自然と響き合い、そよ風が通り抜ける、7つのテラスのある家
絶景を一望できる開放的な窓、外階段でつながった上下階、7つのテラスが組み込まれたゆったりとした空間。周囲の自然環境と響き合う、おおらかな表情の家。
Miki Anzai
2016年4月8日
都心から南西に車で1時間ほどの緑豊かな敷地に立つのは、施主が希望した通りの「そよ風が通り抜けていくような、気持ちのよい家」だ。建物の中心部に生活の機能部分を寄せ、一枚の大屋根の下に、さまざまな光と影を落とす2枚の壁と大きなガラス窓を配置し、その周囲に7つものテラスを設置している。驚くべきは、2階の開口部がすべて掃き出し窓の引き戸になっていること。開放すると文字通り、心地よい風が通り抜け、草木の優しい香りを運んできてくれる。
どんなHouzz?
居住形態:建て替え新築
居住者:母親+子夫婦+孫2人
所在地:横浜市青葉区
設計:栗原隆建築設計事務所
延床面積:124.7平方メートル(1階53.9平方メートル、2階73.5平方メートル )
敷地面積:244.06平方メートル
竣工:2007年(第53回神奈川建築コンクール最優秀賞:2008年)
どんなHouzz?
居住形態:建て替え新築
居住者:母親+子夫婦+孫2人
所在地:横浜市青葉区
設計:栗原隆建築設計事務所
延床面積:124.7平方メートル(1階53.9平方メートル、2階73.5平方メートル )
敷地面積:244.06平方メートル
竣工:2007年(第53回神奈川建築コンクール最優秀賞:2008年)
建て替え時に施主のMさんから依頼されたのは、「四季の移ろいを感じながら、趣味の盆石を心静かに創作できる空間」。敷地内にあった樹齢30年を超すモクレン(写真右奥)を含む、既存の樹木をできるだけ残し、さらに周囲に広がる山々も眺められるように、2階のリビング天井高を2.4mに抑え、軒先も低く張り出させた。そして、絶景を一望できるように工夫されているのが、長方形に近い敷地の形状に沿ってつくった大きな開口部だ。東側の山(断面図1のテラス6)に向け、15mという広い柱間スパンを設けた。これにより、すばらしい眺望だけでなく、一日を通して太陽や風も取り込めるようになっている。
「住まい手が、屋内外を問わずさまざまな場所で、自然環境と建築との間で響き合い、生きる歓びを感じられる家づくりをめざした」と語るのは栗原隆建築設計事務所の栗原隆氏。たとえば、「その日の天候や気分で、敷地内のあらゆる場所がダイニングスペースになりうる設計になっている」という。 パブリックスペースを意識したこの2階部分は、ワンルームの中に、リビング、ダイニング、キッチン、収納キャビネット、和室を配置し、相互に組み込んだテラス(断面図1のテラス5・6)とともに、「ひとつの流動的な空間」になるように設計された。 アイランドキッチン、キャビネット、ダイニングセット、薪ストーブは、すべて特注品。
1階と2階の行き来は、リビングの外に設置した階段を利用する。雨の日でも屋外空間を通じた行き来が必要になるが、「毎日違う、その日の風や気候の変化など、自然を身近に感じられるので楽しい」と語るのは、施主のMさん。「上下階が『離れ』のような形式になっているので、一人一人が趣味を楽しみつつも、家族が大屋根の下で一緒に住む一体感が得られるのもうれしい」という。
断面図1 南側から見た建物
上下階の2つの領域を縫い合わすようにテラスが挟み込まれ、ゆるやかな階段でつながっている。
上下階の2つの領域を縫い合わすようにテラスが挟み込まれ、ゆるやかな階段でつながっている。
断面図2 東側の道路から見た建物
建物の中に組み込まれたこれらのテラスは、内部空間と同等に、日々の暮らしの中に生きた場所となっている。
建物の中に組み込まれたこれらのテラスは、内部空間と同等に、日々の暮らしの中に生きた場所となっている。
階段を降りたところにある中庭(断面図1のテラス1)に植えたのは、ヤマボウシ。6~7月になると、空を向いて花を咲かせるため、この部屋からはもちろんのこと、2階のリビングからも十字架形の花を愛でられる。
手前の部屋は、一部畳を入れている床座の寝室(断面図2の寝室A)である。
手前の部屋は、一部畳を入れている床座の寝室(断面図2の寝室A)である。
ベスト・オブ・ハウズ 2016のバスルーム部門でデザイン賞を受賞した浴室。浴槽に入りやすくするため、浴槽部分の基礎を掘り下げている。また、外部(断面図1のテラス4)と浴室の床は、水に強いイペ材を使い、低い浴槽を介して浴室とテラスに一体感をもたせている。
浴槽からはテラス4だけでなく、中庭も望める。「外部と内部が重なり合うことで、広々とした視界を確保したかった」と栗原氏。中庭側へ出る扉は、地階の玄関となっており、閉めればもちろん、人目を避けることができる。
周囲のテラスと連続性を持つように計画された開放的な開口部。木製サッシによるガラス窓の材質は、水に強いベイヒバを使用している。 この部屋(断面図2の寝室B)も、2階と同様、床はウォールナット材のパーケットフロア、壁はパテしごきの上塗装を施してある。
地階には、浴室など水まわりを挟んで、2つの寝室(AとB)を配置し、収納まわりのRC部分と、寝室の隅に置かれた75mm角の鉄骨柱で、上層階を支えている。
地階には、浴室など水まわりを挟んで、2つの寝室(AとB)を配置し、収納まわりのRC部分と、寝室の隅に置かれた75mm角の鉄骨柱で、上層階を支えている。
寝室Bから眺めた東側の景色。ツゲの垣根越しに、外部も見通せる。
左側が中庭、右側が洗面室。水まわりを挟んで、手前が寝室B、奥が寝室Aだ。玄関と水まわりの床は汚れにくく水に強い、コンクリートの三和土(たたき)にした。
アプローチから玄関ポーチを通ると、中庭に抜ける。ベイヒバ張りの天井による一枚屋根は、傘を広げたような形で佇み、内部空間をやわらかく包んでいる。同じくベイヒバ材の壁には、木の葉の緑と相性のよい黒の防腐塗装を施した。
エクステリアは、建て替え前の大谷石による既存の擁壁と、以前からある植栽を利用することで、昔から住んでいる場所の記憶を残している。
ダイニングや寝室の間接照明は、すべて電球色の色温度で統一して、やわらかな雰囲気を演出している。すべての照明を落とすと、誰にも邪魔されずに、夜空に浮かぶ月や、輝く星を鑑賞できる。
「どのような条件でも、自然とのつながりが残るような建築を創りたい」と語る栗原氏。この住宅でも、光や影、風や雨といった自然要素を、屋内外に映し込むことで、Mさん家族の念願だった「自然との共存」を、見事に実現させている。
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「どのような条件でも、自然とのつながりが残るような建築を創りたい」と語る栗原氏。この住宅でも、光や影、風や雨といった自然要素を、屋内外に映し込むことで、Mさん家族の念願だった「自然との共存」を、見事に実現させている。
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おっしゃる通りで、掃き出し窓の木製引き戸にすることで、こんなにも大胆な開口部が出来るとは驚きです。