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My Houzz:“隙間”をデザインする。家族のかたちにフィットする住まい
湘南の新興住宅地に建つ、落ち着いた佇まいの家。ここは「住まい手のライフスタイル」や「家族の時間と成長」などさまざまな課題を解きほぐしてシンプルにまとめ上げて完成した、素敵な住宅です。
Tetsu Takeba
2016年5月28日
Houzzコントリビューター。
出版社勤務を経て、編集事務所「Nect」設立。
建築・建設分野を中心に、
書籍や雑誌等の編集を手掛けております
神奈川県平塚市に建つこの家の主は、ふたりのお子さんをもつ尾崎俊文さん、千尋さんご夫婦。俊文さんは住宅を紹介するTV番組を長年視聴している大の建築好き。「いつか理想の家を建てたい」。その想いを胸に、自分の夢を形にしてくれる建築家を探していた。
インターネットなどを利用してリストアップしたその数は、実に300人。その中からご夫婦が自分たちの価値観に合った建築家として設計を依頼したのが〈no.555〉の土田拓也さんである。約半年間の打ち合せと設計、そしてその後の施工を経て、昨年の夏に完成したのがこちらの住宅だ。
インターネットなどを利用してリストアップしたその数は、実に300人。その中からご夫婦が自分たちの価値観に合った建築家として設計を依頼したのが〈no.555〉の土田拓也さんである。約半年間の打ち合せと設計、そしてその後の施工を経て、昨年の夏に完成したのがこちらの住宅だ。
設計当時を振り返り、土田さんはこう語る。「最初に尾崎さんご夫婦のご要望をいくつか伺い、それを僕なりに形にした案を見ていただきながら、建物の配置やプランニングのあり方を考えていきました。コンセプトは作品名にもなっている “隙間”(スキマ)です」。
まずは全体の配置計画。これを検討するうえで条件となったことがふたつある。ひとつ目は尾崎さんの所有する車が大きなものであったこと。そしてふたつ目が尾崎さんがBMX(自転車競技)などのアウトドアを趣味としており、それらに関わるモノを収納するスペースや車に運ぶ動線等を考慮する必要があったことである。この2点を踏まえて、敷地の中で車の駐車や趣味のためのスペースと生活そのもののスペースを併行して組み立てていった。
この結果、全体としては四角い敷地の中に壁面を振った母屋と収納庫を配置し、残された“隙間”を駐車場や庭とする計画となった。
この結果、全体としては四角い敷地の中に壁面を振った母屋と収納庫を配置し、残された“隙間”を駐車場や庭とする計画となった。
内部空間も“隙間”というコンセプトで構築されている。「ご家族が一番長い時間を過ごすLDK空間。これをどのようにデザインすべきか検討を重ねた結果、まずLDK以外に必要な個室を2階に確保して、残りの“隙間”をすべてLDK空間とするかたちで設計してみました。こうすることで廊下など、不要な空間が省かれた住まいがつくれるのではないかと考えたわけです。」(土田さん)
2階の北東側は寝室。
同じく2階の北西側(ダイニングの上部)は子ども部屋。
大小さまざまなかたちで構築された“隙間”が、この住まいを魅力的なものにしている。
次にこの家の中心となる1階のLDK空間を見てみよう。
まずは外部の“隙間”によって生まれた庭に面したリビングスペース。
まずは外部の“隙間”によって生まれた庭に面したリビングスペース。
「最初に尾崎さんから伺った中に“外でビールを飲むのが大好き”という話がありました。普通はそれを庭で実現しますが、ここでは面積上、大きな庭を確保することができなかったので、このスペースを縁側的な、内と外の中間領域にできないかと考えました。庭に繋がる開口やカーテンを開けたり閉めたりすることで、庭とこのリビングスペース、そして奥のダイニングスペースの関係性がさまざまに変化して楽しめるのではないかと考えました。」(土田さん)
土間空間は尾崎さんご夫婦が希望したもののひとつ。このお宅の地下土壌には配線が施されており、冬期はこれで土を温めることによって、住空間に自然な温かさをもたらす。
また建物の構造は在来の木造である。吹き抜け側の壁面(写真奥)は垂直方向の柱を増やすことで十分な強度を確保している。
ダイニングスペースからも緑が楽しめる窓など、開口の位置や高さは尾崎さんご夫婦と土田さんが相談しながら決めていった。
また建物の構造は在来の木造である。吹き抜け側の壁面(写真奥)は垂直方向の柱を増やすことで十分な強度を確保している。
ダイニングスペースからも緑が楽しめる窓など、開口の位置や高さは尾崎さんご夫婦と土田さんが相談しながら決めていった。
「空が見られる窓が欲しい」というのは尾崎さんの強い希望だった。
さて、この魅力溢れるLDK空間の中でも特に興味深いのが、このダイニングスペースである。
「ダイニングスペースの天井は2,100mmとあえて低く設定しています。これは昔の日本家屋で用いられていた寸法で、現在ではほぼ使われていません。これはリビングスペースの平面、そして断面に抜けた広がりを感じていただくためです。また人が落ち着いて留まる場所には天井や壁など、何かよりどころが必要です。だからここは尾崎さんご家族が食事やお茶を楽しみながら多くの時間を過ごす住まいの中心としてデザインしました」。(土田さん)
確かにここに座ると、テーブルを囲む人たちと場を共有している感じを覚える。これが2,200mmだとまた違う感覚になる、という土田さん。2,100mmというのは日本の住宅スケールにおいて、窮屈さを感じることなく落ち着く絶妙の高さだそうだ。
「ダイニングスペースの天井は2,100mmとあえて低く設定しています。これは昔の日本家屋で用いられていた寸法で、現在ではほぼ使われていません。これはリビングスペースの平面、そして断面に抜けた広がりを感じていただくためです。また人が落ち着いて留まる場所には天井や壁など、何かよりどころが必要です。だからここは尾崎さんご家族が食事やお茶を楽しみながら多くの時間を過ごす住まいの中心としてデザインしました」。(土田さん)
確かにここに座ると、テーブルを囲む人たちと場を共有している感じを覚える。これが2,200mmだとまた違う感覚になる、という土田さん。2,100mmというのは日本の住宅スケールにおいて、窮屈さを感じることなく落ち着く絶妙の高さだそうだ。
プロジェクト当初に出した要望の中で、尾崎さんご夫婦が最も重視したのが、“子どもが出かけたり、帰宅した際に必ず顔を合わせること”であったという。このため、玄関から2階の個室へは必ずキッチンとダイニングの前を通るプランになっている。
ここに暮らして約半年。住まい手の尾崎さんはこう語る。「毎日、自然に1階LDKのどこかで過ごしています。上は寝るだけといった感じですね。」
全体としては壁のないワンルームだが、さまざまな居場所を備えたこのLDK空間。ご家族4人がその時々、また成長に合わせて思い思いに過ごしつつ、常に家族の存在も感じることができる。
「僕は住宅のデザインが大好きです。それは、そこでご家族が長い年月を過ごし、お子さんが育つから。設計させていただくご家族の個性はそれぞれ異なりますが、その家族像を考えながら10年後、そして20年後を見据えた設計をしています。そういう意味でも住まいの中心となるLDK空間をしっかりとつくって、そこに自然と家族が集う家をつくりたいと考えています。そういう環境で育った子どもは、大きくなっても家族の大切さや絆を大切にするのではないでしょうか。もしそういうかたちでご家族のお役に立てるなら、これほど嬉しいことはないですね。」(土田さん)
全体としては壁のないワンルームだが、さまざまな居場所を備えたこのLDK空間。ご家族4人がその時々、また成長に合わせて思い思いに過ごしつつ、常に家族の存在も感じることができる。
「僕は住宅のデザインが大好きです。それは、そこでご家族が長い年月を過ごし、お子さんが育つから。設計させていただくご家族の個性はそれぞれ異なりますが、その家族像を考えながら10年後、そして20年後を見据えた設計をしています。そういう意味でも住まいの中心となるLDK空間をしっかりとつくって、そこに自然と家族が集う家をつくりたいと考えています。そういう環境で育った子どもは、大きくなっても家族の大切さや絆を大切にするのではないでしょうか。もしそういうかたちでご家族のお役に立てるなら、これほど嬉しいことはないですね。」(土田さん)
ユニークなアプローチからシンプルなかたちにまとめられたプラン。しかしとても深い懐を備えた住まいである。
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