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Houzzツアー:まるで公園が庭のような、すべての部屋から緑が望める家
隣接する公園の木々の緑の景観を最大限に取り入れ、採光や通風の面でよいとは言えない西向きという条件も設計により見事にクリア。自然を愛でる豊かな暮らしを実現した、築28年のマンションリノベーション。
Nayo Suzuki
2016年5月10日
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける。趣味はインテリアとアート鑑賞。
ライター&エディター。建築・インテリアを学んだ後、インテリアデコレーターとして働きながら、インテリアのライター業をスタート。現在はライター&エディター業に専念し、雑誌のインテリアページ、カタログ、書籍などを手がける... もっと見る
新緑の美しい季節の到来である。窓から見えるのが緑だけ……などという暮らしは、都会ではなかなか実現しない永遠の憧れだ。しかしながら、都内にあるこの家のどの部屋からも見えるのは、青々と葉を茂らせた公園の深い緑のみ。見事な借景である。「目の前の公園は落葉樹が多いので、冬は陽射しが室内まで射し込んで暖かく、夏は西日を遮ってくれます」とtenjin studio代表の加藤さん。加藤さんが家族と暮らすのは、URが35年近く前に開発した公園都市内のマンションである。緑も街も成熟し、学校や保育施設が隣接する、子育てに最適な暮らしやすい環境が気に入って、同じ街の賃貸住宅から、リノベーション前提で築28年の物件を購入した。決め手は目の前に公園があり、すべての居室の窓から公園の緑が見える間口の広い住戸だったから。ただし、窓は西向き。「一般的なマンションの間取りとは異なりますし、西向きで、普通の人はちょっと購入するのを躊躇するような物件だったかも知れません」と笑う加藤さん。この家が持つそんな個性を生かし、自らの設計によりリノベーションを実施した。
どんなHouzz?
家族構成:夫婦(40代)、息子2人(5歳、1歳)
所在地:東京都練馬区
延床面積:90.57平方メートル バルコニー面積23.74平方メートル
構造:SRC造
竣工:2013年
建築設計:tenjin studio
施工管理:株式会社 TH-1
どんなHouzz?
家族構成:夫婦(40代)、息子2人(5歳、1歳)
所在地:東京都練馬区
延床面積:90.57平方メートル バルコニー面積23.74平方メートル
構造:SRC造
竣工:2013年
建築設計:tenjin studio
施工管理:株式会社 TH-1
まず、天井を取り払い、既存の躯体部分や配管などをむき出しにした。さらに既存のクッションフロアの上に、厚さ21mmの無垢のフレンチパイン材のフローリングを敷き、床から大梁の下までの壁を杉板張りに。この板壁が、加藤さんいわく「一筆書きのように」室内の壁をぐるりと覆っている。板壁とフローリングはテラスにまで及び、内外の空間に一体感をもたらしている。つまり加藤さんが試みたのは、公園の豊かな緑と家やテラスとがつながるようなしかけ。壁と床が木材で覆われた空間は、まるで自然の中の別荘にいるような心持ちにもなれ、窓の外の景色とも違和感なくなじみ、緑をより美しく見せている。テラスにも植物を植えたことで、公園の木々が近くにぐっと引き寄せられた感じさえする。
床から大梁の下までの高さ190cm、この部分の壁が杉板張りとなっている。オーク材のダイニングテーブルは〈カンディハウス〉のもの。合わせた椅子は〈イームズ〉のシェルチェア、〈イデー〉のバーバスチェア、〈ジャスパー・モリソン〉の《HAL》、北欧のヴィンテージなど。
キッチンからも、ダイニング越しに緑が見える。子育ての真っ最中で多忙な奥さまは「ダイニングに座ってコーヒーを飲み、天気や季節の移ろいを眺めている時間がいちばん好き」だとか。
リノベーション前とキッチンなど水まわりの位置はほぼ変えていない。「どちらかといえばキッチンは隠したい」という奥さまの意向と、玄関まわりの収納スペースを確保するために、カウンターの向きを変えて設計。造作キッチンで、天板とシンクは人造大理石(〈デュポン〉社製コーリアン)、壁には奥さまの希望で、メトロタイルのようなデザインの〈名古屋モザイク工業〉のタイルを張っている。レンジフードは梁下に収まる〈富士工業〉のものを選んだ。
シンク上部には奥さまがオープン棚をリクエスト。食洗機で洗った食器をすぐにしまえるような動線になっている。水栓はビルトインタイプの家庭用浄水器で、〈グローエ〉と〈クリンスイ〉との共同開発。
玄関からリビングに向かう廊下部分。左側の壁の内部は靴やコートをしまう玄関クローゼットと納戸になっている。玄関からは靴のまま納戸に入れ、リビングまで通り抜けられる。サーフボードやベビーカーや遊具などをしまう場所として便利だとか。
玄関クローゼット内部。家族4人分のコートや靴が収納されている。高さ190cmの壁の上にできたすき間から光が射し込み、明るいうえに閉塞感も感じない。
リビングの隣にある主寝室。個室内の壁は白塗装にし、パブリックスペースとは印象を変えている。手持ちのシングルとセミダブルのマットレスを並べてのせられるような、風通しのよい収納付きベッドを大工さんにつくってもらった。収納量がとても多く、布団などをしまうのに重宝しているとか。寝室はリビングからと廊下からアプローチできるようになっていて「子供たちが走り回っています」と奥さま。
壁の高さが190cmゆえ、梁のない部分には隙間ができる。主寝室も壁2面の上部に隙間ができており、これによって風が通り、光が廊下まで射し込むように。採光や通風の面では決して条件のよくない西向きの家に、きちんと光や風がまわるように考えられた工夫である。睡眠時は遮光のためにカーテンを閉められるようにした。
寝室の隣はスタディルーム。大梁と柱のくぼみを利用して本棚をつくった。大きな机は〈東急ハンズ〉で購入した脚に合板をのせて製作したもの。2人の息子さん達が将来、ここに並んで勉強をする予定。
構造壁に囲まれて、手を加えられなかったいちばん端の部屋。撮影当時は加藤さんの仕事部屋だったが、現在は2段ベッドを置き、息子さん達の部屋となっている。北西の角部屋だが、2方向に窓があり、安定した光が差し込む気持ちのよい空間。この部屋だけ床材を変えた。
ダイニングの傘付きの照明やこの写真のものなど、家じゅうで灯される味わいのある照明たちは、古道具店にオーダーしたもの。
テラスの床はフレンチパイン、壁は杉板と、室内と同じ木材を貼って空間がつながるような工夫も。「ここで植物の世話をしている時間が好き」と加藤さん。オリーブやブルーベリー、ハーブや季節の野菜を植え、育てるのが自宅での息抜きの時間となっている。
「設計するときは、その土地の光や風、地形、周囲の建物などを肯定的にとらえ、それをお施主さんの希望とすり合わせて、取り入れるようにしています。素材はできる限り本物を使うように。そうすると住宅が豊かになります」と加藤さん。自らも自然素材に囲まれ、緑を愛でる豊かな暮らしを日々体感しているからこそ、その言葉には説得力がある。
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