有限会社すわ製作所

もともとがミーハーなもので、すわ製作所のアジトで彼らと対面した時に、たしか僕はシーランチやマンカス・インヴァネス・ロッジ、上遠野徹の自邸とかデレク・ジャーマンのコテージなど、成り立ちも様式もばらばらだけど、なぜか心に響いてくる建築のことを話した気がする。 当時、僕らの日常生活の骨格は固まりつつあったので、住まいに求めたい条件を説明して、「デザインについては一切おまかせします。できれば、今の日本の風景の中にあって、地面からすくっと生えているような建物がいい。」なんて感じで格好つけて頼んだ。 そうしてすわ製作所との家づくりを経て出来あがったのは、洗練された山小屋のような家だった。 さまざまな要素が混合された現代の日本の街並みに呑まれない、独特の存在感を持って建ちあがる〈アップデートされた日本の住まい〉とでもいうべき佇まい。 ずいぶん長い間 風景写真を撮ってきた眼には、これから時を重ねて美しく朽ち果てていく我が山小屋の未来の姿が見えるようで、すっかり気に入ってしまった。（そういえば、知り合いの大工のじいさん連中からの評判がすこぶる良い。曰く、「玄人受けする感じ」だそうな。） 余談だけど、当時は軽いトレッキングぐらいしかしなかったが、いまでは黒柴を連れて野山を歩いたり、釣りにMTB、BMXなどアウトドア遊びが生活の大切な位置を占めるようになり、「山小屋」という雰囲気は予言的だったなあと思う。 すわ製作所の仕事は、木や石、金属、紙といった素材の扱い方が上手いと思う。傷がつき、汚れ、古びていくことで、より味わいが増していくような存在感がある。それぞれの材の仕上げや配置の妙は、現場で物を見続け、作り続けることで培われてきた経験の賜物なんじゃないかな。 自邸の景色のなかで個人的に気に入っているのが、屋根の骨組みと天井の仕上げのところ。個人宅にはちょっともったいないくらい、技と手間がかけられたディテールは、現場の職人さんにとってもチャレンジだったのではなかろうか。でも、こういった仕事がなされることで技術が継がれていくと思えば、それは嬉しい。 -----大切なことは、目には見えない。（こともある。） ちょっと古い本になるけれど、プロダクトデザイナーの榮久庵憲司さんの『道具考』という本の中に、「道具の作法」というお気に入りの一節があって、やや乱暴に引いてみる。 「作法とは動作方法の略で、道具の一つ一つはすべて動作を示している。作法は動作の方法だから、人間が自然に行われるものである。 例えば、人間の自然の動きを捉え、芸術にまで高めたのが茶道ではないか。すべての道具にそれぞれの作法があり、おのおのの作法が繋げられて大きな作法となる。 その舞台である茶室が代表的な道具の空間としたら、住居もまた十分に道具がつくっている空間といえる。たくさんの道具が、それぞれの作法をもって生活を支えている。」 住まいは、様々な道具を入れる器として在り、またそれ自体も、いくつもの作法をそなえた大きな道具として存在している。翻って我家を見る。見世物的なギミックは何ひとつない、素朴といっていい風情の住まいだが、それを道具として見立てた時にいくつか思いつくことがある。 まず、空間のボリュームの配し方が巧みだなあと感じる。座ってくつろぐ場所、立って活動する場所、横になって眠る場所、それぞれの行動にマッチするスペースが与えられていて、日常生活を送るなかで違和感を覚えることなく、気持ち良く過ごせる。 リビングと寝室との連なりは障子で仕切られていて、空間の意匠としてもアクセントになっているけれど、なにより別々の部屋にいながら時に会話ができる一体感が家の中にあるのが、楽しい。こういった魅力は、決して写真には写らない。 また、陽射しと風の室内への取り込みがよく考えられていて、春夏秋冬それぞれの季節ごとに、絶妙な明るさと居心地を部屋のなかに生み出してくれる。おかげでミニマムな照明や冷暖房で一年を過ごせる。（ちなみに、うちでは室内干しの洗濯物は完璧に乾くし、軒下に干した洗濯物は突然の雨でもほぼ濡れない！） これまで二千冊を超える本（もちろん、それらも道具といえる）を筆頭に、膨大な道具達を家に詰め込んで暮らしてきたけれど、大きな転換期を迎えて、現在は自分たちの生活から余計な物を削ぎ落としにかかっている。 生き方を端正に整え、暮らしの作法を磨き込めば、これからますます居心地のよさが増してくるのではないかと予感する。そんな家です。 だらだらと長く喋りすぎました。目下の悩みは、いつ、どこへ、炉を切ろうかということです。以上。

SUWA製作所との出逢いから2年。 長いようで短くも感じた濃密な家作りの時間を過ごしました。 私達夫婦にとって（多くの人にとって？）、家を建てるのは初体験のこと。どんな土地がいいのか、どんな家がいいのか、どんな空間が好きなのか、突き詰めるとどんな生き方をしたいのか、と想いを巡らす時、パートナーとしてSUWA製作所の皆さんがいてくれて本当に心強かったです。的を得た提案力、要望に応える柔軟性、設計を実現させるためのコネクションと実行力を持つ本当の意味での製作所だと思います。 この家に住み始めて1ヶ月が経ちました。あまりの居心地の良さに家にいることが増えたのは予想通りでしたが、少しずつアップデートしていける”余白”があることに気づかされました。SUWA製作所がモノをデザインするだけでなくクライアントの生活や人生までをデザインしてくれていることを改めて実感しています。 これからどんな家に成長させていけるか、今度は私達夫婦の力量が試されている気がしますが（笑）、楽しみながら暮らしていきたいと思います。

建主として、非常に満足した家造りができました。 結果、プロセス、費用全て、納得のゆくものとなりましたのは彼らの、 単に造形だけではなく、意味まで考え抜く力。 現場で職人さんと緻密かつ実践的なエンジニアリングができる力。 建築家として自らのアイデンティティを持ちながらも、建主家族とその土地（建物）に対して徹底的に寄りそう力。 それらがずば抜けて高いバランスにある事務所だからではないかと思っています。 建築家を探すにあたり、所謂「大物」な方々ともお会いさせていただきましたが、地に足がついたモノづくりを分かっていて、かつ本質的なデザイン・アートについてもきっちり体系的に議論ができる彼らにお願いしたのは正解でした。