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Houzzツアー: ミッドセンチュリーのレアな注文住宅のリノベーション
サンフランシスコの水際にアイクラーが建てた数少ない「注文住宅」。建築当初のデザインを取り戻すリノベーションを行い、コレクションのアート作品を飾るスペースに。
Vanessa Brunner
2015年7月21日
インテリアデザイナーのゲイリー・ハットンさんは「この家を見ていると、クライアントが本当にうらやましくなります。どこを見てもいい家ですよ」と笑う。サンフランシスコ湾の水際に立つ1962年築の家は、A・クインシー・ジョーンズによる設計。ミッドセンチュリーの時代に〈アイクラーホーム〉と呼ばれる建売住宅を供給したことで知られる建設業者ジョー・アイクラーが、注文住宅として建てた数少ない住宅のうちの1軒でもある。ハットンさんはアイクラーの息子さんと10年ほど一緒に仕事をしていたこともあり、この家がもともとどんなデザインだったかよく理解できたが、1980年代のリフォーム時に不似合いな装飾や加工が施されたせいで、オリジナルのインテリアはすっかり見えなくなってしまっていた。「ひどいものでした。どこもかしこも石膏ボードで、床はピンク色の大理石もどき仕上げ。ほとんど元の姿を留めていませんでした。」とハットンさん。クライアントが家を購入した後、ロサンゼルスに住むA・クインシー・ジョーンズの未亡人から当初の間取り図を手に入れることができた。そして偶然にも、クライアントの友人がこの家の建築作業に実際に携わっていたことがわかり、オリジナルの状態に復元するための直接的な手がかりとなった。
家のオーナーとなったのはミッドセンチュリーアートのコレクターとして有名な人物。もともとは娘とその婚約者が住む家として購入したが、ふたりはロサンゼルスに引っ越すことに。せっかくの美しい家を手放すのももったいないと、見事なアートコレクションをディスプレイする場所にすることに。リビングルームの暖炉の上に飾られるのは、アンディ・ウォーホルによるヨーゼフ・ボイスの肖像。
ベルヴェディアのラグーンを見下ろす大きな窓を背景に、ジョージ・ネルソンのデザインした〈マシュマロソファ〉のユニークなシルエットが引き立つ。アートが大きな存在感を持つインテリアのため、全体の雰囲気も同時代の60~70年代に忠実にすることにした。マシュマロソファは、〈ハーマン・ミラー〉社の復刻版。その両脇でアクセントになっているエンドテーブルは、サンフランシスコのジャンクショップでハットンさんが見つけた。2つで100ドルほどで購入し、追加費用で仕上げを補修して完成させた。
リビングルームはハットンさんのいちばんお気に入りの場所。ひろびろと開かれた空間、柔らかな色調、素晴らしい家具、そして照明を絶妙に利用することで、居心地よく落ち着ける空間に仕上がった。「この家は大きすぎるわけでもなく、スケールがちょうどいい。私自身も実際に住むことが想像できるような家なんです」とハットンさん。
ポール・ヘニングセンがデザインし〈ルイスポールセン〉社が製造する照明器具〈アーティチョーク〉が計算されたエレガンスとモダンな雰囲気をリビングルームに演出。照明の複雑な形が、フローレンス・ノールのカウチソファやハンス・ウェグナーのヴィンテージコーヒーテーブルのすっきりとしたデザインとうまく引き立て合っている。
ベッドルームが2つ、オフィスが1つという間取りのため、ダイニングにそれほど広いスペースを用意する必要はない。リビングと同じ色調のアップホルスタリーを使った椅子を6つ、そしてフローレンス・ノールのテーブルでシンプルに仕上げた。ダイニングルームは小さめだが、ほかの空間とつながっていること、そしてリビングと廊下の大きな窓のおかげで明るく風通しがよく、実際よりも広く感じられる。
この家で唯一際立った色彩の真っ赤なドア。まるで出入口を示す目印のようで、廊下から玄関へと視線を導く。
自然光と有機的な素材が、室内の色彩やレイアウトとよくなじむ。水辺に建てられた家は、周囲の景観も素晴らしい。この自然の美しさをインテリアにも取り入れないなんてもったいない――ハットンさんはそう考えて部屋づくりに取り組んだ。
典型的なアイクラーのスタイルに従い、建築家クレイグ・ハドソンさんは家の表側を比較的簡素なつくりのままに残した。ランチハウススタイルで設計された家はシンプルで構造的。ミッドセンチュリーデザインとのつながりが深いスタイルだ。
屋外用の家具はすべて、リチャード・シュルツがフローレンス・ノールの要望に応えてデザインした「1966コレクション」を選んだ。このシリーズは、ノールが住んでいたフロリダ海岸の潮風や日光にも耐えうるよう作られていて、太平洋に面したベルヴェディアの気候にもぴったりだ。
囲いの付いたデッキと「1966コレクション」の長椅子で、サンフランシスコ湾の潮風から守られながらもカリフォルニアの陽光を目いっぱい楽しむことができる。
家の裏手はすぐ水辺へとつながっており、デッキを取り入れることでこの環境を存分に生かしている。ハットンさんがインテリアをデザインしていて気づいたのは、この家は光と空間の関係にかなり癖があるということ。部屋によってはさんさんと自然光が入るが、いくつかの部屋にはほとんど光が入らない。このため、それぞれの部屋の空間的なアレンジに細かく気を配る必要があった。
ハットンさんが初めて家の中を見て回ったとき、唯一80年代のやりすぎなリフォームを免れていたのがゲストルーム。ピエロ・リッソーニのデザインした〈ポーロ〉のベッドフレームと、ジャスパー・モリソンのデザインによる〈フロス(Flos)〉の「グローボール」ランプを選んだ。エイヤ=リーサ・アハティラの大きな写真が存在感を放ちインテリアの中心となっているので、ほかにアクセントは必要ない。
ゲストベッドルームと同様、マスターベッドルームも何より穏やかな空間。ほっとするような白のトーンで統一し、天窓と庭のドアから自然光が射し込む。
キッチンのレイアウトはオリジナルとほとんど同じ。ハットンさんは、オリジナルの間取り図にあったギャレーキッチンを残しつつ、高品質で省エネルギーの電化製品と特注のキャビネットを付け加えた。「100パーセント忠実に再現しようとは思わず、もっとクリエイティブに考えました。アイクラーがやろうとしたのは、新しい素材や手に入るものを利用した家づくりだと思うんです。だからその姿勢を引き継いで、この家ではいろいろな部分で次世代の進化した素材を取り入れています」とハットンさん。
リビングにもダイニングにも、レイモンド・ローウィが〈エドワード・フィールズ〉社のためにデザインしたラグを使った。どちらのデザインも、家の改装中に再商品化されたもので、当時の本物の素晴らしいデザインだ。「あの時代の雰囲気のある家にしたかったんです」とハットンさんは言う。「だから今ミッドセンチュリー家具が再流行しているのはとてもラッキーでしたね」
こちらはラウンジコーナー。マリーゴールド色の椅子が大きなサラ・モリスの絵を引き立てる。ゲームテーブルはチャールズ&レイ・イームズがハーマン・ミラー社のために作った初期のとてもレアな1品。わずかな期間にわずかな数しか作られなかったため、この宝物を見つけた時にはハットンさんもクライアントも大喜びだったそう。
ラウンジのソファがある部分は、庭の植物を通して柔らかい光が入り込み、打ち解けた親密な雰囲気。チャールズ・フィスターがデザインした<ノール>社のふっくらとしたソファの後ろには、キース・タイソンの絵画作品。
Home photography by Matthew Millman
Home photography by Matthew Millman
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