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名作家具:「鋼管パイプの革命児」ブロイヤーの家具のタイムレスな魅力とは?
有名な「ワシリーチェア」を始め、バウハウスの精神が生きる、スチールパイプを駆使したモダンで美しいデザイン。今のライフスタイルにもまったく違和感なくとけこむ、永遠に魅力的な家具が生まれた背景とは?
ヒジュン カスヤ|Hijung Kasuya
2017年4月20日
20世紀モダニズムの建築とデザインの基礎を築いたドイツの総合芸術・建築デザイン学校バウハウス。その家具工房の第一期生として学び、卒業後は工房の教師に迎えられたマルセル・ブロイヤー(1902−1981)は、モダン家具の歴史における最も重要なデザイナーのひとりです。
現在、ブロイヤーの家具に焦点をあてた展覧会「マルセル・ブロイヤーの家具」展が東京国立近代美術館で開催されており、国内外のコレクションからよりすぐった40点の作品が展示されています。今回は、展覧会にちなんで、ブロイヤーが生み出した家具の魅力を改めて振り返ってみたいと思います。そのすべてに、100年近い時の経過を感じさせないフォルムの美しさと技術力に驚きと感動があります。
現在、ブロイヤーの家具に焦点をあてた展覧会「マルセル・ブロイヤーの家具」展が東京国立近代美術館で開催されており、国内外のコレクションからよりすぐった40点の作品が展示されています。今回は、展覧会にちなんで、ブロイヤーが生み出した家具の魅力を改めて振り返ってみたいと思います。そのすべてに、100年近い時の経過を感じさせないフォルムの美しさと技術力に驚きと感動があります。
クラブチェア B3(ワシリーチェア)、1925年
《ワシリーチェア》は23歳の作品
ブロイヤーは1925年に世界で初のスチールパイプ(鋼管)製の椅子《クラブチェアB3》をデザインしました。まるで一筆書きのようなスチールパイプのフレームで構成する、彼にとっても家具の歴史にとっても記念碑的な椅子です。椅子の素材といえば木が主流であった時代にスチールパイプを使用したことは、家具における「素材の革命」でした。外観は宙に浮くような掛け心地の軽さの印象を持ちながら、その存在感、重厚感は時代を越えた魅力があります。
スチールパイプのフレームに帆布を張ったこのデザインは自転車のハンドルをヒントにしたといわれています。後に「私はこれが全ての作品の中でもっとも批判を招くだろうと考えた。(中略)それは最も芸術から離れ、最も論理的で極めて居心地が悪く、そして最も機械的だった。しかし、予想とは全く反対のことがおこった」と回想しているのですから、本人にとっても、行く末が予想がつかないほど斬新な作品だったのでしょう。
発表当初は《クラブチェアB3》としていましたが、1962年に量産モデルの生産が始まる際にブロイヤ―が《ワシリーチェア》と名付けました。この名は、20世紀を代表する抽象画家で、ブロイヤーにとってはバウハウスでの師のひとりでもあったワシリー・カンディンスキーにちなんだもの。まだ若いブロイヤーにとって、才能を評価してくれたカンディンスキーの存在は大きな支えでした。
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名作住宅:バウハウス初の実験住宅《ハウス・アム・ホルン》
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スチールパイプのフレームに帆布を張ったこのデザインは自転車のハンドルをヒントにしたといわれています。後に「私はこれが全ての作品の中でもっとも批判を招くだろうと考えた。(中略)それは最も芸術から離れ、最も論理的で極めて居心地が悪く、そして最も機械的だった。しかし、予想とは全く反対のことがおこった」と回想しているのですから、本人にとっても、行く末が予想がつかないほど斬新な作品だったのでしょう。
発表当初は《クラブチェアB3》としていましたが、1962年に量産モデルの生産が始まる際にブロイヤ―が《ワシリーチェア》と名付けました。この名は、20世紀を代表する抽象画家で、ブロイヤーにとってはバウハウスでの師のひとりでもあったワシリー・カンディンスキーにちなんだもの。まだ若いブロイヤーにとって、才能を評価してくれたカンディンスキーの存在は大きな支えでした。
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ネストテーブル B9-9c、1929年
軽やかでモダンなデザイン
「鋼管パイプの革命児」ブロイヤーは、自ら開発したスチールパイプの加工技術を活用し、4連のネストテーブルもデザインしました。ビビッドなカラーリングの天板を用い、スツールとテーブルの機能を兼ね備えた、シンプルで実用的な家具です。重厚な木製テーブルが主流の時代、革新的なデザインだったのは間違いありません。
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ラッチオコーヒーテーブル、1925年
投げ縄のようにしなやかなフレームの形
「ラッチオ」とは「投げ縄、革紐」という意味で、しなやかなフォルムを描く細いスチールフレームのラインを表しています。ミニマルなデザインは、幅広いスタイルに馴染むので、今日も変わらず多くの人々に愛用されています。《ワシリーチェア》との相性が抜群なのは当然ですね。
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サイドチェア B32(チェスカチェア)、1928年
カンチレバーチェアの傑作《チェスカチェア》
ブロイヤーは家具の未来について「しまいには人は弾力のある空気の柱に座ることになるだろう」という言葉を残しています。彼にとって「空気(の柱に座る)椅子」は理想であり、重要なデザインのキーワードでした。
この時期、ブロイヤー、マルト・スタム、ミース・ファン・デル・ローエがスチールパイプ椅子のデザインに取り組み、後脚がなく前脚だけで支えるスチールパイプフレームのカンチレバー(片持ち梁)構造を相次いで完成させました。
写真は《チェスカチェア》。スプリング効果で宙に浮くような浮遊感に加え、籐をはった背面と座面が心地よい座り心地をつくります。トーネット社との取り組みで実現しました。座面は籐のほかに布張りがあります。
カンチレバーチェアの傑作《チェスカチェア》
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この時期、ブロイヤー、マルト・スタム、ミース・ファン・デル・ローエがスチールパイプ椅子のデザインに取り組み、後脚がなく前脚だけで支えるスチールパイプフレームのカンチレバー(片持ち梁)構造を相次いで完成させました。
写真は《チェスカチェア》。スプリング効果で宙に浮くような浮遊感に加え、籐をはった背面と座面が心地よい座り心地をつくります。トーネット社との取り組みで実現しました。座面は籐のほかに布張りがあります。
サイドチェア B32(チェスカチェア)
写真は《チェスカチェア》の籐張りシートのアームレスタイプ。ミッドセンチュリーのデザイナー、エーロ・サーリネンのテーブルとのコーディネートシーン。ミニマルなスチールパイプの椅子は、組合わせる家具のスタイル、年代、素材を問わず調和します。
写真は《チェスカチェア》の籐張りシートのアームレスタイプ。ミッドセンチュリーのデザイナー、エーロ・サーリネンのテーブルとのコーディネートシーン。ミニマルなスチールパイプの椅子は、組合わせる家具のスタイル、年代、素材を問わず調和します。
ダイニングチェア B40、1926/1927年
こちらもカンチレバーのスチールフレームのイス。アームチェアとアームレスがあります。《ワシリーチェア》と同様にレザーを座面と背面に使っています。腰掛けると、身体の重みで後方の座面が下がり、スプリング効果のある掛け心地のよい椅子は、ダイニングチェアとして愛用されています。
こちらもカンチレバーのスチールフレームのイス。アームチェアとアームレスがあります。《ワシリーチェア》と同様にレザーを座面と背面に使っています。腰掛けると、身体の重みで後方の座面が下がり、スプリング効果のある掛け心地のよい椅子は、ダイニングチェアとして愛用されています。
ティートローリー、1928年、
フォルムはミニマルに、機能はしっかりと
さまざまな素材の組合わせを試みたブロイヤーらしい、ミニマルで洗練されたデザインのワゴン。今日的に見ると3輪キャスターのディテールにレトロテイストな魅力があります。写真は、MDFの天板を用いたモデル。無駄のない美しいフォルムはスチールパイプによるフレーム形成技術とデザインの結晶です。
フォルムはミニマルに、機能はしっかりと
さまざまな素材の組合わせを試みたブロイヤーらしい、ミニマルで洗練されたデザインのワゴン。今日的に見ると3輪キャスターのディテールにレトロテイストな魅力があります。写真は、MDFの天板を用いたモデル。無駄のない美しいフォルムはスチールパイプによるフレーム形成技術とデザインの結晶です。
ティートローリー、1928年
同じカートでも、天板の色が変わると趣も変わり、白壁と淡い色のウッドフローリングのコンテンポラリーなシーンにはブラックカラーが引き立ちます。機能はもちろんのこと、インテリアのスパイスになるアイテムです。
同じカートでも、天板の色が変わると趣も変わり、白壁と淡い色のウッドフローリングのコンテンポラリーなシーンにはブラックカラーが引き立ちます。機能はもちろんのこと、インテリアのスパイスになるアイテムです。
ロングチェア、1932年
「新しい時代の人間のためのデザイン」
ブロイヤーが追求したのは「新しい時代の人間のためのデザイン」。過去の様式から脱却し、機能に基づいたもの作りをするバウハウスの精神は、ブロイヤーのデザイン哲学と一致しています。
写真はアルミフレーム構造のロングチェア(シェーズロング、寝椅子)。屋外の陽光を浴びた陰のシルエットは、まさにアートです。
「新しい時代の人間のためのデザイン」
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アイソコンロングチェア、1935-36年
積層合板による作品も
スチールパイプだけでなく、木製家具のデザインも数多く手がけています。なかでも、現在も愛されるモデルは、1932年のアルミフレーム製のロングチェアをもとに、1936年に積層合板という新技術を駆使してリリースしたもの。ここでは、木材による形態として、革命的な家具を生み出しました。現在販売されているモデルでは座面に布張りのシートが採用されています。
積層合板による作品も
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いつの時代も色褪せることのないデザイン
手づくりで木製品をつくっていた時代から金属製品の量産時代へと世の中が変化するなかで、インダストリアルなモダンデザインの開拓者となったのがブロイヤーでした。高い機能性と洗練された美しさを合わせもつ彼の作品は今日のライフスタイルにもとけ込む普遍的な魅力があり、時代を超えて色褪せることがありません。
参考文献
杣田佳穂『ワシリーチェアからはじめるバウハウス』(ミサワバウハウスコレクション、株式会社ミサワホーム総合研究所)
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