素材を通してニッポンの住まいを考える〜「外装材」part1
家の外観の決め手のひとつ、外装のマテリアルを解説します。
Naoko Endo
2015年7月2日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
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「日本人は木と紙でできた家に住んでいる」と、海外では今でも思われているかもしれないが、木材はもちろん新旧さまざまな建材があり、バリエーションに富んでいる。
新築でもリノベーションでも、外壁をどうするかは思案のしどころだ。地区によって厳しい法の規制、敷地の広さ、予算や施主の希望など、さまざまな条件が絡みあう。雨風や音はもちろん、家族の生活をまもる"壁"であり、その家の"顔"でもある。
さまざまなハードルを乗り越え、日本各地の住まいに纏われることになった外壁のマテリアルに着目し、2回にわたって紹介していく。
新築でもリノベーションでも、外壁をどうするかは思案のしどころだ。地区によって厳しい法の規制、敷地の広さ、予算や施主の希望など、さまざまな条件が絡みあう。雨風や音はもちろん、家族の生活をまもる"壁"であり、その家の"顔"でもある。
さまざまなハードルを乗り越え、日本各地の住まいに纏われることになった外壁のマテリアルに着目し、2回にわたって紹介していく。
漆喰
まるでリゾート地のコートハウスのようだが、この家が建っているのは日本の金沢。壁は内外共に白漆喰で、姫路城をはじめとする城郭や寺社の壁などに使われてきた、日本人には馴染み深い仕上げ材だ。
《White Cave House》
設計:山本卓郎建築設計事務所
まるでリゾート地のコートハウスのようだが、この家が建っているのは日本の金沢。壁は内外共に白漆喰で、姫路城をはじめとする城郭や寺社の壁などに使われてきた、日本人には馴染み深い仕上げ材だ。
《White Cave House》
設計:山本卓郎建築設計事務所
消石灰を原料とし、多孔質である漆喰は、昨今では調湿や消臭効果がある内装材としても期待されているが、この家の場合、施主がイメージした空間の実現に欠かせなかった。「真っ白なバターかチーズの塊をナイフでカットしたようなミニマムな家」は、年々少なくなりつつある左官職人が鏝(こて)を握り、熟練の技によって生み出された。その名の通り”白い洞窟の家”である。
アクリル系樹脂
同じ左官職人による塗り壁でも、《南青山M》はアクリル系樹脂の塗り壁材で、表面には細かな縞模様が入っている。校倉またはクシ引きとも呼ばれる、文字通り櫛のような工具(クシ鏝)で表面をこすり落としながら模様をつけたものだ。
《南青山M》
設計:廣部剛司建築研究所
アクリル系樹脂は柔らかな表情をつけやすく、表面にクラック(ひび)も入りにくいのが特長だ。
同じ左官職人による塗り壁でも、《南青山M》はアクリル系樹脂の塗り壁材で、表面には細かな縞模様が入っている。校倉またはクシ引きとも呼ばれる、文字通り櫛のような工具(クシ鏝)で表面をこすり落としながら模様をつけたものだ。
《南青山M》
設計:廣部剛司建築研究所
アクリル系樹脂は柔らかな表情をつけやすく、表面にクラック(ひび)も入りにくいのが特長だ。
1枚目の外観と、続く内観写真とで壁の色が違ってみえるのは、時間帯や季節ごとに変わる光の加減や角度によって、壁の表情も微妙に変化するため。
この建材は経年変化も楽しめるのだが、ムラなく全体が風化してこそ、自然な風合となる。そのため、雨水が壁をつたって一筋に流れ落ちると、その箇所だけが黒ずんでしまう「水みち」ができないよう、ディテールにはとことんこだわってつくられている。
この建材は経年変化も楽しめるのだが、ムラなく全体が風化してこそ、自然な風合となる。そのため、雨水が壁をつたって一筋に流れ落ちると、その箇所だけが黒ずんでしまう「水みち」ができないよう、ディテールにはとことんこだわってつくられている。
木材
さまざまな建材があると冒頭で述べたが、とはいえ、木には特別な安心感を覚えるのが日本人だろう。
この家は基礎部分を除く壁全面にレッドシダーを張っている。ふしのある表面を生かし、防虫・防腐効果のある透明な保護塗料を塗って仕上げている。
《木の家》
設計:設計事務所バリカン
木を外壁材とする場合、日本の住宅密集地で気をつけなければならないのが土地の法規区分。程度によっては耐火・防火性能を認められた建材での構造、もしくは外側を皮膜する必要がある。《木の家》は準防火地域に属していたため、防火認定品の下地材と内装材を組み合わせることで適合させた。
さまざまな建材があると冒頭で述べたが、とはいえ、木には特別な安心感を覚えるのが日本人だろう。
この家は基礎部分を除く壁全面にレッドシダーを張っている。ふしのある表面を生かし、防虫・防腐効果のある透明な保護塗料を塗って仕上げている。
《木の家》
設計:設計事務所バリカン
木を外壁材とする場合、日本の住宅密集地で気をつけなければならないのが土地の法規区分。程度によっては耐火・防火性能を認められた建材での構造、もしくは外側を皮膜する必要がある。《木の家》は準防火地域に属していたため、防火認定品の下地材と内装材を組み合わせることで適合させた。
家の中の床や天井にも木材が配され、壁の一部は珪藻土の左官仕上げ。「小さな山小屋のような佇まいの家を」という施主の要望にこたえた。
木材=火に弱いというイメージがどうしてもあるが、その実、日本には驚くべき伝統技法がある。杉板の表面にだけ火をいれる「焼杉(やきすぎ)」だ。
木材=火に弱いというイメージがどうしてもあるが、その実、日本には驚くべき伝統技法がある。杉板の表面にだけ火をいれる「焼杉(やきすぎ)」だ。
焼杉
黒く炭化させた部分が防護層となり、耐火性、耐久性が向上する。木に大敵な虫も防いでくれる。
独特な風合と色も魅力的なこの「焼杉」、海外でも注目が高まっている。アメリカでの取り組みを紹介した記事が日本語に訳されているので参考まで。
世界に広がる日本の伝統的外装材「焼杉」の魅力
黒く炭化させた部分が防護層となり、耐火性、耐久性が向上する。木に大敵な虫も防いでくれる。
独特な風合と色も魅力的なこの「焼杉」、海外でも注目が高まっている。アメリカでの取り組みを紹介した記事が日本語に訳されているので参考まで。
世界に広がる日本の伝統的外装材「焼杉」の魅力
コンクリート
外壁の横方向にラインが入り、表面にうっすらと木目模様が浮き出ているのがわかるだろうか。この家の外壁はコンクリートである。
《Kaleidoscope》
設計:澤村昌彦建築設計事務所
コンクリート工法では、外壁の厚みにセットした2列の板(型枠)の間に生コンを流し込み、固める。一般的に、型枠材は表面に模様がなくツルツルな、廉価な大判の合板が用いられるが、こちらの家は杉板を使っている。スギの木の模様がそのままコンクリートに写しとられて独特の表情を生む。
外壁の横方向にラインが入り、表面にうっすらと木目模様が浮き出ているのがわかるだろうか。この家の外壁はコンクリートである。
《Kaleidoscope》
設計:澤村昌彦建築設計事務所
コンクリート工法では、外壁の厚みにセットした2列の板(型枠)の間に生コンを流し込み、固める。一般的に、型枠材は表面に模様がなくツルツルな、廉価な大判の合板が用いられるが、こちらの家は杉板を使っている。スギの木の模様がそのままコンクリートに写しとられて独特の表情を生む。
さらに凝っているのが、杉板をミリ単位でズラしなら凹凸をつけて組み上げた「本実(ほんざね)型枠」。繊細な陰影が見事に実現している。
壁のところどころに挿入されているのは積層ガラスで、Kaleidoscope(万華鏡)のごとき多彩な光を室内にもたらす。
壁のところどころに挿入されているのは積層ガラスで、Kaleidoscope(万華鏡)のごとき多彩な光を室内にもたらす。
コンクリート
コンクリート工法の際、施工条件によってはアク(灰汁)やシブが出てしまい、それが原因で表面に"色ムラ"が生じてしまう。
この家では、セオリーでは忌むべきアクをあえて発生させ、転じて個性としている。
《Planter》
設計:no.555
現地の擁壁にみられる仕様(ブラフ積み)に倣って型枠を組み、アクの発生も計算して、まるでパッチワークのような壁に仕上げた。
コンクリート工法の際、施工条件によってはアク(灰汁)やシブが出てしまい、それが原因で表面に"色ムラ"が生じてしまう。
この家では、セオリーでは忌むべきアクをあえて発生させ、転じて個性としている。
《Planter》
設計:no.555
現地の擁壁にみられる仕様(ブラフ積み)に倣って型枠を組み、アクの発生も計算して、まるでパッチワークのような壁に仕上げた。
きっかけとなったのが、この家の立地である。隣地に緑はあるものの、近くを高速道路が走っていて、風に運ばれた車の排気ガスがどうしても家を汚してしまう。そこで、汚れが目立たず、メンテナンスの手間もかからない壁が求められた。
無機質な素材を有機的で表情豊かなものとしても捉え直した、逆転の発想から生まれたデザインだ。
無機質な素材を有機的で表情豊かなものとしても捉え直した、逆転の発想から生まれたデザインだ。
天然石
木造の家の壁として、地元名産の大谷石(おおやいし)を20mm厚で貼っている。
《House I》
設計:篠崎弘之建築設計事務所
石としては軽くて軟らかく、加工のしやすさから、家の門塀など古くから多様に用いられてきた大谷石。建築材としての評価を高めたのは、フランク・ロイド・ライトが設計して1923年に建てられた旧帝国ホテルの壁や柱に取り入れられたこと。意匠の美しさだけでなく、竣工直後に発生した関東大震災でも倒壊しなかった。
木造の家の壁として、地元名産の大谷石(おおやいし)を20mm厚で貼っている。
《House I》
設計:篠崎弘之建築設計事務所
石としては軽くて軟らかく、加工のしやすさから、家の門塀など古くから多様に用いられてきた大谷石。建築材としての評価を高めたのは、フランク・ロイド・ライトが設計して1923年に建てられた旧帝国ホテルの壁や柱に取り入れられたこと。意匠の美しさだけでなく、竣工直後に発生した関東大震災でも倒壊しなかった。
この家を施工する際に気をつけたのは、大谷石の端が欠けないようにすること、石と石の間に目地を入れずにピッタリと貼った。それでも風化はやむをえないが、それが自然な姿であり、まちの景色として馴染んでいくと、地元出身の施主はポジティヴに捉えている。
内部も同じ大谷石である。期待していた以上に調湿性能があり、夏涼しく、冬は暖かいとのこと。
最後に紹介する家も、いつまでも新築のままとはいかない、住まいの変化を前向きに楽しんでいる。
内部も同じ大谷石である。期待していた以上に調湿性能があり、夏涼しく、冬は暖かいとのこと。
最後に紹介する家も、いつまでも新築のままとはいかない、住まいの変化を前向きに楽しんでいる。
繊維強化セメント板
緑に囲まれ、潮風香る土地に建てるマイホームの外装材として、施主一家が選んだのは、主に屋根材として広く用いられる繊維強化セメント板。壁・屋根ともにこの材で横に葺いた家は、遠くから眺めるとまるで1個のオブジェのようだ。
緑に囲まれ、潮風香る土地に建てるマイホームの外装材として、施主一家が選んだのは、主に屋根材として広く用いられる繊維強化セメント板。壁・屋根ともにこの材で横に葺いた家は、遠くから眺めるとまるで1個のオブジェのようだ。
《キナリの家》
設計:アトリエハコ
竣工から5年が経ち、畑に面した北側の壁は徐々に汚れ、一部に苔も生えているが、おおおらかな環境のなかで自然体で暮らしたい、という当初のイメージのまま、子どもたちと共に家も成長してきた証として受け止められている。
経年変化を愛でる、というのは、日本で育まれてきた感性かもしれない。
材料もデザインもさまざまだが、共通しているのはただひとつ、その家に暮らし続ける家族のために考え出されたデザインであるということ。
続くpart2では、魅力的な外壁をもった住まいを訪ねてみよう。
素材を通してニッポンの住まいを考える〜「外装材」part2
設計:アトリエハコ
竣工から5年が経ち、畑に面した北側の壁は徐々に汚れ、一部に苔も生えているが、おおおらかな環境のなかで自然体で暮らしたい、という当初のイメージのまま、子どもたちと共に家も成長してきた証として受け止められている。
経年変化を愛でる、というのは、日本で育まれてきた感性かもしれない。
材料もデザインもさまざまだが、共通しているのはただひとつ、その家に暮らし続ける家族のために考え出されたデザインであるということ。
続くpart2では、魅力的な外壁をもった住まいを訪ねてみよう。
素材を通してニッポンの住まいを考える〜「外装材」part2
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