My Houzz : 建築士夫妻が実践、マンションリノベーションの可能性を広げる住まい
マンションのリノベーションでできることは、考えている以上に多いもの。夫婦ともに建築家の2人が、自邸で実現したさまざまなプランが参考になります。
takako kawaguchi
2015年9月30日
これまで数多くの家を見て、マンションリノベーションを手がけてきたハンズデザイン一級建築士事務所の星名夫妻。ともに一級建築士の資格を持つ、建築士夫妻である。自分たちの家が欲しいと思ったとき、プロである2人がとった行動は、まず地図を広げて公園や緑地帯を見つけ、その近くのマンションを探すことだった。「窓からの景色にはとにかくこだわりました。内部はリノベーションでどうにでもできるとわかっていたので、後からはどうにもならない窓外の景観がまずは大切だと考えたのです」。
そうして見つけたのが親水公園に隣接し、緑の多いエリアに建つ築28年の物件。建物が雁行形式(集合住宅で、各住戸を斜めにずらして配置したレイアウト形式のこと)のため、なんと4方向に窓があり、室内のどこからでも豊かな緑が眺められるうえ、通気性も上々という好条件だった。
そうして見つけたのが親水公園に隣接し、緑の多いエリアに建つ築28年の物件。建物が雁行形式(集合住宅で、各住戸を斜めにずらして配置したレイアウト形式のこと)のため、なんと4方向に窓があり、室内のどこからでも豊かな緑が眺められるうえ、通気性も上々という好条件だった。
どんなHouzz?
所在地:千葉県船橋市
居住者:星名さん夫妻
専有面積:72.24平方メートル
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
設計:ハンズデザイン一級建築士事務所
施工:株式会社 トトモニ
竣工:2011年2月
この家の最大の特徴は、玄関扉を開けるとすぐ正面にキッチンがあること。いわゆる「玄関」という区切りはなく、靴を脱ぐ土間とキッチンが正対し、直結している。入った瞬間に「ようこそ!」とあたたかく迎え入れてもらった気分になるのは、温厚でフレンドリーな夫妻のお人柄に、キッチンの明るさや視界の広がりも加わっての相乗効果にちがいない。
ここは星名夫妻の住まいであるばかりでなく、家づくりの相談に訪れるお客様にリアルな事例を見てもらうための場でもある。「スペース的に限られた日本のマンションでは、玄関や廊下をなくすことで空間に余裕が生まれる」。マンション間取りの固定概念を覆す、こんな大胆な提案も、ここを訪れて実際に見てもらうと、すんなりポジティブに受け入れられることが多いという。
所在地:千葉県船橋市
居住者:星名さん夫妻
専有面積:72.24平方メートル
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
設計:ハンズデザイン一級建築士事務所
施工:株式会社 トトモニ
竣工:2011年2月
この家の最大の特徴は、玄関扉を開けるとすぐ正面にキッチンがあること。いわゆる「玄関」という区切りはなく、靴を脱ぐ土間とキッチンが正対し、直結している。入った瞬間に「ようこそ!」とあたたかく迎え入れてもらった気分になるのは、温厚でフレンドリーな夫妻のお人柄に、キッチンの明るさや視界の広がりも加わっての相乗効果にちがいない。
ここは星名夫妻の住まいであるばかりでなく、家づくりの相談に訪れるお客様にリアルな事例を見てもらうための場でもある。「スペース的に限られた日本のマンションでは、玄関や廊下をなくすことで空間に余裕が生まれる」。マンション間取りの固定概念を覆す、こんな大胆な提案も、ここを訪れて実際に見てもらうと、すんなりポジティブに受け入れられることが多いという。
玄関正面をキッチンにするかどうかを決める際、2人を躊躇させたのが、日々の生活の中でシンクまわりが雑然としてしまい、ゲストの目に美しく映らないのではないか、という懸念だった。そこで話し合いをして「シンクまわりには物を置かない」というルールを決め、このレイアウトに踏み切ったのだそう。そのときにつくったルールは竣工から4年たった今も、夫妻の間で守られ続けている。
アイランド部分の壁面はナラ無垢材フローリングに名栗加工(木材の表面に独特の削りあとを残す日本の伝統技法)を施し、下部には大谷石を、上部には間接照明を組み込んだ、凝ったつくり。「入って最初に目につく場所なので、何かおもしろいことをやりたかった」とご主人。陰影のある表情豊かな意匠は、まさに“家の顔”と言えるほどの存在感を発揮している。
ステンレスキッチンは夫妻がデザインしたオリジナル。壁側とアイランドの2列型にすることで、キッチンの幅を抑え、ダイニングが広々と感じられるようにした。回遊性のある動線もこのレイアウトのメリット。奥様は「冷蔵庫に食材を取りに行ったり、食器を並べるなどの動きも少なく、スムーズなのでとても使いやすいですね」。
コンロまわりにはリーフ風モチーフの輸入タイルを貼り、スタイリッシュなアクセントに。グースネック型の水栓も、インテリアのポイントになっている。
アイランド部分の壁面はナラ無垢材フローリングに名栗加工(木材の表面に独特の削りあとを残す日本の伝統技法)を施し、下部には大谷石を、上部には間接照明を組み込んだ、凝ったつくり。「入って最初に目につく場所なので、何かおもしろいことをやりたかった」とご主人。陰影のある表情豊かな意匠は、まさに“家の顔”と言えるほどの存在感を発揮している。
ステンレスキッチンは夫妻がデザインしたオリジナル。壁側とアイランドの2列型にすることで、キッチンの幅を抑え、ダイニングが広々と感じられるようにした。回遊性のある動線もこのレイアウトのメリット。奥様は「冷蔵庫に食材を取りに行ったり、食器を並べるなどの動きも少なく、スムーズなのでとても使いやすいですね」。
コンロまわりにはリーフ風モチーフの輸入タイルを貼り、スタイリッシュなアクセントに。グースネック型の水栓も、インテリアのポイントになっている。
食器の片づけは普段はご主人が担当。隣のダイニングからワンアクションで食洗機に入れられるので苦にならない。朝、洗い上がった器をすぐ後ろの食器用引き出しへしまうのも楽々だ。食洗機はスウェーデンのASKO社のもの。
食器用の右隣の引き出しには、朝ごはん作りも担当しているというご主人のために、わかめやだしなどをわかりやすく保存容器に入れた“味噌汁セット”が並んでいる。「もともと料理はしないのですが(笑)……パパッとできる形にしてくれているので、手伝っています」とご主人。
他の棚も見せてもらうと、ゴチャゴチャしがちなキッチンツールなども使い勝手よく、センスのいい容器や瓶も活用しながら整えてある。日々の食を大切にし、キッチンに立つことを楽しんでいる奥様の丁寧な暮らしぶりが垣間見えるようだ。
そんな収納の達人というべき奥様の、実生活に根づいた細やかなアドバイスは、片づけに悩むお客様にとても喜ばれている。
食器用の右隣の引き出しには、朝ごはん作りも担当しているというご主人のために、わかめやだしなどをわかりやすく保存容器に入れた“味噌汁セット”が並んでいる。「もともと料理はしないのですが(笑)……パパッとできる形にしてくれているので、手伝っています」とご主人。
他の棚も見せてもらうと、ゴチャゴチャしがちなキッチンツールなども使い勝手よく、センスのいい容器や瓶も活用しながら整えてある。日々の食を大切にし、キッチンに立つことを楽しんでいる奥様の丁寧な暮らしぶりが垣間見えるようだ。
そんな収納の達人というべき奥様の、実生活に根づいた細やかなアドバイスは、片づけに悩むお客様にとても喜ばれている。
マンションをスケルトンにし、全面リノベーションした星名邸。設計時には、一級建築士である夫妻それぞれがマイプランを考えた。持ち寄ったプランはどちらも、玄関とキッチンを中心とした、ほぼ似通ったイメージのものだったそう。そこから先はご主人が全体の見え方や素材などをまとめ、奥様がディテールを担当。
「空間はこんな感じがいいね、とすんなり決まって。内装面でも無垢の木を使うとか、白やタイルを取り入れるとか、そういう好みは2人とも共通していたので。デザインしたぞ、という感じではなく、さりげなくシンプルに、使いやすくまとまっているのがいいなと」。緑の景観にこだわったご主人らしく、LDKはもちろん、各空間に立ったとき視界に入る窓の風景も想像しながら設計を進めた。
住まい始めてから奥様が実感しているのは「動線が快適なこと。特に家事の動きは一本の線になっているので毎日とても楽です」。
「空間はこんな感じがいいね、とすんなり決まって。内装面でも無垢の木を使うとか、白やタイルを取り入れるとか、そういう好みは2人とも共通していたので。デザインしたぞ、という感じではなく、さりげなくシンプルに、使いやすくまとまっているのがいいなと」。緑の景観にこだわったご主人らしく、LDKはもちろん、各空間に立ったとき視界に入る窓の風景も想像しながら設計を進めた。
住まい始めてから奥様が実感しているのは「動線が快適なこと。特に家事の動きは一本の線になっているので毎日とても楽です」。
キッチンのすぐ脇にある幅70センチ、奥行き35センチ、高さ180センチのパントリー。キッチン収納におさまりきらない料理本やレジ袋、ビン缶などの資源ゴミも目につかないように一時保管でき、生活感をうまく隠せる場所である。
「実際に自分が生活していると、これは置き場所に困るなあ、というものがたくさんあって。そんな経験ひとつひとつをお客様の家づくりにも活かしていきたいですね」。
「実際に自分が生活していると、これは置き場所に困るなあ、というものがたくさんあって。そんな経験ひとつひとつをお客様の家づくりにも活かしていきたいですね」。
パントリーの向かいにあるのが、ガラス戸の食器棚と黒板塗装された壁。「絶対に忘れたくないことを、ここに大きく書いておきます」。
食器棚の裏側は物入れ。日用の雑多なものは適所に収納場所を設けることで片づける手間を省き、いつもきれいな状態をキープできる。
食器棚の裏側は物入れ。日用の雑多なものは適所に収納場所を設けることで片づける手間を省き、いつもきれいな状態をキープできる。
アイランドキッチンから続くダイニングは食事をしたり、テレビを見ながらくつろいだり、仕事をしたりと生活の中心となる場所。
土間は趣味の自転車のメンテナンスや植木の土替えなどにも使えるスペース。取材時にはここに置いた大きなグリーンに鳥かごが吊るされ、3羽の文鳥の透明感のあるさえずりが響いていた。「朝4時頃から鳴き始めるので早起きになりました(笑)。ここなら小鳥が水浴びをしても、タイルをさっと拭けばOKなのでケアも簡単です」。
土間とキッチンをつなぐルーバー天井は、木の面積を多く感じる視覚効果があり、立体感と奥行きも生み出している。
土間は趣味の自転車のメンテナンスや植木の土替えなどにも使えるスペース。取材時にはここに置いた大きなグリーンに鳥かごが吊るされ、3羽の文鳥の透明感のあるさえずりが響いていた。「朝4時頃から鳴き始めるので早起きになりました(笑)。ここなら小鳥が水浴びをしても、タイルをさっと拭けばOKなのでケアも簡単です」。
土間とキッチンをつなぐルーバー天井は、木の面積を多く感じる視覚効果があり、立体感と奥行きも生み出している。
もともと物を持たないタイプという夫妻のリビングは、写真の通りすっきり。余分な家具を置かず、造作のローボードにすべて収まっているので、部屋が広々と見える。
床はアメリカンブラックチェリー材のオイル塗装。少し赤味がかった、熟成された味わいのあるカラーだ。
壁はソフトヘアライン仕上げのシラス壁。天井は白の塗装。
床はアメリカンブラックチェリー材のオイル塗装。少し赤味がかった、熟成された味わいのあるカラーだ。
壁はソフトヘアライン仕上げのシラス壁。天井は白の塗装。
お気づきかもしれないが、この家には扉というものがほとんどなく、唯一あるのはトイレだけ。ご主人は自分の家を設計するときは扉はつくらない、と決めていたのだそう。
「扉をつくろうとするとそれが制約になって、レイアウトに自由さがなくなってしまいますから。約70平方メートルしかないので、壁や扉で仕切って小さなスペースばかりになってしまうよりは、ワンルームのようにできるだけ大きく空間を使おうと考えました。この家ではどこの部屋へ行く、という感覚がなく、動いているうちに目的の場所にいるような感じです。移動のため、扉を開け閉めするストレスもありませんよ」。
部屋には扉が必要という既成概念。玄関や廊下をなくすことと同様、これも本当に必要なのか改めて考えるべき要素だと、星名邸を見た多くの人が感じるはずだ。
「扉をつくろうとするとそれが制約になって、レイアウトに自由さがなくなってしまいますから。約70平方メートルしかないので、壁や扉で仕切って小さなスペースばかりになってしまうよりは、ワンルームのようにできるだけ大きく空間を使おうと考えました。この家ではどこの部屋へ行く、という感覚がなく、動いているうちに目的の場所にいるような感じです。移動のため、扉を開け閉めするストレスもありませんよ」。
部屋には扉が必要という既成概念。玄関や廊下をなくすことと同様、これも本当に必要なのか改めて考えるべき要素だと、星名邸を見た多くの人が感じるはずだ。
窓の近くにバスルームを移設するのも、ぜひやりたかったことのひとつ。「マンションでもこういうことができるんだ、とみなさんに知ってもらうきっかけになればうれしいですね。実際、窓のあるバスルームは本当に心地いいです。ついつい長湯してしまいますよ」。
ハーフユニットバスを使い、タイルやガラス、青森ヒバなど、好みの素材でアレンジを加えている点も参考になる。
ハーフユニットバスを使い、タイルやガラス、青森ヒバなど、好みの素材でアレンジを加えている点も参考になる。
実はこの家、暮らしの変化に合わせて空間や収納をマイナーチェンジすることも想定してある。たとえばこちらの寝室。今は背板のない本棚で仕切られたハーフオープンだが、必要となれば本棚の3つの柱にプラスターボードを取り付けて壁を作り、個室にすることもできるのだ。
本棚の向こうは机や棚が並ぶワークスペース。春には窓から公園の桜を眺めることができ、四季折々の季節感を楽しんでいる。
4方向に広がる窓からは陽光が降り注ぐだけでなく、さわやかな風が室内を通り抜け、毎夏エアコンなしで過ごせるほど。「朝起きたときから本当に快適で、緑に囲まれた別荘にいるような気分。家で過ごす時間が気持ちいいので、旅に行きたいとあまり思わなくなりました(笑)」
本棚の向こうは机や棚が並ぶワークスペース。春には窓から公園の桜を眺めることができ、四季折々の季節感を楽しんでいる。
4方向に広がる窓からは陽光が降り注ぐだけでなく、さわやかな風が室内を通り抜け、毎夏エアコンなしで過ごせるほど。「朝起きたときから本当に快適で、緑に囲まれた別荘にいるような気分。家で過ごす時間が気持ちいいので、旅に行きたいとあまり思わなくなりました(笑)」
緑と小鳥のさえずりに包まれた星名夫妻の家。既存の枠にとらわれず、自分たちにとっての心地よさを率直に追求したスタイルは、リノベーションの新たなヒントに満ちあふれている。
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