが多いので」温もりがあり、やわらかな足触りの無垢のウォールナット材フローリングを選んだ。洗面台のカウンタートップは大理石、扉は柾目オーク材の白染色。浅い引き出しを上下2段設置し、化粧品類の収納を確保している。椅子に座ればドレッサーにもなるなど、女性ならではのこまやかな設計の配慮が随所にうかがえる。
浴室の床と壁はタイル張りにし、一部に足触りがやわらかく、ひやっとしないところが気に入った十和田石を張った。〈フォンテトレーディング〉が扱う洋バスは、簡単に動かせ、掃除もしやすいとか。「この家ではさまざまな素材や機器類を取り入れ、私自身が実際に使って試しています。施主の方にも実物を見て触れていただけるショールームにもなっています」と雪さん。
「以前は寝室で仕事をすることもありましたが、この家ではいっさいしなくなりました」。3階にある清々しい寝室は、完全なプライベート空間。壁を珪藻土にし、床はアッシュ材を選択。〈クリエーションバウマン〉のグリーンのシアーカーテンを選び、収納扉を一箇所だけグリーンに塗って、ポイントにしている。天井高を抑えたため、ベッドも低いものをオーダーでつくった。左側はご夫婦のクローゼット。上段にはハンガーラックとバッグなどを置く棚、下段には引き出しを設け、春秋・冬・夏物と棚を分けられ、衣替えの必要のない大容量の収納を確保した。
3階からは川岸の深い緑、キラキラと光る川面、遠くの山々の先には富士山の絶景が望める。「手前に緑があると、遠くの緑がより身近に感じられるので」との理由で、テラスの端には芝生を植えた。テラスの高さに合わせてつくった寝室の窓辺の階段は、夏の花火大会のときの特等席。〈インゴ・マウラー〉の照明《ツェッツル》と、〈パオラ・レンティ〉のスツールによって、くつろぎを演出する楽しげなスペースとなっている。
北側の棟から南側の棟を見下ろしたところ。南側より少し高くなった北側の棟からも、川や緑の気配が感じられる。コの字型プランは、室内から他の部屋を眺められるのも楽しいところだ。
「川に面した南側は、全面ガラス窓にしたかった」という雪さん。スチール製のサッシにすることで、構造面での懸念もクリアした。色は黒よりもやわらかく、飽きのこないネイビーブルーに。「ただの大きな一枚ガラスにするのではなく、格子を入れたり、あえて細かく区切ることで外の景色とのよい距離感が生まれてくると思います」と雪さん。
「この家に暮らすようになって、早起きになり、釣りという楽しみも増えました」と犀さん。「表と裏のない、どこにいても気持ちのよい家です。自分の好きなもの、家具や小物だけでなく、素材であったり色であったり……に囲まれていることで、心から安らげ、心地よくいられます。仕事柄、長い時間を家で過ごすので、ストレスがなく心地がよいと、精神的にも落ち着きますね」と雪さん。
雪さんが設計する家は、それぞれの住まい手の生活に寄り添い、自然と寄り添う家。暮らしを楽しむしかけにあふれ、室内に温室のようなスペースがあったり、木が植えられていたり、学校の教室のような部屋がある……などという家も。そのうえで、女性目線での家事動線やストレスのない収納もこまやかに考えられている。「完成したときが一番ではなく、暮らし始めてからどんどんよくなるような、その人らしさが滲み出てくるような家づくりを、いつも心がけています。そのために、住まい手がどんな暮らしをしたいのか、どんなものが好きなのかをよく理解し、時間を経てより味わい深くなるような素材や空間を提案しています」。
雪さんが設計する家は、それぞれの住まい手の生活に寄り添い、自然と寄り添う家。暮らしを楽しむしかけにあふれ、室内に温室のようなスペースがあったり、木が植えられていたり、学校の教室のような部屋がある……などという家も。そのうえで、女性目線での家事動線やストレスのない収納もこまやかに考えられている。「完成したときが一番ではなく、暮らし始めてからどんどんよくなるような、その人らしさが滲み出てくるような家づくりを、いつも心がけています。そのために、住まい手がどんな暮らしをしたいのか、どんなものが好きなのかをよく理解し、時間を経てより味わい深くなるような素材や空間を提案しています」。
「我が家をご覧になり、家のイメージづくりの参考にしていただければと思います」と、建築設計事務所スタジオ CY(サイ)主宰、一級建築士の堀内雪さん(右)と、文筆家で執筆活動とともにスタジオ CYの運営にも携わる堀内犀さん。
ここでこれから生まれる新たな家も、ここに行き交う人と生まれる化学反応も、そして何よりも、この家自身の数年後の姿にワクワクする。「家っていいな」と改めてしみじみ思える、仕事も暮らしも楽しむ家である。
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教えてHouzz:
仕事場と生活空間の素敵な共存について、ぜひコメントをお寄せください。
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