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健やかなエネルギーを暮らしにもたらす、「日々の花」
暮らしの中に花を取り入れることの大切さは、インテリアの装飾としてではなく、花の持つ健やかなエネルギーで、その場の空気を変えることにある。そのことに気づくと、花のいけ方が変わるかもしれません。
Mikako Ichimura
2016年2月26日
フラワーデザイナー、「緑の居場所デザイン」主宰。大きな緑の居場所から、花一輪の小さな緑の居場所まで、生花にまつわる様々な提案をしています。
毎日食べる料理が、フレンチや懐石料理だと何となく疲れてしまって、時にはお母さんの作ったごはんや、なんでもない日々のおかずを食べたくなりますよね。飾る花もそれと同じで、華やかなハレの日のアレンジメントだけではなく、ふっとなごめる日々の暮らしの中で親しむさりげない花を、もっと大切にしたいと思うのです。
私は長く、フラワーデコレーションの仕事をしてきました。イベント用の装花や、ファッションブランドのショップディスプレイ、雑誌や書籍、広告のページをつくるための撮影、フラワー教室の生徒さんにお花の選び方やアレンジの方法をレッスンすることを通じ、季節ごとに新しい花に出会い、それを多くの方々に伝えるお手伝いをしています。
そんな経験を通して今は、花や植物のある場所を、ハレの日でも、普段の日でも変わらず、人々の暮らしにきちんと寄り添う形で提供したいと思うようになりました。大きくて華やかなフラワーデコレーションも素敵ですが、たとえ花一輪でも、ぴったりのシーンはある。新しいものや珍しいものばかりを追い求めるのではなく、人が健やかにまっとうに生きていくためのパワーを、緑や花の居場所を通じて提案していけたら、と願っています。
こんなお話を聞いたことがあります。その人は、いつも明るい笑顔を振りまいている友達が、最近少し元気がないなと思ったので、何の記念日でもなかったある日、ひまわりの花束をその友達に贈りました。ひまわりを選んだのは、その友達の笑顔が、ちょっとひまわりを思わせるところがあったからだそうです。
その友達は、差し出されたひまわりを見るなり、わっと泣き出したそうです。言葉で表現するのは難しいけれど、その時の気持ちにフィットする何かを、花がくれた気がして、とても癒された、とその人は後で語ってくれたのだとか。その時のその方の気持ちは、お菓子ではなくて、お花だったから慰められたのだろうな、と思いました。
その友達は、差し出されたひまわりを見るなり、わっと泣き出したそうです。言葉で表現するのは難しいけれど、その時の気持ちにフィットする何かを、花がくれた気がして、とても癒された、とその人は後で語ってくれたのだとか。その時のその方の気持ちは、お菓子ではなくて、お花だったから慰められたのだろうな、と思いました。
そう、切り花には、人を慰める力があります。不思議なことですが、根っこや土のついた花ではなくて切り花に、いけられた花に、そのパワーがいちばん強く宿っている気がします。
近くを通ると、ふと微笑みたくなるような、心を和ませてくれる、普段着ののびのびとした花。あえて言うと、こういう場合の花は「インテリア」ではないような気がします。さらに極論を言えば、形のつくり方やアレンジの出来不出来とも、あまり関係がありません。生きているものが持つ存在感が、その場の空気を変え、気持ちよく保ってくれている、そのことに気づくことの方が、ずっと大切だと思うのです。
新芽がぐんぐん伸び、どんどん成長していく春は、花や植物の表情も「やんちゃ」です。だからそれを生かして、やんちゃな感じにいけると楽しいです。たとえば、小さな器に不釣り合いなほど大きな花をいけたり、四方八方を向いた花の自由な形をそのままにしたり。夏は生い茂った葉や枝の勢いを生かしていけ、秋は咲き切った静けさや枯れた落ち着きを大切にいける。
決まりごとやルールのある生け花やフラワーアレンジメントの基本とは少し離れますが、そんなふうに季節ごとに違う表情や雰囲気を楽しんでみるのも、日々の花との親しみ方なのでは、と思います。
決まりごとやルールのある生け花やフラワーアレンジメントの基本とは少し離れますが、そんなふうに季節ごとに違う表情や雰囲気を楽しんでみるのも、日々の花との親しみ方なのでは、と思います。
花を花瓶に挿したときの気持ちよさ、花をいけている瞬間そのものを味わうことも、もっと意識してほしいことのひとつです。
私自身もあるとき、無農薬でバラを育てている山形県の方から届けられた、形も大きさもまちまちな愛らしいバラの花をいけているときに突然、涙が止まらなくなったことがあります。少しだけ疲れていたその時の私の気持ちが、花たちのまっすぐなパワーに、無意識のうちに反応したのかもしれません。
そんな、楽しくて心の奥深くに届く、花と親しむ暮らし。今回は少し、抽象的なお話になってしまいましたが、次回から、そんなふうに日々の花を楽しむためのコツを、さまざまな側面からご紹介していきたいと思います。
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