火を囲んでの楽しい団らん、現代に蘇る「囲炉裏」のある暮らし
日本の住居に古くから存在していた囲炉裏。暖房と調理機能を兼ね備え、周りに集まっての語らいも楽しい、この伝統ある生活道具を、現代の暮らしに取り入れている住まいをご紹介します。
Miki Anzai
2016年1月18日
最近、囲炉裏が、「もてなし、語らい、集う、癒し」の道具として見直されています。古くから日本の住まいの中に、暖房と調理設備を兼ねる存在としてあった囲炉裏は、生活に現代的な利便性や効率が追求される中、いったんは姿を消していくことになりましたが、今また、その温もりあふれる魅力が人気となっているようです。囲炉裏を個人邸に設置したオーナー、設計者の方々にお話を聞き、現代の住まいでの楽しみ方について考えてみました。
埋め込みタイプ
富士山の見える丘に建つ住宅の一室。伝統的な床に埋め込むタイプの囲炉裏ですが、炉の灰部分には、BBQコンロも埋め込んでいます。天井内に換気扇を設置し、天棚(火棚)で隠し、焼肉店さながらのバーナー兼下引き換気扇も設置しているので、肉や魚もしっかり焼けます。
富士山の見える丘に建つ住宅の一室。伝統的な床に埋め込むタイプの囲炉裏ですが、炉の灰部分には、BBQコンロも埋め込んでいます。天井内に換気扇を設置し、天棚(火棚)で隠し、焼肉店さながらのバーナー兼下引き換気扇も設置しているので、肉や魚もしっかり焼けます。
ローテーブル掘り炬燵タイプ
大屋根の下に囲炉裏と露天風呂を備えたこの住まいは、家族や友人たちが集うために計画されました。囲炉裏や露天風呂という非日常性を高めるために、外部とは切り離された世界をつくり出す中庭を囲むようにして、囲炉裏の間、和室、露天風呂、湯上り処となるラウンジが高さを変えて配置されています。
大屋根の下に囲炉裏と露天風呂を備えたこの住まいは、家族や友人たちが集うために計画されました。囲炉裏や露天風呂という非日常性を高めるために、外部とは切り離された世界をつくり出す中庭を囲むようにして、囲炉裏の間、和室、露天風呂、湯上り処となるラウンジが高さを変えて配置されています。
簡単に移動可能な座卓タイプ
高知県香南市にある、土佐湾を一望できるRCと木造の混構造住宅。リビングに設置された座卓タイプの囲炉裏は、取り付けではなく、竣工後にお施主さんが家具として持ち込んだ既製品です。インテリアとして少し炭をつけるくらいですが、換気は小屋上部に取ってあります。ここでは囲炉裏端に配した椅子に腰掛けても、手前の一段低いローテーブルを囲んで座布団に座っても。心も体も温まる団らんの場となっています。
高知県香南市にある、土佐湾を一望できるRCと木造の混構造住宅。リビングに設置された座卓タイプの囲炉裏は、取り付けではなく、竣工後にお施主さんが家具として持ち込んだ既製品です。インテリアとして少し炭をつけるくらいですが、換気は小屋上部に取ってあります。ここでは囲炉裏端に配した椅子に腰掛けても、手前の一段低いローテーブルを囲んで座布団に座っても。心も体も温まる団らんの場となっています。
スライド開閉式の炉蓋付き
日本人の自然との関わり方を現代の生活に合わせてデザインした、囲炉裏のある空間。都内の個人邸の2階の広いリビング・ダイニングの一角にフィットするように、囲炉裏も、開閉式の炉蓋も、すべて特注です。天井の隙間にあけた燻し竹の上に、換気ファンが隠れて設置されています。M アーキテクツの前田康憲さんは、場所性を重んじ、「家の中に小宇宙や自然を取り込もう」というコンセプトのもと、このスペースを設計。昔から日本の民家で囲炉裏は、「暖房」「灯り」「調理」を兼ね備えた象徴的存在でしたが、次第に中央の火が神聖化されていきました。このモダン住宅でも、囲炉裏を設けたことで、生活シーンがさらに豊かになりました。囲炉裏の周りに配置した黒漆の拭漆仕上げによる低座椅子と、それを囲む、白色のレースのカーテン(写真右)と障子(写真左)が、見事に黒と白(陰と陽)の「対比の美学」となっています。
日本人の自然との関わり方を現代の生活に合わせてデザインした、囲炉裏のある空間。都内の個人邸の2階の広いリビング・ダイニングの一角にフィットするように、囲炉裏も、開閉式の炉蓋も、すべて特注です。天井の隙間にあけた燻し竹の上に、換気ファンが隠れて設置されています。M アーキテクツの前田康憲さんは、場所性を重んじ、「家の中に小宇宙や自然を取り込もう」というコンセプトのもと、このスペースを設計。昔から日本の民家で囲炉裏は、「暖房」「灯り」「調理」を兼ね備えた象徴的存在でしたが、次第に中央の火が神聖化されていきました。このモダン住宅でも、囲炉裏を設けたことで、生活シーンがさらに豊かになりました。囲炉裏の周りに配置した黒漆の拭漆仕上げによる低座椅子と、それを囲む、白色のレースのカーテン(写真右)と障子(写真左)が、見事に黒と白(陰と陽)の「対比の美学」となっています。
囲炉裏まわりのアイテム
上のお宅では黒川雅之氏デザインの南部鉄瓶を使っていますが、囲炉裏を使うのに必要な基本アイテムといえば、やはり「鉄瓶」でしょう。
それに加え、「炭」と「灰」はもちろんのこと、炉の真上から鍋や鉄瓶をぶら下げるフック(「自在鉤」)、鍋や急須をのせる「五徳」、灰床の凸凹を平らにする「灰ならし」、炭を動かしたり灰をならすのに便利な「火箸」や「火消し壺」などもあります。
上のお宅では黒川雅之氏デザインの南部鉄瓶を使っていますが、囲炉裏を使うのに必要な基本アイテムといえば、やはり「鉄瓶」でしょう。
それに加え、「炭」と「灰」はもちろんのこと、炉の真上から鍋や鉄瓶をぶら下げるフック(「自在鉤」)、鍋や急須をのせる「五徳」、灰床の凸凹を平らにする「灰ならし」、炭を動かしたり灰をならすのに便利な「火箸」や「火消し壺」などもあります。
また、鍋や釜を自在鉤からおろしたときに置く台として「鍋敷き」も必需品。この写真のような鉄製のものや、底が丸くて転がりやすい鉄瓶向けには、藁(わら)で作った藁座タイプもおすすめです。
そして、囲炉裏のある部屋に、伝統的な編み込みを施した「すだれ」などを掛けると、風情がいっそう増します。
この写真は、福岡県の八女(やめ)産の真竹ひごと、経糸を大正時代から続く技法で編み込んだ「すだれ」です。
この写真は、福岡県の八女(やめ)産の真竹ひごと、経糸を大正時代から続く技法で編み込んだ「すだれ」です。
火を中心に集まる暮らし
ところで囲炉裏といえば、2015年春の国際家具見本市、ミラノサローネに初出展したキッチンハウスのために、建築家の隈研吾さんがデザインされたのが「IRORI」でしたね。竹の板と鉄パイプを使って、写真のような囲炉裏端を作って展示し、「火」を中心にして家族が集まるランドスケープキッチンを提案されていました。
実際、囲炉裏では炉の中で、湧かす、煮る、焼く、蒸す、炊く、炒める、干すなどの調理ができます。さらに、調理場としてだけでなく、炉端が食卓にもなるので、優れたコミュニケーションの場としても機能します。
ところで囲炉裏といえば、2015年春の国際家具見本市、ミラノサローネに初出展したキッチンハウスのために、建築家の隈研吾さんがデザインされたのが「IRORI」でしたね。竹の板と鉄パイプを使って、写真のような囲炉裏端を作って展示し、「火」を中心にして家族が集まるランドスケープキッチンを提案されていました。
実際、囲炉裏では炉の中で、湧かす、煮る、焼く、蒸す、炊く、炒める、干すなどの調理ができます。さらに、調理場としてだけでなく、炉端が食卓にもなるので、優れたコミュニケーションの場としても機能します。
囲炉裏を囲んでお酒を
こちらは、ご主人の定年退職を機に、近代的リフォームではなく「昔」に戻ったような家にしたいということで「囲炉裏」を作りました。今や地域のさまざまな集まりの拠点となって、団塊の同世代の仲間がお酒を酌み交わしながら昔話に花を咲かせています。
囲炉裏の周りをぐるりと囲んで座れば、誰もが炎を眺められ、また対面の相手の顔も見ることができます。それが暖炉や薪ストーブの炎の見え方とは違う点で、囲炉裏の魅力ともいえるのではないでしょうか。囲炉裏を囲んで飲むお酒は、美味しさも格別、上機嫌になって、会話も弾むことでしょう。
こちらは、ご主人の定年退職を機に、近代的リフォームではなく「昔」に戻ったような家にしたいということで「囲炉裏」を作りました。今や地域のさまざまな集まりの拠点となって、団塊の同世代の仲間がお酒を酌み交わしながら昔話に花を咲かせています。
囲炉裏の周りをぐるりと囲んで座れば、誰もが炎を眺められ、また対面の相手の顔も見ることができます。それが暖炉や薪ストーブの炎の見え方とは違う点で、囲炉裏の魅力ともいえるのではないでしょうか。囲炉裏を囲んで飲むお酒は、美味しさも格別、上機嫌になって、会話も弾むことでしょう。
靴を脱がずに座れる
合板や集成材を一切使わず、自然素材にこだわったお宅の玄関土間に設置した囲炉裏です。宮崎飫肥杉(おびすぎ)の音響熟成木材の表面を何度もこすり、年輪の凸凹を際立たせた「うづくり加工の床」が、囲炉裏の椅子代わりにもなります。訪れた人は靴を脱がずに、この味わい深い囲炉裏を囲んで談笑できます。
合板や集成材を一切使わず、自然素材にこだわったお宅の玄関土間に設置した囲炉裏です。宮崎飫肥杉(おびすぎ)の音響熟成木材の表面を何度もこすり、年輪の凸凹を際立たせた「うづくり加工の床」が、囲炉裏の椅子代わりにもなります。訪れた人は靴を脱がずに、この味わい深い囲炉裏を囲んで談笑できます。
畳の間の中央に
本式の琉球畳を導入した和室の中心に設置された、掘りごたつ式の囲炉裏です。30坪の洋風リビングの奥に障子で仕切られた和の空間。囲炉裏の存在が洋と和のコントラストを引き立てています。
本式の琉球畳を導入した和室の中心に設置された、掘りごたつ式の囲炉裏です。30坪の洋風リビングの奥に障子で仕切られた和の空間。囲炉裏の存在が洋と和のコントラストを引き立てています。
本格的な囲炉裏暮らしを、群馬県の山村で始めた大内正伸さんが、囲炉裏の作り方から使い方までを、『囲炉裏と薪火暮らしの本』(農山漁村文化協会)で詳しく紹介されています。この本を読むと、縄文時代から存在した囲炉裏が、採暖、炊事、乾燥、照明、団らんなど、本当に多くの役割を担ってきたことがわかります。また、現代に囲炉裏を蘇らせるのに必要なグッズやアイテムなど実用的な解説も多く、参考になります。
そして、昔は多くの家が囲炉裏のある部屋に神棚を配し、盆暮れの神事を行っていたことにも、思いを馳せてみたいものです。現代の個人住宅でも炉を切り、囲炉裏スタイルを取り入れることで、火が日本人の住まいの中心にあった時代の精神を、再発見できるかもしれません。
こちらもあわせて
機能美を兼ね備え、次世代へと進化する「和室」
囲炉裏のある部屋の写真をもっと見る
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そして、昔は多くの家が囲炉裏のある部屋に神棚を配し、盆暮れの神事を行っていたことにも、思いを馳せてみたいものです。現代の個人住宅でも炉を切り、囲炉裏スタイルを取り入れることで、火が日本人の住まいの中心にあった時代の精神を、再発見できるかもしれません。
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Anne Shimamoto様、コメントありがとうございます。古民家を移築されたお知り合いの方のお宅、さぞや素敵なことでしょう。冷え込んでくると、火を囲む暮らしをしてみたくなります。
和のインテリア素晴らしいですね。
私はい草生産日本一の熊本に住んでいます。熊本の八代と言うところがい草生産日本一なのですが、畳の需要も年々へっている現代。
そんな今の時代に畳を復活させたい思いの方々が多数いらっしゃいます。
こんな和のインテリアにどんどん畳の良さを取り入れてもらいるとイイなと感じました。
熊本市在住 北里尚子