Houzzツアー:和紙に包まれた、美しく年を重ねる家
ご実家の離れを、新婚夫婦のライフスタイルに合うようリノベーション。和紙や木や石、日本建築の魅力を生かした美しい家。
Miki Anzai
2015年12月16日
かつて日本の家屋は、この国の風土に根ざした「木と紙」でできていた。植物に由来する素材は建物を呼吸させ、温度や湿度を調節してくれる。そしてなによりも、目に穏やかな空間を創り出す。日本建築の素材である「紙」「木」「土」「石」を使って、「経年に美しく年を重ねる家しかつくりたくない」と宣言する建築デザイナーの藤村正継さんがデザインした、天井、壁、障子のすべてに和紙を使った三重県伊賀の家だ。
どんなHouzz?
大規模リノベーション住宅
所在地:三重県伊賀市
居住者:若いN夫妻、子ども1人(0歳)
設計: CN-JAPAN/株式会社クリエイティブネットワーク 藤村正継さん
構造:RC造 2階建て
延床面積:134.64 平方メートル(1F 62.37平方メートル 2F 72.27平方メートル)
施工:有限会社あさだ建築
竣工:2015年8月
どんなHouzz?
大規模リノベーション住宅
所在地:三重県伊賀市
居住者:若いN夫妻、子ども1人(0歳)
設計: CN-JAPAN/株式会社クリエイティブネットワーク 藤村正継さん
構造:RC造 2階建て
延床面積:134.64 平方メートル(1F 62.37平方メートル 2F 72.27平方メートル)
施工:有限会社あさだ建築
竣工:2015年8月
このお宅は、もともとご主人のご実家の裏にあった使われていない離れを、「結婚を機に改装して住んではどうか?」と提案され、大規模にリノベートしたもの。建物は、以前も住居だったため、旧和室の天井は大板張りで、壁もクロス仕上げだった。若夫婦が住みやすいようにと、窓、玄関の位置、大きさ、素材とも新しくして、間取りも変更した。そのためスケルトン状態にして、断熱材を吹き付け、下地を造るところから仕上げている。
天井、壁面の全般を和紙にすることは藤村さんからの提案だ。全て、東リ株式会社の和紙ウォールを900㎜×900㎜にカットし、重ね貼りしている。そして特別に、この2階リビング西壁面(写真左)には、ロクタ手漉き紙(ネパール産)450㎜×450㎜を重ね貼りしている。ロクタ手漉き紙は、100年耐久があると言われているだけでなく、不燃加工もされており、VOC(揮発性有機化合物)の対策面でも安全だ。
本来は、純粋な国産和紙を使いたいところだが、「国産和紙はまだ不燃加工があまり進んでおらず、インテリアに使用するのには、二次加工を要する」ため断念したという。「その辺りが改良されれば、国産和紙のインテリア使用がもっと増えると思う」と藤村さんは語る。
本来は、純粋な国産和紙を使いたいところだが、「国産和紙はまだ不燃加工があまり進んでおらず、インテリアに使用するのには、二次加工を要する」ため断念したという。「その辺りが改良されれば、国産和紙のインテリア使用がもっと増えると思う」と藤村さんは語る。
こちらは1階の和室。東壁面(写真左)に、同じサイズのロクタ手漉き紙を重ね貼りしている。この和室に使用したブルーの和紙は、畳の色ともバランスを取って「静寂」を表現している。一方、上で紹介した2階リビングのレッドの和紙は、太陽のような「活性」を表現しているそうだ。
当然、和紙は縮むので、そのことにも留意して貼りつけている。下地には墨を打ち、埃が積もらないように、下から貼り、左右は太陽光の入る反対側から貼り上げている。
ちなみに、全室ともフローリングは、天然杉無垢板(厚さ30㎜)を天然オイル仕上げして使用している。しかし、この部屋にだけ畳部分を設置したのは、設計の打ち合わせ段階で奥様の妊娠がわかり、「赤ちゃんのおむつ替えなどの場所として必要」ということで設置したという。「竣工後に無事出産され、3人で住んでいただけているのが何よりもうれしい」と藤村さん。
当然、和紙は縮むので、そのことにも留意して貼りつけている。下地には墨を打ち、埃が積もらないように、下から貼り、左右は太陽光の入る反対側から貼り上げている。
ちなみに、全室ともフローリングは、天然杉無垢板(厚さ30㎜)を天然オイル仕上げして使用している。しかし、この部屋にだけ畳部分を設置したのは、設計の打ち合わせ段階で奥様の妊娠がわかり、「赤ちゃんのおむつ替えなどの場所として必要」ということで設置したという。「竣工後に無事出産され、3人で住んでいただけているのが何よりもうれしい」と藤村さん。
2階のリビングを違う角度から見てみると、太鼓張りを施した内障子がプライバシー確保に役立っているのがわかる。左右につけられた塵落とし(切引手)は、藤村さんが手がける障子では当たり前の処置だが、特に和風建築には取り入れたい細やかな要素といえるだろう。
当初、N夫妻はLDKを1階にしたいと考えていたという。しかし、藤村さんは建物を見た瞬間、「RC造の梁間をうまく活かし、気持ちよい空間を創造するためには、2階にLDK、1階に個室というアイデアが浮かんだ」という。
そのプランはすぐに受け入れられ、このように昼間の滞在時間が長いLDKが、広く、明るく、心地よい空間として誕生した。
写真からもわかるように、空間を細かく区切らずに、マルチにコミュニケーションのとりやすいレイアウトにしているのも特長だ。
そのプランはすぐに受け入れられ、このように昼間の滞在時間が長いLDKが、広く、明るく、心地よい空間として誕生した。
写真からもわかるように、空間を細かく区切らずに、マルチにコミュニケーションのとりやすいレイアウトにしているのも特長だ。
こちらは2階の階段上から見た1階の窓部分。もともとあった窓だが、フレームが隠れるようにコンパクトにして、飾り棚のバックから自然光が入るようにしている。
玄関、水まわり、リビングに使用した御影石も、この住宅の大きなアクセントになっている。
家具選びに関しても、藤村さんはN夫妻と一緒にショールームなどへ出向き、注文したという。内装の基本のベースを和紙にすることで、自然と和やかな気分になれる家具を選ぶことになっていったそうだ。このテーブルも特注で、無垢板を加工したもの。その甲斐あって、新婚のN夫妻は「家にいると、優しくなれる」と喜んでいる。
また、奥の和紙の壁を引き立たせているのが間接照明だ。LED光源を使用しているが、メーカーの間接照明器具をそのまま使うと住宅には明る過ぎるため、LED球をレセップ(ソケットにつばを付け直接ねじでとりつける)加工して、配灯している。これは藤村さんが独自に考案した手法だ。市販の間接照明は、光源がわからないように連続型で開発されているので、そのまま、この部屋の長い堀上げ天井部分に設置すると、かなりの照度になってしまう。ソケットをつけて、エコかつ心地よい明るさを創り出した。
また、奥の和紙の壁を引き立たせているのが間接照明だ。LED光源を使用しているが、メーカーの間接照明器具をそのまま使うと住宅には明る過ぎるため、LED球をレセップ(ソケットにつばを付け直接ねじでとりつける)加工して、配灯している。これは藤村さんが独自に考案した手法だ。市販の間接照明は、光源がわからないように連続型で開発されているので、そのまま、この部屋の長い堀上げ天井部分に設置すると、かなりの照度になってしまう。ソケットをつけて、エコかつ心地よい明るさを創り出した。
外観には大きな改修は施していない。当初は、アルミの打ち抜き素材で全体を包み、窓際の温熱環境を向上させ、省エネを図るダブルスキンにするデザインを提案したが、コスト面で折り合いがつかなかったという。とはいうものの、寝室の細長い窓は、もともと入口だった開口部を壁面化して横長の窓に。玄関部分は開口を広くし、玄関建具が重いので無垢板の上下に反り止め加工し、フロアヒンジで開閉させている。その横の壁面も撤去し、淡い光を通す半透明のタペガラスをはめ、自然光を取り入れるなど随所に工夫をこらしている。
藤村さんは、和紙はもちろんのこと、自然素材をはじめとする経年に美しく年を重ねる素材を意識して、積極的に使用しているという。
「日本国土の70%を占める森林、木材や自然素材をもっと使う工夫を設計者はするべきだと思う」と語る。特に、「和紙、唐紙は、よく使うインテリア材料だが、使うとやはり空間が和むし、木との相性もいいようだ」とのこと。
「日本国土の70%を占める森林、木材や自然素材をもっと使う工夫を設計者はするべきだと思う」と語る。特に、「和紙、唐紙は、よく使うインテリア材料だが、使うとやはり空間が和むし、木との相性もいいようだ」とのこと。
すべての素材にこだわり抜く藤村さん。施主のご夫妻からも厚い信頼を寄せられ、提案した設計プランのほとんどが採用されて完成した「和紙に包まれた家」。
用の面でも、美の面でも日本の暮らしに根づいていた和紙が、今、N夫妻に心の安らぎをもたらしてくれている。
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