コメント
愛犬、愛猫が健康に、幸せに暮らせる《スロープの家》
「愛犬にも優しい家を建てたい」オーナー夫妻の目に留まったのは、スロープのある家でした。スロープが、犬、猫、そして人間にもたらす効果とは?
渡辺安紀 |Aki Watanabe
2017年7月25日
犬2頭と、友人から預かった猫1匹と暮らす土江さん一家。以前は都内の2階建ての一軒家に住んでいたが、その家の階段の踏み板が浅く急だったため、あるとき子犬が父犬を追いかけて滑り落ちてしまった。以来、子犬が階段を怖がるようになってしまったため、土江夫妻は「犬が幸せに暮らせる家」を建てる決意をした。
インターネットで「ペットのための家」を設計した建築家を探すうちに、〈前田敦計画工房〉の前田敦さんが考案した《スロープの家》に目を留めた。「この家なら、留守番している犬や猫も退屈しないかも」と考え、前田さんとともに家づくりを行うことに。敷地は入手しておらず、理想の家を建てるのに必要な広さや条件もわからなかったため、土地探しから前田さんの力を借りた。
建築写真と一部のペット写真:Gen Inoue、ペットと人物の写真:古本麻由未
インターネットで「ペットのための家」を設計した建築家を探すうちに、〈前田敦計画工房〉の前田敦さんが考案した《スロープの家》に目を留めた。「この家なら、留守番している犬や猫も退屈しないかも」と考え、前田さんとともに家づくりを行うことに。敷地は入手しておらず、理想の家を建てるのに必要な広さや条件もわからなかったため、土地探しから前田さんの力を借りた。
建築写真と一部のペット写真:Gen Inoue、ペットと人物の写真:古本麻由未
どんなHouzz
所在地:神奈川県横浜市
住まい手:土江誠さん、裕美さん、娘の咲耶さん、ボーダーコリーのジーク(5歳)、ビクター(2歳)、マンチカンのブラン(9歳)
敷地面積:214.34平方メートル
建築面積:107.26平方メートル
延床面積:159.34平方メートル
構造:木造2階建て
間取り:LDK、寝室×3、客間、バスルーム、サニタリールーム(洗面、トイレ)、犬猫用トイレを併設したトイレ、犬用トイレスペース×2(屋内×1、屋外×1)
設計:〈前田敦計画工房〉
施工:〈タツミプランニング〉
前田さんは、ある雑誌のペット特集号のコンペ企画に応募するため、《スロープの家》というコンセプトを思いついた。屋内に回遊できるスロープがあり、ペットに優しい造りの家だ。こうしてできあがったプロトタイプ《スロープの家》は、見事、雑誌に掲載され、愛犬家たちから「家を建ててほしい」という相談が寄せられるようになった。
《スロープの家》を実際に建てる場合は、住まい手の家族構成や一緒に暮らす犬や猫の種類によって、設計はもちろん、必要となる土地の大きさも変わる。「相談に来られる方には人間とペット、それぞれの性格や関係性、共有スペースと専有スペースの分け方までじっくりとインタビューします。だから同じ《スロープの家》をプロトタイプとしていても、完成した家は一つ一つがオリジナルな家になります」と前田さんは話す。
所在地:神奈川県横浜市
住まい手:土江誠さん、裕美さん、娘の咲耶さん、ボーダーコリーのジーク(5歳)、ビクター(2歳)、マンチカンのブラン(9歳)
敷地面積:214.34平方メートル
建築面積:107.26平方メートル
延床面積:159.34平方メートル
構造:木造2階建て
間取り:LDK、寝室×3、客間、バスルーム、サニタリールーム(洗面、トイレ)、犬猫用トイレを併設したトイレ、犬用トイレスペース×2(屋内×1、屋外×1)
設計:〈前田敦計画工房〉
施工:〈タツミプランニング〉
前田さんは、ある雑誌のペット特集号のコンペ企画に応募するため、《スロープの家》というコンセプトを思いついた。屋内に回遊できるスロープがあり、ペットに優しい造りの家だ。こうしてできあがったプロトタイプ《スロープの家》は、見事、雑誌に掲載され、愛犬家たちから「家を建ててほしい」という相談が寄せられるようになった。
《スロープの家》を実際に建てる場合は、住まい手の家族構成や一緒に暮らす犬や猫の種類によって、設計はもちろん、必要となる土地の大きさも変わる。「相談に来られる方には人間とペット、それぞれの性格や関係性、共有スペースと専有スペースの分け方までじっくりとインタビューします。だから同じ《スロープの家》をプロトタイプとしていても、完成した家は一つ一つがオリジナルな家になります」と前田さんは話す。
《スロープの家》の2作目となるこの家は、中庭を中心として、4分の1階ずつスキップするフロアが卍型に連続するため、《スロープの家・卍》と名付けた。
《スロープの家・卍》に暮らすのは、土江さん夫妻と娘の咲耶さん、ショードッグであるジークとその子どもであるビクター、友人から預かっている猫のブラン。
土江さん夫婦は揃ってゴルフが趣味。敷地を探すときには、高速にアクセスが良く、職場や学校にも通いやすく、駅からは徒歩10分程度の立地を希望した。ドッグショーに出場する愛犬家同士で家に集まることも多いため、来客用も含めて駐車スペースは2台分必要だ。こうした条件の下で見つかったのは、横浜市内の、近所に大きな公園のある土地だった。
土江さん夫婦は揃ってゴルフが趣味。敷地を探すときには、高速にアクセスが良く、職場や学校にも通いやすく、駅からは徒歩10分程度の立地を希望した。ドッグショーに出場する愛犬家同士で家に集まることも多いため、来客用も含めて駐車スペースは2台分必要だ。こうした条件の下で見つかったのは、横浜市内の、近所に大きな公園のある土地だった。
1階にはリビング、ダイニングキッチン、客間があり、各スペースの間には階段がある。L字型の平面で、玄関を入り正面の扉をあけると目の前にスロープが伸び、右手がリビングだ。(図面では便宜的に1階2階と記述しているが、スロープによって空間が連続しているため、一般的な階の切り分けがないのもこの家の特徴である。)
ここからはボーダーコリーのビクターに登場してもらい、スロープについて説明していこう。
撮影の日、父犬のジークはドッグショーにでかけており、ビクターはお留守番。誠さんのあとを追って、リビングの脇にあるスロープを軽やかにスロープを歩く。
《スロープの家》を設計する際、前田さんは、その家に暮らす犬の種類(大きさ)やライフスタイルによってスロープの幅を変える。スロープの勾配は8分の1(1m上るのに8mの水平距離を必要とする)にした。建築基準法で定められた、「階段にかわる傾斜路の勾配条件」も満たしている。
スロープの床面には〈アスワン〉のカーペットタイル《ロボフロアー》を使用。水や傷に強いだけでなく、滑りにくくグリップが効く、ペットの足腰にやさしい素材だ。「汚れても、簡単にはがして、外でデッキブラシで洗えるので清潔に保てます」と裕美さん。
《スロープの家》を設計する際、前田さんは、その家に暮らす犬の種類(大きさ)やライフスタイルによってスロープの幅を変える。スロープの勾配は8分の1(1m上るのに8mの水平距離を必要とする)にした。建築基準法で定められた、「階段にかわる傾斜路の勾配条件」も満たしている。
スロープの床面には〈アスワン〉のカーペットタイル《ロボフロアー》を使用。水や傷に強いだけでなく、滑りにくくグリップが効く、ペットの足腰にやさしい素材だ。「汚れても、簡単にはがして、外でデッキブラシで洗えるので清潔に保てます」と裕美さん。
写真はダイニングキッチンに平行したスロープ。スロープの上り下りがトレーニングとなり、犬たちにほどよい筋肉がつく。「それに、人間の運動にもなるようで、家のなかを行き来しているだけで私たちのふくらはぎもいつの間にか鍛えられています。ふくらはぎは第2の心臓と言われているので、私たちの健康にもいいのではないでしょうか?」と誠さんは話す。
実は、前田さんがペットのための住宅設計にスロープ組み込んだのも、都会の犬の運動不足という問題を意識してのことだった。スロープは、上りはふくらはぎが、下りはスネがほどよく刺激される。「動物の身体にとって良いことは、人間の身体にとっても良いことが多いんです。」と前田さん。また、ロボット掃除機でも問題なくスムーズに掃除できる。
実は、前田さんがペットのための住宅設計にスロープ組み込んだのも、都会の犬の運動不足という問題を意識してのことだった。スロープは、上りはふくらはぎが、下りはスネがほどよく刺激される。「動物の身体にとって良いことは、人間の身体にとっても良いことが多いんです。」と前田さん。また、ロボット掃除機でも問題なくスムーズに掃除できる。
《スロープの家》は愛犬家住宅として考案されたプロトタイプだが、この家にはキャットウォークも加えている。写真は、ダイニングキッチンの上方に設置したキャットウォークからこちらをうかがうブラン。ブランは、引越して1週間も経たないうちに、キャットウォークを自在に行き来するようになった。
写真はダイニングキッチンのコーナー。ここは猫の居場所として、明るい場所、仄暗い場所、天井の高いところ、低いところなど、変化のある空間としている。キャットウォークの先にはキャットドアがあり、咲耶さんの部屋につながっている。
ダイニングキッチンとリビングの間のステップ。ブランがビクターに邪魔されずにのんびりできる場所でもある。
スロープの腰壁兼キャットウォークもブランのお気に入りの場所の1つ。
「犬も猫も人と目を合わせるのが大好きです。アイコンタクトは犬や猫と人間のコミュニケーション方法の1つ。この腰壁のように、人間とアイコンタクトが取りやすいスポットを意識して作っています」と前田さん。
「犬も猫も人と目を合わせるのが大好きです。アイコンタクトは犬や猫と人間のコミュニケーション方法の1つ。この腰壁のように、人間とアイコンタクトが取りやすいスポットを意識して作っています」と前田さん。
スロープの低い位置には水平の窓を設置。スロープの傾斜によって窓までの高さが異なるので、脚の短いブランでも足腰に負担をかけずに外を楽しむことができる。ちょうど地窓のようでもあり、光を取り入れながらプライバシーを確保できる。「人間の視線の高さにないため、外の目を気にせず換気ができます」と前田さん。
もう1つ、猫のための工夫として、麻縄を巻きつけたオリジナルの爪研ぎを壁の端部に数ヵ所設置。ビスで固定してあるだけなので、麻縄が古くなったら新しく巻き直せば新品のように使える。
スロープを上ると1つめのトイレ。ドアにはペットドアが付いている。トイレの内部は、人間、愛犬、愛猫用にそれぞれスペースを分けている。犬と猫のトイレは上と下に区切って配置。
犬用のポールは下の先端を床から浮かせているので、トイレシートの交換がしやすい。壁にもシートを留めるクリップを付けるなど、細かい工夫がある。猫用トイレスペースは、キャットウォークからキャットドアを通ってアクセスができるよう、猫の専用動線を立体的に分離している。
犬用のポールは下の先端を床から浮かせているので、トイレシートの交換がしやすい。壁にもシートを留めるクリップを付けるなど、細かい工夫がある。猫用トイレスペースは、キャットウォークからキャットドアを通ってアクセスができるよう、猫の専用動線を立体的に分離している。
スロープを上がっていくと、上階には家族それぞれの部屋があり、上に上がるにつれて空間は閉じていく。2階には家族それぞれの寝室が合計3つと、バスルーム、サニタリールーム(洗面、トイレ)、犬用トイレ、納戸がある。
各寝室は中庭に向かって大きな窓を配置。スロープのおかげで高さが異なるため、お互いに気配を感じながらもプライバシーを楽しめる造りだ。
ペットがいる家では、暑い夏や寒い冬にはエアコンを常に稼働しておく必要がある。光熱費を抑えるため、床下、壁、天井に断熱材を入れ、窓は〈YKK-ap〉の高性能な樹脂窓《APW330》を採用した。
ペットを飼っていると気になるのがにおい。特にゲストを招いたときには不快な思いをさせないようにしたいもの。そこで壁には消臭効果のある塗り壁《シリカライム》を使用した。この壁は時間が経つにつれてゆっくりと硬くなる性質がある。壁が硬くなりきっていない時期にブランが足跡をつけてしまうというアクシデントがあり、土江夫妻はそれをきっかけにして塗り壁の補修の仕方を学んだ。「部分補修ができるのも塗り壁の魅力のひとつです」と前田さんは話す。
スロープがあるのは室内だけではない。室内から中庭、ピロティ、そして前庭(ドッグラン)へ、屋外でもスロープがつながっている。中庭のシンボルツリーは日陰でも育ちやすいシマトネリコ。
また、犬の飛び出し防止策として、ピロティと駐車スペースの間と、駐車スペースと道路の間にそれぞれゲートを設置した。
こちらもあわせて
シンボルツリーを探す
また、犬の飛び出し防止策として、ピロティと駐車スペースの間と、駐車スペースと道路の間にそれぞれゲートを設置した。
こちらもあわせて
シンボルツリーを探す
ピロティには水道とシャワーを設置。庭遊びや散歩で汚れた犬の足を洗ったり、ピロティにある犬用トイレを手早く掃除したりするのに便利だ。古い洗濯機は犬用タオルの洗濯に活用している。
既成品のフェンスは高さ1.5mが一般的だが、ボーダーコリーなら助走をつければ飛び越えられる高さだ。土江家の犬たちは、飛び越えないように訓練されているが、万が一に備えて、前庭のドッグランを囲むように大きく成長するエレガンテシマを植え、安全性を高めた。
リビングとダイニングキッチンの間にあるステップに腰を下ろすと犬や猫が集まってくる。
「この家に引っ越してから、仕事が終わったらまっすぐ家に帰ろうという気持ちが前より強くなりました」と話す夫妻。新しい住まいは快適なうえ、愛犬、愛猫とのコミュニケーションも増えて、ますます家で過ごす時間が楽しくなった。
「この家に引っ越してから、仕事が終わったらまっすぐ家に帰ろうという気持ちが前より強くなりました」と話す夫妻。新しい住まいは快適なうえ、愛犬、愛猫とのコミュニケーションも増えて、ますます家で過ごす時間が楽しくなった。
前田さんは愛犬家や愛猫家のための家を設計するとき、犬や猫を人間と同じ家族としてとらえている。「犬や猫は、目線が低く、4本足で動き回り、人の言葉を話さないという個性をもった家族であるととらえ、そんな彼らにとっての快適さを考えて設計します。家が完成したあとも、住み心地や一緒に暮らす犬や猫の様子をオーナーから聞き取って、後の設計に活かしています」と前田さん。動物のプロの意見にも耳を傾け、犬や猫が心地よく暮らせる家を考えている。そんな前田さんのもとには、愛犬家や愛猫家の相談が相次いでおり、現在も新しい《スロープの家》づくりが進行しているそうだ。
教えてHouzz
愛犬、愛猫のために家のつくりを変えたいと思いますか?
こちらもあわせて
おしゃれなペットグッズを探す
犬と楽しむガーデンライフのすすめHouzzツアー:犬猫と暮らす、職住が心地よくつながった見通しのよい家ペット用品ブランドのモデル猫、ヒューゴくんとココナッツちゃんの甘い生活
教えてHouzz
愛犬、愛猫のために家のつくりを変えたいと思いますか?
こちらもあわせて
おしゃれなペットグッズを探す
犬と楽しむガーデンライフのすすめHouzzツアー:犬猫と暮らす、職住が心地よくつながった見通しのよい家ペット用品ブランドのモデル猫、ヒューゴくんとココナッツちゃんの甘い生活
おすすめの記事
Houzzがきっかけの家(国内)
ジョージア・オキーフ邸をイメージした、4人家族の暮らしにフィットする家
文/永井理恵子
Houzzで見つけた建築家に依頼して、予算内で夢の住まいを実現!通りかかった人に「素敵ですね!」とよく褒められる、シンプルながらスタイリッシュなお宅です。
続きを読む
日本の家
ゲストへの思いやりの心をしつらえた、離れのある家
文/杉田真理子
東京から訪れるゲストのため、母屋のほかにゲストルームの離れをしつらえた住まい。伝統的な日本家屋の美しさが、自然の中で引き立つ家です。
続きを読む
Houzzがきっかけの家(国内)
家族で自然を満喫。極上の浴室と広々としたデッキを備えた軽井沢の別荘
3人の子供たちの成長期に家族で軽井沢ライフを楽しむため、オーナーは時間のかかる土地探し&新築計画を見直し、中古物件を購入。Houzzで見つけた長野県の建築家に改修を依頼して、飛躍的に自然とのつながりが感じられる住まいに変身させました。
続きを読む
リノベーション
建築家がゲストハウスに再考したガレージ
多目的スペースへと作り替えられた空間とカーポートの追加によって、スタイリッシュにアップデートされた、歴史あるニューイングランド様式の住宅をご紹介します。
続きを読む
世界の家
ビルバオのグランビア通りに佇む、1950年代のクラシカルなフラットハウス
既存のモールディングが美しい85平方メートルのリビング、ダイニング、ホームオフィスをもつ、エレガントなフラットをご紹介します。
続きを読む