コメント
フランク・ロイド・ライトが息子夫婦のために設計した「らせん形の家」
フランク・ロイド・ライトが息子夫婦のために建てた住宅。グッゲンハイム美術館の前身ともいえるらせん形の住宅は、あやうく解体される事態を逃れ、今もその姿をとどめています。
Nora Burba Trulsson
2017年5月24日
1950年にフランク・ロイド・ライトがアリゾナ州フェニックスの美しい住宅地、アルカディア地区に息子夫婦デヴィッドとグラディスのために設計した、実験的ならせん形の家。2009年にこの家を相続したオーナーが家を売りに出すと、俄然世間の注目を集めることになった。物件を購入した不動産開発業者が、家を解体して建売住宅を2軒建設する計画であるとわかったためだ。
しかし反対運動が起こり、家は解体を免れる。2012年、フェニックスと縁の深いラスベガス在住の建設業者が購入し、この家を守るための非営利財団を創設した。ライトの設計した家と別棟ゲストハウス、周囲のランドスケープの整備も完了し、デヴィッド&グラディス・ライト邸財団が予約制で一般向けのツアーを行っていたが、現在は一時的に休止している。
しかし反対運動が起こり、家は解体を免れる。2012年、フェニックスと縁の深いラスベガス在住の建設業者が購入し、この家を守るための非営利財団を創設した。ライトの設計した家と別棟ゲストハウス、周囲のランドスケープの整備も完了し、デヴィッド&グラディス・ライト邸財団が予約制で一般向けのツアーを行っていたが、現在は一時的に休止している。
Photos courtesy of the David and Gladys Wright House Foundation
延床面積232平方メートル、ベッドルーム3つとバスルームが2つのある家。ライトは、一時は4ヘクタールにも広がっていたオレンジ畑の上に建物が浮かぶようなデザインを目指し、北側にキャメルバック・マウンテンの眺めが見えるよう配置した。ゲストハウスはライトが設計して後から追加したもの。
2012年、ラスベガスで住宅建設業を営むザック・ローリングさんがこの物件を購入したころには、オレンジの木はほとんど枯れてしまっていた。ツタ植物や低木が生い茂り、家は姿が見えないような状態だった。
ローリングさんは、アリゾナのフランク・ロイド・ライト建築学校で学んだサンディエゴの建築家ウォレス・カニンガムさんや、スコッツデールのランドスケープデザイン会社〈ベルゴフ・デザイン・グループ〉などとチームを組み、この家の清掃・保全・修繕というたいへんな作業を進めていった。
延床面積232平方メートル、ベッドルーム3つとバスルームが2つのある家。ライトは、一時は4ヘクタールにも広がっていたオレンジ畑の上に建物が浮かぶようなデザインを目指し、北側にキャメルバック・マウンテンの眺めが見えるよう配置した。ゲストハウスはライトが設計して後から追加したもの。
2012年、ラスベガスで住宅建設業を営むザック・ローリングさんがこの物件を購入したころには、オレンジの木はほとんど枯れてしまっていた。ツタ植物や低木が生い茂り、家は姿が見えないような状態だった。
ローリングさんは、アリゾナのフランク・ロイド・ライト建築学校で学んだサンディエゴの建築家ウォレス・カニンガムさんや、スコッツデールのランドスケープデザイン会社〈ベルゴフ・デザイン・グループ〉などとチームを組み、この家の清掃・保全・修繕というたいへんな作業を進めていった。
写真は、建設途中の家で撮影されたデヴィッド・ライトとグラディス。デヴィッドはエンジニアリングを学び、コンクリートブロック製造会社の代理店の仕事をしていた。見本展示も兼ねて、住まいのなかに自社製品を取り入れてほしいというのが彼の希望だった。
ライトは、45分ほどでトレーシングペーパーにデザインをスケッチし、「南西部に暮らすための家」とタイトルをつけた。地上から持ち上がったデザインのため、建物の下に陰を作って風を通し、居住スペースからはフェニックスの山々がよりよく見えるということだ。
1952年に完成されたこの家は、ライトが同時期にニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館向けに提案していた、らせんと傾斜路によるデザインの試作的な建築でもある。エントランスの中庭から傾斜路を上っていくと玄関ドアにたどり着き、そこからさらに上ると屋上に出る。
鉄筋コンクリートの床が、コンクリートブロックの柱の上に載っている。柱のあいだのスペースはカーポートになっている。左側の筒形の部分には洗濯室と貯蔵室があり、カーポートから入るか、キッチンから屋内の階段を通ってアクセスできる。リビングルームとベッドルームに沿ってカーブするバルコニーは、部屋をつなぐ屋外廊下としても機能している。
小さな中庭を囲むように建てられており、この中庭にはかつて、ひし形の浅いプールがあった。プールを復活させる計画も持ち上がっている。
壁の下側のふちには特注デザインのブロックが並んでおり、通常の長方形ブロックとコントラストをつけたディテールになっている。
壁の下側のふちには特注デザインのブロックが並んでおり、通常の長方形ブロックとコントラストをつけたディテールになっている。
ローリングさんにとって、これは個人的な思い入れのあるプロジェクトだ。「私はこの近所で育ったんです。建築が好きで学んでいた母に連れられて、よく自転車で近くのおもしろい建築を見にきていましたが、この家は母のお気に入りでしたね。私は大学の4年間ずっと、寮の部屋にこの家の写真を飾っていたんです」と言う。
もともと、ライトがデザインし、スタニスラヴ・ヴソスキーが織ったオリジナルのラグがリビング・ダイニングにあったのだが、以前のオーナーによって競売されてしまっていた。こちらのラグは、ローリングさんがライトの元弟子でアーティストのリン・ポーと協力し、ライトのオリジナルデザイン「マーチ・バルーンズ」をもとに新しく作らせたもの。
マスターベッドルームの円すい型の暖炉。もうひとつ同じものがリビング・ダイニングにある。
「天井の水の染みは、フランク・ロイド・ライト設計の証しですよ」と冗談まじりに言うローリングさん。よく、ライトの家は雨漏りがすると言われているからだ。
「天井の水の染みは、フランク・ロイド・ライト設計の証しですよ」と冗談まじりに言うローリングさん。よく、ライトの家は雨漏りがすると言われているからだ。
オリジナルの設計図では「作業スペース」と書かれていた小さなキッチン。リノリウムの床とカウンタートップなど、最高品質の素材が使われている。レンジはオリジナルのまま。
床下の暖房用ダクトと天井の冷房用ダクトを使い、セントラルヒーティング・クーリングシステムが備えられていた。
床下の暖房用ダクトと天井の冷房用ダクトを使い、セントラルヒーティング・クーリングシステムが備えられていた。
竣工からまもなく撮影された航空写真。これから大きく育って敷地を埋め尽くすことになるグレープフルーツやオレンジの木が見えている。
デヴィッドとグラディス夫妻が高齢になり、果樹園の世話ができなくなると、デヴィッドはかんがいシステムを止めて木を枯れさせることにした。デヴィッドは102歳の長寿で1997年に亡くなり、グラディスも104歳まで生き2008年に亡くなっている。
デヴィッドとグラディス夫妻が高齢になり、果樹園の世話ができなくなると、デヴィッドはかんがいシステムを止めて木を枯れさせることにした。デヴィッドは102歳の長寿で1997年に亡くなり、グラディスも104歳まで生き2008年に亡くなっている。
この家の近くには、フランク・ロイド・ライトが冬を過ごし、現在は建築コミュニティとなっているタリアセン・ウエストがある。そこで行われているような文化的活動を参考に、将来のマスタープランとしては、教育のための施設や、コンサートを開くことのできる小さな屋外劇場をつくるプロジェクトも考えられている。
教えてHouzz
ご感想をおきかせください。
こちらもあわせて
ドローンがとらえたライトの名作〈ホリーホック邸〉の全貌
フランク・ロイド・ライトが日本の住宅建築に与えた大きな影響とは?【Part 1】
日本の住宅建築に今も息づくフランク・ロイド・ライトの影響とは? 【Part 2】
名作建築:フランク・ロイド・ライトの田園の事務所兼自邸《タリアセン》をたずねて
名作住宅:フランク・ロイド・ライトの自邸兼スタジオ
絶対に知っておきたい名作モダン住宅:フランク・ロイド・ライトの落水荘
Houzzツアー:フランク・ロイド・ライト建築学校〈タリアセン〉の学生がつくった、砂漠の「最小限住居」
教えてHouzz
ご感想をおきかせください。
こちらもあわせて
ドローンがとらえたライトの名作〈ホリーホック邸〉の全貌
フランク・ロイド・ライトが日本の住宅建築に与えた大きな影響とは?【Part 1】
日本の住宅建築に今も息づくフランク・ロイド・ライトの影響とは? 【Part 2】
名作建築:フランク・ロイド・ライトの田園の事務所兼自邸《タリアセン》をたずねて
名作住宅:フランク・ロイド・ライトの自邸兼スタジオ
絶対に知っておきたい名作モダン住宅:フランク・ロイド・ライトの落水荘
Houzzツアー:フランク・ロイド・ライト建築学校〈タリアセン〉の学生がつくった、砂漠の「最小限住居」
おすすめの記事
Houzzがきっかけの家(国内)
ジョージア・オキーフ邸をイメージした、4人家族の暮らしにフィットする家
文/永井理恵子
Houzzで見つけた建築家に依頼して、予算内で夢の住まいを実現!通りかかった人に「素敵ですね!」とよく褒められる、シンプルながらスタイリッシュなお宅です。
続きを読む
日本の家
ゲストへの思いやりの心をしつらえた、離れのある家
文/杉田真理子
東京から訪れるゲストのため、母屋のほかにゲストルームの離れをしつらえた住まい。伝統的な日本家屋の美しさが、自然の中で引き立つ家です。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(国内)
家族で自然を満喫。極上の浴室と広々としたデッキを備えた軽井沢の別荘
3人の子供たちの成長期に家族で軽井沢ライフを楽しむため、オーナーは時間のかかる土地探し&新築計画を見直し、中古物件を購入。Houzzで見つけた長野県の建築家に改修を依頼して、飛躍的に自然とのつながりが感じられる住まいに変身させました。
続きを読む
リノベーション
建築家がゲストハウスに再考したガレージ
多目的スペースへと作り替えられた空間とカーポートの追加によって、スタイリッシュにアップデートされた、歴史あるニューイングランド様式の住宅をご紹介します。
続きを読む
世界の家
ビルバオのグランビア通りに佇む、1950年代のクラシカルなフラットハウス
既存のモールディングが美しい85平方メートルのリビング、ダイニング、ホームオフィスをもつ、エレガントなフラットをご紹介します。
続きを読む