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家をつくり、家を知る。名作団地「桜台ビレジ」を住み継ぐ家族のリノベーション
建築家、内井昭蔵が手がけた、築50年近い名作集合住宅を手に入れた夫婦は、建築家とともにリノベーションの作業に参加。憧れの家具を手に入れて、心地よいマイホームをつくりあげました。
渡辺安紀 |Aki Watanabe
2017年6月20日
「家は自分の手で作りたい、とずっと考えていたんです」と話すのはこの家のオーナーの稲葉智之さん。だから、リノベーションをするにあたり、住まい手もリノベーションのプロセスに参加させてくれる家づくりのプロを探していた。
いっぽう、奥様の亜希子さんは「歳を重ねたら、ふたりの地元、北海道に戻るつもりなので、20年ほど暮らせる物件でいい。そこで昭和の雰囲気を残しつつリノベーション可能な物件をこのあたりで探していたら、たまたまここが売り出されていたんです」と振り返る。
その物件が「桜台ビレジ」だった。建築家、内井昭蔵の設計により1969年に竣工し、神奈川県建築賞を受賞した名作団地であることを知った亜希子さんは、神奈川県内にやはり内井が設計した「宮崎台ビレジ」があることを知り、内井作品のリノベーションを手がけた経験がある建築事務所を探し始めた。
こうして、別の視点から家づくりのプロを探していた夫婦が、それぞれにたどりついたのがHandiHouseという「答え」だった。
どんなHouzz
所在地:神奈川県横浜市青葉区
住まい手:稲葉智之さん、亜希子さん、4歳の長男、7ヵ月の長女
延床面積:60平方メートル
構造:RC
間取り:洋室のベットルーム×2、DK、リビングルーム、バスルーム(トイレ含む)を広いワンルーム、キッチン、バスルーム(トイレ含む)へ変更
リノベーション設計:HandiHouseの加藤渓一さん
施工:HandiHouse
団地竣工年:1969年(過去にリフォームした形跡あり。)
リノベーション:2015年
いっぽう、奥様の亜希子さんは「歳を重ねたら、ふたりの地元、北海道に戻るつもりなので、20年ほど暮らせる物件でいい。そこで昭和の雰囲気を残しつつリノベーション可能な物件をこのあたりで探していたら、たまたまここが売り出されていたんです」と振り返る。
その物件が「桜台ビレジ」だった。建築家、内井昭蔵の設計により1969年に竣工し、神奈川県建築賞を受賞した名作団地であることを知った亜希子さんは、神奈川県内にやはり内井が設計した「宮崎台ビレジ」があることを知り、内井作品のリノベーションを手がけた経験がある建築事務所を探し始めた。
こうして、別の視点から家づくりのプロを探していた夫婦が、それぞれにたどりついたのがHandiHouseという「答え」だった。
どんなHouzz
所在地:神奈川県横浜市青葉区
住まい手:稲葉智之さん、亜希子さん、4歳の長男、7ヵ月の長女
延床面積:60平方メートル
構造:RC
間取り:洋室のベットルーム×2、DK、リビングルーム、バスルーム(トイレ含む)を広いワンルーム、キッチン、バスルーム(トイレ含む)へ変更
リノベーション設計:HandiHouseの加藤渓一さん
施工:HandiHouse
団地竣工年:1969年(過去にリフォームした形跡あり。)
リノベーション:2015年
リノベーションにあたり、稲葉夫妻はHandiHouseの加藤渓一さんに「作り付けの家具が欲しい」「友人が集まる空間」「ワンルーム空間にしたい」という3つの条件をリクエストした。「作り付けの家具を希望したのは、スペースが限られているところに、収納家具をいくつも置くと、空間が狭く感じるから。ワンルームを望んだのは、部屋が分割されると狭く感じるのではと思ったからです」と智之さん。
物件の平面は独特の形状だ。四角形ではなく、大きさの異なるV字型の張り出しが南北に1つずつついた六角形と四角形を組み合わせた形なのだ。スペースを最大限に活用するには、機能にあわせて空間をどうゾーニングするかが鍵となる。
「プロジェクトが複雑な課題に思えるときは、できるだけシンプルな解決を目指します」と話す加藤さん。平面図を見ながら、突き出した面に対して平行線を1本引いた瞬間、問題がすっと解けた気がしたという。もちろん、三角形のキッチンを含んだ案を提案するのに不安がなかったわけではない。だが、稲葉夫妻はその案を見た瞬間に気に入った。友人たちがキッチン周りに集まってにぎやかに楽しむようすがイメージできたし、壁一面の書棚兼収納棚もあったからだ。
「プロジェクトが複雑な課題に思えるときは、できるだけシンプルな解決を目指します」と話す加藤さん。平面図を見ながら、突き出した面に対して平行線を1本引いた瞬間、問題がすっと解けた気がしたという。もちろん、三角形のキッチンを含んだ案を提案するのに不安がなかったわけではない。だが、稲葉夫妻はその案を見た瞬間に気に入った。友人たちがキッチン周りに集まってにぎやかに楽しむようすがイメージできたし、壁一面の書棚兼収納棚もあったからだ。
「室内に出現した斜めの線は、空間のアクセントになるだけでなく、人の動きをさりげなく導く効果があると思います」と話す加藤さん。玄関からリビングに入ると、壁に沿って視線が奥へ自然に引き込まれていく。キッチンから最奥のベッドスペースに向かう斜めの線の存在が、空間に奥行きが加え、広く見せてくれる効果もある。「空間に長い線を加えたことで、ワンルーム空間に変化が生まれたんです」と加藤さん。
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三角形の辺に沿ってダイニングとリビングでフローリングの張る方向を変えたのも、奥行きが増す効果がある。フローリングは岡崎製材のヴィンテージ仕上げのオーク材を使い、自然塗料の蜜蝋ワックスで仕上げた。「床は人の身体が必ず接する部分。メンテナンスのしやすさよりも、裸足でいたくなる素材をすすめます」と加藤さん。
智之さんのいちばんのお気に入りは玄関とリビングを区切るガラスの引き戸。ガラスは狭さを感じさせないし、帰宅したとき、引き戸がフレームとなって、家の中をピクチャーウィンドウのように切り取って見せてくれる点が気に入っている。「ガラス越しの眺めを目にすると、仕事から家庭へと、頭が切り替わりますね」
南北に大きな窓があるため、風通しはとてもよい。エアコンが苦手な夫妻は、以前に住んでいた家から持ってきたシーリングファンをリビングとベッドスペースにそれぞれ設置。とても静かだし、風はもちろん、ゆったりとした雰囲気も作り出してくれる。
写真正面の造作クローゼットはシナランバーを使って明るい印象に。クローゼットの上も収納として活用している。
南北に大きな窓があるため、風通しはとてもよい。エアコンが苦手な夫妻は、以前に住んでいた家から持ってきたシーリングファンをリビングとベッドスペースにそれぞれ設置。とても静かだし、風はもちろん、ゆったりとした雰囲気も作り出してくれる。
写真正面の造作クローゼットはシナランバーを使って明るい印象に。クローゼットの上も収納として活用している。
ダイニングの家具は夫妻が「沖縄ヴィンテージ家具買い付け旅行」で手に入れたもの。「宜野湾市の大山にヴィンテージ家具屋さんが並ぶ通りがあるんです。基地が近いので、旅行代を入れても都内よりも安く手に入る穴場ですよ」と智之さん。この旅行で照明3点と椅子4脚を購入した。
亜希子さんお気に入りの壁付け収納の素材はラワンランバー。当初、棚はすべてオープンにしてほしいとリクエストしたが、加藤さんに「半分は見せないほうがいい。そのほうが見せる部分が引き立ちます」と言われて納得。「たしかに正解でした。子どもがいると、どうしても室内に色があるもの増えてしまいますから、隠す収納も必要なんですね」と亜希子さんは笑う。
亜希子さんお気に入りの壁付け収納の素材はラワンランバー。当初、棚はすべてオープンにしてほしいとリクエストしたが、加藤さんに「半分は見せないほうがいい。そのほうが見せる部分が引き立ちます」と言われて納得。「たしかに正解でした。子どもがいると、どうしても室内に色があるもの増えてしまいますから、隠す収納も必要なんですね」と亜希子さんは笑う。
キッチンのバックスプラッシュのタイルは2色の青をランダムに貼った。キッチンの天板はステンレス天板。亜希子さんは木製の天板にも憧れたが、メンテナンスを考慮してステンレスに。ビルトイン型の浄水器はアールのフォルムが気に入った。冷蔵庫の上は吊り天井を取り付けてオープンパントリーとした。レンジフードのダクトもナッツやココナッツオイルなどおしゃれなパッケージの食品でうまく隠している。ガスコンロは4口タイプなのでホームパーティーのときにも大活躍している。
HandiHouseといえば、「オーナーと一緒に家づくり」がモットーだ。一緒に作業をする毎週土曜日が毎回待ち遠しかったという稲葉夫妻。プロジェクトが終わっても、家づくりをめぐって関係は続いていく。取材中は、亜希子さんが加藤さんに食洗機の設置について質問していた。智之さんは「作業に参加したので、壁や床の裏側や配管の位置、素材のことなど、家のつくりが理解できました。家を使っていくうえで何か起こった時、対処の仕方を自分でもある程度調べ、わからないことがあれば、加藤さんに相談しています」と話す。
タイル:名古屋モザイク工業(コラベルAパターン)、水栓:クリンスイ(F914-ZC)、レンジフード:パナソニック、ガスコンロ:リンナイ(RD640STS)
HandiHouseといえば、「オーナーと一緒に家づくり」がモットーだ。一緒に作業をする毎週土曜日が毎回待ち遠しかったという稲葉夫妻。プロジェクトが終わっても、家づくりをめぐって関係は続いていく。取材中は、亜希子さんが加藤さんに食洗機の設置について質問していた。智之さんは「作業に参加したので、壁や床の裏側や配管の位置、素材のことなど、家のつくりが理解できました。家を使っていくうえで何か起こった時、対処の仕方を自分でもある程度調べ、わからないことがあれば、加藤さんに相談しています」と話す。
タイル:名古屋モザイク工業(コラベルAパターン)、水栓:クリンスイ(F914-ZC)、レンジフード:パナソニック、ガスコンロ:リンナイ(RD640STS)
洗面スペース入口の引き戸は岡崎製材のパインドア。壁のタイルは、キッチンと同じ名古屋モザイクタイル工業のヘキサゴン(HEX22-650)。ミラー左下に赤と黒のタイルを1枚ずつ貼ったのは、智之さんの遊び心。夫婦の出身地のチーム、コンサドーレ札幌のチームカラーだ。写真右手、透明の引き戸の奥が浴室。亜希子さんこだわりのボディーシャワーはTOTOのTMGG95EC1。
家の中で、タイル壁の面積が大きい稲葉家。洗面室のタイルの色選びについては、「洗面室はピンク✕グレーにするか、グリーン一色にするかで夫婦の意見が分かれました。結局、長男が『こっち』と指したグリーンに決めたんです」と智之さん。
水栓:カクダイ(128-105)、洗面ボウル:TOTO(SK−6)
家の中で、タイル壁の面積が大きい稲葉家。洗面室のタイルの色選びについては、「洗面室はピンク✕グレーにするか、グリーン一色にするかで夫婦の意見が分かれました。結局、長男が『こっち』と指したグリーンに決めたんです」と智之さん。
水栓:カクダイ(128-105)、洗面ボウル:TOTO(SK−6)
長男の最近のお気に入りはテラス。幼稚園から帰ってくると飲み物をもって、テラスで過ごしているそうだ。
ヴィンテージ物件で気になるのは設備の面。「排水、給水、電気など、設備はすべて取り替えました。築年数を重ねた物件のリノベーションでは必ず更新します」と加藤さん。一方で窓のサッシや玄関扉など、団地の共有部分に関しては取り替えることができない。冬の寒さはアラジンの石油ストーブで対応しているが、最近、窓サッシ交換の話が団地の自治会で出ているそうだ。
「昭和の物件らしい雰囲気が失われてしまうのでは、という意見もありますが、断熱性能は上がりますし、活発に意見交換をしている段階です。そんなときにも、住民みんなから、“この団地が好き” という思いが伝わってくるのがいいですね」と亜希子さん。
ヴィンテージ物件で気になるのは設備の面。「排水、給水、電気など、設備はすべて取り替えました。築年数を重ねた物件のリノベーションでは必ず更新します」と加藤さん。一方で窓のサッシや玄関扉など、団地の共有部分に関しては取り替えることができない。冬の寒さはアラジンの石油ストーブで対応しているが、最近、窓サッシ交換の話が団地の自治会で出ているそうだ。
「昭和の物件らしい雰囲気が失われてしまうのでは、という意見もありますが、断熱性能は上がりますし、活発に意見交換をしている段階です。そんなときにも、住民みんなから、“この団地が好き” という思いが伝わってくるのがいいですね」と亜希子さん。
加藤さんは、この桜台ビレジを含め、これまでに内井昭蔵が設計した物件のリノベーションを3件手がけている。
「昔の建物は南面を大きくとり、光をふんだんにとりいれ、南北の風通しを配慮し物件が多いんです。リノベーションではどうにもならない環境がしっかり整えられている点が魅力的ですね」と話す。
「内井の作品は、満開の桜を間近に楽しめる中庭の配置、窓と中庭の関係、土地の傾斜を利用してカーテンをつけなくても生活できるようにプライバシーを確保している点などさまざまな工夫があり、さすが日本を代表する建築家の設計だと思いました。僕の理解と解釈が正しいかどうかはわかりませんが、自分なりに読み取ったことを生かして、稲葉さん一家の生活スタイルにあわせたリノベーションを手がけられたのは、とても良い経験になりました」と話してくれた。
My Houzz:夢は「家を自分でつくること」。30代 夫婦が夢を叶えるためセルフリノベーションに挑戦!
「昔の建物は南面を大きくとり、光をふんだんにとりいれ、南北の風通しを配慮し物件が多いんです。リノベーションではどうにもならない環境がしっかり整えられている点が魅力的ですね」と話す。
「内井の作品は、満開の桜を間近に楽しめる中庭の配置、窓と中庭の関係、土地の傾斜を利用してカーテンをつけなくても生活できるようにプライバシーを確保している点などさまざまな工夫があり、さすが日本を代表する建築家の設計だと思いました。僕の理解と解釈が正しいかどうかはわかりませんが、自分なりに読み取ったことを生かして、稲葉さん一家の生活スタイルにあわせたリノベーションを手がけられたのは、とても良い経験になりました」と話してくれた。
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