人が自然と集う、中心に暖炉のある家
薪のパチパチとはぜる音、部屋に広がる木の香り、そして揺らめく炎。暖炉のある暮らしの魅力と楽しみ方を、住宅のプロとお住まいの方へのミニインタビューを交えてご紹介します。
Miki Anzai
2015年12月6日
近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトは、暖炉を住居スペースの中心として非常に重視し、その生涯で1,000以上の暖炉を設計し、そのどれひとつとして同じものはなかったそうです。実際、暖炉は、家族が集まるリビングのいちばん目立つところに置かれることが多いからこそ、性能やデザイン、質感にまでこだわって選び抜きたいものです。暖炉の中で、時には勢いよく燃え、時には炭火のように揺らめく炎を眺めていると、ついつい時が経つのを忘れてしまいます。そんな心とカラダを癒してくれる暖炉を、日本でもご自宅や別荘に組み込むかたが増えてきました。今回は、国内の事例に絞って、暖炉のあるお宅をご紹介したいと思います。
住空間の要として
擬石を使用した大きな暖炉は、所沢市にある雑木林の中に建てられたダブテイルログハウスのダイニングの中心に置かれています。ダブテイルログハウスとは、角ログで造る丸太組み構法のひとつで、ログ同士が交差するノッチ部分に、ダブテイルジョイントと呼ばれる木工接合を施したアメリカ開拓時代を映し出したようなお宅です。ここで3匹の犬とハリネズミ、リスに囲まれて過ごすMさんに、暖炉は大きな安らぎをもたらしてくれています。
擬石を使用した大きな暖炉は、所沢市にある雑木林の中に建てられたダブテイルログハウスのダイニングの中心に置かれています。ダブテイルログハウスとは、角ログで造る丸太組み構法のひとつで、ログ同士が交差するノッチ部分に、ダブテイルジョイントと呼ばれる木工接合を施したアメリカ開拓時代を映し出したようなお宅です。ここで3匹の犬とハリネズミ、リスに囲まれて過ごすMさんに、暖炉は大きな安らぎをもたらしてくれています。
矢板建築設計研究所の矢板久明さんが設計された、ご実家の軽井沢の別荘です。暖炉を壁に埋め込み、装飾を施していないのは、室内の白い壁面と、天井・床などに使用した米松(ベイマツ)との絶妙な割合を壊したくなかったから。「薪をガンガン焚くと家じゅう暖かくなるけれど、すぐ6束くらい使ってしまうので大変」と笑いながら語る矢板さんですが、暖炉と煙突は、この別荘の要(かなめ)として、設計当初から強く意識されました。
約40度の急傾斜地に建つ山荘は、外から3階ロフト部分のテラス(写真の奥、三角形の窓ガラス底辺の外)に入れます。まず目に飛び込んでくるのが暖炉の煙突。そして家の中に入って階段を降りた瞬間、2階リビング正面に浅間山のパノラマ風景が飛び込んできます。階段を降りる途中でも振り返ると煙突が見え、さながらアプローチの目標のように聳えています。
暖炉がすっぽり収まっている白壁は、厚さ90cm。木造モルタルですが、防火構造となっており、この壁が、暖炉の右横扉の奥にある主寝室とリビングの仕切り役となっています。薪ストーブではなく、あえて暖炉を積極的に空間の核にして、外部と内部を創り出した傑作住宅です。
約40度の急傾斜地に建つ山荘は、外から3階ロフト部分のテラス(写真の奥、三角形の窓ガラス底辺の外)に入れます。まず目に飛び込んでくるのが暖炉の煙突。そして家の中に入って階段を降りた瞬間、2階リビング正面に浅間山のパノラマ風景が飛び込んできます。階段を降りる途中でも振り返ると煙突が見え、さながらアプローチの目標のように聳えています。
暖炉がすっぽり収まっている白壁は、厚さ90cm。木造モルタルですが、防火構造となっており、この壁が、暖炉の右横扉の奥にある主寝室とリビングの仕切り役となっています。薪ストーブではなく、あえて暖炉を積極的に空間の核にして、外部と内部を創り出した傑作住宅です。
マンションでも
インテリアデザイナーの澤山乃莉子さんが手がけられた都内のマンション。リビングに設置された暖炉は、改装による後付けのため、煙突や複雑な施工の必要ないバイオエタノールのポータブル式暖炉です。煙がたたないので、室内に黒い煤がついたり、ニオイが残ったりすることもありません。奥の大理石は実はラジエーターだそうで、その奥の壁面にはモザイクタイルを貼り込み、暖炉の周りをライムストーンでデザインしています。
「欧風の空間ではファイアープレイスは空間のアンカー(重心)でありフォーカルポイントです。空間の格も上がります。左右対称の空間にするために必要です」とおっしゃる澤山さん。築40年のマンションの一室が、暖炉を配したことで、重厚感あふれる素敵な空間に生まれ変わりました。
インテリアデザイナーの澤山乃莉子さんが手がけられた都内のマンション。リビングに設置された暖炉は、改装による後付けのため、煙突や複雑な施工の必要ないバイオエタノールのポータブル式暖炉です。煙がたたないので、室内に黒い煤がついたり、ニオイが残ったりすることもありません。奥の大理石は実はラジエーターだそうで、その奥の壁面にはモザイクタイルを貼り込み、暖炉の周りをライムストーンでデザインしています。
「欧風の空間ではファイアープレイスは空間のアンカー(重心)でありフォーカルポイントです。空間の格も上がります。左右対称の空間にするために必要です」とおっしゃる澤山さん。築40年のマンションの一室が、暖炉を配したことで、重厚感あふれる素敵な空間に生まれ変わりました。
横浜市のマンションのリビングに導入したディンプレックス・ジャパンの電気式暖炉です。最初、バイオエタノール暖炉のecosmartを提案されたお施主さんは、「炎だけが見たい訳ではなく、ダミーでも薪が燃えている風情が欲しい」ということで、広尾のショールームに出かけ、現物を確認した上で、この暖炉に決めたのだそう。燃料補充も不要で、火を使わないのでお手入れも簡単です。
暖炉を手前にせり出すように配置し、さらにマントルピースに天然石を張ることで、存在感を強調しています。また、コーナー部分に、石の小口が正面・側面で互い違いになるように組んで、ナチュラルな立体感を演出しています。リビングとダイニングの中央にレイアウトしたことで、暖炉にシンボリックな イメージを与えると同時に、リビングとダイニングをゾーニングする役割も果たしています。
暖炉を手前にせり出すように配置し、さらにマントルピースに天然石を張ることで、存在感を強調しています。また、コーナー部分に、石の小口が正面・側面で互い違いになるように組んで、ナチュラルな立体感を演出しています。リビングとダイニングの中央にレイアウトしたことで、暖炉にシンボリックな イメージを与えると同時に、リビングとダイニングをゾーニングする役割も果たしています。
煙突工事など特別な施工がいらないという点では、こちらのロイドグランデの暖炉も同じです。電気式なので、設置もとても簡単で、お部屋のコンセントにつなぐだけ。 木製マントルピースはすべて良質の天然木を使っているので、電気製品としての機能を持ちながら、高級家具としての風格も備えています。シャンデリア球の光を反射させて表現した炎は、揺らめきまでも再現していて、本物の炎のように精巧です。
宙に浮いた炉
軽井沢の別荘のリビング内に「黒いUFO出現か?」と思うような、個性的なシェイプの開放型暖炉は、フランスのフォーカス社(日本ではメトス/METOS扱い)が受注生産で造っている鋼製の暖炉です。燃焼室に扉を持たず、燃焼空気の調節ができないので、薪の燃えが早く、密閉型と比べると燃焼効率はやや落ちますが、ご覧のとおり、雰囲気は抜群です。
軽井沢の別荘のリビング内に「黒いUFO出現か?」と思うような、個性的なシェイプの開放型暖炉は、フランスのフォーカス社(日本ではメトス/METOS扱い)が受注生産で造っている鋼製の暖炉です。燃焼室に扉を持たず、燃焼空気の調節ができないので、薪の燃えが早く、密閉型と比べると燃焼効率はやや落ちますが、ご覧のとおり、雰囲気は抜群です。
二面開口コーナー型
杉坂建築事務所の設計による個人邸の2階のL字型リビング兼ダイニングの中央部分に設置されたレンガ造りの暖炉です。珍しい「二面開口コーナー型」の暖炉なので、正面からだけでなく、横からも炎を楽しめます。「家の中で一番好きな場所」と断言するK夫妻。冬には暖炉に薪をくべて、その脇でゆっくりとお酒を飲んだり、読書をしたり。小さい子どもたちが訪れると競って火おこしに興じるそうです。そういう時に、夫妻がパリで購入した吹子(ふいご)が大活躍。単なるアクセサリーではなく、火をおこすための良い風を送ってくれます。
杉坂建築事務所の設計による個人邸の2階のL字型リビング兼ダイニングの中央部分に設置されたレンガ造りの暖炉です。珍しい「二面開口コーナー型」の暖炉なので、正面からだけでなく、横からも炎を楽しめます。「家の中で一番好きな場所」と断言するK夫妻。冬には暖炉に薪をくべて、その脇でゆっくりとお酒を飲んだり、読書をしたり。小さい子どもたちが訪れると競って火おこしに興じるそうです。そういう時に、夫妻がパリで購入した吹子(ふいご)が大活躍。単なるアクセサリーではなく、火をおこすための良い風を送ってくれます。
景色と炎のご馳走
軽井沢の雄大な景色と暖炉が一体化するように、リビングのコーナーに大きな吹き抜けの開口部を用意し、背の高い木々の中に包まれるような感覚になるように製作された暖炉です。「景色と炎がご馳走」すなわち、景色と暖炉をめでることを最優先にしたいという、施主Tさんの希望を、アトリエ137一級建築士事務所の鈴木宏幸さんがみごとに実現されました。ソファに座ったときに、「景色+暖炉」に加え、TVも見えるようにデザインされています。暖炉も正面を向く造形でなく、コーナーをあけて、二方向から火を楽しめる(=重心が分散している)ので、ダイニングやキッチンにいても炎が楽しめます。
暖炉を選択されたのは、「火を楽しむこと」をコンセプトにしたお宅だから。「薪ストーブは、暖房器具としては性能が高いものの、ガラス面が小さいものが多いので、純粋に火を楽しむには暖炉にはかないません」(鈴木さん)。「火をつけるぞ~」と叫ぶと、お孫さんが飛んできて一緒にピザを焼いたりと、Tさんご一家は、暖炉生活を満喫されています。
軽井沢の雄大な景色と暖炉が一体化するように、リビングのコーナーに大きな吹き抜けの開口部を用意し、背の高い木々の中に包まれるような感覚になるように製作された暖炉です。「景色と炎がご馳走」すなわち、景色と暖炉をめでることを最優先にしたいという、施主Tさんの希望を、アトリエ137一級建築士事務所の鈴木宏幸さんがみごとに実現されました。ソファに座ったときに、「景色+暖炉」に加え、TVも見えるようにデザインされています。暖炉も正面を向く造形でなく、コーナーをあけて、二方向から火を楽しめる(=重心が分散している)ので、ダイニングやキッチンにいても炎が楽しめます。
暖炉を選択されたのは、「火を楽しむこと」をコンセプトにしたお宅だから。「薪ストーブは、暖房器具としては性能が高いものの、ガラス面が小さいものが多いので、純粋に火を楽しむには暖炉にはかないません」(鈴木さん)。「火をつけるぞ~」と叫ぶと、お孫さんが飛んできて一緒にピザを焼いたりと、Tさんご一家は、暖炉生活を満喫されています。
こちらは、6mの吹き抜けの開放的なリビングの真ん中に置かれた暖炉です。ゆったりとしたソファーに腰掛け、パティオの植栽と炎を眺めながら過ごす充実のひととき。朝は暖炉の薪の香りが2階の寝室まで届き、森の中にいるような感覚を味わえるそうです。
クリスマスの飾り付けをして
こちらの暖炉は、都内の個人邸の玄関脇にある、靴のままで入れる客間スペースに造られました。クリスマスの時期になるとオーナー夫妻は、毎年ひとつずつ増えるジョージ・ジェンセンのクリスマスオーナメントをマントルピースの上の壁に、さらに上の壁面にはロイヤルコペンハーゲンのイヤープレートを飾り、一年を振り返ります。暖炉の上の鹿の剥製は、シャム(現タイ王国)で、1902年に製作されたもの。薪は、軽井沢の別荘の近くに住む、薪割り上手の知人が分けてくれるそうです。針葉樹と比べて火持ちがよく、煙突に煤が溜まりにくい、ナラやカシなど広葉樹系を利用しています。火付けに使うのは、ネットで購入するRutland社の発火剤。ボッと火が付いた瞬間から火の持つ力に吸いこまれ、少しずつ立ちこめる木の香りや、薪のパチパチとはぜる音を楽しむうちに、せわしない日常を忘れてしまうそうです。
こちらの暖炉は、都内の個人邸の玄関脇にある、靴のままで入れる客間スペースに造られました。クリスマスの時期になるとオーナー夫妻は、毎年ひとつずつ増えるジョージ・ジェンセンのクリスマスオーナメントをマントルピースの上の壁に、さらに上の壁面にはロイヤルコペンハーゲンのイヤープレートを飾り、一年を振り返ります。暖炉の上の鹿の剥製は、シャム(現タイ王国)で、1902年に製作されたもの。薪は、軽井沢の別荘の近くに住む、薪割り上手の知人が分けてくれるそうです。針葉樹と比べて火持ちがよく、煙突に煤が溜まりにくい、ナラやカシなど広葉樹系を利用しています。火付けに使うのは、ネットで購入するRutland社の発火剤。ボッと火が付いた瞬間から火の持つ力に吸いこまれ、少しずつ立ちこめる木の香りや、薪のパチパチとはぜる音を楽しむうちに、せわしない日常を忘れてしまうそうです。
カーラ・リンド著『ファイア・プレイス:暖炉(フランク・ロイド・ライト スタイル 8)』(集文社)によると、ライトは、3軒の自邸に44の暖炉をつくったそうです。彼の70年のキャリアの中で、重厚な暖炉は常にデザイン上、建築上、精神上の中心的存在でした。事実、中心(focus)という言葉はラテン語でファイアプレイスを意味しています。
今回、「暖炉」のあるお宅にお住まいの方々にお話を伺ったところ、誰もが、目の前で揺らぐ炎を眺めているだけで幸せ、とおっしゃいます。きらめく暖炉の炎は、日頃の疲れた生活に、和みと深み、癒やしと潤いをもたらしてくれることでしょう。
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TartoTさま、ご質問ありがとうございます。近々、薪ストーブの特集記事を投稿する予定で、その中で、煙突の専門家の方にも取材しておりますので、是非ご覧いただければ幸いです。例えば、この記事の二番目の事例は、南軽井沢のご別荘ですが、一度に6束も使われるそうです。お部屋(家)のサイズや外気の温度、他の暖房機器との併用か否かなどにもよりますが、都内であれば、使用する薪は、もっともっと少なくてすみます。お手入れは普段は、使った翌日に灰(燃えかす)のお掃除をする程度で大丈夫です。
写真(3枚目)の写真を掲載いただき、ありがとうございました。こちらも同じくバイオエタノールを燃料とする暖炉です。よりホンモノ感が高いですね。実際かなりあったかいですよ。
これまで300以上の暖炉やストーブを制作して来ましたが、火入れ式の時に必ずと言っていいほど、しばらく沈黙が生まれます。薪の炎はそんな力を持っています。
昨日は12年前に制作しました暖炉に会って来ました。