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邸宅美術館のように生まれ変わったニューヨークの豪華マンション
アール・ヌーヴォーや20世紀初頭のポスターのコレクションを活かし、芸術の香りと美しいシーンに満ちたギャラリーのような住まいに。NY・マンハッタンの高層マンション、専有面積400平米超のリノベーションです。
Miki Anzai
2017年11月13日
ニューヨークのマンハッタン島の南部にあるトライベッカ地区。おしゃれなロフトやギャラリーなどが点在する人気のエリアだ。この一角に立つ高層マンションに住む施主から内装リフォームを任されたのは、デザイナーのアーニャ・ステンピーさん。施主の家のデザインを手がけるのは、ここで3軒目となる。
もともと施主は、ステンピーさんの夫が製作する家具が好きで、トライベッカ地区にある家具ショールーム兼ステンピーさんの事務所によく足を運んでいた。夫妻のテイストに惚れ込み、今回もステンピーさんに内装を任せたという。
デザインの主眼は、アール・ヌーヴォーや20世紀初期のポスターを中心とする施主の蒐集品を、いかに見栄えよく展示するか。そして、施主の好むアーツ・アンド・クラフツの「線条性」と、アメリカ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが提案した水平ラインを強調する「プレーリー」スタイルを取り入れること。施主の趣向を熟知するステンピーさんだからこそ、400平方メートル超の空間を提示されても、満足いくプランを実現できたのだろう。
築90年近い建物は、オフィスビルから住宅棟に用途転換したため、共有部分は無機質なつくりだが、専有の玄関ドアを開けた途端、別世界が待っていた。美術館のキュレーターよろしく、デザイナーのステンピーさんが、各部屋を案内してくれた。
もともと施主は、ステンピーさんの夫が製作する家具が好きで、トライベッカ地区にある家具ショールーム兼ステンピーさんの事務所によく足を運んでいた。夫妻のテイストに惚れ込み、今回もステンピーさんに内装を任せたという。
デザインの主眼は、アール・ヌーヴォーや20世紀初期のポスターを中心とする施主の蒐集品を、いかに見栄えよく展示するか。そして、施主の好むアーツ・アンド・クラフツの「線条性」と、アメリカ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが提案した水平ラインを強調する「プレーリー」スタイルを取り入れること。施主の趣向を熟知するステンピーさんだからこそ、400平方メートル超の空間を提示されても、満足いくプランを実現できたのだろう。
築90年近い建物は、オフィスビルから住宅棟に用途転換したため、共有部分は無機質なつくりだが、専有の玄関ドアを開けた途端、別世界が待っていた。美術館のキュレーターよろしく、デザイナーのステンピーさんが、各部屋を案内してくれた。
玄関に足を踏み入れると、まるでベル・エポック、アール・ヌーヴォーの世界にタイムスリップしたかのよう。
回廊の長さは12メートル超。壁の片面に作品を展示し、逆側には額縁とマッチする木彫りの彫刻を飾ることでインパクトを持たせている。各ポスターはステンピーさんが「額縁の達人」と絶大な信頼を寄せる専門店〈ジョン・エスティ〉で制作・額装した。
木彫り彫刻:アール・デコの階段の一部を再利用
木製ベンチ:〈ミラ・ナカシマ〉
どんなHouzz?
居住者:19世紀後半〜20世紀初頭のポスターを中心とする美術品を蒐集する男性
所在地:ニューヨーク市トライベッカ地区
専有面積:約400平方メートル
リフォーム・設計チーム:アーニャ・ステンピー(チーフ・インテリアデザイナー)、グレゴリー・リッチズ(インテリアデザイナー)〈デイビッド・マクマホーン・アーキテクト〉(設計)、〈グラフィック・ビルダーズ〉(工務店)
撮影:グレゴリー・リッチズ
回廊の長さは12メートル超。壁の片面に作品を展示し、逆側には額縁とマッチする木彫りの彫刻を飾ることでインパクトを持たせている。各ポスターはステンピーさんが「額縁の達人」と絶大な信頼を寄せる専門店〈ジョン・エスティ〉で制作・額装した。
木彫り彫刻:アール・デコの階段の一部を再利用
木製ベンチ:〈ミラ・ナカシマ〉
どんなHouzz?
居住者:19世紀後半〜20世紀初頭のポスターを中心とする美術品を蒐集する男性
所在地:ニューヨーク市トライベッカ地区
専有面積:約400平方メートル
リフォーム・設計チーム:アーニャ・ステンピー(チーフ・インテリアデザイナー)、グレゴリー・リッチズ(インテリアデザイナー)〈デイビッド・マクマホーン・アーキテクト〉(設計)、〈グラフィック・ビルダーズ〉(工務店)
撮影:グレゴリー・リッチズ
玄関ホールの天井照明は、「アーツ・アンド・クラフツ」をテーマに、照明専門店〈カール・バリー〉に制作を依頼した。
バリエーションをつけた壁装も秀逸だ。ホールを挟んで左側、アルフォンス・ミュシャのポスターを飾った廊下にはウール地の壁紙、右側の長い展示回廊は塗装し、ホール壁はグラスウール張りに。「壁の色調は揃えながら、質感に変化をつけ、リズム感をもたせた」という。
また、以前はのっぺりした壁だったが、天井や床との継ぎ目に、水平ラインを強調した「フランク・ロイド・ライト風モールディング」を施すことで、視覚的奥行き感を与えた。
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フランク・ロイド・ライトの「プレーリー住宅」の住み心地とは?
バリエーションをつけた壁装も秀逸だ。ホールを挟んで左側、アルフォンス・ミュシャのポスターを飾った廊下にはウール地の壁紙、右側の長い展示回廊は塗装し、ホール壁はグラスウール張りに。「壁の色調は揃えながら、質感に変化をつけ、リズム感をもたせた」という。
また、以前はのっぺりした壁だったが、天井や床との継ぎ目に、水平ラインを強調した「フランク・ロイド・ライト風モールディング」を施すことで、視覚的奥行き感を与えた。
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無装飾だったリビングの暖炉には、ステンピーさんがデザインした重厚なチェリー材と漆黒の花崗岩を利用したマントルピースをつけて、暖かみのある雰囲気に。上部にはアンティークの鏡と絵画を配した。「来客が多い家なので、たくさんのお客様がくつろげる雰囲気づくりを心がけた」という。
カーペット:〈タッフェンケン〉《トラディショナル・アンド・アーツ・アンド・クラフツ》シリーズ
カーペット:〈タッフェンケン〉《トラディショナル・アンド・アーツ・アンド・クラフツ》シリーズ
リビングのスツールベンチは、窓際にせり出していた鋼鉄製の梁の表面にシルク素材の布を張り、同じ布でシートを製作したもの。
ここから窓の外に目をやれば、地上26階、眼下に広がるイースト川とハドソン川に挟まれたロウアー・マンハッタンの景色が一望できる。
ここから窓の外に目をやれば、地上26階、眼下に広がるイースト川とハドソン川に挟まれたロウアー・マンハッタンの景色が一望できる。
リビング続きのダイニングキッチン。テーブルは、〈シティー・ジョイナリー〉のジョナ・ザッカーマン氏の手によるもの。濃い赤褐色の美しい木目をもつ、カリフォルニア産ウォルナット材を使っている。
椅子はアメリカン・ウォルナット製。このプロジェクトに全面協力したステンピーさんの夫が経営する〈スコット・ジョーダン・ファーニチャー〉がデザイン・製作した。
椅子はアメリカン・ウォルナット製。このプロジェクトに全面協力したステンピーさんの夫が経営する〈スコット・ジョーダン・ファーニチャー〉がデザイン・製作した。
キッチンは、ライトの「プレーリー」スタイルから着想を得て、ステンピーさんがデザインした。以前の工業的なイメージを見事に一新させている。
プレイルームは、ぐっと趣向を変え、重厚感あふれる中にも遊び心を加えた。落ち着いた色のビリヤード台と壁紙に対し、暖かみのあるチェリー材の家具と〈タッフェンケン〉のダイナミックな柄のカーペットをコーディネートしている。
壁面に展示しているモノクロ写真は、有名写真家のベレニス・アボット、ハロルド・ロス、アンドレ・ケルテースが、それぞれ撮った1930年〜40年代のニューヨークの街並み。
壁面に展示しているモノクロ写真は、有名写真家のベレニス・アボット、ハロルド・ロス、アンドレ・ケルテースが、それぞれ撮った1930年〜40年代のニューヨークの街並み。
マスターベッドルームにも、マンハッタンの風景画(油彩、幅3.5m×縦1m)を飾っている。画家バーバラ・カッセルが、自宅ロフトからの眺めを描いたもの。
ヘッドボードは、サイドに本が置ける棚つきだが、「脚をつけないすっきりとしたデザイン」がポイント。〈シティー・ジョイナリー〉製。
ヘッドボードは、サイドに本が置ける棚つきだが、「脚をつけないすっきりとしたデザイン」がポイント。〈シティー・ジョイナリー〉製。
同じベッドルーム内に、モダンな趣向のエリアと、アール・ヌーヴォーのポスターを飾ったコーナーを共存させている。
「新旧のデザインを、うまくミックスすることで、よりダイナミックな空間が生まれます」と秘訣を教えてくれた。
「新旧のデザインを、うまくミックスすることで、よりダイナミックな空間が生まれます」と秘訣を教えてくれた。
異なるスタイルの融合の好例が、このライブラリー。ステンピーさんが、ライトの「プレーリー」様式を意識してデザインした、木目が特徴的なカーリーチェリー製のモダンな造り付け本棚。イタリア製・革張りのコンテンポラリー・アーム・チェア、ミッドセンチュリーのコーヒーテーブルなど、これらを取り合わせることで、高度に洗練されながらもくつろげる空間を創り出している。
世界各国から蒐集したユニークなオブジェも、アクセントとして効いている。
世界各国から蒐集したユニークなオブジェも、アクセントとして効いている。
リビングの隣りに位置するゲストルーム。「部屋の印象を決める重要な要素のひとつが扉です」と語るステンピーさん。自身でデザインした扉の表面部分にはアメリカン・チェリー、把手にはブロンズを使用した。
寝室と浴室をつなぐドレッシング・ルーム。カーペットにはシルク・ウール混を採用。オフホワイトの造作キャビネットの扉部分のパネルには、〈東レ〉の特殊人工皮革ウルトラスエード®を張っている。「家具が硬い印象を与える木や大理石ばかりなので、柔らかい質感を出すことと、防音効果を考えました」とステンピーさん。扉の把手をガラス製にして、エレガントさも演出している。
来客用洗面所の手前に設けた化粧直しの空間。「お客様がパーティーの最中に、ふっと抜け出して、一息つけるような場所を設けたかった」と語るステンピーさん。
アート作品の展示のみならず、客人への配慮が随所になされた家が完成し、施主は、「人を招待するのが、断然楽しくなった」と手放しに喜ぶ。
アート作品の展示のみならず、客人への配慮が随所になされた家が完成し、施主は、「人を招待するのが、断然楽しくなった」と手放しに喜ぶ。
アーツ・アンド・クラフツ運動をおこしたウィリアム・モリスは、職人芸を見直し、芸術的な手仕事による美しい日用品や生活空間をデザインし供給することで、生活の質を向上させることをめざした。
ステンピーさんも、「デザインの力でクライアントの生活をより豊かにしよう」と心がけ、細部に至るまで神経を張り巡らせたという。
ステンピーさんも、「デザインの力でクライアントの生活をより豊かにしよう」と心がけ、細部に至るまで神経を張り巡らせたという。
いよいよ来年、ニューヨークのチェルシー地区に「ポスター美術館」が誕生する。施主も蒐集品の一部を貸し出す予定だ。しかし、この自宅こそが、施主にとって「生活と芸術が統一した」かけがえのない場所であり続けることは、間違いないだろう。
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