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5分でわかるデザイン様式:中世に誕生したゴシックデザイン
歴史上のさまざまなデザイン様式のこと、どこまで知っていますか? 名前は聞いたことがあり、なんとなくこんなイメージというのもわかるけれど、もっと詳しく知りたいという方のために、わかりやすい例を挙げて簡潔に解説します。
西谷典子|Noriko Nishiya
2016年7月11日
今回からお伝えするシリーズ記事の中で取り上げる様式の中でも、最も古いゴシックスタイルは、ご存じのとおり、時代とともに変化してきたデザイン様式です。現代では “ゴス” などとも呼ばれ、サブカルチャーに位置づけられたスタイルとして再登場し、本来のゴシック様式からイメージが少々離れている感じもありますが、これほど息長く何度もリバイバルした様式もないことは確かです。
中世に誕生した当時のゴシック様式は、教会建築のデザインとして発展し、斬新で荘厳、また人々の信仰や希望の象徴ということもあって、今よりも明るく晴れやかなイメージのものでした。今回はそんなオリジナルのゴシック様式の由来や歴史、代表的なモチーフやエピソードを取り上げ、改めてこの歴史あるデザインの素晴らしさを知っていただければと思います。
中世に誕生した当時のゴシック様式は、教会建築のデザインとして発展し、斬新で荘厳、また人々の信仰や希望の象徴ということもあって、今よりも明るく晴れやかなイメージのものでした。今回はそんなオリジナルのゴシック様式の由来や歴史、代表的なモチーフやエピソードを取り上げ、改めてこの歴史あるデザインの素晴らしさを知っていただければと思います。
中世ヨーロッパの教会建築から
中世のヨーロッパでは、11世紀後半から鉄製の農具が発達し、気候も温暖になり「大開墾時代」に入ります。その結果、人口が飛躍的に増え、各地に都市ができ始めて、多くの大聖堂や教会が造られるようになります。こういった流れのなか、中世の最盛期である13世紀に誕生したのがゴシックスタイルで、16世紀までの長い期間、その発展は続きました。
中世のヨーロッパでは、11世紀後半から鉄製の農具が発達し、気候も温暖になり「大開墾時代」に入ります。その結果、人口が飛躍的に増え、各地に都市ができ始めて、多くの大聖堂や教会が造られるようになります。こういった流れのなか、中世の最盛期である13世紀に誕生したのがゴシックスタイルで、16世紀までの長い期間、その発展は続きました。
ビザンチン帝国など、東方のデザインのエッセンスもミックスされたゴシック様式は、主に西ヨーロッパから始まりました。当時、ローマ・カトリック教会が絶大な権力を持っていましたが、教会建築には当然、その時代の最高の技術や芸術が取り入れられることとなり、そのスタイルはその後、王家や貴族の間で広まっていきました。
画期的なデザイン要素
ゴシック建築は、3つの画期的な工学的要素で構成されています。中央が尖った「アーチ(尖頭アーチ)」、「飛び梁(フライング・バットレス)」という、高い位置に張り出した梁、「リブ・ヴォールト」と呼ばれる天井様式の3点です。たとえば、それ以前のロマネスク様式の丸いアーチ型には、幅を広げると天井が崩れてしまうという難点がありましたが、先が尖ったアーチにすることで均等に力が支えられるようになり、アーチに幅をもたせ、また同時に天井を高くすることも可能になりました。
ゴシック建築は、3つの画期的な工学的要素で構成されています。中央が尖った「アーチ(尖頭アーチ)」、「飛び梁(フライング・バットレス)」という、高い位置に張り出した梁、「リブ・ヴォールト」と呼ばれる天井様式の3点です。たとえば、それ以前のロマネスク様式の丸いアーチ型には、幅を広げると天井が崩れてしまうという難点がありましたが、先が尖ったアーチにすることで均等に力が支えられるようになり、アーチに幅をもたせ、また同時に天井を高くすることも可能になりました。
天井は軽く、そして高く
また、飛び梁は重力による横方向への動きを横から支える役割をする梁で、建物をよりいっそう頑丈にさせる役割を果たしました。リブ・ヴォールトとは、横断アーチとその対角線のアーチを中央で組み合わせた天井様式ですが、この構造で天井を軽量化することができたのです。
また、飛び梁は重力による横方向への動きを横から支える役割をする梁で、建物をよりいっそう頑丈にさせる役割を果たしました。リブ・ヴォールトとは、横断アーチとその対角線のアーチを中央で組み合わせた天井様式ですが、この構造で天井を軽量化することができたのです。
大きな窓、壮麗なステンドグラス
こういった構造から、柱は長くスリムになり、そこからつながるリブ・ヴォールトは天井へ、あたかも天国へとつながるような高い空間をつくり出せるようになりました。またそれ以前のロマネスク時代の建築構造では小さい窓しか作ることができませんでしたが、このリブ・ヴォールトの構造では、重い天井を支える厚い壁を作る必要がなくなり、従って大きな窓をつけることが可能になったのです。
こういった構造から、柱は長くスリムになり、そこからつながるリブ・ヴォールトは天井へ、あたかも天国へとつながるような高い空間をつくり出せるようになりました。またそれ以前のロマネスク時代の建築構造では小さい窓しか作ることができませんでしたが、このリブ・ヴォールトの構造では、重い天井を支える厚い壁を作る必要がなくなり、従って大きな窓をつけることが可能になったのです。
この結果、バラ窓(模様が放射状に施された円形の窓)など、素晴らしい大きなステンドグラスもはめ込むことができるようになりました。このステンドグラスは、文字が読めない人々が聖書の内容をよく理解することにも大きな役割を果たし、信仰心を高めることにも貢献しました。
ゴシック建築の傑作
こういったゴシック建築の最高傑作のひとつが、パリのノートルダム寺院です。その他、フランスではシャルトル大聖堂、イタリアではミラノの大聖堂、イギリスではウェストミンスター・アビーなどがあります。写真のような扇形の天井「ファン・ヴォールト」はイギリス特有のデザインで、ケンブリッジ大学のキングスカレッジのチャペルは世界最大のファン・ヴォールトとして知られるだけではなく、その素晴らしい音の響きにも定評があります。このような美しく響くサウンド効果で、よりいっそう、人々の信仰心は高まったはずです。
こういったゴシック建築の最高傑作のひとつが、パリのノートルダム寺院です。その他、フランスではシャルトル大聖堂、イタリアではミラノの大聖堂、イギリスではウェストミンスター・アビーなどがあります。写真のような扇形の天井「ファン・ヴォールト」はイギリス特有のデザインで、ケンブリッジ大学のキングスカレッジのチャペルは世界最大のファン・ヴォールトとして知られるだけではなく、その素晴らしい音の響きにも定評があります。このような美しく響くサウンド効果で、よりいっそう、人々の信仰心は高まったはずです。
ゴシックスタイルの代表的モチーフ
この優れた建築構造とともに、熟練した石工(石を切り出し、細工をする職人)による素晴らしい装飾も、ゴシックスタイルならではの特徴です。たとえば窓には細かい幾何学模様を石の細工で施した「トレーサリー」という間飾りがあり、ゴシックスタイルの象徴として知られています。その他、「カトルフォイル」、いわゆる四つ葉も、ゴシックデザインの典型的なモチーフのひとつでです。これらのゴシックモチーフの多くは、修道士によって書かれた聖書の写本に登場するデザインが多かったそうです。
この優れた建築構造とともに、熟練した石工(石を切り出し、細工をする職人)による素晴らしい装飾も、ゴシックスタイルならではの特徴です。たとえば窓には細かい幾何学模様を石の細工で施した「トレーサリー」という間飾りがあり、ゴシックスタイルの象徴として知られています。その他、「カトルフォイル」、いわゆる四つ葉も、ゴシックデザインの典型的なモチーフのひとつでです。これらのゴシックモチーフの多くは、修道士によって書かれた聖書の写本に登場するデザインが多かったそうです。
ゴシックの典型的なモチーフは、ドアなどのデザインにも応用されました。歴史上、何度もリバイバルが繰り返されたため、アンティークの市場でも手頃なものが見つかり、その個性的なエッセンスが、インテリアに独特の味わいを与えてくれます。
銀行ができる前の中世の時代は家の中でお金を保管していたため、鍵やバーなどのセキュリティーはもちろん、ドアは特に厚く頑丈に作られています。また「ストラップ・ヒンジ」と呼ばれる、横に伸びるドアヒンジのアイアンワークは、このゴシックの時代に花開き、カーブの美しいデザインは主に教会のドアなどに用いられました。
銀行ができる前の中世の時代は家の中でお金を保管していたため、鍵やバーなどのセキュリティーはもちろん、ドアは特に厚く頑丈に作られています。また「ストラップ・ヒンジ」と呼ばれる、横に伸びるドアヒンジのアイアンワークは、このゴシックの時代に花開き、カーブの美しいデザインは主に教会のドアなどに用いられました。
またゴシックスタイルでは「グロテスク」と呼ばれる半人間や怪物などのモチーフも多く使われました。屋根の雨水を集め、地上や下水に導く雨桶(あまとい)の機能を持つ、怪物をかたどった「ガーゴイル」という装置が大聖堂につけられたのもこの時代です。ガーゴイルの名前の由来は、この怪物の口からごぼごぼと吐き出される水の音が、うがいの音に似ているため、ガーグル(英語でうがいという意味)がガーゴイルと変化したことからきているそうです。現代では、ガーゴイルは庭のオーナメントとしても使われるようになりました。
暖炉、そしてタイルフロアの登場
フランスやイギリスの中世のお城や大聖堂の建設には、その土地で調達できるライムストーンやサンドストーンが用いられましたが、石造りの建物の内部は、夏の暑さをしのぐにはよいものの、冬はなかなか室内が温まらないという難点があります。そこで暖炉が、室内の中心に位置する重要な設備として発達し、そこにはもちろん、石工による素晴らしいゴシック様式デザインが施されました。13世紀には釉薬をかけたタイルも登場してフロアに使用されるようになり、家の内装や家具なども、だんだんと華やかになっていきます。
フランスやイギリスの中世のお城や大聖堂の建設には、その土地で調達できるライムストーンやサンドストーンが用いられましたが、石造りの建物の内部は、夏の暑さをしのぐにはよいものの、冬はなかなか室内が温まらないという難点があります。そこで暖炉が、室内の中心に位置する重要な設備として発達し、そこにはもちろん、石工による素晴らしいゴシック様式デザインが施されました。13世紀には釉薬をかけたタイルも登場してフロアに使用されるようになり、家の内装や家具なども、だんだんと華やかになっていきます。
タペストリーとファブリック類の発達
また、その温まった室内の熱を逃がさないために掛けられたタペストリーも、このゴシック時代に王室や貴族の間で流行した贅沢な美術品でした。城主が移動する際には巻いて運ぶこともでき、ときには交換して貸し合うこともあったそうで、タペストリーがいかに高価なものだったかということがわかります。タペストリーとともに、その頃からクッションやカバー、ベッドの天蓋なども一緒に、ファブリック類のトータルコーディネートがされていたようです。
タペストリーのある部屋の写真を見る
また、その温まった室内の熱を逃がさないために掛けられたタペストリーも、このゴシック時代に王室や貴族の間で流行した贅沢な美術品でした。城主が移動する際には巻いて運ぶこともでき、ときには交換して貸し合うこともあったそうで、タペストリーがいかに高価なものだったかということがわかります。タペストリーとともに、その頃からクッションやカバー、ベッドの天蓋なども一緒に、ファブリック類のトータルコーディネートがされていたようです。
タペストリーのある部屋の写真を見る
ゴシックには、なぜ暗いイメージがあるのか?
さて、現代風のゴシック(ゴス)というと思い出すのが、黒やダークな赤など、ちょっとおどろおどろしく、暗いイメージの色合わせ。しかし実のところ、ゴシック全盛の当時には、驚くほど鮮やかな色(黄色、緑、青、オレンジ、赤、茶など)がメインカラーとして使われていました。何より、新しい建築構造で可能になった大きな窓やステンドグラスが登場したことで、それまで暗いイメージだった教会やお屋敷なども、ビジュアル的にずっと明るくなったはずです。しかし、どうしてその後のゴシックスタイルには、暗いイメージがつきまとうようになったのでしょう?
さて、現代風のゴシック(ゴス)というと思い出すのが、黒やダークな赤など、ちょっとおどろおどろしく、暗いイメージの色合わせ。しかし実のところ、ゴシック全盛の当時には、驚くほど鮮やかな色(黄色、緑、青、オレンジ、赤、茶など)がメインカラーとして使われていました。何より、新しい建築構造で可能になった大きな窓やステンドグラスが登場したことで、それまで暗いイメージだった教会やお屋敷なども、ビジュアル的にずっと明るくなったはずです。しかし、どうしてその後のゴシックスタイルには、暗いイメージがつきまとうようになったのでしょう?
18世紀以降に加わった「ゴシック小説」的イメージ
イギリスではゴシック様式は中世以降も廃れることなく、後世もたびたび人気復活するのですが、1764年にイギリス初代首相の三男、ホレス・ウォルポールがゴシックスタイルのお城で殺人事件が起こる小説『オトラント城奇譚』を出版し、それがイギリス国内でベストセラーになりました。彼自身もその後、この小説の舞台になったゴシックスタイルのお屋敷をロンドンのストロベリー・ヒルに建て、その当時の人気観光スポットになったそうです。
このように、その後のリバイバルで人々に人気を博した小説と観光スポットが、ゴシックスタイルのおどろおどろしいイメージの始まりだったようです。そして再びゴシックスタイルが復活した19世紀中頃はちょうど、ヴィクトリア女王がアルバート公に先立たれた後、長い間喪に服し、国全体が黒一色になった時代とも重なり、なんとなくゴシックスタイルには暗いイメージが定着してしまったようです。
イギリスではゴシック様式は中世以降も廃れることなく、後世もたびたび人気復活するのですが、1764年にイギリス初代首相の三男、ホレス・ウォルポールがゴシックスタイルのお城で殺人事件が起こる小説『オトラント城奇譚』を出版し、それがイギリス国内でベストセラーになりました。彼自身もその後、この小説の舞台になったゴシックスタイルのお屋敷をロンドンのストロベリー・ヒルに建て、その当時の人気観光スポットになったそうです。
このように、その後のリバイバルで人々に人気を博した小説と観光スポットが、ゴシックスタイルのおどろおどろしいイメージの始まりだったようです。そして再びゴシックスタイルが復活した19世紀中頃はちょうど、ヴィクトリア女王がアルバート公に先立たれた後、長い間喪に服し、国全体が黒一色になった時代とも重なり、なんとなくゴシックスタイルには暗いイメージが定着してしまったようです。
中世に始まったゴシックの装飾は、16世紀以降さらに凝った複雑なデザインになりますが、その後イタリアで起こったルネサンス様式に取って代わられ、ヨーロッパではシンプルなデザインにだんだんシフトして、流行が変わっていきます。
ゴシック建築は天国へ導く神の象徴でもあり、この時代の人々の生活をよりいっそう希望に満ち明るくさせた、素晴らしいデザイン様式でした。さまざまなイメージや解釈が加えられましたが、現代でもこのスタイルの要素は、個性的なインテリアとして根強い人気があります。もしかすると未来にも再び、新しい解釈のネオゴシックスタイルが生み出されるかもしれませんね。
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