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森瑤子エッセイに学ぶ暮らしのアイデア:「カンバセーション・ピース」を見つけよう
テーブルやインテリアで会話のきっかけになるアイテム「カンバセーション・ピース」。それにまつわる作家の母のエッセイを、インテリアのプロである筆者が思い出深いアイテムとともに紹介します。
ブラッキン・ヘザー
2018年2月23日
Houzz contributor.
Home Life Style インテリア、収納空間デザイン。
「贅沢な時間を過ごせる、あなたらしい心地よい住まいづくり」をモットーに、一人ひとりの個性や「好き」を引き出しながらのインテリアのコーディネーション、
より快適な暮らしのためのライフスタイルに合わせた収納計画のご提案をいたします。
著書「ふつうの住まいでかなえる外国スタイルの部屋づくり(文藝春秋)
Interior decoration and storage space planning in Tokyo, Japan. English/Japanese bilingual, with interior design and decoration experience in Europe and Japan.
Houzz contributor.
Home Life Style インテリア、収納空間デザイン。
「贅沢な時間を過ごせる、あなたらしい心地よい住まいづくり」をモットーに、一人ひとりの個性や「好き」を引き出しながらのインテリアのコーディネーション、
より快適な暮らしのためのライフスタイルに合わせた収納計画のご提案をいたします。
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我が家のダイニングで愛用している食器棚は、もとは19世紀〜20世紀初め頃のベルギー・アントワープで使われていた店舗用の商品ケースでした。当時住んでいた現地の家の屋根裏部屋で、埃をかぶって長年眠っていたものを私がレスキューし、自宅で使うようになりました。背面もガラスなので奥の壁が見え、我が家を訪れてそれに気づいた人は「裏もガラス張りなんて、変わった食器棚ね」と不思議そうに言われます。すると「そうなのよ。実は……」という具合に、食器棚の歴史や出会ったときの話が始まり、そこからベルギーでの暮らしや旅行の話へと、さまざまな話題につながります。
カンバセーション・ピースとは?
この棚は、我が家の「カンバセーション・ピース」。つまり、会話のきっかけとなるアイテムのことです。家具以外にもアート作品や不思議なオブジェ、食器や思い出のアイテムなど、人の目を惹きつけ、会話につながるものなら、何でもカンバセーションピースにできます。初対面の人と打ち解けるのに時間がかかる人、話題をパッと思いつくのが苦手な人にとっては、ある意味、救いのマジックツール。私も、そういったカンバセーション・ピースになるようなものを家にいくつも置くようになりました。
この棚は、我が家の「カンバセーション・ピース」。つまり、会話のきっかけとなるアイテムのことです。家具以外にもアート作品や不思議なオブジェ、食器や思い出のアイテムなど、人の目を惹きつけ、会話につながるものなら、何でもカンバセーションピースにできます。初対面の人と打ち解けるのに時間がかかる人、話題をパッと思いつくのが苦手な人にとっては、ある意味、救いのマジックツール。私も、そういったカンバセーション・ピースになるようなものを家にいくつも置くようになりました。
カンバセーション・ピースは、暮らしのシーンにその人らしい特徴や味わいを与え、部屋の中でフォーカルポイントにもなる存在です。インテリアやテーブルに、個性的でインパクトのあるものがひとつあれば、そこからきっと何らかの会話につながるはず。不思議なほど会話を生み出す力のあるアイテムです。
母が見つけたカンバセーション・ピース
子供の頃から、我が家にはカンバセーション・ピースがたくさんありました。父の手作り家具、母がコレクションしていた食器、友人の画家たちの絵。海外旅行や取材先で見つけ、建て替えした実家の一部となったタイルや古い建具。コーヒーテーブルの上に置いてあった美しい本。おもてなしの際に母がドレスアップして身につけたアンティークドレスなど、それぞれが会話のきっかけになっていたのを見てきて、自分でもカンバセーション・ピースとなるものを意識するようになりました。
そんなカンバセーション・ピースについての母のエッセイをご紹介しながら、私自身が大切にしているカンバセーション・ピースについてもお話ししたいと思います。
子供の頃から、我が家にはカンバセーション・ピースがたくさんありました。父の手作り家具、母がコレクションしていた食器、友人の画家たちの絵。海外旅行や取材先で見つけ、建て替えした実家の一部となったタイルや古い建具。コーヒーテーブルの上に置いてあった美しい本。おもてなしの際に母がドレスアップして身につけたアンティークドレスなど、それぞれが会話のきっかけになっていたのを見てきて、自分でもカンバセーション・ピースとなるものを意識するようになりました。
そんなカンバセーション・ピースについての母のエッセイをご紹介しながら、私自身が大切にしているカンバセーション・ピースについてもお話ししたいと思います。
「先日我が家にお友達をよんで、手巻き寿司のパーティーをした。
私の住んでいる下北沢には、安くて新鮮な八百屋さんや魚屋さんがあるので、手巻き寿司は、お客さまでなくともよく我が家のメニューに顔を出すレパートリーである。
第一、材料をお皿に移して盛りつけるだけで、あとはお客さまたちが各々勝手に、クルクルと手巻きにしてくれるので、忙しい時にはうってつけ。
「おいしいわねぇ」と口々に誉めてもらい、大いに満足してくれるので、何だかいつも少し後ろめたいような気がするのだ。
でも新鮮な海の幸が並ぶのであるから、不味かろうはずもない。材料さえよければ、あとは、盛りつける大皿や取り皿や小皿、お箸のたぐいに、ちょっと凝ったり工夫をこらせばいいのだ。
私の住んでいる下北沢には、安くて新鮮な八百屋さんや魚屋さんがあるので、手巻き寿司は、お客さまでなくともよく我が家のメニューに顔を出すレパートリーである。
第一、材料をお皿に移して盛りつけるだけで、あとはお客さまたちが各々勝手に、クルクルと手巻きにしてくれるので、忙しい時にはうってつけ。
「おいしいわねぇ」と口々に誉めてもらい、大いに満足してくれるので、何だかいつも少し後ろめたいような気がするのだ。
でも新鮮な海の幸が並ぶのであるから、不味かろうはずもない。材料さえよければ、あとは、盛りつける大皿や取り皿や小皿、お箸のたぐいに、ちょっと凝ったり工夫をこらせばいいのだ。
私は、今ほど多忙でない頃、骨董市を歩くのが好きだったものだから、その頃一枚二枚と買いためていった古い大皿や、京都に行ったついでに、いろいろ集めた猪口や、タイ旅行の際買って帰った醤油入れに使えそうな器などを、そういう時に使う。
「あらこれ、おもしろい」と誰かが言う。
「タイで買ったのよ」
「本当に何に使うんだろうねぇ?」
「聖水を注ぐんじゃないかと思うんだけど」
と私は答える。でも、私はそれをお醤油入れに使っている。器のひとつひとつから会話が生まれる。そういう器や小物のことを「カンバセーション・ピース」と英語では言う。
「あらこれ、おもしろい」と誰かが言う。
「タイで買ったのよ」
「本当に何に使うんだろうねぇ?」
「聖水を注ぐんじゃないかと思うんだけど」
と私は答える。でも、私はそれをお醤油入れに使っている。器のひとつひとつから会話が生まれる。そういう器や小物のことを「カンバセーション・ピース」と英語では言う。
何か見て、そのことについてふと何か言ったり、質問したり、感想を言ってみたくなるような小物。
それは器類でもいいし、玄関の小さな敷物でもいいし、飾り棚の上の人形の類でもいいのだ。そのことをきっかけに話題がはずみ、会話が盛り上がるようなもの。
初めてのお客さまというのは、呼ぶ方も呼ばれる方も緊張する。何かを言わなくてはならないのだが、あまり根ほり葉ほり質問するのは警察の戸籍調べみたいで嫌だ。そんな時、「まぁ、このお箸の華奢で美しいこと」と相手が言ったりする。
それは器類でもいいし、玄関の小さな敷物でもいいし、飾り棚の上の人形の類でもいいのだ。そのことをきっかけに話題がはずみ、会話が盛り上がるようなもの。
初めてのお客さまというのは、呼ぶ方も呼ばれる方も緊張する。何かを言わなくてはならないのだが、あまり根ほり葉ほり質問するのは警察の戸籍調べみたいで嫌だ。そんな時、「まぁ、このお箸の華奢で美しいこと」と相手が言ったりする。
「どこでお求めになりましたの?」
「京都で」と私は答える。「実は京都のおばんざい屋で夕食をいただいた時、そこで使っていたのがこのお箸でしたのよ。早速どこで売っているか訊いて翌日駆け込んで買いました」
そんなことから京都のおばんざい屋さんの名を訊かれ、場所を訊かれ、常宿などの話をする。するとそこにいた別の人が案外京都の出身だったりして、今度は逆に京都情報を私が吸収する。そんなふうにして、お箸のことから話題がどんどん広がって尽きない。
そういう小物をカンバセーション・ピースというのである。」
森瑤子『恋の放浪者(バガボンド)』(角川文庫)より
「京都で」と私は答える。「実は京都のおばんざい屋で夕食をいただいた時、そこで使っていたのがこのお箸でしたのよ。早速どこで売っているか訊いて翌日駆け込んで買いました」
そんなことから京都のおばんざい屋さんの名を訊かれ、場所を訊かれ、常宿などの話をする。するとそこにいた別の人が案外京都の出身だったりして、今度は逆に京都情報を私が吸収する。そんなふうにして、お箸のことから話題がどんどん広がって尽きない。
そういう小物をカンバセーション・ピースというのである。」
森瑤子『恋の放浪者(バガボンド)』(角川文庫)より
写真は母から受け継いだ、母の友人の画家、橋本シャーン氏による絵皿です。大胆な絵付けが印象的なこのお皿がテーブルに並ぶと、必ずみなさんの話題になります。そこから、自宅に飾ってある橋本シャーン氏の絵を見せ、知らない人には「日本橋高島屋のショッピングバッグのイラストを手がけた人よ」と言えば「あ! あの紙袋知っている!」と、ほとんどの人は感激して、楽しい会話に。旅先で見つけた器、お気に入りの作家のお皿なども、きっとこのように楽しく話がはずむことでしょう。
コレクションや物語のあるアイテム
食器に限らず、コレクションなども立派なカンバセーション・ピースになります。我が家でいえば、あらゆる場所に置かれた象の置物。20代の頃にある人から旅のお土産にいただいたスリランカの木彫りの象をきっかけに、象の置物や象モチーフの小物を集めるようになりました。気づいた人は「象が好きなんですね」と尋ねてくれます。そこからコレクションのきっかけとなった象の話や、この象は京都で買ったの、この象はなんと300円ショップよ、などと象の紹介が始まったりします。私からも相手に、何か集めているものがあるかと尋ねたりもして、コレクションをきっかけに楽しい会話に続いていきます。
食器に限らず、コレクションなども立派なカンバセーション・ピースになります。我が家でいえば、あらゆる場所に置かれた象の置物。20代の頃にある人から旅のお土産にいただいたスリランカの木彫りの象をきっかけに、象の置物や象モチーフの小物を集めるようになりました。気づいた人は「象が好きなんですね」と尋ねてくれます。そこからコレクションのきっかけとなった象の話や、この象は京都で買ったの、この象はなんと300円ショップよ、などと象の紹介が始まったりします。私からも相手に、何か集めているものがあるかと尋ねたりもして、コレクションをきっかけに楽しい会話に続いていきます。
コーヒーテーブルにはついつい手に取りたくなるような美しい本を置いておきます。インテリアやアート本、きれいな写真集を訪れた人と一緒に眺めながら、感想を述べたり夢を語り合ったりと、さまざまな話題が生まれます。
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この古いメタルのかごは、妹が以前住んでいたイタリアの古い農家の納屋の床に落ちていたもの。アンティークに見えますが、実はゴミとして捨てられてしまう寸前でした。そんな話をすると、結構驚かれます。いったい何に使われていたんだろうという話から、イタリアの話題にもつながる、私にとっては旅の思い出も込められたカンバセーション・ピースです。
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面白い使い方や手作りのもの
「こんな使い方もあるんだ」とよく関心を示されるこのキャンドルホルダーは、海辺で拾ったシーグラスをガラス器に入れただけ。みなさんの想像がふくらむようで、シーグラスで他に何かできるか、といった話題につながったことも。お金をかけないユニークで面白い使い方が、案外カンバセーション・ピースになることが多いです。
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アイデアにあふれた手作りアイテムも、その作り方や作ったきっかけが話題になりそうですね。写真はRie Yoshiharaさんの記事「簡単DIY:使っていないプレートとグラスで、ガラスコンポートを作ろう」で紹介された器ですが、たとえばこれをテーブルに出して「素敵なガラス器ね」と言われたときに「実は、ガラスのお皿やコンポートを組み合わせて自分で作ったの」と答えたら……。その瞬間に相手はきっと感激し、会話はもちろん、場の雰囲気も盛り上がるに違いありません。
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「高価である必要もなければ、こりにこったものである必要もない。工夫とか発想に面白味があれば、普段家庭で使っているような普通のものが、カンバセーション・ピースになり得る。
例えば私の知っている外国人の婦人は、汁椀にサラダを盛って出す。黒漆の椀に一人分のグリーンサラダがとってもきれいで、あれっと思ったものだ。
あるいはデザートのアイスクリームが出てきたりする。みそ汁にしか使わないような漆の器にアイスクリームが入ってくると、私たちはびっくりする。そこから会話が始まるというわけだ。」
同『恋の放浪者(バガボンド)』より
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同『恋の放浪者(バガボンド)』より
みなさんもぜひ、カンバセーション・ピースとなるものを意識して見つけてみましょう。趣味で何か作ってもいいですし、個性やオリジナリティのある家具、ストーリーのある写真や絵、家族代々伝わったものや両親から譲り受けた思い出の品など、きっと話題を呼ぶものがたくさんあるはずです。
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