コメント
三浦半島を望む屋上テラスとウッドデッキ付き、広い地下室で繋がる二世帯住宅
独立分離した親世帯と子世帯の2棟が、地下空間を共有することで、ほどよい「つかず離れずの距離感」を実現。横浜の高台に立つ、海の見える瀟洒な邸宅。
Miki Anzai
2017年4月25日
横浜の小高い丘の上に、ひときわ目を惹く「ツイン棟」形式の二世帯住宅が佇んでいる。表の道路から一軒家のように見えるのは、敷地が「くの字」に曲がっており、土地の段差が2メートルもあるからだ。道路に面した棟に親世帯、その奥(南東側)の棟に息子世帯が暮らしている。
もともとオーナー夫妻は、この場所に30年以上暮らしてきた。家に隣接する裏の広大な駐車場用地が売りに出された際、その内の約30坪分を購入。しばらくそのままにしていたが、長男家族が鎌倉に居を構えたのを機に、次男家族と一緒に住むことにした。当初は設計を大手住宅メーカーに任せるつもりだったが、建坪率が40%、容積率が80%の第一種低層住居専用地域のため、じゅうぶんな住空間が確保できず、工事費も予算の1.5倍になってしまうことがわかり、途方に暮れていたという。
「床面積を広げる手段は、地下室しかない」との結論にいたったオーナー夫妻は、今まで100室以上の地下室を手がけてきた〈ヴァンクラフト空間環境設計〉の小杉卓氏のオフィスを訪ねた。実際に作品をいくつか見て納得した後、設計を依頼。「医者にならなければ建築家になりたかった」という歯科医師のオーナーと、研究熱心な夫人の要望を、小杉氏はあまねく取り入れ、予算内でこの家を完成させた。
もともとオーナー夫妻は、この場所に30年以上暮らしてきた。家に隣接する裏の広大な駐車場用地が売りに出された際、その内の約30坪分を購入。しばらくそのままにしていたが、長男家族が鎌倉に居を構えたのを機に、次男家族と一緒に住むことにした。当初は設計を大手住宅メーカーに任せるつもりだったが、建坪率が40%、容積率が80%の第一種低層住居専用地域のため、じゅうぶんな住空間が確保できず、工事費も予算の1.5倍になってしまうことがわかり、途方に暮れていたという。
「床面積を広げる手段は、地下室しかない」との結論にいたったオーナー夫妻は、今まで100室以上の地下室を手がけてきた〈ヴァンクラフト空間環境設計〉の小杉卓氏のオフィスを訪ねた。実際に作品をいくつか見て納得した後、設計を依頼。「医者にならなければ建築家になりたかった」という歯科医師のオーナーと、研究熱心な夫人の要望を、小杉氏はあまねく取り入れ、予算内でこの家を完成させた。
取材時、最初に案内されたのが屋上テラスだ。そこからは、まさに荒井由実の名曲『海を見ていた午後』のごとく、「遠く三浦岬」が浮かんで見えた。そのとき、まさかこの2棟とウッドデッキの下が、すべて地下室とは知るよしもなかった。
どんなHouzz?
「くの字」の敷地形状と2メートルを超す段状地を、無駄なく有効に利用し、大型地下室を基礎としてその上に2棟をのせた、耐震性にも優れた二世帯住宅。
家族構成:70歳代の施主夫妻、愛猫CoCo(親世帯)、次男夫妻、孫2人(子世帯)
所在地:神奈川県横浜市
設計:〈ヴァンクラフト空間環境設計〉小杉卓(統括)、松本貴記(意匠担当)、福嶋都美子、尾﨑舞(キッチン・住設・収納・照明等)
構造:田中哲也建築構造計画 田中哲也
床面積:193.49平方メートル(親世帯)、114.69平方メートル(子世帯)、66.22平方メートル(共有駐車場)
延床面積:377.40平方メートル(小屋裏面積含まず)
敷地面積:272.08平方メートル(内、地下空間面積:約175平方メートル)
構造:木造在来軸組工法、地下部鉄筋コンクリート造
階数:地下1階、地上2階、塔屋(屋上付)
設計期間:2014年3月~2015年3月
施工期間:2015年3月~2016年3月(竣工)
施工:分離発注
撮影:鈴木賢一
どんなHouzz?
「くの字」の敷地形状と2メートルを超す段状地を、無駄なく有効に利用し、大型地下室を基礎としてその上に2棟をのせた、耐震性にも優れた二世帯住宅。
家族構成:70歳代の施主夫妻、愛猫CoCo(親世帯)、次男夫妻、孫2人(子世帯)
所在地:神奈川県横浜市
設計:〈ヴァンクラフト空間環境設計〉小杉卓(統括)、松本貴記(意匠担当)、福嶋都美子、尾﨑舞(キッチン・住設・収納・照明等)
構造:田中哲也建築構造計画 田中哲也
床面積:193.49平方メートル(親世帯)、114.69平方メートル(子世帯)、66.22平方メートル(共有駐車場)
延床面積:377.40平方メートル(小屋裏面積含まず)
敷地面積:272.08平方メートル(内、地下空間面積:約175平方メートル)
構造:木造在来軸組工法、地下部鉄筋コンクリート造
階数:地下1階、地上2階、塔屋(屋上付)
設計期間:2014年3月~2015年3月
施工期間:2015年3月~2016年3月(竣工)
施工:分離発注
撮影:鈴木賢一
オーナー夫妻邸の玄関。高い天井とスケルトン階段が開放的な空間を創り出している。アールデコ風階段照明は、オーナーが「ぜひ使って欲しい」と小杉氏に依頼したもの。階段下には、オーナー夫人の実家で使っていた火鉢をさりげなく置いている。
和洋折衷のセンスは、「懇意にしていた隣人のアメリカ人女性から多くを学びました」と語るオーナー夫妻。また新築計画中には、常に谷崎潤一郎の『陰影礼讃』を念頭に置いていたという。「欧米文化の影響が大きい日本の生活ですが、日本文化の素晴らしさを交えた中で暮らしたいという思いがありました」と語るオーナー夫人。
こちらもあわせて
『陰影礼賛』を通して今日の建築を考える
和洋折衷のセンスは、「懇意にしていた隣人のアメリカ人女性から多くを学びました」と語るオーナー夫妻。また新築計画中には、常に谷崎潤一郎の『陰影礼讃』を念頭に置いていたという。「欧米文化の影響が大きい日本の生活ですが、日本文化の素晴らしさを交えた中で暮らしたいという思いがありました」と語るオーナー夫人。
こちらもあわせて
『陰影礼賛』を通して今日の建築を考える
「あら、また来たのね。一緒に遊びましょう」と、リビングに入ってきたオーナーの孫を迎え入れる飼い猫CoCo(ココ)。光溢れるこの場所がお気に入りの孫たちは、頻繁にここを訪れるという。
オーナーいわく「以前の家は、採光を気にしすぎて建物の四方を開口にしてしまい、プライバシーの問題に悩まされていた」。しかしこの家は南向きの庭(ウッドデッキ)側に大型開口を設けることで、十分な光が確保されている。壁面の陰があっても、これだけ明るいのは、ウッドデッキから差し込む太陽光の向きに限定して、大型フルオープンサッシと、吹抜け上部のトップサイドライトを連続させるように設置したからだ。
ダイニングの壁に掛かっている油絵は、戦時中に軍医であったオーナー夫人の父が、インドネシアのジャワ島の都市バンドンで描いたもの。戦禍を生き延びた大切な思い出の品だ。その横の美人画は、歌川国貞作。
リビングソファ:〈Arflex Japan〉
リビングテーブル:〈アクタス〉
ダイニングエリア・キャビネット:〈カッシーナ〉
ペンダントランプ:〈ライトイヤーズ〉《カラヴァジオ》
オーナーいわく「以前の家は、採光を気にしすぎて建物の四方を開口にしてしまい、プライバシーの問題に悩まされていた」。しかしこの家は南向きの庭(ウッドデッキ)側に大型開口を設けることで、十分な光が確保されている。壁面の陰があっても、これだけ明るいのは、ウッドデッキから差し込む太陽光の向きに限定して、大型フルオープンサッシと、吹抜け上部のトップサイドライトを連続させるように設置したからだ。
ダイニングの壁に掛かっている油絵は、戦時中に軍医であったオーナー夫人の父が、インドネシアのジャワ島の都市バンドンで描いたもの。戦禍を生き延びた大切な思い出の品だ。その横の美人画は、歌川国貞作。
リビングソファ:〈Arflex Japan〉
リビングテーブル:〈アクタス〉
ダイニングエリア・キャビネット:〈カッシーナ〉
ペンダントランプ:〈ライトイヤーズ〉《カラヴァジオ》
ダイニング側から見たキッチン。台所に立ちながら、「いつでも家族やお客様の気配を感じていたい」という夫人のリクエストで、カウンター脇のルーバーの角度は、キッチンから外の動きが見やすいように調節している。
毎週土曜日には、近くで開業するオーナーの歯科クリニックを、同じく歯科医師の長男と次男が手伝った後、ここで全員で夕食を共にする。「家族が集まり、語らう、とても貴重な時間を持てるようになりました」と喜ぶオーナー夫妻。
ダイニングテーブル:〈Randers_Radius〉グリップウッドテーブル
ダイニングチェア:〈PP モブラー〉ハンスウェグナー《PP701》
毎週土曜日には、近くで開業するオーナーの歯科クリニックを、同じく歯科医師の長男と次男が手伝った後、ここで全員で夕食を共にする。「家族が集まり、語らう、とても貴重な時間を持てるようになりました」と喜ぶオーナー夫妻。
ダイニングテーブル:〈Randers_Radius〉グリップウッドテーブル
ダイニングチェア:〈PP モブラー〉ハンスウェグナー《PP701》
選び抜いた薪ストーブの煙突は、熱効率をよくするために、2階の吹き抜けホールの中央部を貫通させたが、「あまりにも自然で、見過ごしてしまうほどです」とオーナー。写真右側フロアスタンド背後の扉内は、将来的にはホームエレベーターを設置できるスペースで、現在は収納庫として利用している。
薪ストーブ:〈モルソー〉《1126CB》
薪ストーブ:〈モルソー〉《1126CB》
2階ホールに続く和室は、歌舞伎や能などの伝統芸能をこよなく愛する夫人の着物のための部屋である。奥行きの深い和箪笥に揃えて家具を造作しているため、「すっきりと見えるだけでなく、豊富な収納スペースが確保できてよかった」とオーナー夫人。襖(ふすま)の書は、夫人の筆によるもの。
オーナー希望の〈JAXON〉の浴槽(マイクロバブル内蔵)を入れた浴室。浴槽の奥(写真右)が外部吹き抜けのため、バスタイムには、広がりを感じながら外の景色をゆっくりと満喫できる。窓先のルーバーの角度を綿密に計算したので、外からは内部は見えない。
子世帯側から見た建物の夕景。地下空間を共有することで、木造在来軸組工法の二世帯住宅は、地震にも強い構造となり、家族に安心感をもたらしている。
地下とは思えない、約175平方メートルのダイナミックな空間が展開されている。地階と駐車場は、容積率緩和の対象となるため、住宅の延床面積の1/3(地下居室面積)と、1/5(駐車場面積)の法的緩和施策を利用した。敷地面積の約77%の210平方メートルを掘削することで、ゆとりある地下空間を実現している。
この廊下兼ギャラリーの向かって左側が、4台の車が駐車可能なビルトインガレージ。その奥にある扉が、子世帯との連絡口だ。右側が、1階ウッドデッキに続く外階段付きドライエリアで、ここでバーベキューも楽しめる。奥が、22.5畳のシアタールーム。
この廊下兼ギャラリーの向かって左側が、4台の車が駐車可能なビルトインガレージ。その奥にある扉が、子世帯との連絡口だ。右側が、1階ウッドデッキに続く外階段付きドライエリアで、ここでバーベキューも楽しめる。奥が、22.5畳のシアタールーム。
シアタールームの左側には、パーティー用キッチンが収納されているので、上階のキッチンを使わずに、ここだけで集うこともできる。
正面には、オーナーが友人から譲り受けたアンティークのコバルトガラスの鏡をはめこんだ。表面が波打っており、間接照明の効果もあいまって、オリジナリティ溢れる空間の演出に一役買っている。側面(写真右)のステンレス製アートも、同じ友人がウォルト・ディズニーの自宅を飾っていたものと同じ意匠で、かつてアメリカで作らせたもの。連作となっており、玄関脇にも飾っている。
正面には、オーナーが友人から譲り受けたアンティークのコバルトガラスの鏡をはめこんだ。表面が波打っており、間接照明の効果もあいまって、オリジナリティ溢れる空間の演出に一役買っている。側面(写真右)のステンレス製アートも、同じ友人がウォルト・ディズニーの自宅を飾っていたものと同じ意匠で、かつてアメリカで作らせたもの。連作となっており、玄関脇にも飾っている。
ドライエリア側を望むオーナー専用の書斎。地下にいる感覚が全くない。この約4畳のスペースで、オーナーは10年前から凝り始めた仏像づくりに熱中している。
その他にもミニチュアカーやカメラなど、オーナーのお気に入りのアイテムのコレクションが棚を埋め尽くす。
その他にもミニチュアカーやカメラなど、オーナーのお気に入りのアイテムのコレクションが棚を埋め尽くす。
子世帯のトイレ。キース・へリング好きの次男が、絵画の色に合わせ、天井から便器まで、「楽しみながらコーディネートした」という、遊び心に満ちた空間。
建物の右側の母屋の玄関横には、以前の敷地にあったドウダンツツジを移植し、記憶の継承にも気を配った。建物前には、ビルトイン駐車場の以外にも2台の車が停められる。写真左が、次男邸の入口だ。
オーナー夫妻の「孫の顔を見たり、声や足音を感じたりしたい」という願いと、「お互い、過干渉は避けたい」という思いを大切にした二世帯住宅。親子の住居を完全分離させ、それぞれが独立した時間を過ごせるプライベート空間を保ちながら、地下室を経由して、家族が自由に行き来できる。ほどよい「つかず離れずの距離感」のある家だ。
オーナー夫妻の「孫の顔を見たり、声や足音を感じたりしたい」という願いと、「お互い、過干渉は避けたい」という思いを大切にした二世帯住宅。親子の住居を完全分離させ、それぞれが独立した時間を過ごせるプライベート空間を保ちながら、地下室を経由して、家族が自由に行き来できる。ほどよい「つかず離れずの距離感」のある家だ。
光降り注ぐウッドデッキで、家族は談笑しながら、しみじみと語った。「こうして光や風を感じながら、好きなものだけに囲まれて過ごせて、とても快適です」
おすすめの記事
Houzzがきっかけの家(国内)
ジョージア・オキーフ邸をイメージした、4人家族の暮らしにフィットする家
文/永井理恵子
Houzzで見つけた建築家に依頼して、予算内で夢の住まいを実現!通りかかった人に「素敵ですね!」とよく褒められる、シンプルながらスタイリッシュなお宅です。
続きを読む
日本の家
ゲストへの思いやりの心をしつらえた、離れのある家
文/杉田真理子
東京から訪れるゲストのため、母屋のほかにゲストルームの離れをしつらえた住まい。伝統的な日本家屋の美しさが、自然の中で引き立つ家です。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(国内)
家族で自然を満喫。極上の浴室と広々としたデッキを備えた軽井沢の別荘
3人の子供たちの成長期に家族で軽井沢ライフを楽しむため、オーナーは時間のかかる土地探し&新築計画を見直し、中古物件を購入。Houzzで見つけた長野県の建築家に改修を依頼して、飛躍的に自然とのつながりが感じられる住まいに変身させました。
続きを読む
リノベーション
建築家がゲストハウスに再考したガレージ
多目的スペースへと作り替えられた空間とカーポートの追加によって、スタイリッシュにアップデートされた、歴史あるニューイングランド様式の住宅をご紹介します。
続きを読む
世界の家
ビルバオのグランビア通りに佇む、1950年代のクラシカルなフラットハウス
既存のモールディングが美しい85平方メートルのリビング、ダイニング、ホームオフィスをもつ、エレガントなフラットをご紹介します。
続きを読む