ぬくもりのある空間を内に秘めた「大きなテラスの小さな家」
大きなテラスから風と光をとりいれつつ、プライバシーもしっかり確保し、室内は人のぬくもりを感じさせるしつらえを実現した、居心地のよい家をご紹介します。
Naoko Endo
2016年3月28日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
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この家が建っているのは東京都内。都市部にはよくあるタイプの住宅地で、(今のところ敷地の西側は駐車場だが)道路に接した北側を除いた三方が隣の家に囲まれている。敷地は地区の行政が定めた最小面積の基準をわずかに越える70平方メートル強、その約半分をガレージとテラスに割いた住まいである。
施主が第一に希望した「たっぷりと広い屋外空間」を叶えたかたちだが、室内は丸見えにならないのだろうか? いったい何階建てなのだろう? 見る側の想像をあれこれとかきたて、強いインパクトをもっているが、この家の真の魅力は、写真や往来からの眺めだけではわからない。
施主が第一に希望した「たっぷりと広い屋外空間」を叶えたかたちだが、室内は丸見えにならないのだろうか? いったい何階建てなのだろう? 見る側の想像をあれこれとかきたて、強いインパクトをもっているが、この家の真の魅力は、写真や往来からの眺めだけではわからない。
どんなHouzz?
《大きなテラスの小さな家》
所在地:東京都内
居住者:30代夫婦
設計:山本卓郎建築設計事務所
規模:敷地面積70.13平方メートル(約22.12坪)
竣工年:2015年4月
日本の戸建物件のセオリーでは、日当たりの良い南側全面にテラスをもってくることが多い。だがこの家の場合、すぐ目の前に隣の家の壁があるので好ましくない。施主の希望には快適さが不可欠と考えた設計者が導き出したプランは、敷地の片側に寄せて、南北に大きく"抜け"をつくるというもの。立体的にも家の半分近くを占め、かなり大胆な配分と言える。最も日射がある空間をテラスとして確保したものだ。
《大きなテラスの小さな家》
所在地:東京都内
居住者:30代夫婦
設計:山本卓郎建築設計事務所
規模:敷地面積70.13平方メートル(約22.12坪)
竣工年:2015年4月
日本の戸建物件のセオリーでは、日当たりの良い南側全面にテラスをもってくることが多い。だがこの家の場合、すぐ目の前に隣の家の壁があるので好ましくない。施主の希望には快適さが不可欠と考えた設計者が導き出したプランは、敷地の片側に寄せて、南北に大きく"抜け"をつくるというもの。立体的にも家の半分近くを占め、かなり大胆な配分と言える。最も日射がある空間をテラスとして確保したものだ。
この大空間は、陽光と風という、都市部の住宅地では得がたい自然の恵みを室内に届けてくれる。とはいえ、テラスを広くとれば、その分だけ内部空間は削られる。このジレンマに施主夫妻と共に向き合った、建築家の山本卓郎氏に当時の話を聞いた。
「内と外の空間を等しく大事に扱うという私たちの設計手法と、夫妻が望んだ暮らしと、設計する側と建てる側とで立場は違いましたが、基本的な方向性は一致していました。設計を依頼されたのもそのことが大きかったと思います。内と外の”陣地とり”はギリギリまで続き、5センチ単位でスタディを行ないました」
テラスの広さは17.86平方メートル、屋根までは約5メートルもの高さがある。この開放感を遮らないよう、落下防止用の柵はワイヤーとしている。
レッドシダーを張ったデッキに腰を下ろせば、視界はさらに広がり、”外”に居ながらにしてプライベート感が強まる。北側の道路からこの家を見上げても、地上からデッキの上端まで約3.8メートルと高く、隣家の2階より高く上がっているため、大事なプライバシーを守ることができるのだ。
レッドシダーを張ったデッキに腰を下ろせば、視界はさらに広がり、”外”に居ながらにしてプライベート感が強まる。北側の道路からこの家を見上げても、地上からデッキの上端まで約3.8メートルと高く、隣家の2階より高く上がっているため、大事なプライバシーを守ることができるのだ。
最大の課題は、建物の約半分のボリュームに、日常の居住空間をどう配置するか。軒高は構造上の制約がかかってくるのを避けるために9メートルを超したくない。敷地境界線と前面道路からセットバックする必要もあった。だが、山本氏はこれらの条件を前に奮い立った。
「独立前に所属した設計事務所ではいわゆる狭小住宅が多く、敷地面積15.5坪の現場を担当したこともありました。独立後は土地に余裕のある地方での計画が続きましたが、いずれは都市型住宅を設計したいと思っていました」(山本氏談)
「独立前に所属した設計事務所ではいわゆる狭小住宅が多く、敷地面積15.5坪の現場を担当したこともありました。独立後は土地に余裕のある地方での計画が続きましたが、いずれは都市型住宅を設計したいと思っていました」(山本氏談)
下から上にレイアウトを追うと、地下室扱いにならないレベルで1階を掘り下げ、バスルーム、洗面所、トイレ、寝室を配置。階段を上がった2階がキッチンとダイニングとリビングをまとめた一室空間。その上に夫妻の寝室と書斎がある。以上の3階てだが、実はもうひとつ、この家には外観からは全くわからない”秘密の小部屋”が存在する。1階と2階の間、吹き抜けの玄関に面して丸窓をつけた収納庫だ。
収納庫への出入りは、階段の途中から。引出収納になっている階段の一部を奥に押し込むと、”隠し扉”が現れる。
内部の天井高は1.4メートルに満たないため、法規上は階数にカウントされない。ここに収納を集約し、ほかの部屋のスペースを拡充している。
空間を拡げる工夫は建物の構造でも。床下の基礎を鉄筋で入念に補強し、構造となる木材の一部を鉄骨で補強することで梁の高さを抑え、床の厚みを薄くしている。各室の天井が高くなり、外観においても、テラスを含めた建物全体を軽快に見せる効果がある。「外観および法規では3階建てのハコに、いかに4つの層を構成するか、今回の設計のもうひとつのテーマでした」と山本さん。
片開きの窓を大きく開け放てば、内と外とがひとつながりになる2階のリビング。相乗効果を上げているのが、床のヘリンボーンだ。外部に視線を誘導するような向きで貼られている。
「施主からの要望には、広いテラスと並んで、新築だけれどもちょっと古びた感じの住まいにしたいというものがありました。施主のイメージはパリのアパルトマン。自然にエイジングして味わいが出てくる素材を施主と一緒に選びました。外の壁も、写真では無機質に見えるかもしれませんが、表面が微妙にザラついたリシン吹き付けで、どことなくあたたかみが感じられる仕上げにしています」(山本氏談)。
「施主からの要望には、広いテラスと並んで、新築だけれどもちょっと古びた感じの住まいにしたいというものがありました。施主のイメージはパリのアパルトマン。自然にエイジングして味わいが出てくる素材を施主と一緒に選びました。外の壁も、写真では無機質に見えるかもしれませんが、表面が微妙にザラついたリシン吹き付けで、どことなくあたたかみが感じられる仕上げにしています」(山本氏談)。
リビングに据えたソファーは、アンティーク調のレザーにこだわって施主が選んだもの。フロアをぐるりと囲む低い段差は、階上に続く階段とも繋がっているが、テレビなどを置くキャビネットであり、床にぺたりと座ればテーブル代わりになり、ダイニングではベンチにもなる。
ダイニングテーブルもラワン合板の造作。2脚のチェアの背と座面の色と、ヘリンボーンの色とのバランスを考え、濃い色で塗った。ベンチに腰を下ろした際に使いやすいよう、円卓の一部を切り欠いた。
ダイニングに吊るしたペンダントも、山本氏のオリジナルデザイン。この一角にふさわしい灯りとして、《F-WHITE》でつくったものを転用した。DIYショップで買ったアルミを曲げて、その上にビスケットの型抜き用の筒をくっつけて白く塗装しただけというこの照明、山本氏は「アダムスキー型」と呼ぶ。
山本氏は空間にあわせてさまざまなインテリアをしつらえる建築家である。玄関ドア横に埋め込まれた表札と一体化した郵便受けは、山本氏の薫陶を受けた所員の力作だ。
キューブ状の把手もオリジナルで、木を加工したもの。トイレの扉の閂(かんぬき)も同様だ。「金属製のハンドルでは、施主が求めた空間の雰囲気にそぐわないので」と山本氏。スイッチプレートとピンも金属の冷たい印象を消し、白く塗って統一感を出した。
上の写真は3階の寝室。把手の取り付け位置が、扉の大きさに対してやや低いのがわかるだろうか。使いやすく、人の手が触れたときに心地良く、そして空間全体で落ち着いた雰囲気になるようにという演出である。これら施主夫妻だけが享受できる細部のデザインが、全体で「人のぬくもりが感じられる住まい」をつくり上げている。
「屋外と内部空間を等しく豊かに結んだ、念願の都市型住居が設計できました」と山本さんは胸を張る。英語では《Little House with a Big Terrace 》と訳すこの家は、海外のメディアでも取り上げられ、ホワイトキューブの外観ゆえか、いかにも日本的なミニマルな住まいとの声を散見する。だがその形容は断片的ではなかろうか。ミースが言ったとされる言葉を借りれば、”神は細部に宿る”からである。
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