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「コト」から始める夏の家づくり:涼む、楽しむ、工夫する
ブルースタジオ石井健の連載第7回は、夏の暑さをどう乗り越えるかを、日本や世界の事例から見ていきます。
Takeshi Ishii
2017年8月18日
1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの黎明期から1000件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)、『MUJI 家について話そう』(部分監修)、『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO』(監修)。
ブルースタジオへのリノベーションのご相談は、隔月開催のセミナーや、個別相談で承っています。
1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの黎明期から1000件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。... もっと見る
暑い日はまだまだ続きます。ご家庭ではどんな暑さ対策をしているでしょうか?
吉田兼好の「家は夏を旨とする」は日本人の私たちには馴染み深い言葉ですが、近年の高断熱高気密化によって空調設備頼みになってませんか?「涼む」だけではなく、夏を「楽しむ」方法には風や光を操る建築的な工夫もあれば心理的に視覚・聴覚に訴える工夫もあります。ちょっとしたアイデアで快適に暮らせることを、国内外の事例を通して「気候」という軸から探ってみたいと思います。
吉田兼好の「家は夏を旨とする」は日本人の私たちには馴染み深い言葉ですが、近年の高断熱高気密化によって空調設備頼みになってませんか?「涼む」だけではなく、夏を「楽しむ」方法には風や光を操る建築的な工夫もあれば心理的に視覚・聴覚に訴える工夫もあります。ちょっとしたアイデアで快適に暮らせることを、国内外の事例を通して「気候」という軸から探ってみたいと思います。
エネルギーを使わなかった時代は打ち水で体感的に温度を下げていただけでなく、風鈴や虫かごに入れた虫の音などを利用してメンタル面からも涼しさを得ようとアプローチをしていました。
虫を飼って、生の音を聞くと耳で涼しさを感じます。これはスピーカーから流しても、実は涼しい気持ちにはならないのではないでしょうか。
虫を飼って、生の音を聞くと耳で涼しさを感じます。これはスピーカーから流しても、実は涼しい気持ちにはならないのではないでしょうか。
京都や大阪などの町屋で多く見られる中庭が暑さ対策に一役買っていることをご存知でしょうか。町屋特有の開口部の狭さと停滞する熱気を解消するために、中庭を囲むように家を建てることで、家の中に風を通す工夫がされています。
また、日本の古くからの暑さ対策としては打ち水も欠かせません。日が昇りきる前に打ち水をすることで、気温の上昇を抑える効果が期待できます。逆に日が強すぎる日中は、水がすぐに蒸発して蒸し暑くなることがあるのでご注意を。
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暑い夏を涼しく過ごす、暮らしの工夫
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葦戸(よしど)は冬場になると、襖や雪見障子とは入れ替えて使う引き戸です。
私も竹で作った戸をエントランスで使うことがありますし、ウォークインクローゼットでも使った経験もあります。その家は結露しやすい家だったので、通風、換気を考えて採用しました。また、室内の明かりをつけると外から中が見えづらいという利点もあります。
私も竹で作った戸をエントランスで使うことがありますし、ウォークインクローゼットでも使った経験もあります。その家は結露しやすい家だったので、通風、換気を考えて採用しました。また、室内の明かりをつけると外から中が見えづらいという利点もあります。
世界の事例を見てみましょう。
部屋を涼しくするポイントは、通気、気化、日陰、それに蓄熱です。例えば、屋上緑化は気化のひとつですし、グリーンカーテンは日陰をつくります。
これらは、“パッシブデザイン”と呼ばれ、世界中で伝統的に行われきて、現代の建築のいたるところで生かされています。
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アフリカのサバナ(サバンナ)の家
藁葺き屋根で日の暑さを防ぎ、蓄熱能力が高い石と日干し煉瓦を使用。昼間は熱を溜め込んで、夜はその熱を放出しつつ冷気を蓄え、日が昇ってくると今度はその冷気を放出するという、日中は暑く夜は冷えるサバナの気候に合った建材です。
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フロリダ州・タンパの高床式住居
冬でも最高気温が20度を超え、雨とハリケーンが多い地域として知られるタンパ。その浸水被害を考慮した高床式の住居です。
タンパと同じ高温多湿でインドネシアやカンボジアなど高床式を多く採用しているアジアの地域では、日陰と通気が涼しさの要となります。その通気という面でも、空気が床と平行に流れていくだけでなく、床下から住居スペースに流れていき、床下に熱を逃す仕組みが、暑さを緩和させています。
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プールで仕事をし、プールで食事する
例えば、ビーチに行く時には暑いのが快適だと思えますが、職場だと暑いというだけで不快な気分になります。そういう面からもメンタルな部分は大事。では、ビーチで仕事をすれば快適なのでは? という提案もできるのではないでしょうか。
もしくは、温泉でお酒を飲むように、プールで食事するということも可能なのです。こちらのアメリカ・オースティンの事例では、プール内に椅子が置かれており、目の前のキッチンで作られた料理を、プールに入りながらいただけます。
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もしくは、温泉でお酒を飲むように、プールで食事するということも可能なのです。こちらのアメリカ・オースティンの事例では、プール内に椅子が置かれており、目の前のキッチンで作られた料理を、プールに入りながらいただけます。
ギリシャ風邸宅で視界から涼を呼ぶ
ギリシャではなくアメリカに所在する邸宅で、一瞬海に面しているのかと思いきや、絵を飾っているのです。それでもこの地中海ブルーと白の色の組み合わせは涼しげに感じさせます。どうにか地中海の雰囲気を演出しようとがんばっている様子が目に浮かびますね。
ギリシャではなくアメリカに所在する邸宅で、一瞬海に面しているのかと思いきや、絵を飾っているのです。それでもこの地中海ブルーと白の色の組み合わせは涼しげに感じさせます。どうにか地中海の雰囲気を演出しようとがんばっている様子が目に浮かびますね。
フランク・ロイド・ライト〈落水荘〉
暑さをしのぐと言えば、日本でいう軽井沢などの避暑地に逃げるという手もありますが、いっそのこと水の上で暮らすとかもありかもしれません。
部屋の下を水が通り、せり出した部分からは滝が流れ落ちる〈落水荘〉は、フランク・ロイド・ライトが1930年代に設計した、エドガー・カウフマンの邸宅です。住宅は実用的で美しく、生活を豊かにするものであるべきという現代の住宅建築の道しるべを示したライトは、日本のミニマルなデザインや芸術から影響を受け、また、多くの日本人建築家に影響を与えました。
森の中から突如現れるという演出、天然の滝の上に建築するという大胆さは唯一無二でしょう。冒頭の“虫の音”もそうですが、絶えず聞こえてくる水の音、目に飛び込んでくる滝の様子は自然のものだからこそ涼を呼び込めるのです。〈落水荘〉は建築的な美しさや素晴らしさが語られがちですが、いかにも涼しげなところが“良さ”でもあるのだと、そう思っています。
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教えてHouzz
今年試してみた夏の暑さ対策があれば教えてください。また、日本の気候風土に対応した建築の工夫について知っていることがあればコメント欄で共有してみましょう。
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