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北欧の巨匠による遺作デザイン、復活・商品化をめぐって
デンマークでは、ヤコブセンやヘニングセンなど、往年の巨匠が残した図面やスケッチを元にした商品の発売が相次いでいる。生前に商品化に至らなかったものを今あえて売り出すことの是非は?
Kasper Iversen
2016年7月20日
「デンマーク・デザイン」ときいてすぐに思い浮かぶのは、アルネ・ヤコブセン、ハンス・J・ウェグナー、ポール・ヘニングセンといった、1950〜60年代の家具と照明の名デザイナーたちだ。デンマークでは、現在多くの若手デザイナーたちが活躍している一方で、往年の巨匠たちによる「新商品」の発売が相次いでいる。
デザインの権利継承者やメーカーが、ミッド・センチュリーデザイン人気の波に乗じて、巨匠たちの デザイン・アーカイブからパターンやスケッチや図面を掘り起こし、復活・商品化して売りだしているのである。
名デザイナーが手がけた製品に対する需要は大きいが、このトレンドに対しては批判もある。すでに他界したデザイナーの図面、しかも商品化に至らなかったものを復活させるのは、本当に正しいことといえるのだろうか? 巨匠が手がけたものであれば、新しいデザイナーの作品よりもつねに優れているということにならないだろうか? もしもヤコブセンやヘニングセンが、昔の図面が突然商品化されたと知ったなら、何というだろうか?
デザインの権利継承者やメーカーが、ミッド・センチュリーデザイン人気の波に乗じて、巨匠たちの デザイン・アーカイブからパターンやスケッチや図面を掘り起こし、復活・商品化して売りだしているのである。
名デザイナーが手がけた製品に対する需要は大きいが、このトレンドに対しては批判もある。すでに他界したデザイナーの図面、しかも商品化に至らなかったものを復活させるのは、本当に正しいことといえるのだろうか? 巨匠が手がけたものであれば、新しいデザイナーの作品よりもつねに優れているということにならないだろうか? もしもヤコブセンやヘニングセンが、昔の図面が突然商品化されたと知ったなら、何というだろうか?
アルネ・ヤコブセンが〈フリッツ・ハンセン〉のためにデザインした《ドロップ・チェア》。オリジナルは1958年にデザイン・商品化された。2014年に新色、新素材で再発売
伝説的デザイナー、アルネ・ヤコブセンの孫で自身もデザイナー、金細工職人であるトビアス・ヤコブセンは、祖父のデザイン遺産の継承に力を入れている。自らコンサルタントとしてメーカーに協力しつつ、祖父のアーカイブにあるスケッチを復活させ、商品化させているのだ。
伝説的デザイナー、アルネ・ヤコブセンの孫で自身もデザイナー、金細工職人であるトビアス・ヤコブセンは、祖父のデザイン遺産の継承に力を入れている。自らコンサルタントとしてメーカーに協力しつつ、祖父のアーカイブにあるスケッチを復活させ、商品化させているのだ。
アルネ・ヤコブセンのデザインによる 〈アルネ・ヤコブセン・ウレ〉の《バンカーズ・ウォール・クロック》
トビアス・ヤコブセンの目的の1つは祖父のデザインを生かし続けること。祖父が手がけた古いスケッチのパターンを元にしたテーブルクロス、リネン、タオルのシリーズは〈ジョージ・ジェンセン・ダマスク〉が商品化した。
もう1つの例が時計だ。もともとは自作の市庁舎やデンマーク国立銀行の正面壁に設置するためにデザインしたものだが、トビアス・ヤコブセンは最近、〈ローゼンダール〉と組んで、家庭用の壁掛け時計、目覚まし時計として商品化した。
トビアス・ヤコブセンの目的の1つは祖父のデザインを生かし続けること。祖父が手がけた古いスケッチのパターンを元にしたテーブルクロス、リネン、タオルのシリーズは〈ジョージ・ジェンセン・ダマスク〉が商品化した。
もう1つの例が時計だ。もともとは自作の市庁舎やデンマーク国立銀行の正面壁に設置するためにデザインしたものだが、トビアス・ヤコブセンは最近、〈ローゼンダール〉と組んで、家庭用の壁掛け時計、目覚まし時計として商品化した。
アルネ・ヤコブセンの古いスケッチにあった模様を使ったテーブルクロス。〈ジョージ・ジェンセン・ダマスク〉
アルネ・ヤコブセンが〈ホルムガード〉のためにデザインした《ロイヤル・グラス》
「1960年にアルネがコペンハーゲンで手がけた世界初のデザイナーズホテル、SASロイヤルホテルのためにデザインした《ロイヤルグラス》シリーズも、再発売しました。ワイングラスはSASホテル用に限定生産されたものでしたが、今回、〈ホルムガード〉が再生産に踏み切ってくれたのです。デザイナーや建築家の目で見れば、このグラスのデザインには、《エッグチェア》や《スワンチェア》はもちろん、ドアノブやスープスプーンのデザインの片鱗をみることができます」
「1960年にアルネがコペンハーゲンで手がけた世界初のデザイナーズホテル、SASロイヤルホテルのためにデザインした《ロイヤルグラス》シリーズも、再発売しました。ワイングラスはSASホテル用に限定生産されたものでしたが、今回、〈ホルムガード〉が再生産に踏み切ってくれたのです。デザイナーや建築家の目で見れば、このグラスのデザインには、《エッグチェア》や《スワンチェア》はもちろん、ドアノブやスープスプーンのデザインの片鱗をみることができます」
〈ローゼンタール〉の《アルネ・ヤコブセン・ウレ》シリーズから発売された、アルネ・ヤコブセンによる《バンカーズ・ウォール・クロック》
「私もデザイナーですから、デザインを売り、商品化することに伴う苦労はよく知っています。それに比べれば、アルネの作品を売ることははるかに楽。私にとって、面白くもあり、驚きでもあります。復活させた祖父のデザインはとても人気が高いんです」とトビアス・ヤコブセンは語る。
「祖父の残した “金鉱” からデザインを発掘しては商品化するのは、とても簡単で単純なビジネスなんだろうな、と思われているのでしょうね。でも、実際には、いろいろと細やかな配慮が必要なんです」とトビアスは続ける。
「これまで、アーカイブからは180以上の新しいパターンが見つかっていますし、新たなデザインも次々と出てきます。これらをどう取捨選択するのか。評価と選択はまったく簡単ではありません。祖父の作品のほとんどは世に出す価値があるものですが、でも、すべてがそうというわけではありませんからね。たとえば、動物モチーフのスケッチは少し子供っぽすぎます。祖父の短所ですが、そういうものは世間に知らせる必要はありませんし、私もそうしたいとは思いません」
「私もデザイナーですから、デザインを売り、商品化することに伴う苦労はよく知っています。それに比べれば、アルネの作品を売ることははるかに楽。私にとって、面白くもあり、驚きでもあります。復活させた祖父のデザインはとても人気が高いんです」とトビアス・ヤコブセンは語る。
「祖父の残した “金鉱” からデザインを発掘しては商品化するのは、とても簡単で単純なビジネスなんだろうな、と思われているのでしょうね。でも、実際には、いろいろと細やかな配慮が必要なんです」とトビアスは続ける。
「これまで、アーカイブからは180以上の新しいパターンが見つかっていますし、新たなデザインも次々と出てきます。これらをどう取捨選択するのか。評価と選択はまったく簡単ではありません。祖父の作品のほとんどは世に出す価値があるものですが、でも、すべてがそうというわけではありませんからね。たとえば、動物モチーフのスケッチは少し子供っぽすぎます。祖父の短所ですが、そういうものは世間に知らせる必要はありませんし、私もそうしたいとは思いません」
アルネ・ヤコブセンのデザインを元にした壁紙《トラペーズ・ウォールペーパー》。〈ボラスタペーター〉が発売
さらに、オリジナルを尊重しつつデザインを現代的にアレンジするとなると、多くの手間がかかる。トビアス・ヤコブセンがスウェーデンの〈ボラスタペーター〉と協力し、壁紙として商品化したケースもそうだった。
さらに、オリジナルを尊重しつつデザインを現代的にアレンジするとなると、多くの手間がかかる。トビアス・ヤコブセンがスウェーデンの〈ボラスタペーター〉と協力し、壁紙として商品化したケースもそうだった。
アルネ・ヤコブセン のデザインを使って〈ボラスタペーター〉が製造している《イプシロン・ウォールペーパー》
「アルネの時代もそうでしたが、時間のかかる仕事です。拙速につくられた商品は、すぐに廃れてしまうし、時間をかければ、そのぶん息の長い商品になります。美しい水彩画のような色にしたくて、まさにこれだ、という印刷の質を実現するために、〈ボラスタペーター〉のスタッフと一緒に何週間も格闘しました」トビアスは話す。
しかしながら、過去のデザイナーのスケッチを復活させることに誰もが熱狂しているわけではない。デザインミュージアム・デンマークの展覧会企画および所蔵コレクションの責任者であるクリスチャン・ホルムステッド・オーレセンはこのトレンドに懐疑的だ。「当時その家具が商品化されなかった背景には、往々にして理由があるものです。多くの場合、デザイナーまたはメーカーが、商品化に至るクオリティがないと考えたわけですから」
ホルムステッド・オーレセンは、アーカイブに埋もれていた原石が見出され、よい形で製品化されるケースももちろんあるとしつつ、その逆もあると指摘する。「メーカーもユーザーも、アルネ・ヤコブセン、ウェグナー、ヘニングセンいう名前を聞いただけで、思考停止し、批判の目を完全に失ってしまい、それが本当によいデザインなのかどうかを自問することを忘れてしまう、ということもあるのではないでしょうか。となれば、巨匠の名前をありがたがっているだけにすぎません」
「アルネの時代もそうでしたが、時間のかかる仕事です。拙速につくられた商品は、すぐに廃れてしまうし、時間をかければ、そのぶん息の長い商品になります。美しい水彩画のような色にしたくて、まさにこれだ、という印刷の質を実現するために、〈ボラスタペーター〉のスタッフと一緒に何週間も格闘しました」トビアスは話す。
しかしながら、過去のデザイナーのスケッチを復活させることに誰もが熱狂しているわけではない。デザインミュージアム・デンマークの展覧会企画および所蔵コレクションの責任者であるクリスチャン・ホルムステッド・オーレセンはこのトレンドに懐疑的だ。「当時その家具が商品化されなかった背景には、往々にして理由があるものです。多くの場合、デザイナーまたはメーカーが、商品化に至るクオリティがないと考えたわけですから」
ホルムステッド・オーレセンは、アーカイブに埋もれていた原石が見出され、よい形で製品化されるケースももちろんあるとしつつ、その逆もあると指摘する。「メーカーもユーザーも、アルネ・ヤコブセン、ウェグナー、ヘニングセンいう名前を聞いただけで、思考停止し、批判の目を完全に失ってしまい、それが本当によいデザインなのかどうかを自問することを忘れてしまう、ということもあるのではないでしょうか。となれば、巨匠の名前をありがたがっているだけにすぎません」
モーエンス・ラッセンが手がけた《キュバス・キャンドルホルダー》 。オリジナルのデザインおよび商品化は1962年だが、近年、デザイン会社 〈バイラッセン〉 が新色として、白、クロム&ブロンズを発表
フィン・ユール が手がけた《ペリカンチェア》。オリジナルのデザインおよび発売は1940年。2001年に〈ワンコレクション〉が再発売
また、ホルムズ・オーレセンによれば、こうしたトレンドはメーカーの怠慢、無難指向、想像力の欠如を示すものであり、往年の巨匠をこんなふうに崇拝しつづけていれば、若いデザイナーの活躍の場を奪うことになると考えている。
「デザインは時代を映す鏡であるべきです。デザインが現代の素材や機能を使って発展しないのであれば、美術館と同じことになり、デンマークが国際的なデザイン先進国でありつづけることは不可能になります」とホルムステッド・オーレセンは言う。
「1950年代にデンマークのデザインは大きな成功をおさめましたが、その理由の1つは、当時のメーカーには進んでリスクをとる気概があったこと。同族経営のメーカーがデザインや家具に対して情熱をもって取り組んでいました。翻って、今日の多くのメーカーを見ていると、商業的関心があるばかりで、家具への思いが感じられません」
また、ホルムズ・オーレセンによれば、こうしたトレンドはメーカーの怠慢、無難指向、想像力の欠如を示すものであり、往年の巨匠をこんなふうに崇拝しつづけていれば、若いデザイナーの活躍の場を奪うことになると考えている。
「デザインは時代を映す鏡であるべきです。デザインが現代の素材や機能を使って発展しないのであれば、美術館と同じことになり、デンマークが国際的なデザイン先進国でありつづけることは不可能になります」とホルムステッド・オーレセンは言う。
「1950年代にデンマークのデザインは大きな成功をおさめましたが、その理由の1つは、当時のメーカーには進んでリスクをとる気概があったこと。同族経営のメーカーがデザインや家具に対して情熱をもって取り組んでいました。翻って、今日の多くのメーカーを見ていると、商業的関心があるばかりで、家具への思いが感じられません」
ポール・ヘニングセンが 〈ルイスポールセン〉のために手がけた名作照明《アーティチョーク》。オリジナルは1958年に発売され、以来、現在に至るまで製造が続いている
ポール・ヘニングセン――デンマークではPHと呼ばれる――が手がけた家具も、やがて日の目を見る予定だ。ヘニングセンは《アーティチョーク》をはじめ、独特のランプシェードの照明器具で世界的に有名なデンマーク人デザイナーだが、実は家具もデザインしていた。〈トーンアート・インテリア〉がヘニングセンの家具の製造権を取得済みで、同社のディレクター兼オーナーのセーレン・ヴィンセンツ・スヴェンセンによれば、今年中に発売予定となっている。
「アーカイブの発掘を始めると、ポール・ヘニングセンは照明よりも家具をたくさんデザインしていたことがわかりました。すべて掘り起こせたかどうかは定かではありませんが、現在のところ、アームチェアからコーヒーテーブル、カンファレンステーブル、ロッキングホースまで、70点の家具のスケッチと図面が見つかっています」とヴィンセンツ・スヴェンソンは話す。
ポール・ヘニングセン――デンマークではPHと呼ばれる――が手がけた家具も、やがて日の目を見る予定だ。ヘニングセンは《アーティチョーク》をはじめ、独特のランプシェードの照明器具で世界的に有名なデンマーク人デザイナーだが、実は家具もデザインしていた。〈トーンアート・インテリア〉がヘニングセンの家具の製造権を取得済みで、同社のディレクター兼オーナーのセーレン・ヴィンセンツ・スヴェンセンによれば、今年中に発売予定となっている。
「アーカイブの発掘を始めると、ポール・ヘニングセンは照明よりも家具をたくさんデザインしていたことがわかりました。すべて掘り起こせたかどうかは定かではありませんが、現在のところ、アームチェアからコーヒーテーブル、カンファレンステーブル、ロッキングホースまで、70点の家具のスケッチと図面が見つかっています」とヴィンセンツ・スヴェンソンは話す。
〈トーンアート・インテリア〉の《PHモブラー》シリーズのために制作した《アクス・テーブル》のプロトタイプ。ポール・ヘニングセンが残した図面を元に制作された
ヘニングセンの家具に対する需要はあるのだろうか? ヴィンセンツ・スヴェンソンの答えは明快だ。「世の中にこれ以上家具は必要ありません。テーブルもチェアも溢れかえるほどありますから。でも、歴史を振り返り、過去の最良のものを見つけて、現代によみがえらせることは有益です。ここにある家具のひとつひとつに物語があり、それは私たちにとって有益ですし、面白いものでもあるのです」とスヴェンソンは言う。
《アクス・テーブル》(斧のテーブル、という意味)にも物語がある。1954年にカナダを訪れ、森で働く人々の斧にインスピレーションを受けたヘニングセンは、斧の持ち手8本を家に持ち帰り、テーブル用天板の下に置いてみた。そして、ごらんのテーブルのデザインが誕生したのである。
ヘニングセンの家具に対する需要はあるのだろうか? ヴィンセンツ・スヴェンソンの答えは明快だ。「世の中にこれ以上家具は必要ありません。テーブルもチェアも溢れかえるほどありますから。でも、歴史を振り返り、過去の最良のものを見つけて、現代によみがえらせることは有益です。ここにある家具のひとつひとつに物語があり、それは私たちにとって有益ですし、面白いものでもあるのです」とスヴェンソンは言う。
《アクス・テーブル》(斧のテーブル、という意味)にも物語がある。1954年にカナダを訪れ、森で働く人々の斧にインスピレーションを受けたヘニングセンは、斧の持ち手8本を家に持ち帰り、テーブル用天板の下に置いてみた。そして、ごらんのテーブルのデザインが誕生したのである。
〈トーンアート・インテリア〉の《PHモブラー》シリーズのために手がけたテーブルのプロトタイプ 。ポール・ヘニングセンが残した図面を元に制作された
ヘニングセンのデザインについて、ヴィンセンツ・スヴェンソンは次のように語る。「PHが1920〜1930年代にこれらの家具の図面を描いたときには、挑発的でエキセントリックすぎるデザインでした。それに、こうしたデザインを製造する道具や技術も当時はなかったので、商品化するにはコストがかかりすぎました。つまり、時代の先を行き過ぎていた、ということです」。ヘニングセンの家具デザインのなかには、プロトタイプが制作されたものやごく少ない数で生産されたものもあるが、それ以外は図面が描かれるのみにとどまった。
ヘニングセンのデザインについて、ヴィンセンツ・スヴェンソンは次のように語る。「PHが1920〜1930年代にこれらの家具の図面を描いたときには、挑発的でエキセントリックすぎるデザインでした。それに、こうしたデザインを製造する道具や技術も当時はなかったので、商品化するにはコストがかかりすぎました。つまり、時代の先を行き過ぎていた、ということです」。ヘニングセンの家具デザインのなかには、プロトタイプが制作されたものやごく少ない数で生産されたものもあるが、それ以外は図面が描かれるのみにとどまった。
〈トーンアート・インテリア〉の《PHモブラー》シリーズのために手がけたテーブルのプロトタイプ 。ポール・ヘニングセンが残した図面を元に制作された
ヴィンセンツ・スヴェンソンがヘニングセンの家具デザインにのめりこむようになったのは、数年前、ヘニングセンが1931年に描いたグランドピアノのスケッチを目にしたのがきっかけだった。彼は家具の製造権を獲得し、製造に動き出した。年内には、PHがデザインした家具の第1作を発売する。第一弾として、10〜15アイテムのシリーズを展開する予定だ。
「重要なのは、復活させるにふさわしい家具を選ぶこと。デンマークの文化遺産を未来に継承するだけでは十分ではありません。今日の需要や販売可能性にあった製品である必要があります」とヴィンセンツ・スヴェンソンは言う。ヘニングセンが残したスケッチの多くは木製家具であり、今の需要にもあっています」とヴィンセンツ・スヴェンソンは話す。
ヴィンセンツ・スヴェンソンがヘニングセンの家具デザインにのめりこむようになったのは、数年前、ヘニングセンが1931年に描いたグランドピアノのスケッチを目にしたのがきっかけだった。彼は家具の製造権を獲得し、製造に動き出した。年内には、PHがデザインした家具の第1作を発売する。第一弾として、10〜15アイテムのシリーズを展開する予定だ。
「重要なのは、復活させるにふさわしい家具を選ぶこと。デンマークの文化遺産を未来に継承するだけでは十分ではありません。今日の需要や販売可能性にあった製品である必要があります」とヴィンセンツ・スヴェンソンは言う。ヘニングセンが残したスケッチの多くは木製家具であり、今の需要にもあっています」とヴィンセンツ・スヴェンソンは話す。
アルネ・ヤコブセン が〈ステルトン〉のために手がけた《シリンダライン》のティーアンドコーヒーサービス
一方で、ヤコブセンの権利継承者であるトビアス・ヤコブセンは、昔のデザインを今になって販売することについて、何の問題ないとしている。現代のデザイナーでは世間の期待に応えられない何かが、巨匠たちのデザインの中にあると考えているからだ。
「つい最近、ウィル・スミス主演の近未来映画『アイ,ロボット』を観たんです。2035年を舞台にした映画ですが、どんなマグカップが使われていたと思いますか? アルネ・ヤコブセンの〈ステルトン〉シリーズです。それに、カトラリーは〈ジョージ・ジェンセン〉でした。未来を描く映画なのに祖父の古いデザインを使ったんですよ。つまり、アルネが時代の先を行き、今日のデザインをしのぐ存在であり続けていることを示していますよね。」
しかし、今は亡きデザイナーたちの名前を新商品に冠するのは倫理的に正しいことなのだろうか?彼らがもし生きていたら、なんと言うだろうか?
「そういう疑問がわくのは、もちろん理解できます。でも、ポール・ヘニングセンがどう思うかは、結局のところ知りようがないのも事実です。」とヴィンセンツ・スヴェンソンはいう。「彼がたいへんなエネルギーをこめて図面を制作したのは疑いありませんし、商品化されなかったのは本人の責任というより、当時の需要にあわなかったのが原因です。オリジナルデザインに沿って製作し、権利継承者との関係が良好であれば、問題にはならないと考えます」
一方で、ヤコブセンの権利継承者であるトビアス・ヤコブセンは、昔のデザインを今になって販売することについて、何の問題ないとしている。現代のデザイナーでは世間の期待に応えられない何かが、巨匠たちのデザインの中にあると考えているからだ。
「つい最近、ウィル・スミス主演の近未来映画『アイ,ロボット』を観たんです。2035年を舞台にした映画ですが、どんなマグカップが使われていたと思いますか? アルネ・ヤコブセンの〈ステルトン〉シリーズです。それに、カトラリーは〈ジョージ・ジェンセン〉でした。未来を描く映画なのに祖父の古いデザインを使ったんですよ。つまり、アルネが時代の先を行き、今日のデザインをしのぐ存在であり続けていることを示していますよね。」
しかし、今は亡きデザイナーたちの名前を新商品に冠するのは倫理的に正しいことなのだろうか?彼らがもし生きていたら、なんと言うだろうか?
「そういう疑問がわくのは、もちろん理解できます。でも、ポール・ヘニングセンがどう思うかは、結局のところ知りようがないのも事実です。」とヴィンセンツ・スヴェンソンはいう。「彼がたいへんなエネルギーをこめて図面を制作したのは疑いありませんし、商品化されなかったのは本人の責任というより、当時の需要にあわなかったのが原因です。オリジナルデザインに沿って製作し、権利継承者との関係が良好であれば、問題にはならないと考えます」
ポール・ケアホルムが〈フリッツ・ハンセン〉のために手がけた1956年制作の《PK22》ラウンジチェア、1957年制作の《PK80》デイベッド
クリスチャン・ホルムステッド・オーレセンによれば、デザイナーたちのなかには、死後の作品の扱いについて生前からいろいろと考えていた人もいるという。例えば、デンマーク人家具デザイナーのポール・ケアホルムは、死ぬ前にスケッチや図面を破棄し、死後に遺作を利用させないようにした。一方、ハンス・J・ウェグナーは、すぐに商品化可能な2000種類の家具のスケッチを、亡くなる前に秘匿した。
名作家具:ポール・ケアホルムの《PK-22》
クリスチャン・ホルムステッド・オーレセンによれば、デザイナーたちのなかには、死後の作品の扱いについて生前からいろいろと考えていた人もいるという。例えば、デンマーク人家具デザイナーのポール・ケアホルムは、死ぬ前にスケッチや図面を破棄し、死後に遺作を利用させないようにした。一方、ハンス・J・ウェグナーは、すぐに商品化可能な2000種類の家具のスケッチを、亡くなる前に秘匿した。
名作家具:ポール・ケアホルムの《PK-22》
アルネ・ヤコブセンの古いスケッチを元にしたモザイクタオル〈ジョージ・ジェンセン・ダマスク〉
トビアスの場合は、祖父アルネ・ヤコブセンのデザインが残したものを正しい精神をもって世に送り出すことが、何よりも重要だと考えている。
「今後の進め方については非常に真剣に考えています。こちらの体を拭くためのタオルに祖父のパターンをプリントするにあたっては、真剣に悩みました。しかし、〈ジョージ・ジェンセン・ダマスク〉というメーカーは、卓越した織物の品質で知られていまし、正当な取り組みになっていると思います。でも、例えば祖父のデザインを〈グッチ〉のバッグやトイレットペーパーにプリントするなどということは、絶対にしませんよ」とトビアスは言う。
死後に自分のデザインが復活したと知ったら、アルネ本人は何と言うだろう?「祖父はデザイナーとして優れていただけでなく、素晴らしいビジネスマンでもありました。だからきっと、笑顔でベーカリーへ行き、お気に入りの菓子パンを買ってお祝いしたと思いますよ」
トビアスの場合は、祖父アルネ・ヤコブセンのデザインが残したものを正しい精神をもって世に送り出すことが、何よりも重要だと考えている。
「今後の進め方については非常に真剣に考えています。こちらの体を拭くためのタオルに祖父のパターンをプリントするにあたっては、真剣に悩みました。しかし、〈ジョージ・ジェンセン・ダマスク〉というメーカーは、卓越した織物の品質で知られていまし、正当な取り組みになっていると思います。でも、例えば祖父のデザインを〈グッチ〉のバッグやトイレットペーパーにプリントするなどということは、絶対にしませんよ」とトビアスは言う。
死後に自分のデザインが復活したと知ったら、アルネ本人は何と言うだろう?「祖父はデザイナーとして優れていただけでなく、素晴らしいビジネスマンでもありました。だからきっと、笑顔でベーカリーへ行き、お気に入りの菓子パンを買ってお祝いしたと思いますよ」
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