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土地の記憶を受け継ぎ、一族が集う家。風格あるモダンな豪邸《下永谷の家》
現ご当主と次期当主が世代交代を見据えた建て替えプロジェクト。和の趣とモダン建築が見事に融合した美しい家は、家族を見守るように静かに佇む。

Junko Kawakami
2018年8月13日
Freelance since 1999.
横浜市南部の高台に立つ、風格あるモダンな二世帯住宅と茶室のある離れがある住まい。ここには、この地で長く事業を営んできた旧家一族の本家当主夫妻とその長男家族が暮らしている。数世代にわたり住み継いできた日本家屋が老朽化したため、ご当主は建て替えを決意。ご長男を伴って、高校の後輩が社長を務めていた施工会社〈キクシマ〉に赴いた。「建築家を選ぶにあたり、やがて世代交代して当主を継承する息子と一緒に、お互いが妥協しない決断をしたかった」というご当主。ショールームに並ぶ100冊超の作品集を別々に見て、それぞれが気に入った建築家を3人に絞り、重なった人がいたらその人に決めよう、ということになった。
午前から午後まで、数時間をかけて作品集を熟読した親子が「答え合わせ」をすると、ふたり揃って「この人しかいない」と1人の建築家に絞り込んでいた。それが田井勝馬さんだった。「私は伝統的な和風の家、息子はシンプルでモダンな家と、好みが全然違うので、一致したことに驚きました。田井さんの設計する家は、個性はあっても、決して奇抜になることなくシックな佇まいがあります。一も二もなく、田井さんに設計を依頼しました」とご当主は振り返る。
一方、依頼を受けた田井さんは少々緊張したという。何代も続く旧家がこれから永く住み継いでいく家をつくる責任だけではない。ご当主は一級建築士の資格ももっているというのである。「建築が好きで、横浜国立大学と大学院で建築計画を専攻したのですが、家業を継ぐために建築の道に進みませんでした。だから、住まいに対する基本的な構想はありましたが、それを形にするにはプロの建築家の力が必要でした」と話す。
そんなご当主が田井さんに求めたのは「この土地の記憶を継承し、一族がいつでも集える家」だった。「近隣には親戚がたくさん暮らしていて、人生や季節の節目ごとに集まります。仲睦まじく助け合うことこそ、繁栄の礎ですから」と話す。ご当主の思いを受け止めて、建築家が形にした家をご紹介しよう。
Photo: Seiichi Osawa
午前から午後まで、数時間をかけて作品集を熟読した親子が「答え合わせ」をすると、ふたり揃って「この人しかいない」と1人の建築家に絞り込んでいた。それが田井勝馬さんだった。「私は伝統的な和風の家、息子はシンプルでモダンな家と、好みが全然違うので、一致したことに驚きました。田井さんの設計する家は、個性はあっても、決して奇抜になることなくシックな佇まいがあります。一も二もなく、田井さんに設計を依頼しました」とご当主は振り返る。
一方、依頼を受けた田井さんは少々緊張したという。何代も続く旧家がこれから永く住み継いでいく家をつくる責任だけではない。ご当主は一級建築士の資格ももっているというのである。「建築が好きで、横浜国立大学と大学院で建築計画を専攻したのですが、家業を継ぐために建築の道に進みませんでした。だから、住まいに対する基本的な構想はありましたが、それを形にするにはプロの建築家の力が必要でした」と話す。
そんなご当主が田井さんに求めたのは「この土地の記憶を継承し、一族がいつでも集える家」だった。「近隣には親戚がたくさん暮らしていて、人生や季節の節目ごとに集まります。仲睦まじく助け合うことこそ、繁栄の礎ですから」と話す。ご当主の思いを受け止めて、建築家が形にした家をご紹介しよう。
Photo: Seiichi Osawa
どんなHouzz?
所在地:横浜市
住まい手:60代のご夫妻と30代の長男家族(夫妻と子供2人)の2世帯、3世代
建築面積:母屋 284.98㎡ (86.20坪) 離れ(茶室) 81.54㎡ (24.66坪)
延床面積:母屋 403.20㎡ (121.96坪) 離れ(茶室) 70.47㎡ (21.31坪)
構造:混構造。地上2階。1階は壁式RC造、2階は鉄骨造
設計:田井勝馬建築設計工房
照明計画:リップルデザイン
施工:株式会社キクシマ
設計期間:15ヶ月
施工期間:10ヶ月
竣工:2017年
「本家の顔」となるメインアプローチ。先代の家から保存・継承した石段、ツゲの生け垣、門の脇のマツの構えによる和の格式ある風情と、新設した門まわりやその向こうに見える建物のファサードの直線的でモダンな表情が、意外なほどに調和している。
所在地:横浜市
住まい手:60代のご夫妻と30代の長男家族(夫妻と子供2人)の2世帯、3世代
建築面積:母屋 284.98㎡ (86.20坪) 離れ(茶室) 81.54㎡ (24.66坪)
延床面積:母屋 403.20㎡ (121.96坪) 離れ(茶室) 70.47㎡ (21.31坪)
構造:混構造。地上2階。1階は壁式RC造、2階は鉄骨造
設計:田井勝馬建築設計工房
照明計画:リップルデザイン
施工:株式会社キクシマ
設計期間:15ヶ月
施工期間:10ヶ月
竣工:2017年
「本家の顔」となるメインアプローチ。先代の家から保存・継承した石段、ツゲの生け垣、門の脇のマツの構えによる和の格式ある風情と、新設した門まわりやその向こうに見える建物のファサードの直線的でモダンな表情が、意外なほどに調和している。
モダンでありながら格式のあるエントランス。やや粗い石積み階段から、小舗石を敷き詰めた外床を経て、スムースなモルタルの基壇へと、建物に近づくにつれて洗練が表現されている。杉板コンクリートの壁2面がアプローチに対して90度に開き、訪れる人をおおらかに迎え入れる。
母屋の南面を見渡す。1階に当主世帯、2階に長男家族の世帯が居住。1階は壁式RC造の重厚感のある空間に、2階は軒の深い大きな一枚屋根を鉄骨造で軽快に支えて開放感あふれる空間にし、それぞれの住まい手が求める空間を実現した。
広く張り出したデッキテラスと杉板型枠コンクリートの壁が、屋内と屋外の連続性を強調。
2層吹き抜けの広々とした2世帯の共用玄関。ベンチや収納はすべて造作とした直線とフラットな面による幾何学的構成の空間に、自然光と間接照明による陰影が豊かな表情をつくりだす。
前の写真の玄関ホールを左手に進むと、コンクリート壁裏の窓辺には、来客を迎える応接コーナーがある。通常は奥が上座となるが、ここでは庭の眺めがよく見える側(写真では左側)が来客用の上座のしつらえとなっている。
玄関ホールから長手方向に母屋を見渡したところ。杉板コンクリートの壁の硬質感、ガラスの手すりがついたカンチレバーの透かし階段の透明感と2階天井のチーク材仕上げの重厚なあたたかさにより、和とモダンが絶妙に調和したインテリアになっている。
1階のLDKは、ご当主夫妻の生活の中心であり、一族が集まる場所でもある。全体で約38畳の広さがある。玄関に近い側(写真右手)をダイニングとし、その奥(写真左手)に一段下がったサンクンリビングを配置。「先日もお祝いごとがあって40人ほどの親戚がここに集まりました」とご当主。
ダイニングの奥の壁の向こうに機能的なキッチンとパントリーを配置。キッチンの脇の通路は、バス・トイレやユーティリティールーム、お勝手口に通じている。
「掃除が行き届かないのはストレスになる」というきれい好きな奥様だが、シンプルで機能的なデザインは、掃除やメンテナンスもしやすい。「この家はお掃除していても楽しいんです。先日もお客様が『ガラスないみたいにきれいな窓ね』と言ってくれて、うれしかったです」と奥様。
ダイニングの奥の壁の向こうに機能的なキッチンとパントリーを配置。キッチンの脇の通路は、バス・トイレやユーティリティールーム、お勝手口に通じている。
「掃除が行き届かないのはストレスになる」というきれい好きな奥様だが、シンプルで機能的なデザインは、掃除やメンテナンスもしやすい。「この家はお掃除していても楽しいんです。先日もお客様が『ガラスないみたいにきれいな窓ね』と言ってくれて、うれしかったです」と奥様。
和の落ち着いた雰囲気を求めるご当主の要望に応え、フローリングだけでなく折り上げ天井にも木を使い、家具もブラウン系のレザーと木を使ったものを選んで、あたたかみのある空間に仕上げた。庭の右手奥、敷地が一段上がったところにある桜は、ご当主が4、5歳のころに健やかな成長を願って家族で植樹したもの。春になると見事に咲き誇り、一族や友人が集まって花見を楽しむ。
日常の快適さを重視して全館空調を採用しているが、穏やかな季節にはデッキに面した掃出し窓を開放すれば、屋内を庭と一体として使うことができる。親族や友人が集まり、パーティーやバーベキューを楽しむことも。
家族や親族の日常の出入り口となるサブ・エントランスは、離れへのアプローチ(後述)につながっている。縦格子により、プライバシーを維持しながら明るい空間に。
玄関ホールの吹き抜けから2階のリビングを見渡したところ。庭に面した側はもちろん、吹き抜けとリビングの間の壁や西面の壁をガラスにし、大屋根に抱かれつつも開放感のある空間になっている。
眺望を存分に生かすため、外壁面の大部分をガラスが覆っているが、軒を1500ミリと深くとっているため、日差しが照りつけることはない。(ガラス面の内側には、天井に埋め込む形でロールスクリーンが設置されている。)
天井の仕上げ材は、室内はチーク、軒裏はレッドシダー(ベイマツ)を使用。
天井の仕上げ材は、室内はチーク、軒裏はレッドシダー(ベイマツ)を使用。
写真の右手、長手方向に並ぶボックスは、すべてビルトインで設置した収納。収納は、2階の空間の仕切りも兼ねており、収納の裏側に、廊下を介してベッドルームやバス・トイレが配置されている。上部と天井の間に空間を設けることで、2階全体を包む大屋根ののびやかさが維持されている。
ご長男の趣味のAV機器からダイニングで使う食器まで、すべてがすっきりと整理・整頓されている。ご長男夫妻には小さなお子さんが2人いるが、取材当日も写真通りのすっきりシンプルでミニマルなライフスタイルを維持していた。
ご長男の趣味のAV機器からダイニングで使う食器まで、すべてがすっきりと整理・整頓されている。ご長男夫妻には小さなお子さんが2人いるが、取材当日も写真通りのすっきりシンプルでミニマルなライフスタイルを維持していた。
サブエントランスから茶室のある離れ(写真の奥に見える建物)に向かうアプローチは、スロープでバリアフリーに。コンクリート壁は、上部中央に向かって傾斜をつけて溝を切り、ここから雨水を流すことで、壁面に雨垂れによる汚れがつくのを防いでいる。
ご当主はたいへんな車好きな上、来客も多いため、離れの脇に8台分の駐車スペースを設けた。茶室の脇には、日産のEV(電気自動車)パワーステーション〈LEAF to Home〉を設置。エアコンを使っていても生活用電気を36時間はまかなえるサステナブルな設備だ。
さらに、母屋の裏手でも、しばらく使っていなかった井戸を復活させた。2㎥/時の水を供給し、非常時には消防団指定の地域拠点として生活用水を提供する。
さらに、母屋の裏手でも、しばらく使っていなかった井戸を復活させた。2㎥/時の水を供給し、非常時には消防団指定の地域拠点として生活用水を提供する。
離れの茶室。離れは木造軸組構造による、方形屋根をもつ平屋である。敷地の南西の角の高台に位置しており、南側には美しい竹林があるので、その眺めを楽しめるように開口部を設けている。
茶室は、茶道を嗜む奥様と娘さん(別居)が使用するほか、ゲストハウスとしても使用。写真の左手前に写るボックスに小さなキッチンが集約されている。また、将来は隠居部屋として使用することも視野に入れ、バリアフリーの設計となっている。
天井は屋根の傾斜をそのまま室内に表し、低い軒へと目線を竹林へと誘う。茶室の壁は珪藻土の左官仕上げ。木の壁はシナノキに撥水加工をして手垢がつきにくい仕上げ。木と土による内装、天井の間接照明による拡散光が、和のぬくもりを感じさせる。
照明計画は〈リップルデザイン〉が担当。夜になれば、室内からは天井を照らす間接照明と、2階を取り巻くバルコニーの床に埋め込まれたアッパーライトのライトアップにより、大屋根がふわりと浮遊して見える。庭の壁に当てたライトも含め、面を巧みに照らして、ダイナミックな空間の魅力をさりげなく際立たせている。
「数回の打ち合わせの後、田井さんが作ってきてくれた模型を見たとき、『これでいい』と瞬間的に思えた。それくらい、私たちの希望やイメージをしっかりくみとった設計の家が完成して、うれしく思っています」とご当主。
ガラス、コンクリート、木という素材を巧みに組み合わせ、水平と垂直のラインが優雅な表情を見せるモダンな住宅だが、柱の間に広がる透明感のある空間が不思議なほどに和の趣を感じさせる洗練の住まいである。
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