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Houzzツアー:自宅マンションの上階の1室を、自分専用の非日常空間にリフォーム
ひとり静かに過ごすときのための別空間を探していた女性オーナー。家族で住むマンションのすぐ上の階に、ベストの場所が見つかりました。
Miki Anzai
2016年10月19日
京都の西の郊外に、双ヶ丘(ならびがおか)という、日本国指定名勝に指定された小高い丘がある。この西麓あたりは、かつて兼好法師が住み、『徒然草』を執筆したといわれる地だ。そこからほど近い閑静な住宅地に建つ築34年のマンションの1階に、ご主人と2人で暮らすオーナーが同じ棟の2階の1室を購入し、自分だけの空間としてリフォームした。「電話もテレビもない、一人で静寂を味わえる、そんな別荘的な非日常の空間が欲しかった」と話すオーナーが、手に入れた「自分だけの城」に案内してくれた。
どんなHouzz?
所在地:京都市右京区
住まい手:60代の既婚女性
延床面積:69.21平方メートル
設計:空間工房 用舎行蔵一級建築士事務所(村西弘至)
リノベーション竣工:2014年8月
どんなHouzz?
所在地:京都市右京区
住まい手:60代の既婚女性
延床面積:69.21平方メートル
設計:空間工房 用舎行蔵一級建築士事務所(村西弘至)
リノベーション竣工:2014年8月
漠然と物件探しはしていたものの、まだ具体的な計画がまったくなかった2014年2月に、京都市内で開かれたリフォーム相談会に出かけたオーナー。多数の出展社の中で、「対象物件がなくても、丁寧に相談にのってくれたのが、〈空間工房 用舎行蔵〉の村西弘至さんだけだった」という。その約2週間後、事態が急に進み出した。「偶然、このマンションに空きが出て、10日後には仮契約し、1ヶ月後には本契約を結んでいました」と語るオーナー。
さらに驚くべき出会いがあった。それは、物件紹介のあった4日後に、旧知の画廊で地元在住の木口木版(こぐちもくはん)画家、齋藤修さんの作品《グリーン・アニマル》(写真)に一目惚れして、即購入してしまったこと。その直後に、「この絵が掛けられる部屋にリフォームして欲しい」と、村西さんに依頼したという。
さらに驚くべき出会いがあった。それは、物件紹介のあった4日後に、旧知の画廊で地元在住の木口木版(こぐちもくはん)画家、齋藤修さんの作品《グリーン・アニマル》(写真)に一目惚れして、即購入してしまったこと。その直後に、「この絵が掛けられる部屋にリフォームして欲しい」と、村西さんに依頼したという。
絵画の写真を見せられて、村西さんが、「絵の邪魔をしない、自然な背景をつくろう」と考え出したのが、ナラ材を使って、独特の表情を醸し出す「ちょうな仕上げ」の壁だった。茶室や数寄屋の建築では欠かせないこの技法は、木材の表面に、削る道具である手斧(ちょうな)のなぐり跡(凸凹)を残し、それを味わいとして見なすもの。窓からさし込む太陽光や、間接照明が当たると、「木材の陰影が浮き出て、絵画がより引き立ちます」と、オーナーも大喜びだ。
寝室から見たリビングの風景。絵画の他に、この部屋に置こうとオーナーが事前に決めていたのが、「シンプルなデザインに惹かれた」という、〈カンディハウス〉のダイニングチェアとテーブル。このダイニングテーブルの高さに合わせて、村西さんは、長さ5m近くあるローボードを設計し、壁に造り付けた。「あまりにも立派な棚なので、窓から数名がかりで運び入れるのを見て、大きな窓があってよかったと思いました」と、オーナーは搬入時を振り返る。
この飾り棚は、壁のナラ材と似た色合いと木目のタモ材で製作。オーナーは、この上に季節の草花や、食器などを飾って楽しんでいる。ガラスの引き戸内には、お気に入りの現代美術作家、杉本博司の著書や、写真集『ルオー全絵画』などが収められていた。
この飾り棚は、壁のナラ材と似た色合いと木目のタモ材で製作。オーナーは、この上に季節の草花や、食器などを飾って楽しんでいる。ガラスの引き戸内には、お気に入りの現代美術作家、杉本博司の著書や、写真集『ルオー全絵画』などが収められていた。
造作家具の中でも、意匠性と実用性を見事に兼ね備えているのが、リビングと主寝室の間仕切り部分に設置された本棚だ。背面にレトロな風合いのガラスをはめ込んでいるが、上部をわざとあけることで、寝室の壁紙と版画2点を、リビング側からも鑑賞できる仕組みになっている。オーナーから「ワンルーム感覚の空間が欲しい」ということと、池澤夏樹編集の『世界文学全集』(全30巻)を置きたいというリクエストがあり、実現した。手前のソファは〈アクタス〉のレザーソファブランド〈five by five〉のもの。
主寝室にリフォームする前は、6畳の和室だった。畳の厚さ分(45~60mm程度)の敷居があったので、リビングと同じ高さに合わせ、マンションの2階のため、 特殊な防音下地を敷きつめた後に、ブラックチェリーのフローリングに張り替えることにした。
通常、マンションの畳の下地はコンクリートなので、遮音のため、裏にクッション付きの経済的な直張り用フローリングを採用するケースが多い。しかし村西さんは、毎日足に触れる部分なので無垢材にこだわり、無垢材対応の防音マットを使用したという。「少し費用はかかりましたが、歩いてもフワフワする感触がない床で、友人たちにも羨ましがられます」とオーナー。
和室の押し入れも撤去し、奥行きを少し狭めてクローゼットをつくり、その分、居住空間を広く取るようにした。
通常、マンションの畳の下地はコンクリートなので、遮音のため、裏にクッション付きの経済的な直張り用フローリングを採用するケースが多い。しかし村西さんは、毎日足に触れる部分なので無垢材にこだわり、無垢材対応の防音マットを使用したという。「少し費用はかかりましたが、歩いてもフワフワする感触がない床で、友人たちにも羨ましがられます」とオーナー。
和室の押し入れも撤去し、奥行きを少し狭めてクローゼットをつくり、その分、居住空間を広く取るようにした。
壁には、イタリア人画家ブルーノ・レティの原画から、2点を選んで掛けている。「天井からの間接照明が優しく照らしてくれて、大変満足しています」と喜ぶオーナー。壁紙と統一感を持たせるように、ベッドカバーやシェードも、花柄で合わせている。
リフォーム前(写真上)の、白色のリビングの壁と、ホワイトを基調にしたキッチン。この殺風景な壁に、同じ絵画を掛けたとしても、きっと味わい深さに差がでたことだろう。
新しいキッチン(写真下)のパネルの色を、「あえて黒にすることで、キッチン前の小窓から見えるピクチャーウォールと絵画が、より引き立るように計画した」と村西さん。
オーナーは当初、キッチンの色調をなかなか決められずにいたが、〈リクシル〉で見つけた、天然木にウレタン加工を施した木目が目を惹く、オレンジ色を選択した。これが功を奏し、リビングの木の壁の自然さを引き立たたせていた。
新しいキッチン(写真下)のパネルの色を、「あえて黒にすることで、キッチン前の小窓から見えるピクチャーウォールと絵画が、より引き立るように計画した」と村西さん。
オーナーは当初、キッチンの色調をなかなか決められずにいたが、〈リクシル〉で見つけた、天然木にウレタン加工を施した木目が目を惹く、オレンジ色を選択した。これが功を奏し、リビングの木の壁の自然さを引き立たたせていた。
この家の間取りは3LDKだ。しかし、この玄関左手と奥の2部屋は、入口の扉だけを交換して、内部は、まだ手をつけていない。「具体的な使用のイメージができるまで、次のリフォームは待機中」だという。
廊下に続く扉(写真右)を開けると、オーナーの描いた理想の住空間が広がる。「この『幸せの扉』には、なんとなくバランスがよいので、5つのガラス窓をつけて欲しい」と、自らリクエストしたという。
廊下に続く扉(写真右)を開けると、オーナーの描いた理想の住空間が広がる。「この『幸せの扉』には、なんとなくバランスがよいので、5つのガラス窓をつけて欲しい」と、自らリクエストしたという。
同じマンション内の部屋を購入し、リフォームすることのメリットは、「細かい管理規約や、大規模修繕のスケジュールなどが分かっていること」とオーナー。「きちんとした情報が入手しやすく、設計がしやすかった」と村西さん。
それでも、34年前の新築時に壁に設置された、自動火災報知付きインターホン(写真)が目障りなので、撤去しようとしたら、防災センターへの専用回線が、既に機能していないことがわかるなど、知らないこともあって驚いたのだそう。
それでも、34年前の新築時に壁に設置された、自動火災報知付きインターホン(写真)が目障りなので、撤去しようとしたら、防災センターへの専用回線が、既に機能していないことがわかるなど、知らないこともあって驚いたのだそう。
春には桜が咲き乱れ、秋には紅葉が美しいマンションの中庭だが、1階の本宅は庭に面していないため、長年、この素晴らしい景観を室内から享受できなかった。仕事に没頭したいとき、ひとりになりたいとき、そんなときに、1つ上の階に上がるだけで、自分の好きな景色、好きなものだけがある場所に来られる贅沢を、オーナーは今、しみじみと噛みしめている。「ここで一人静かに、窓際に腰掛けて、夕暮れどき、空が少しずつ薄紫色に色づき、遠くの山裾にポツポツと明かりが灯り始める光景を眺めていると、とても感慨深いです」
まだリフォームをする家すら見つけていなかった段階から、オーナーの「夢」を「形」にすべく伴走し続けた村西さん。事務所名の〈用舎行蔵〉は、論語から引用したもので、施主の心の琴線に触れるような空間を創造するため、「与えられた機会に、最大限の力を発揮する」という意味も込められているそうだ。
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まだリフォームをする家すら見つけていなかった段階から、オーナーの「夢」を「形」にすべく伴走し続けた村西さん。事務所名の〈用舎行蔵〉は、論語から引用したもので、施主の心の琴線に触れるような空間を創造するため、「与えられた機会に、最大限の力を発揮する」という意味も込められているそうだ。
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