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オランダの建築家集団〈MVRDV〉が手がける、大胆な住宅建築の魅力とは?
5月に韓国、ソウル駅の高架道路を改修した公園が竣工し話題を集めているオランダの建築事務所〈MVRDV〉。彼らの作品集から、大胆な工夫にあふれる住宅作品をご紹介します。
John Hill
2017年6月16日
アヴァンギャルドなオランダの建築事務所〈MVRDV〉(社名は創設メンバーであるヴィニー・マース、ヤコブ・ファン・ライス、ナタリー・デ・フリイスのイニシャルから)は、犬小屋から住宅、都市の1区画全体まで、オランダ国内外でさまざまなタイプのプロジェクトを手掛けている。
〈MVRDV〉のプロジェクトに一貫しているのは、リサーチの重視だ。建物の種類や規模、所在地にかかわらず、クライアントと用途に最適な建物を設計するために、関連する要素を徹底的に分析する。〈MVRDV〉が1993年に始動して以来おこなってきた膨大なリサーチをまとめた本は何冊も出版されているが、いちばん新しく、初のモノグラフでもある『MVRDV Buildings』(イルカ&アンドレアス・ルビー編集、nai010出版)では、実際に完成された37の建築に焦点を当てている。
オランダでは公共住宅の重要性が高いため、〈MVRDV〉も多くの集合住宅プロジェクトを手掛けているが、1世帯向けの戸建て住宅もいくつか設計している。今回のアイデアブックでは、『MVRDV Buildings』で取り上げられたプロジェクトのなかから6つをご紹介しよう。『MVRDV Buildings』は、建築家の視点からだけでなくクライアントやユーザーの視点に立って建築を理解できる、素晴らしい作品集だ。
〈MVRDV〉のプロジェクトに一貫しているのは、リサーチの重視だ。建物の種類や規模、所在地にかかわらず、クライアントと用途に最適な建物を設計するために、関連する要素を徹底的に分析する。〈MVRDV〉が1993年に始動して以来おこなってきた膨大なリサーチをまとめた本は何冊も出版されているが、いちばん新しく、初のモノグラフでもある『MVRDV Buildings』(イルカ&アンドレアス・ルビー編集、nai010出版)では、実際に完成された37の建築に焦点を当てている。
オランダでは公共住宅の重要性が高いため、〈MVRDV〉も多くの集合住宅プロジェクトを手掛けているが、1世帯向けの戸建て住宅もいくつか設計している。今回のアイデアブックでは、『MVRDV Buildings』で取り上げられたプロジェクトのなかから6つをご紹介しよう。『MVRDV Buildings』は、建築家の視点からだけでなくクライアントやユーザーの視点に立って建築を理解できる、素晴らしい作品集だ。
《ディドゥン・ヴィレッジ》
オランダ、ロッテルダム 2006年
MVRDVが地元ロッテルダムで初めて手掛けたのは、ディドゥン家の小さな屋上増築プロジェクト。1階と2階が仕事場、3階が住まいという3階建ての家に暮らしていたギレーヌ・ファン・デ・カンプさんとシュールト・ディドゥンさんは、さらにベッドルームを3つ増やしたいと考えたのだ。
ブルーの増築部分はポリウレタン塗装で、階下や周囲に広がる歴史ある赤れんがの建物よりも、空と呼応しているように見える。
オランダ、ロッテルダム 2006年
MVRDVが地元ロッテルダムで初めて手掛けたのは、ディドゥン家の小さな屋上増築プロジェクト。1階と2階が仕事場、3階が住まいという3階建ての家に暮らしていたギレーヌ・ファン・デ・カンプさんとシュールト・ディドゥンさんは、さらにベッドルームを3つ増やしたいと考えたのだ。
ブルーの増築部分はポリウレタン塗装で、階下や周囲に広がる歴史ある赤れんがの建物よりも、空と呼応しているように見える。
同じくブルーのテラスに浮かぶように、切妻屋根の付いた2つの立方体が配置され、この中に3つの部屋がある。プランターまで増築部分と同じ素材と色で仕上げられ、コミックブックに登場する建物のような印象をさらに強めている
ナチュラルな木の内装は、ブルーの外装とは対照的だが、1方向に少なくとも1つは開口部がつくられており、そこから外のブルーがのぞく。写真のいちばん大きいベッドルームでは、それぞれの開口部から広いテラスに出られるようになっている。
増築部分には、らせん階段からアクセスする。らせん階段はいずれもプレハブのユニットで、部屋の周囲を覆ってしまうまえに外から吊り上げて搬入し設置した。
階段と床が接していないことに注目。階段は上から吊られている状態で、床から1段分浮いているのだ。ディドゥン家の3階建ての建物は歴史的建造物として認定されているため、手を加えるのは最小限にとどめている。
階段と床が接していないことに注目。階段は上から吊られている状態で、床から1段分浮いているのだ。ディドゥン家の3階建ての建物は歴史的建造物として認定されているため、手を加えるのは最小限にとどめている。
上の写真と似ているが、2人の子どもたちのベッドルームとプレイルームにつながるこちらのらせん階段には、中央にロープが下がった隙間がつくられており、子どもたちがロープで上り下りできるようになっている。遊び心のある外観だけに、こんな工夫も驚くにはあたらないだろう。
《バーコード・ハウス》
ミュンヘン 2005年
もうひとつ、1戸建て住宅からご紹介しよう。(本に書かれているように、MVRDVは「1世帯向け戸建て住宅は都市開発の最悪シナリオ」とみなしており、あまり手掛けていない。)クライアントは、家族とより多くの時間を過ごすため、経営していた業績良好な広告会社を2004年に売却したというカップル。都会と田舎の雰囲気をバランスよく併せ持つロケーションとして、ミュンヘン中心部から遠くない場所に広い土地を購入した。
当初からMVRDVは、敷地の前から奥へとバーコードの縞模様のように空間が平行に並ぶ家、というコンセプトを描いており、これがバーコード・ハウスという名前の由来となった。点のくぼみがついたガレージのファサードが道路に面し、その脇にあるゲートを通って家に入る。
ミュンヘン 2005年
もうひとつ、1戸建て住宅からご紹介しよう。(本に書かれているように、MVRDVは「1世帯向け戸建て住宅は都市開発の最悪シナリオ」とみなしており、あまり手掛けていない。)クライアントは、家族とより多くの時間を過ごすため、経営していた業績良好な広告会社を2004年に売却したというカップル。都会と田舎の雰囲気をバランスよく併せ持つロケーションとして、ミュンヘン中心部から遠くない場所に広い土地を購入した。
当初からMVRDVは、敷地の前から奥へとバーコードの縞模様のように空間が平行に並ぶ家、というコンセプトを描いており、これがバーコード・ハウスという名前の由来となった。点のくぼみがついたガレージのファサードが道路に面し、その脇にあるゲートを通って家に入る。
この家は、地下でつながる2つのまとまったヴォリュームで構成されており、そのあいだには地下プールつきの小さな中庭がある。地域の都市計画規制により、「前の家」と「奥の家」に分割することが求められたのだが、これは住居と仕事場を分けるというオーナーの希望と合致するものだった。この写真を見ると、異なる機能に特化した空間がバーコードの縞のように並んでいるのがわかる。こちらはそれぞれ、ベッドルーム、階段、キッチン、リビングエリアとなっている。
このバーコード状の配置により、ほとんどの空間では2面から採光することになる(1面だけが外に面している小さなスペースもある)。こちらは、前側のヴォリュームにある仕事場。ダイレクトな日差しと、半透明のオレンジ色のパネルを通した光が入る。
《WoZoCo(オクラホマ)》
アムステルダム 1997年
アムステルダムのオスドルプ地区にある、高齢者のための100戸の集合住宅は、MVRDVにとって初の住宅プロジェクトだ。住宅に限らず、最初期のプロジェクトのひとつでもあり、若手のコンテンポラリー建築事務所としてMVRDVが注目を集めるきっかけとなった。1950年代からの地域マスタープランにより高さと面積に厳しい制限があるため、求められる100戸のうち87戸しか建物の四角いヴォリューム内に収まらないことが判明した。これに対してMVRDVの出した答えは、残りの13戸を建物の片側からカンティレバーで突き出すことだった。
アムステルダム 1997年
アムステルダムのオスドルプ地区にある、高齢者のための100戸の集合住宅は、MVRDVにとって初の住宅プロジェクトだ。住宅に限らず、最初期のプロジェクトのひとつでもあり、若手のコンテンポラリー建築事務所としてMVRDVが注目を集めるきっかけとなった。1950年代からの地域マスタープランにより高さと面積に厳しい制限があるため、求められる100戸のうち87戸しか建物の四角いヴォリューム内に収まらないことが判明した。これに対してMVRDVの出した答えは、残りの13戸を建物の片側からカンティレバーで突き出すことだった。
本のエピソードによると、あるカップルは入居待ちリストの13番目だったのだが、前の12組がみんなカンティレバーにちゅうちょして辞退したため、アパートメントを手に入れることができたそうだ。確かにトラックが通ると部屋は揺れるが、ホームオーナーは「慣れるもんですよ」とのこと。
ガラスのガードレールは、ファサードにカラフルな光を投げかけるだけではなく、それぞれのアパートメント内にも色を取り込んでくれる。ここに住む人たちは、バラ色眼鏡ならぬ、さまざまな色ガラスをとおして世界を見ることができるのだ。
《シロダム》
アムステルダム 2003年
もうひとつ、〈MVRDV〉が大きなインパクトを与えたプロジェクト(写真映えでは《WoZoCo》に負けるが)と言えば、シロダムだろう。アイ河の堤防に建つ古い穀物庫をリノベーションした複合施設プロジェクトだ。このビルには、オフィス、商業施設、住居、そして住居のなかにもさまざまなタイプが含まれており、こういったユニットの種類ごとに変化をつけることでパッチワークキルトのような外観になっている。
アムステルダム 2003年
もうひとつ、〈MVRDV〉が大きなインパクトを与えたプロジェクト(写真映えでは《WoZoCo》に負けるが)と言えば、シロダムだろう。アイ河の堤防に建つ古い穀物庫をリノベーションした複合施設プロジェクトだ。このビルには、オフィス、商業施設、住居、そして住居のなかにもさまざまなタイプが含まれており、こういったユニットの種類ごとに変化をつけることでパッチワークキルトのような外観になっている。
ユニークなのは、徒歩でも車でもボートでもアクセスできること(車用のガレージも、ボート用の桟橋も用意されている)。行き止まりで向こうは海というロケーションのため、かなり静かなところも住人に好まれている。
住戸ユニットを購入する際には、建物に手を加えることを規制するルールへの同意が求められる。たとえば、きちんと色分けされた廊下に個人の所有物を置くことは許されない。寄せ集めのような外観や、住人たちの意向で図書館やジムなどにつくり変えられる余分なスペースが用意されていることを考えると、これは意外なところだ。
《ジェミニ・レジデンス》
デンマーク、コペンハーゲン 2005年
こちらもウォーターフロントで、またもや穀物庫の改築プロジェクトだが、場所はコペンハーゲンの古い港湾地域だ。シロダムのキルトのような外観に代わり、サイロのかたちを強調するシンプルですっきりとしたデザインになっている。
デンマーク、コペンハーゲン 2005年
こちらもウォーターフロントで、またもや穀物庫の改築プロジェクトだが、場所はコペンハーゲンの古い港湾地域だ。シロダムのキルトのような外観に代わり、サイロのかたちを強調するシンプルですっきりとしたデザインになっている。
2つ並んだ穀物サイロのコンクリート壁の規模と強度を生かして、MVRDVは居室を外側に吊り下げる設計を選んだ。こうすることで、コンクリートに開ける開口部は1つのアパートメントにつき1つで済み、サイロの内側にはアトリウムをつくることができた。
住人からは、アパートメントの壁が曲線のためインテリアづくりが難しいという声もある。それぞれ工夫してクリエイティブに対応しているようだが、ひろびろとしたバルコニーと美しい眺めを考えれば些細なこと、というのがみんなに共通した意見のようだ。
《ハーゲンエイランド》
オランダ、ハーグ
〈MVRDV〉の仕事のうち、もっとも大規模なのが、人口3万人の新興住宅地イペンブルグの一角のためのマスタープラン策定だ。マスタープランは5つの住宅プロジェクトからなり、そのうち3つはMVRDV自身が設計。なかでもハーゲン島は唯一、低価格住宅のみで構成されている。カラフルな切妻のフォルムは、最初にご紹介した《ディドゥン・ヴィレッジ》の先駆けとなるデザインだ。
オランダ、ハーグ
〈MVRDV〉の仕事のうち、もっとも大規模なのが、人口3万人の新興住宅地イペンブルグの一角のためのマスタープラン策定だ。マスタープランは5つの住宅プロジェクトからなり、そのうち3つはMVRDV自身が設計。なかでもハーゲン島は唯一、低価格住宅のみで構成されている。カラフルな切妻のフォルムは、最初にご紹介した《ディドゥン・ヴィレッジ》の先駆けとなるデザインだ。
もっとも安価な連棟住宅といえば建物ブロックが隙間なく連なっているものだが、MVRDVは、インフラコストを下げ(外周の駐車スペース、舗装材の工夫などによる)、外装のディテールをシンプルにすることで、ひとつひとつがよりコンパクトでバラエティのある連棟住宅を実現している。実際的な制約とクリエイティビティのバランスをとりながら、親しみがありつつ新鮮な建築をつくるというMVRDVの能力が、このプロジェクトにはよく表れている。
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