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5分でわかるデザイン様式:20世紀前半を彩った華やかさ、アール・デコスタイル
1920年代の好景気バブルの時代に登場し、1930年代にかけて流行したアール・デコ様式。アール・ヌーヴォーとの違いを含め、デザイン的な特徴と時代背景を解説します。
西谷典子|Noriko Nishiya
2018年6月8日
19世紀末から20世紀初めにかけて、華麗な流線デザインを特徴とするアール・ヌーヴォースタイルが登場し、発展していくなか、未来的なデザインを志向する芸術家たちは新しい時代に向け、さらにまたその反動といえる模索を始めます。第一次世界大戦後の好景気を背景に、富裕層を中心に人気を博したアール・デコ様式は、直線的な幾何学デザインを特徴とし、都会のショービジネスの世界を映し出すきらびやかなグラマラスさと、未来を志向するスマートでスタイリッシュな魅力がありました。
デザインの歴史を振り返ると、凝ったデザインがしばらく続いた後にはシンプルなデザインが新しく見え、装飾を削ぎ落としたデザインが生まれるという流れがあります。華美で豪華な装飾を特徴とするバロック時代の終焉からロココとネオクラシック時代への移行にと同じように、アール・ヌーヴォースタイルが世の中を席巻した後、人々は徐々に流線的なデザインから直線的なデザインへと目を向けるようになります。
モダニズム、キュビズムの萌芽
この反動の萌芽は絵画において、すでに19世紀後半に見られました。ポール・セザンヌの風景画は伝統的な一点透視図法で描かれておらず、複数の角度から見たものを自分流に変形させて描いています。この手法はジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソが1907年頃から実験的に描き始め、やがて「キュビズム」と呼ばれます。この立方体(キューブ)で埋められたモダンなスタイルは、アール・ヌーヴォーの時代にはすでに生まれていたというわけです。
この反動の萌芽は絵画において、すでに19世紀後半に見られました。ポール・セザンヌの風景画は伝統的な一点透視図法で描かれておらず、複数の角度から見たものを自分流に変形させて描いています。この手法はジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソが1907年頃から実験的に描き始め、やがて「キュビズム」と呼ばれます。この立方体(キューブ)で埋められたモダンなスタイルは、アール・ヌーヴォーの時代にはすでに生まれていたというわけです。
第一次世界大戦後の好景気にのって
第一次世界大戦勃発により、こういった新しいトレンドもいったんすべてストップしますが、1918年、戦後のヨーロッパは空前の大好景気となります。特に栄えたのはロンドン、パリ、ベルリン、ニューヨーク、シカゴ、上海などの都市。大きな富はここにまた新しい文化をつくり出します。この時代の流行の最先端は、ダンスやジャズ、ハリウッド映画など。ジャズ・エイジに象徴される豪華できらびやかなデザインは、アール・デコデザインのベースとなります。
第一次世界大戦勃発により、こういった新しいトレンドもいったんすべてストップしますが、1918年、戦後のヨーロッパは空前の大好景気となります。特に栄えたのはロンドン、パリ、ベルリン、ニューヨーク、シカゴ、上海などの都市。大きな富はここにまた新しい文化をつくり出します。この時代の流行の最先端は、ダンスやジャズ、ハリウッド映画など。ジャズ・エイジに象徴される豪華できらびやかなデザインは、アール・デコデザインのベースとなります。
「アール・デコ博覧会」が名前の由来
好景気バブルの真っ只中の1925年、戦争により10年以上延期されていたパリ国際博覧会がようやく開催されました。この博覧会では、富裕層を対象としたエジプトのデザインや未来的なモダンデザインの芸術作品が数多く出展されます。アール・デコという名前は、この「現代産業装飾芸術国際博覧会(Exposition Internationale des Arts Decoratifs et industriels Modernes)」の「装飾芸術」を意味する「アール・デコ」を取り、出展された装飾品の新しいスタイルの総称としたものです。同時代に呼ばれた名称ではなく、1960年代後半になって、美術史家ベビス・ヒラーによって名付けられ、世界に広まりました。
好景気バブルの真っ只中の1925年、戦争により10年以上延期されていたパリ国際博覧会がようやく開催されました。この博覧会では、富裕層を対象としたエジプトのデザインや未来的なモダンデザインの芸術作品が数多く出展されます。アール・デコという名前は、この「現代産業装飾芸術国際博覧会(Exposition Internationale des Arts Decoratifs et industriels Modernes)」の「装飾芸術」を意味する「アール・デコ」を取り、出展された装飾品の新しいスタイルの総称としたものです。同時代に呼ばれた名称ではなく、1960年代後半になって、美術史家ベビス・ヒラーによって名付けられ、世界に広まりました。
直線的で幾何学的、エジプト古代文化の影響も
エジプトでツタンカーメンの墓が発見されたのは、好景気が進行中の1922年。そのお墓から出てきた装飾品や家具など、3000年以上前の古代デザインに注目が集まっていました。イギリスで1799年にロゼッタストーンが発見された後、リージェンシースタイルが流行したのと同様に、幾何学的で直線的なデザインが復活。エジプトの象徴的なモチーフを大胆に用いる華美なデザインも加わり、アール・デコスタイルのゴージャス感に華を添えました。
エジプトでツタンカーメンの墓が発見されたのは、好景気が進行中の1922年。そのお墓から出てきた装飾品や家具など、3000年以上前の古代デザインに注目が集まっていました。イギリスで1799年にロゼッタストーンが発見された後、リージェンシースタイルが流行したのと同様に、幾何学的で直線的なデザインが復活。エジプトの象徴的なモチーフを大胆に用いる華美なデザインも加わり、アール・デコスタイルのゴージャス感に華を添えました。
エジプトを象徴するモチーフのひとつ、葦(あし)をベースに、孔雀の羽を広げたフォルムや日の出をイメージさせるデザインなどに発展していった扇形のパターンは、アール・デコの代表的なデザインです。
メタル素材を合わせたモダンな家具やインテリア
アール・デコ様式のインテリアは、エジプトのデザインから影響を受けたイギリスのリージェンシースタイル、ドイツやオーストリアのビーダーマイヤースタイルがベースとなっています。この時代、光沢のある塗装を施されたウォールナットやローズウッドのベニヤ(突板)の家具がリバイバルしますが、昔と違うところは、バウハウスなどで開発が始まったスチールパイプが、家具の脚にも取り入れられたこと。ミラーやメタル素材を取り入れたモダンなデザインは、アール・デコ様式の大きな特徴のひとつです。
「ベニヤ(突板)」についてはこちらもあわせて
アンティーク家具の木材について知る 2:ウォールナット材
アール・デコ様式のインテリアは、エジプトのデザインから影響を受けたイギリスのリージェンシースタイル、ドイツやオーストリアのビーダーマイヤースタイルがベースとなっています。この時代、光沢のある塗装を施されたウォールナットやローズウッドのベニヤ(突板)の家具がリバイバルしますが、昔と違うところは、バウハウスなどで開発が始まったスチールパイプが、家具の脚にも取り入れられたこと。ミラーやメタル素材を取り入れたモダンなデザインは、アール・デコ様式の大きな特徴のひとつです。
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メタル素材の採用に象徴される工業的で幾何学的なデザインは、少し前に流行したアール・ヌーヴォー様式とは実に対照的なものでした。木材や大理石など従来のオーガニックな素材と未来的なメタル素材という斬新な組み合わせの家具は、アール・デコ時代に大人気となります。同時に、職人の手作業に代わって機械による大量生産が主流となり、家具やインテリアのデザインもモダンなものへと移り変わっていきます。
ショービジネス界のきらびやかさを反映
アール・デコ様式には、この時代急成長したダンスや映画などショービジネスの都、ハリウッドの華やかなイメージが反映されています。光を反射するきらびやかな白、金、銀と黒を中心としたメタリック&モノトーンの組み合わせや、ジグザグのラインが代表的です。グリーンと金、黒などの色合わせも、アール・デコの典型的な配色。翡翠(ひすい)を思わせる緑と黒のコンビネーションをはじめとした民族調のデザインは、博覧会で展示されたマヤ文明の装飾品からの影響のひとつです。
アール・デコ様式には、この時代急成長したダンスや映画などショービジネスの都、ハリウッドの華やかなイメージが反映されています。光を反射するきらびやかな白、金、銀と黒を中心としたメタリック&モノトーンの組み合わせや、ジグザグのラインが代表的です。グリーンと金、黒などの色合わせも、アール・デコの典型的な配色。翡翠(ひすい)を思わせる緑と黒のコンビネーションをはじめとした民族調のデザインは、博覧会で展示されたマヤ文明の装飾品からの影響のひとつです。
つややかでグラマラスな質感
きらびやかなメタリックのイメージがあるアール・デコ様式ですが、カラーパレットは意外にシックなものも多く、ナチュラルなベージュ、クリーム、グレーなどのアースカラー系の色合わせもよく見られます。インテリアファブリックでは、つややかな質感が豪華さを盛り上げるサテンシルクがよく使われます。
きらびやかなメタリックのイメージがあるアール・デコ様式ですが、カラーパレットは意外にシックなものも多く、ナチュラルなベージュ、クリーム、グレーなどのアースカラー系の色合わせもよく見られます。インテリアファブリックでは、つややかな質感が豪華さを盛り上げるサテンシルクがよく使われます。
シンメトリック・デザイン
アール・デコ様式は、左右対称を意識しているのも大きな特徴です。これもやはりエジプトのデザインからの影響で、家具はもちろん、ランプやブックエンド、時計などの調度品も左右対称のデザインが多く、すっきりとしたシンプルさが強調されています。それらの配置もまた、シンメトリーを意識しています。
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1929年の世界大恐慌以降、バブル景気が崩壊した後の1930年代にもしばらくアール・デコ時代は続きますが、この頃になると、モダニズムを意識したさらにシンプルなデザインに発展します。機械化も進み、装飾を排除した幾何学的で直線的なデザインが、建築や家具に取り入れられるようになっていきます。富裕層の支持によって盛り上がったアール・デコ様式の人気は、恐慌とともに徐々に勢いを失う短い運命ではありましたが、20世紀前半を彩った豪華なスタイルとして、歴史に名前を残しています。
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