断熱効果を体感できる動くタイニーハウス

「快適な住まいとは何か」を教えてくれる、普通免許で牽引可能なモバイル型タイニーハウスをご紹介します。

渡辺安紀｜Aki Watanabe 2018年10月5日

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多くの人に断熱の効果を体感してほしい、という思いから生まれた「断熱タイニーハウスプロジェクト」。2017年の夏に始まったこのプロジェクトは、ついに移動型が完成し、全国に断熱の体感を運ぶ準備が整った。DIYで最初の断熱小屋を建ててから約1年、断熱タイニーハウスプロジェクトのその後を取材した。

これまでの活動はこちら
建築学生たちがDIYで小屋作りに挑戦！断熱タイニーハウスプロジェクト

どんな断熱タイニーハウス？
タイプ：普通免許で移動可能なモバイルタイプ
規模：3.3平方メートル
積載荷重：550kg
施工期間：6日間
施工人数：平均7人×5時間／日
構法：軸組構法
車検：2年に1回
プロジェクトオーガナイザー：森本天希さん（千葉大学）、〈リノベる。〉沼田汐里さん、〈ハンディハウスプロジェクト〉中田理恵さん

なぜモバイルタイプ？
前回はホームセンターで使える材でつくれることを条件に設計されたが、今回はシャーシ（車台）に載せて普通免許を持っている人なら誰でも牽引できることを最大の条件とした。モバイルタイプは移動のたびに解体と組み立てをする必要がなくなるので、より気軽に各地のイベントに参加して断熱体験を届けられるようになる。

最大の壁は総重量
普通免許で牽引できる最大重量750kg以下に抑える必要があったため、柱材は60角で比重の軽い杉材を使用。〈榎戸材木店〉から国産の杉材を提供してもらった。前回は柱材90角（一般的な家は105〜120角）を使ったが、屋根をかけるのに人数が必要だった経験から、60角に。より手軽に作業がしやすくなった一方で、制限内の重さのなかで強度も確保するために慎重に材を検討した。さらに、魅力的な小屋にするために仕上げ材を選べる余地を残した重量を確保。その結果、広さは1坪（3.3平方メートル）になった。

内装材としてそのまま使える断熱材があれば重量にもっと余白ができて仕上げに凝ることもできるはずとプロジェクトオーガナイザーの森本天希さん（千葉大学）、〈リノベる。〉沼田汐里さん、〈ハンディハウスプロジェクト〉中田理恵さんは口を揃える。

制作のようすをまとめたアイデアブックはこちら

中田さんは、「多くの人に体感してもらうためにも、みんなが作りたい、あれはなんだろう？と思うデザインにすることも重要でした」と話す。今回は片流れ屋根、下見張りのデザイン。前回同様、設計を担当した森本さんは、「モバイルタイプは大人2人で簡単に向きを変えられるので、シンメトリーにする必要も、前回のモジュールタイプのように窓の位置を変えるために組み立て直す必要もありません」と話す。

「梁の勾配や車輪の形にあわせて材をカットするのに苦労しましたが、見た目もとても大事だと改めて実感しています」と笑う森本さん。でき上がったタイニーハウスを牽引しているとき、すれ違う車のなかから携帯のカメラでタイニーハウスの写真を撮影する人がたくさんいたという。移動している間も周囲の興味を惹きつけるという点でモバイルタイプは優れている。

外装の仕上げは浸透性塗料をセレクト。杉の素地の美しさを残せる。屋根はガルバリウム鋼板。

もちろん今回も断熱材でぐるっと全体を包んでいる。外側から、外装の板材の下は、透湿防水シート、構造用合板9ミリ、〈旭化成建材〉の《ネオマフォーム》60mm、ラワン合板5.5mmに下塗り塗料の《シーラー》を塗り、《ポーターズペイント》で塗装という構成だ。

高円寺アパートメントにて建具を制作

窓は気密性を高めるため、パッキンを使ったペアガラスを造作。

写真、白い壁の下部、《ネオマフォーム》が見えている部分はシャーシと小屋をボルトで締めている部分。簡単に巾木をはずせるようにして締め直しをする。

このタイニーハウスモバイルバージョンは車検を通している。その際に運輸局の指導のもと、ほかの車から見えやすい位置に反射板の位置を調整している。

シャーシはツリーハウス・タイニーハウスビルダーの〈TREE HEADS & Co.〉の竹内友一さんに特注で依頼した。オンラインでも売っているが、実際にどんなものを載せ、どう使うかなど建物に合わせて車輪の位置や部品をカスタムしてくれる。

左から〈断熱タイニーハウスプロジェクト〉の沼田汐里さん、森本天希さん、中田理恵さん

「実際にタイニーハウスを牽引しながらの運転にも慣れている方なので移動するときの注意点なども細かくアドバイスしてくれます。信頼できる専門家に依頼しましょう」と中田さん。

モバイルタイニーハウス完成後、沼田さんは〈まめくらし〉の宮田サラさんに連絡をとった。

宮田さんは、地域に開かれた集合住宅として、さまざまなイベントを開催している《高円寺アパートメント》の女将だ。住民同士の交流を活性化させる活動を企画・運営している。モバイルタイニーハウスはここで開催されたマルシェで活躍。2つある芝生広場の1つのアイコンとなった。子どもは中に入って遊んだり、大人はボードゲームをしたり……当日集った人たちが思い思いに楽しんでいたそう。

住人の方々と一緒に、おすすめの本を並べたりするシェアボックスを制作するワークショップも開催。完成したボックスにシェアしたい物を並べ、住人同士で貸し借りをするというコミュニケーションが生まれた。

お笑いライブを開催したのは多くの芸人が住む高円寺エリアならでは。宮田さんは、断熱タイニーハウスを設置する効果について、「交流のきっかけづくりとして活用できました」と話す。

次回のイベントまでに床を張り、巾木を取り付けようと計画を練る3人。長期の休みには子どもたちに断熱体験をしてもらうイベントの構想も。

「断熱タイニーハウスプロジェクト」は東京建築士会主催の第4回「これからの建築士賞」を受賞

可動産として、また新たなライフスタイルとしても魅力的なタイニーハウス。若者を中心に日本でもムーブメントになりつつある動きについて、地域や関係機関と合法的に協議を重ねることが重要だと3人は話す。

関係機関への登録・申請はもちろん、保管する間、移動する間の安全性の確保、イベントを開催するときは主催者だけでなく、その近隣住民への説明も大切だ。「関係者に説明をして、何の対策が必要なのかをお互いに確認することはとても重要です。その過程で密なコミュニケーションが生まれ、こんな使い方もできるね、こんな人がいるよ、といった新しいアイデアや縁が生まれてくるのです」と中田さん。

9月22日よりArtsChiyoda3331（東京・外神田）で開催されている「東京ビエンナーレ2020構想展」に、断熱タイニーハウスも出展中だ。10月14日まで開催されているので実物を見てみたい人は期間中に訪れてみよう。

「断熱タイニーハウスプロジェクト」の活動の詳細はこちら

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