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成功する設計のヒント:「縁側」を活用して家を大きく使う
屋内と屋外の境界をファジーにする「縁側」。日本家屋の伝統の中で生まれた「中間領域」は、欧米式の住宅や現代の住宅にも通用するもの。アメリカ人建築家から見た縁側の多用途性と魅力とは。
Eric Reinholdt
2015年6月25日
住宅には、屋内と屋外をつなぐための中間領域が家にとって不可欠だ。そうしたスペースは世界中にあり、ロッジア、ベランダ、ラナイ、ポルティコなどいろんな名前で呼ばれているが、日本建築にも縁側と呼ばれる空間がある。
日本家屋の縁側とは、広い廊下のような屋根付きの中間領域で、部屋と庭との間に位置し、部屋の床を外側に拡張したような形になっている。完全に内でも完全に外でもない、従来の表現では説明しにくい場所である。日本文化の中では重要な役割があり、ちょっとみんなが集まる場所、座る場所、近所の人とお茶を飲みながら話す場所などとして利用される。他の国の建築にも似たようなものはあるものの、やはり日本独特の存在だ。とはいえ、場所がどこであれ、プロジェクトに応用することを考えてみて損はない。その理由をここで紹介しよう。
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どんな狭いスペースも無駄にせず利用する日本文化の中で、家に占めるかなりの面積を何の役にも立っていないように見える空間に使うのはなぜだろう? その理由は、実はそこには多くの機能があるから。部屋と部屋をつなぐ広い廊下、日よけ、雨風対策、庭を眺めながら休む場所、親しい来客をもてなす場所、庭と室内との移動空間、屋内空間の延長と、さまざまな役割を果たしているのだ。
自然との強いつながり
縁側の多用途性がよく現れているのがこちら、熱心なバードウォッチング愛好家のカップルのために作られたシンプルな形のキャビンだ。妻側から見ると、中央部分の両側に隙間スペースがあるのがわかる。これが縁側だ。廊下であり、しかも屋内にも屋外にもなるスクリーンドポーチ(網戸で囲ったポーチ)にもなっている。縁側があることで、キャビンから周囲の自然を眺めるときに、風景をフレームで切り取ったような効果も生まれる。
縁側の多用途性がよく現れているのがこちら、熱心なバードウォッチング愛好家のカップルのために作られたシンプルな形のキャビンだ。妻側から見ると、中央部分の両側に隙間スペースがあるのがわかる。これが縁側だ。廊下であり、しかも屋内にも屋外にもなるスクリーンドポーチ(網戸で囲ったポーチ)にもなっている。縁側があることで、キャビンから周囲の自然を眺めるときに、風景をフレームで切り取ったような効果も生まれる。
こちらが内部。スクリーンドポーチと廊下が左側に見える。引き戸を閉めると居住空間とは完全に別個の空間となる。このデザインのおかげで、住人たちは周囲の環境とのつながりを強く感じられるに違いない。鳥の声や雨風の音を遮らないポーチのおかげで、快適な家の中にいながら自然と密に触れ合うことができる。
何よりも自然を敬い大切にするのが日本建築である。狭いスペースという制限のなかで発達した日本建築では、小さな空間を大きく見せる方法が数多く編み出された。そういった工夫により、実際のスペース以上に広く感じさせることが可能なのだ。こちらのカーテンウォールの家は、小さい家でも縁側に大きなスペースを割いている良い例だ。このポーチによって、街とのつながりを作り出している。
日々や季節の気候が移り変わる中、自然のリズムに合わせて建物のシェル(外殻)のあり方を変化させることができれば、生活における自然環境の大切さをあらためて意識するようになる。
縁側を巨大なカーテンで閉じた状態。天候に合わせて、カーテンとドアで開け閉めを調整できる。
縁側を巨大なカーテンで閉じた状態。天候に合わせて、カーテンとドアで開け閉めを調整できる。
柔軟に使える空間
自然と共存する場所を作るには、その時々の環境に合わせて調整できる機能を建物自体が備えていることが不可欠。縁側は、そのような気候の変化に対応するための素晴らしい方法だ。暑ければ雨戸をあけるし、風が強ければ閉める。建物を重ね着させるようなものだ。
自然と共存する場所を作るには、その時々の環境に合わせて調整できる機能を建物自体が備えていることが不可欠。縁側は、そのような気候の変化に対応するための素晴らしい方法だ。暑ければ雨戸をあけるし、風が強ければ閉める。建物を重ね着させるようなものだ。
こちらのプロジェクトでは、左右に見える引き戸式の網戸を用いた縁側のコンセプトと、中央に見える濡れ縁と呼ばれるオープンなベランダとを組み合わせている。
メインのリビングエリアを挟む両翼部分の網戸は、開くとベッドルームが中庭に向かって完全にオープンになる。伝統的なアイデアの斬新な現代的解釈だが、やはり効果的であることは変わらない。
縁側があることで、家の空間と庭とが一体化する。縁側の床は、もてなしの場、屋外廊下、入口、デッキ、腰を下ろす場所になる。屋根は日よけと同時に風景を切り取るフレームの役割も果たす。
縁側があることで、家の空間と庭とが一体化する。縁側の床は、もてなしの場、屋外廊下、入口、デッキ、腰を下ろす場所になる。屋根は日よけと同時に風景を切り取るフレームの役割も果たす。
このプロジェクトでは、構造自体に縁側が目に見える形で組み込まれていて、まるで玉ねぎのように層をなしている。外側の層となるのは、スクリーンと中の居住空間とに挟まれた廊下部分。都市の家の場合、中間領域があることで周囲との一体感をを強めたり弱めたりと、必要に応じてプライバシーを調節できる。
こちらの外壁は非常に薄く、縦の構造にパイプが装着された状態のものだ。この階の奥はオーナーの犬専用のスペースで、メインの居住空間は上階のスライド式パネルで囲まれた部分。都市においても、周囲の環境とのつながりは大事なのだ。
集まる
縁側の社会的役割についての著述は多い。米国南部におけるポーチにも似て、縁側は友人や近所の知り合いと会ってあいさつを交わす場所であり、プライベート空間のうちで最も公な「顔」とも言える場所である。縁側と部屋の床は同じ高さなので、座る場所としてもちょうどいい。
縁側の社会的役割についての著述は多い。米国南部におけるポーチにも似て、縁側は友人や近所の知り合いと会ってあいさつを交わす場所であり、プライベート空間のうちで最も公な「顔」とも言える場所である。縁側と部屋の床は同じ高さなので、座る場所としてもちょうどいい。
天候対策
上方に張り出している部分があることと、内側のスライディングパネルを自由に移動できることで、縁側はさまざまな天候に対応できる。張り出し部分で雨をよけつつ、室内を開け放すことも可能だ。さらに縁側は原始的なエアコンのような働きをするため暑い気候にとても適している。外壁面に影を作って温度を下げることで自然と空気の対流が生まれ、暖かい空気を外に出して室内の気温が下がるのだ。
上方に張り出している部分があることと、内側のスライディングパネルを自由に移動できることで、縁側はさまざまな天候に対応できる。張り出し部分で雨をよけつつ、室内を開け放すことも可能だ。さらに縁側は原始的なエアコンのような働きをするため暑い気候にとても適している。外壁面に影を作って温度を下げることで自然と空気の対流が生まれ、暖かい空気を外に出して室内の気温が下がるのだ。
張り出し部分がそれほど大きくなくても、天候をしのぐことはできる。この例のように、1メートル足らずでこと足りる場合もある。
縁側の外側部分は気候に応じて開閉が調節できる。こちらでは、外側に日本のすだれに似た竹製のスクリーンが取り付けられており、庭に向かって室内を完全にオープンにすることも、閉め切って雨風を防ぐこともできる。
縁側の取り入れ方
縁側を効果的に取り入れるには、いくつか基本的なルールがある。
中間領域をつくる
縁側とは、屋内と屋外の間に中間領域を生み出すこと。例えば、長方形の外側に一回り大きな長方形がある状態を想像してほしい。ふたつの長方形の間のスペースが、中間領域である縁側だ。庭と室内との間にある長い廊下と考えてもいい。
縁側を効果的に取り入れるには、いくつか基本的なルールがある。
中間領域をつくる
縁側とは、屋内と屋外の間に中間領域を生み出すこと。例えば、長方形の外側に一回り大きな長方形がある状態を想像してほしい。ふたつの長方形の間のスペースが、中間領域である縁側だ。庭と室内との間にある長い廊下と考えてもいい。
可動式パネルを取り入れる
本来の縁側では、スクリーン(すだれや雨戸)が屋外側で、スライド式のドア(障子やふすま)が屋内側で使われる。これらのパネルによって、縁側は室内を覆う巨大なインシュレーションとして機能し、その時々の天気によってそれぞれを開け閉めする。気候が穏やかな時には外側のパネルを閉めたまま内側のパネルを開け放して室内を広くする。寒いときには全て閉め、暑いときには全て開放する。
本来の縁側では、スクリーン(すだれや雨戸)が屋外側で、スライド式のドア(障子やふすま)が屋内側で使われる。これらのパネルによって、縁側は室内を覆う巨大なインシュレーションとして機能し、その時々の天気によってそれぞれを開け閉めする。気候が穏やかな時には外側のパネルを閉めたまま内側のパネルを開け放して室内を広くする。寒いときには全て閉め、暑いときには全て開放する。
床面は連続させる
縁側の高さは室内の床と同じにし、段差を作らない。ドアやパネルを開いたときに、室内と外が同じ高さになり、ひと続きのスペースに感じられることが重要だ。
縁側の高さは室内の床と同じにし、段差を作らない。ドアやパネルを開いたときに、室内と外が同じ高さになり、ひと続きのスペースに感じられることが重要だ。
縁側と屋根の張り出しを揃える
屋根は縁側部分を保護するため、縁側の外側まで覆っている必要がある。屋根は、雨や日をよけつつも、目障りにはならず、家から外を眺めるためのフレームとなるべきだ。床(縁側)と屋根の線を揃えることで、屋外の部屋、つまり中間領域の空間が明確化される。
屋根は縁側部分を保護するため、縁側の外側まで覆っている必要がある。屋根は、雨や日をよけつつも、目障りにはならず、家から外を眺めるためのフレームとなるべきだ。床(縁側)と屋根の線を揃えることで、屋外の部屋、つまり中間領域の空間が明確化される。
これらが基本的な原則だ。縁側のコンセプトはかなり幅広い場所に応用でき、特に狭い空間には便利だ。基本的には、内と外の間に広々とした多目的な中間領域をつくることができれば縁側の出来上がり。こちらの例では、縁側スペースのおかげで、ガラス窓を越えて森の木々まで室内が広がる。
視覚的なトリックのおかげで小さなスペースもずっと広くみえる。さらに、多用途に使える空間は、機能的なだけでなく本質的にサステナブルである。
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