中世から現代まで、建物を美しく彩るステンドグラスとデザイン様式
ガラスが織りなす美しく繊細な絵や模様、陽光を受けてきらめく美しい配色が魅力のステンドグラス。デザインを選ぶときの参考に、各時代の様式の影響を受けながら発展してきたその長い歴史を知っておきましょう。
西谷典子|Noriko Nishiya
2017年12月22日
中世のヨーロッパで、ゴシック建築の教会の窓装飾として製作され始めたステンドグラス。当時発展した画期的な建築構造(中央が尖った尖頭アーチ、高い位置に張り出した梁であるフライング・バットレス、リブ・ヴォールトと呼ばれる天井様式など)によって、教会の天井を高くすることが可能になったことをきっかけに、天井や高窓を飾るステンドグラスの製造技術も向上し、たくさんの素晴らしい作品が製作されました。この記事では、ゴシック以降のデザイン様式との関連を振り返りながら、建物を美しく彩るステンドグラスをご紹介します。
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ルーツは中世の製法による美しい発色
ステンドグラスの美しい色合いは、普通のガラスに必要なケイ砂の他に、金属の粒子を混ぜることによって可能になります。これは中世から伝わる手作りの製法で、たとえば金を混ぜると赤を、銅を混ぜると緑、コバルトや銀を混ぜると青、という具合でした。現代では他にもさまざまな作り方がありますが、これが唯一の製法だった当時、材料費だけを考えても教会のステンドグラスにどれくらいコストがかかっていたかが想像できるでしょう。
ステンドグラスの美しい色合いは、普通のガラスに必要なケイ砂の他に、金属の粒子を混ぜることによって可能になります。これは中世から伝わる手作りの製法で、たとえば金を混ぜると赤を、銅を混ぜると緑、コバルトや銀を混ぜると青、という具合でした。現代では他にもさまざまな作り方がありますが、これが唯一の製法だった当時、材料費だけを考えても教会のステンドグラスにどれくらいコストがかかっていたかが想像できるでしょう。
昔ながらの製法による中世の分厚い手作りガラスは、光を通すと濃密で深みのある独特の色が出るのが大きな魅力とされます。時代とともにガラスの製造技術が進化し、フラットで透明度の高いガラスが使われるようになると、光の入り方も直線的になり、色の表現が徐々にシンプルであっさりとしたものになっていきました。
17世紀のバロック時代には、それまで主流だったモザイク模様から、聖職者や王様など具象的な題材を手描きしたものに変わるなど、デザイン自体の流行はありましたが、ステンドグラス自体はすたれることなく製造され、建築物を彩り続けました。
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ヴィクトリア時代のゴシック復興とアーツ&クラフツ
その後、18世紀後半から19世紀にかけて起こったゴシック建築の復興(ゴシックリバイバル)、続いて19世紀末から20世紀初頭にかけてのアーツ&クラフツ運動の時代、この様式に欠かせない窓装飾であるステンドグラスもリバイバルします。産業革命を経て、豊かになった一般家庭にもステンドグラスが採用されました。
その後、18世紀後半から19世紀にかけて起こったゴシック建築の復興(ゴシックリバイバル)、続いて19世紀末から20世紀初頭にかけてのアーツ&クラフツ運動の時代、この様式に欠かせない窓装飾であるステンドグラスもリバイバルします。産業革命を経て、豊かになった一般家庭にもステンドグラスが採用されました。
特にヴィクトリア時代のイギリス北部では、素晴らしいステンドグラスを住宅に取り入れることが大流行しました。この時代のステンドグラスはアンティークアイテムとして比較的多く見つかるので、現在、アメリカや日本にも輸出され、家づくりにも愛用されています。
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芸術家の才能や職人の技術が光る、価値の高いデザイン
アーツ&クラフツ時代には、古くから伝わる職人技術を見直す気運が高まったこともあり、ステンドグラスは再びの大流行を見ます。住まいの中でも、玄関や室内のドア、窓、階段の踊り場など、さまざまな場所にいっそう多く使われるようになりました。中には大変高価な、芸術家による手描きの作品も見られました。
アーツ&クラフツ時代には、古くから伝わる職人技術を見直す気運が高まったこともあり、ステンドグラスは再びの大流行を見ます。住まいの中でも、玄関や室内のドア、窓、階段の踊り場など、さまざまな場所にいっそう多く使われるようになりました。中には大変高価な、芸術家による手描きの作品も見られました。
写真は1880年代頃の典型的なアーツ&クラフツ様式のインテリアです。左手前のドアのステンドグラスは、19世紀当時の進化した製法ではなく、中世の手仕事を手本として製作され、独特の深みのある色を追求したものです。モチーフには、当時流行のジャポニズムの影響を受けた花鳥風月が使われています。
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写真は、部分的に「ブルズアイ」と呼ばれる丸い吹きガラス(フランス語ではロンデル)が入っているものや、ジュエル(宝石のように見えるカットガラス)が入っているもの。これらは典型的な19世紀後半のデザインで、現在大変価値のあるものです。
各時代に特有な美しいデザインモチーフ
デザインに使用されるモチーフにも、バロック時代からアールデコの時代まで、それぞれの歴史様式に特有のものがあります。たとえばフランスなら、ロココ時代には壺や花などのモチーフで金色をふんだんに使った華やかな絵柄が、19世紀後半になると、ジャポニズムに影響された草花や鳥などの繊細で華やかな手描きのモチーフが人気を博しました。また20世紀初頭、アールデコ時代のイギリスでは、ツタンカーメンの発掘からブームになったエジプト風の幾何学的な模様が流行したりもしました。
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カラフルなイギリス風、シックなフランス風
配色や色づかいにも国や時代ごとのトレンドがありました。たとえば19世紀のイギリスの一般家庭で流行したステンドグラスはカラフルなタイプが多いですが、フランスでは少し違い、薄いベージュや曇りガラスの上にエレガントなデザインが描かれたものが代表的です。パリの有名百貨店ギャルリー・ラファイエットの天井には、写真のようなシックな色合いで手描きされたドーム型のステンドグラスが使われています。
配色や色づかいにも国や時代ごとのトレンドがありました。たとえば19世紀のイギリスの一般家庭で流行したステンドグラスはカラフルなタイプが多いですが、フランスでは少し違い、薄いベージュや曇りガラスの上にエレガントなデザインが描かれたものが代表的です。パリの有名百貨店ギャルリー・ラファイエットの天井には、写真のようなシックな色合いで手描きされたドーム型のステンドグラスが使われています。
格子の入った窓やそれを斜めの線にしたダイヤ形の格子のあるシンプルな窓に「コート・オブ・アームス(紋章)」がはめ込まれた、写真のようなタイプもフランスでよく見られるステンドグラスです。基本的には窓のステンドグラスにはあまり色を使わず、室内ドアの一部に美しい図柄のエッチングガラスを使うのがフランス流。写真の白い曇りガラスのエッチングガラスも、フランスらしいスタイルといえるでしょう。
宝石店〈ティファニー〉とステンドグラス
19世紀末のアメリカでは、アーツ&クラフツ運動やアールヌーヴォースタイルに影響された《ティファニーランプ》が登場します。ジュエリーで有名な〈ティファニー〉の創始者の息子、ルイス・カムフォート・ティファニーの会社〈ティファニー・スタジオ〉が製作。乳白色のオパリンガラスを使用したステンドグラスをモザイクのように銅箔で巻き込んでつなぎ合わせる方法で作られたこのランプは、1900年のパリ万博にも出品され、大評判となりました。
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ランプ以外でも〈ティファニー〉は素晴らしいステンドガラス作品を残しています。ガラスをどのように効果的に使い、アートとして表現できるかというさまざまな実験により生まれた、美しく独創的な作品群が、その偉業を物語っています。特に手作業による細かい技術や、光を通して映し出されるガラスのグラデーションが美しいテーブルランプのファンは多く、現在もリプロダクションが生産されています。トラディショナルなインテリアに似合う、定番の美しいランプといえるでしょう。
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日光を優しい光に変換してくれるフィルター的な役割で、インテリアをドラマティックに演出してくれるステンドグラス。建物に取り入れることで得られる素晴らしい効果は計り知れません。現代の住まいでは、その使い道はさらに広がっています。
次の記事では、実際の住まいにおけるステンドグラスの面白い使い方のアイデアをご紹介します。
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コメントありがとうございます。ステンドグラスは時代を超えて不思議な安らぎを与えてくれますよね。ステンドグラスがもっと皆さんに身近なものとしてインテリアに取り入れて頂けたらと思っております。
nishiya 様 photoアップ頂きましたステンドグラス工房ルヴェールです、コメント凄く遅れてしまい申し訳ございませんでした、ステンドグラスについて記載されはや数年が経ってしまいました、その間お蔭様で沢山の方々からご支持頂き切磋琢磨の連日でございます。新たなデザイン・技術に取り組み気が付くと早33年ステンドグラスを製作しておりました,これからも歴史を刻むステンドグラスに新たな息吹を吹き込むステンドグラス制作に励んで参りたく存じますので宜しくお願い致します。ありがとうございました。 Stained Glass LeVerre Safumi
ステンドグラスから映し出される御社の素敵な造形的なデザインの光が大変印象的でした。これからも益々のご活躍をお祈りしております。