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ニッポンの壁〜多彩な内装材の世界
内装の仕上げは、いつも目にするものだからこそ、その空間の居心地を大きく左右します。紙、木材、ボード、タイルなど、多様な選択肢の中から自分の好みの仕上げを見つけて、オリジナリティーあふれる空間をつくりましょう。
Naoko Endo
2015年9月8日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
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日々の暮らしを包みこんでくれる家の壁。クロスや塗装や左官など、種類がありすぎて、大まかな好みだけ伝えて後は「設計者や工務店にお任せ」という人も多いだろう。そのほうが楽ではあるが、ちょっとつまらないかも。いつも目にするところだからこそ、こだわりたい。
以下に紹介する内装事例はどれも、誰でも入手できる材料を使ってはいるが、ひと工夫もふた工夫も加えられている。できれば、先ずは写真だけをみて、仕上げと材を予想してから、テキストを読み進めて欲しい。見ただけではわからない、驚きの施工方法や、その家ならではのストーリーが潜んでいる。
以下に紹介する内装事例はどれも、誰でも入手できる材料を使ってはいるが、ひと工夫もふた工夫も加えられている。できれば、先ずは写真だけをみて、仕上げと材を予想してから、テキストを読み進めて欲しい。見ただけではわからない、驚きの施工方法や、その家ならではのストーリーが潜んでいる。
和紙によるアートウォール
《indigo house》
設計:SEKI DESIGN STUDIO
コンクリート打ち放し工法で都内に建てられた、3階建て住宅のダイニングである。写真の右手にみえる壁について、左官職人による仕事か、水墨画に似せたペイントかと予想した人が多いと思う。正解は、和紙である。日本の自然を写した写真データを、コンクリート型枠のサイズにあわせてカットした和紙に出力、グリッド状に貼り合わせている。
こちらの住まいでは、各部屋ごとに"ストーリー"が与えられている。写真の左手、FIXのガラス窓からは、近所にある寺の瓦屋根が一望できる。壮観な眺めと呼応するように、対する壁一面に、山々の連なりをモノクロで浮かび上がらせた。大きなムラーノガラスのシャンデリアは満月という見立てである。日本の原風景を彷彿とさせる、壮大かつ幻想的な空間は、写真家の稲田美嗣氏がひらいた個展をたまたま訪れた施主が、日本の美しい自然をモノクロで捉えた世界観に魅了されたのをきっかけに、設計者である関 洋氏がダイニングの壁で展開することをひらめいてデザインした。墨がにじんだような淡い色調は、和紙ならではの仕上がりだ。
施主は親しい友人を家に招き、こちらのダイニングで夜景を見ながらの食事を楽しんでいる。海外からのゲストにはことさら好評らしい。感嘆混じりの歓声が聴こえてくるようだ。
《indigo house》
設計:SEKI DESIGN STUDIO
コンクリート打ち放し工法で都内に建てられた、3階建て住宅のダイニングである。写真の右手にみえる壁について、左官職人による仕事か、水墨画に似せたペイントかと予想した人が多いと思う。正解は、和紙である。日本の自然を写した写真データを、コンクリート型枠のサイズにあわせてカットした和紙に出力、グリッド状に貼り合わせている。
こちらの住まいでは、各部屋ごとに"ストーリー"が与えられている。写真の左手、FIXのガラス窓からは、近所にある寺の瓦屋根が一望できる。壮観な眺めと呼応するように、対する壁一面に、山々の連なりをモノクロで浮かび上がらせた。大きなムラーノガラスのシャンデリアは満月という見立てである。日本の原風景を彷彿とさせる、壮大かつ幻想的な空間は、写真家の稲田美嗣氏がひらいた個展をたまたま訪れた施主が、日本の美しい自然をモノクロで捉えた世界観に魅了されたのをきっかけに、設計者である関 洋氏がダイニングの壁で展開することをひらめいてデザインした。墨がにじんだような淡い色調は、和紙ならではの仕上がりだ。
施主は親しい友人を家に招き、こちらのダイニングで夜景を見ながらの食事を楽しんでいる。海外からのゲストにはことさら好評らしい。感嘆混じりの歓声が聴こえてくるようだ。
無垢材によるヘリンボーン
《滝山団地 Y邸》
設計:DABURA.m
団地の分譲区画のリノベーションである。改修前は2DKで、公団団地の典型的な間取りであった。
施主が好むヘリンボーンのパターンを、床から壁、造作キッチンの側板にも連続して張り、50平米ほどの小さな空間に奥行きと広がりをもたせた。ヘリンボーンの合流地点では、僅かな張り合わせのズレもゆるされないため、職人はかなり苦労したそうだ。
材はアカシア(ミモザ)の無垢材。色に濃淡がある材だが、サイクリングが趣味という、快活な施主をイメージして採用した。写真には写っていないが、壁にはディプレイを兼ねて自転車が掛けられている。
次に紹介する事例もヘリンボーン。材も木材なのだが、全く表情が異なる。
《滝山団地 Y邸》
設計:DABURA.m
団地の分譲区画のリノベーションである。改修前は2DKで、公団団地の典型的な間取りであった。
施主が好むヘリンボーンのパターンを、床から壁、造作キッチンの側板にも連続して張り、50平米ほどの小さな空間に奥行きと広がりをもたせた。ヘリンボーンの合流地点では、僅かな張り合わせのズレもゆるされないため、職人はかなり苦労したそうだ。
材はアカシア(ミモザ)の無垢材。色に濃淡がある材だが、サイクリングが趣味という、快活な施主をイメージして採用した。写真には写っていないが、壁にはディプレイを兼ねて自転車が掛けられている。
次に紹介する事例もヘリンボーン。材も木材なのだが、全く表情が異なる。
構造用合板のパターン貼り
《ツボミハウス》
設計:FLATHOUSE
ヘリンボーンのパターン張りによる内装。材は表面にウレタン塗装を施したラーチ合板である。
ラーチ合板は、主に壁や天井の下地として用いられる、数ある構造用合板のひとつ。仕上げ材が張られてしまえば存在は消えてしまう。人の目に触れる機会は、施工の現場、それも工事の途中まで。そんな"裏方"が、この家では主役を務める。
外壁は鋼板で覆われているが、同じヘリンボーンを踏襲している。軽快なリズムは外と内で連続し、この家の個性へと昇華している。また、内・外ともに割り付けを綿密に計算しているので、仕入れた材を無駄なく使い切ることにも成功している。
《ツボミハウス》
設計:FLATHOUSE
ヘリンボーンのパターン張りによる内装。材は表面にウレタン塗装を施したラーチ合板である。
ラーチ合板は、主に壁や天井の下地として用いられる、数ある構造用合板のひとつ。仕上げ材が張られてしまえば存在は消えてしまう。人の目に触れる機会は、施工の現場、それも工事の途中まで。そんな"裏方"が、この家では主役を務める。
外壁は鋼板で覆われているが、同じヘリンボーンを踏襲している。軽快なリズムは外と内で連続し、この家の個性へと昇華している。また、内・外ともに割り付けを綿密に計算しているので、仕入れた材を無駄なく使い切ることにも成功している。
構造用合板のランダム貼り
《Qilin》
設計:松島潤平建築設計事務所
微妙に色を変えた塗装にも見えるが、ラワン合板を組み合わせたもの。ラワン材も構造用合板の一種である。廉価で加工しやすいのが魅力だが、大量に使う場合には注意すべき点がある。合板に加工する前、採取した木ごとに個体色があるため、色にバラつきが出ないように仕入れるのが基本だ(=ロットを揃える)。 こちらの内装の場合、 通常は避けるべき”ロット違い”を逆手にとり、家の個性としている。
色幅が大きくなることを前提に手配したラワン材を、150mm幅で均一にカット、仕上げとして壁に張っている。濃淡のつけ方は厳格に指定せずに、現場で作業する職人のセンスと自由度に任せた。表面にはホワイト塗装を施し、保護膜の役目を果たすと同時に、全体の印象を和らげている。水まわりを除き、室内の壁は全てこのロット違いのラワン材によるパターン貼り。《Qilin(キリン)》という作品名の元にもなった。
《Qilin》
設計:松島潤平建築設計事務所
微妙に色を変えた塗装にも見えるが、ラワン合板を組み合わせたもの。ラワン材も構造用合板の一種である。廉価で加工しやすいのが魅力だが、大量に使う場合には注意すべき点がある。合板に加工する前、採取した木ごとに個体色があるため、色にバラつきが出ないように仕入れるのが基本だ(=ロットを揃える)。 こちらの内装の場合、 通常は避けるべき”ロット違い”を逆手にとり、家の個性としている。
色幅が大きくなることを前提に手配したラワン材を、150mm幅で均一にカット、仕上げとして壁に張っている。濃淡のつけ方は厳格に指定せずに、現場で作業する職人のセンスと自由度に任せた。表面にはホワイト塗装を施し、保護膜の役目を果たすと同時に、全体の印象を和らげている。水まわりを除き、室内の壁は全てこのロット違いのラワン材によるパターン貼り。《Qilin(キリン)》という作品名の元にもなった。
木毛セメント板
《Obey》
設計:no.555
この家の内装仕上げも、通常は"裏方"を務めているボードを"あらわし"(そのまま露出)とした事例である。
木毛セメント板は、細かい木材などを圧縮成型したもので、表面には刷毛でつけたような柄がある。耐火・断熱・遮音性能に優れた材であり、体育館や倉庫の天井裏によく使われている。そんなインダストリアルな魅力に加え、この家では吸音効果を期待して採用された。
写真でわかるように、天井が高く、床面積も大きい。このような大空間では、日常生活のなにげない物音や話し声が反響して、時に耳障りとなる。大劇場の天井下地板にも使われる、 木毛セメント板の吸音性能が生かされたかたちだ。
《Obey》
設計:no.555
この家の内装仕上げも、通常は"裏方"を務めているボードを"あらわし"(そのまま露出)とした事例である。
木毛セメント板は、細かい木材などを圧縮成型したもので、表面には刷毛でつけたような柄がある。耐火・断熱・遮音性能に優れた材であり、体育館や倉庫の天井裏によく使われている。そんなインダストリアルな魅力に加え、この家では吸音効果を期待して採用された。
写真でわかるように、天井が高く、床面積も大きい。このような大空間では、日常生活のなにげない物音や話し声が反響して、時に耳障りとなる。大劇場の天井下地板にも使われる、 木毛セメント板の吸音性能が生かされたかたちだ。
ペイント
《edge》
設計:友紀建築工房
こちらの事例も"働く壁"である。キッチン、ダイニングと、洗面・バスルーム、寝室がある側とを結ぶ空間の壁面に、家族のコミュニケーション・スペースとしての機能をもたせている。黒板塗料(チョークボードペイント)とマグネット塗料をそれぞれ2回、計4回重ね塗りすることで、メモ紙やポストカードなども貼り付けられるようにしてある。子どもたちが大きくなり、チョークでお絵描きをして遊ばなくなった後も、家族で多目的に使えることを想定している。
意匠性も重視し、天井と床との境目には見切り材の巾木なども入れずに、シンプルかつシックな壁に仕上げた。
こちらの記事もおすすめ:
おしゃれなインテリアのキーアイテム! チョークボードペイントでつくる遊び心のある空間
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石調タイルのランダム貼り
《ジュウサンヤ》
設計:プリヤデザイン
前述のラワン材による施工例とはまた雰囲気が異なるが、別のマテリアルの場合でも、1枚ずつ濃淡が異なる材のパターン貼りを壁全体として捉え直せば、新たな魅力を引き出すことができる。
L字キッチンの前壁に、石目調の長方形タイルを貼っている。床やワークトップなど周辺の素材感とのバランスや、汚れにくさ、調理空間に必要な衛生面を考慮しての採用でもある。タイルとタイルの間は3mmの細目地、色もライトグレーですっきりと見せている。
事例の厨房機器はIHクッキングヒーターなので、その限りではないが、法規に準拠してガスコンロ周辺を不燃仕上げとする場合でも参考になる仕上げだ。
《ジュウサンヤ》
設計:プリヤデザイン
前述のラワン材による施工例とはまた雰囲気が異なるが、別のマテリアルの場合でも、1枚ずつ濃淡が異なる材のパターン貼りを壁全体として捉え直せば、新たな魅力を引き出すことができる。
L字キッチンの前壁に、石目調の長方形タイルを貼っている。床やワークトップなど周辺の素材感とのバランスや、汚れにくさ、調理空間に必要な衛生面を考慮しての採用でもある。タイルとタイルの間は3mmの細目地、色もライトグレーですっきりと見せている。
事例の厨房機器はIHクッキングヒーターなので、その限りではないが、法規に準拠してガスコンロ周辺を不燃仕上げとする場合でも参考になる仕上げだ。
規格品建材の応用例
《表象の家》
設計:フォルム・木村浩一建築研究所
リビングのコーナーを囲った腰壁と、階段を上がりきる手前の壁は、なにやら石切り場から持ち込まれたかのように荒々しいが、ベースとなっているのは規格品のストーンタイルである。とはいえ、ただ貼っただけでは、写真からも感じとれるようなワイルドな雰囲気は出ない。
施工手順は次の通り。
1.25mmのストーンタイルを300角でシート貼り(ここまでは通常の施工)
2.ヘラで部分的に表面の石を剥がす
3.その上から黒の目地セメントで塗りつぶす。剥がした凹部分に黒いセメントが詰まり、濃淡が出る
4.濃淡をつける/つけないを調整しながら、スポンジで壁全体を掻き落す
5.光沢を出したい部分には、完全に乾いてからクリア塗装を施す
工夫次第で規格品がオリジナルな素材となり、独創性は空間全体にも伝播していく。設計者のアイデアをイメージ通りに仕上げる職人の技もまた素晴らしい。
《表象の家》
設計:フォルム・木村浩一建築研究所
リビングのコーナーを囲った腰壁と、階段を上がりきる手前の壁は、なにやら石切り場から持ち込まれたかのように荒々しいが、ベースとなっているのは規格品のストーンタイルである。とはいえ、ただ貼っただけでは、写真からも感じとれるようなワイルドな雰囲気は出ない。
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1.25mmのストーンタイルを300角でシート貼り(ここまでは通常の施工)
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インポートのクロス《JAPANESE GARDEN》
設計:横堀建築設計事務所
広いリビング・ダイニングの一角に貼られた、竹をモチーフにあしらった光沢のある壁紙。イギリスのCole & Son社のものである(国内取り扱い:株式会社テシード)。
画像をクリックした先にもある空間全体の写真をみるとわかるが、このウォールペーパーが貼られているのは壁ではなく、縦横のサイズが2.5m×2.5mの大きな引き戸になっている。隣接するキッチンとダイニングの間にあり、この1枚の戸で空間を拡張、あるいは閉じる。例えば、ゲストを招いた食事のシーンにおいて、もてなす側の心配りとしては、調理している様子はあまり見せたくない。この扉なら、完全に閉め切っても空間が美しく保たれる。
この家のHouzzツアーを見る:
現代の暮らしに寄り添うモダンな和空間
海外のブランド=洋とは限らない。膨大な商品のなかから探し出せば、和の雰囲気をまとった、日本の住空間に馴染むクロスも数多くある。逆をいえば、メード・イン・ジャパンの壁紙でも、インポートな雰囲気を醸し出すことは可能である。
設計:横堀建築設計事務所
広いリビング・ダイニングの一角に貼られた、竹をモチーフにあしらった光沢のある壁紙。イギリスのCole & Son社のものである(国内取り扱い:株式会社テシード)。
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唐紙(からかみ)
《西陣の家》
設計:プリヤデザイン
京都の歴史あるエリアに建てられた個人邸のエントランスホール。正面左手に続く廊下にそって貼られているのは「京からかみ」である(制作:株式会社丸二)。
唐紙(からかみ)とは、文様を彫った版木の凸部分に、銀に似た光沢をもつ雲母(きら)や顔料をのせて摺ったもの。奈良時代に大陸・唐からもたらされた後、平安の貴族文化を彩る装飾として重宝され、次第に洗練されていく。
写真の仕様は、赤紅色に染めた越前鳥の子和紙(えちぜんとりのこわし)に、牡丹と雲気をあしらった伝統的な有職文様を雲母で摺ったもの。版木のサイズは470×290mm、昔ながらの尺でいうと、12枚でちょうど京襖1枚分になる。こちらの壁紙は、昔ながらの手作業で、連続模様になるように摺っていったものだ。
《西陣の家》
設計:プリヤデザイン
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唐紙(からかみ)とは、文様を彫った版木の凸部分に、銀に似た光沢をもつ雲母(きら)や顔料をのせて摺ったもの。奈良時代に大陸・唐からもたらされた後、平安の貴族文化を彩る装飾として重宝され、次第に洗練されていく。
写真の仕様は、赤紅色に染めた越前鳥の子和紙(えちぜんとりのこわし)に、牡丹と雲気をあしらった伝統的な有職文様を雲母で摺ったもの。版木のサイズは470×290mm、昔ながらの尺でいうと、12枚でちょうど京襖1枚分になる。こちらの壁紙は、昔ながらの手作業で、連続模様になるように摺っていったものだ。
縦に切れ目が入っているようにみえるが、貼られているのは壁ではなく、縁なしの太鼓襖の開き戸であるため。階段下のスペースを活用した収納庫の扉を兼ね、左下に取り付けた細い把手で開閉する。オリジナルの唐紙同様に、こちらも熟練の表具師による仕事が光る。
どの事例にも共通しているのは、日本の住まいづくりに関わる職人の技術力の高さ、そして設計者の創意工夫である。さらに住まい手の好みや願いも加わり、多彩な魅力となって、その家の壁に塗り込められている。紹介しきれなかったストーリーは、画像をクリックした先々でぜひ、感じ取って欲しい。
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知っておきたいインテリアの構成要素 :壁と天井、どう仕上げる? 前編
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