2016年プリツカー賞を受賞した、チリの建築家、アレハンドロ・アラヴェナの建築とは?
建築界最高の賞といわれるプリツカー賞。2016年はアレハンドロ・アラヴェナが受賞しました。アラヴェナが長年取り組んできた、人々と社会のための建築とは?
Mitchell Parker
2016年1月14日
2016年のプリツカー賞は公共住宅計画への取り組みで知られるチリの建築家、アレハンドロ・アラヴェナ(48歳)に贈られることが発表された。受賞の知らせを受け、アラヴェナは『ニューヨーク・タイムズ』に対し、「人間の生はお金よりもはるかに豊かだ」というコメントを述べている。
Photo by Cristobal Palma
チリの首都サンチャゴ市をベースに活動するアラヴェナ。プリツカー賞の41人目の受賞者であり、ラテンアメリカ出身の建築家としては、ルイス・バラガン(1980年)、オスカー・ニーマイヤー(1988年)、パウロ・メンデス・ダ・ロシャ(2006)に続く4人目となる。
1世帯用の戸建住宅から大規模建築まで、幅広い作品を手がけているアラヴェナ。プリツカー賞審査委員会は、「彼は素材と建設の実際を理解しているだけでなく、詩情の重要性やさまざまなレベルにおけるコミュニケーションを可能にする建築の力を理解している」という審査評を発表している。
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アレハンドロ・アラヴェナ、インタビュー: 「コミュニティのための建築とは?」
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「とりわけ、長年にわたり住宅問題にグローバルに取り組み、あらゆる人のためのよりよい都市環境をつくるために奮闘してきたという点において、アラヴェナは積極的に社会に関わっていく建築家の復活を体現している。彼の論文や活動、設計を見れば、建築と市民社会を深く理解していることがわかる。」(審査評より)
これからご紹介するのは、アラヴェナが手がけている「漸進的住宅」という画期的な住宅。経済的自立の機会がある地域において、アラヴェナは「良質の住宅を半ばまで」建築し、残りは住民が完成していく、という漸進(少しずつ進めていく)プロセスをとる住宅だ。こうすることにより「住民は達成感を得るし、住まいに対して投資をしていることになり、責任をもって関わっていく」。
上の写真の上部は、公的資金を受けてアラヴェナが設計した住宅、下部はその後住民が手を加えて住んでいる状態だ。『ニューヨーク・タイムズ』の記事で「建築とは、余分なコストをかけることではなく、価値を加えていくこと。このことを伝えるべく活動を続けてきました。自分たちの才能や知識は、人口の多数派を占める人々(大衆)に影響を与える課題に取り組みたいと考えているのです」とアラヴェナは話している。
写真:ヴィラ・ヴェルデの集合住宅(2013年)チリ、コンスティトゥシオン市 Photos by ELEMENTAL
これからご紹介するのは、アラヴェナが手がけている「漸進的住宅」という画期的な住宅。経済的自立の機会がある地域において、アラヴェナは「良質の住宅を半ばまで」建築し、残りは住民が完成していく、という漸進(少しずつ進めていく)プロセスをとる住宅だ。こうすることにより「住民は達成感を得るし、住まいに対して投資をしていることになり、責任をもって関わっていく」。
上の写真の上部は、公的資金を受けてアラヴェナが設計した住宅、下部はその後住民が手を加えて住んでいる状態だ。『ニューヨーク・タイムズ』の記事で「建築とは、余分なコストをかけることではなく、価値を加えていくこと。このことを伝えるべく活動を続けてきました。自分たちの才能や知識は、人口の多数派を占める人々(大衆)に影響を与える課題に取り組みたいと考えているのです」とアラヴェナは話している。
写真:ヴィラ・ヴェルデの集合住宅(2013年)チリ、コンスティトゥシオン市 Photos by ELEMENTAL
アラヴェナの受賞が発表されるとソーシャルメディアには賞賛の声があふれた。『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿する建築批評家マイケル・キンメルマンはツイッターで、「アラヴェナは人間味にあふれた、エレガントな建築家」という喜びの声を書き込んだ。
受賞後、英語の建築系ウェブメディアArchitectural Record に対して、アラヴェナ自身、「数分間は何のことがよくわからなかったんです。でも、受賞が現実だとわかると、言葉には表せない、圧倒的な感情が湧いてきました。とてつもなく感動していました」と話している。
写真の住宅は、7500ドルの補助金を使って築30年のスラムを100世帯が暮らせる住宅に変えたプロジェクト。アラヴェナは自力では最初から最後まで家を建てることのできない世帯のために「途中まで完成した住宅」を提供し、残りは住まい手が暮らしやすいように手を加えて完成していった。「1年後には、物件の価値は3倍になりましたが、転売して出て行く世帯はなく、みんなここに残って住宅に手を入れ続けています」とアラヴェナは話す。
写真:キンタ・モンロイの集合住宅(2004年)チリ、イキケ市 Photos by Cristobal Palma
受賞後、英語の建築系ウェブメディアArchitectural Record に対して、アラヴェナ自身、「数分間は何のことがよくわからなかったんです。でも、受賞が現実だとわかると、言葉には表せない、圧倒的な感情が湧いてきました。とてつもなく感動していました」と話している。
写真の住宅は、7500ドルの補助金を使って築30年のスラムを100世帯が暮らせる住宅に変えたプロジェクト。アラヴェナは自力では最初から最後まで家を建てることのできない世帯のために「途中まで完成した住宅」を提供し、残りは住まい手が暮らしやすいように手を加えて完成していった。「1年後には、物件の価値は3倍になりましたが、転売して出て行く世帯はなく、みんなここに残って住宅に手を入れ続けています」とアラヴェナは話す。
写真:キンタ・モンロイの集合住宅(2004年)チリ、イキケ市 Photos by Cristobal Palma
こちらは、上のプロジェクトの住宅の「ビフォー」と「アフター」。上半分は、公的資金で建設された「良質な住宅が半分まで完成された状態」。下半分は、住まい手が手を入れて完成した住まいのようす。
写真:キンタ・モンロイの集合住宅(2004年)チリ、イキケ市 Photo by Ludovic Dusuzean
写真:キンタ・モンロイの集合住宅(2004年)チリ、イキケ市 Photo by Ludovic Dusuzean
こちらも「半分まで完成した良質な住宅」という取り組みの例。写真の上半分が公的資金で建設された当初の状態、下半分が住まい手が手を入れて完成させた状態。
写真:ヴィラ・ヴェルデの集合住宅(2013年)チリ、コンスティトゥシオン市 Photos by ELEMENTAL
写真:ヴィラ・ヴェルデの集合住宅(2013年)チリ、コンスティトゥシオン市 Photos by ELEMENTAL
メキシコで、より安価で手の届きやすい、30,000ドル程度の集合住宅を提供する方法を模索していたアラヴェナは、ここでも「漸進的住宅」のアプローチを使って、デュプレックス(メゾネット)の集合住宅を提案。この家を手に入れるための初期コストは20,000ドル。「中間所得層であれば、自分で手を入れて、72平方メートルの住まいを手に入れることができます」とアラヴェナは話す。
写真:モンテレイの集合住宅(2010年)メキシコ、モンテレイ市 Photo by Ramiro Ramirez
写真:モンテレイの集合住宅(2010年)メキシコ、モンテレイ市 Photo by Ramiro Ramirez
「アラヴェナは省エネルギー建築も数多く手がけてきた。その土地の気候に合わせ、エネルギー効率の高い画期的なファサードや平面計画を考案し、自然光を活用した、活気あふれる交流の場となる建築をつくりだしてきた。」(プリツカー賞を主催するハイアット財団の発表より)
ガラスは温室効果をもたらすためサンチャゴの気候には適切とはいえない素材だというアラヴェナだが、こちらのツインビルでは外皮だけにガラスを使い、内側のビルはよりエネルギー効率の高い素材を使うことで、外皮と内皮の中間層に空気の流れを生み出している。
写真:サイアミーズ・タワーズ(2005年)チリ、サンチャゴ市、チリカトリック大学サン・ホアキン校 Photo by Cristobal Palma
ガラスは温室効果をもたらすためサンチャゴの気候には適切とはいえない素材だというアラヴェナだが、こちらのツインビルでは外皮だけにガラスを使い、内側のビルはよりエネルギー効率の高い素材を使うことで、外皮と内皮の中間層に空気の流れを生み出している。
写真:サイアミーズ・タワーズ(2005年)チリ、サンチャゴ市、チリカトリック大学サン・ホアキン校 Photo by Cristobal Palma
アラヴェナは1992年にチリカトリック大学を卒業し、2年後に設計事務所を設立。2001年には、「住宅計画、公共空間、公共インフラ、公共交通期間など、公益性と社会的影響のあるプロジェクトにフォーカスして活動するため」、〈エレメンタル〉というシンクタンクならぬ「ドゥ(行動)タンク」の取り組みを開始した。
写真は、チリのコンスティトゥシオン市のマウレ川の河口からマゲリネス港を眺める見晴台。津波被害後の持続可能な再建計画の一部として建設された。
写真:コンスティトゥシオン市海岸遊歩道(2014年)チリ、コンスティトゥシオン市 Photo by Felipe Diaz
写真は、チリのコンスティトゥシオン市のマウレ川の河口からマゲリネス港を眺める見晴台。津波被害後の持続可能な再建計画の一部として建設された。
写真:コンスティトゥシオン市海岸遊歩道(2014年)チリ、コンスティトゥシオン市 Photo by Felipe Diaz
プリツカー賞を主宰するハイアット財団の会長であるトム・プリツカーは、「アラヴェナの作品は、めぐまれていない人々に経済的機会を与え、自然災害の影響を緩和し、エネルギー消費を減らし、居心地のよい公共空間をつくりだしている。イノベーションと発想にあふれる建築家であり、人々の生活をよりよいものにするために建築にできる最善の取り組みを示している」と話している。
上はアラヴェナがメキシコの巡礼路につくった休憩所。屈折した中空の岩のような構造が、日差しを遮り、自然通風をつくりだす。
写真:ラス・クルーセス巡礼路の見晴台(2010年)メキシコ、ハリスコ州 Photo by Iwan Baan
上はアラヴェナがメキシコの巡礼路につくった休憩所。屈折した中空の岩のような構造が、日差しを遮り、自然通風をつくりだす。
写真:ラス・クルーセス巡礼路の見晴台(2010年)メキシコ、ハリスコ州 Photo by Iwan Baan
アラヴェナ自身、2000年から2005年まではハーヴァード大学建築スクールの教授として教鞭を執り、2009年から2015年までプリツカー賞の審査員を務めた。現在は、2016年5月から開かれるヴェネチア建築ビエンナーレのディレクターを務めている。
「アレハンドロ・アラヴェナは、建築空間を総体的(ホリスティック)に理解する新世代の建築家のリーダーであり、社会的責任、経済的要請、人間の居住環境と都市の設計を結びつける能力を見事に示してきた。芸術性の実現と今日の社会的・経済的課題への対応という両面から、建築の実践に取り組んできた建築家はごくわずかだ。チリ出身のアラヴェナはこの両面を達成し、そうすることで建築家が果たす役割を拡大した点で、非常に意義深い存在である」とプリツカー賞審査委員会は記している。
写真:医学部棟(2004年)チリ、サンチャゴ市、チリカトリック大学 Photo by Roland Halbe
「アレハンドロ・アラヴェナは、建築空間を総体的(ホリスティック)に理解する新世代の建築家のリーダーであり、社会的責任、経済的要請、人間の居住環境と都市の設計を結びつける能力を見事に示してきた。芸術性の実現と今日の社会的・経済的課題への対応という両面から、建築の実践に取り組んできた建築家はごくわずかだ。チリ出身のアラヴェナはこの両面を達成し、そうすることで建築家が果たす役割を拡大した点で、非常に意義深い存在である」とプリツカー賞審査委員会は記している。
写真:医学部棟(2004年)チリ、サンチャゴ市、チリカトリック大学 Photo by Roland Halbe
2010年、サンチャゴは地震と津波に見舞われた。震災後、アラヴェナは、〈エレメンタル〉のパートナーであるゴンサロ・アルテアガ、フアン・セルダ、ヴィクトール・オッド、ディエゴ・トレスとともに、コンスティトゥシオン市の再建に尽力した。
写真:津波被害後の持続可能な再建計画(2010年〜現在)チリ、コンスティトゥシオン市 Rendering by ELEMENTAL
写真:津波被害後の持続可能な再建計画(2010年〜現在)チリ、コンスティトゥシオン市 Rendering by ELEMENTAL
アラヴェナはプリツカー財団に宛てたメールの中で、自身と〈エレメンタル〉の今後について、「今回の受賞で得た力を活用して、領域を拡大し、新しい課題に取り組み、新しい分野に踏み込んでいきたい」と書いている。
また、「これほどの頂点に達したのだから、これから進む道は地図にない道。だから、予定に縛られず、不確実なものを受け止め、想定外のものに対してオープンに取り組んでいきたいと思います」とも綴っている。
写真:〈エレメンタル〉のメンバー。左からアレハンドロ・アラヴェナ、クラウディオ・タピア、ゴンサロ・アルテアガ、パウラ・リヴィングストーン。チリ、サンチャゴ市にて Rendering by ELEMENTAL
また、「これほどの頂点に達したのだから、これから進む道は地図にない道。だから、予定に縛られず、不確実なものを受け止め、想定外のものに対してオープンに取り組んでいきたいと思います」とも綴っている。
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先ずは、アレハンドロ・アラヴェナに「おめでとう」の賛辞を送ります。
今から20年くらい前にも、日本の集合住宅を作る時にスケルトン状態と水回り設備だけを完備した状態と完成した住宅の3種類の住宅を販売していた時期が有りました。
生命を守る為の住宅には適正な基礎工事が絶対的に必要ですから、彼の考え方に基づく良質な家を提供すると言うシンプルなコンセプトとコストパフォーマンスされた住宅は称賛されるでしょう。
所変わり今の日本における大手がこの様なシステムを断行したとしても、基礎工事を誤魔化している様では売れるには程遠い話しでしょうね!
「良質の住宅を半ばまで」建てるというのは、なかなか面白いアイデアですね。