森瑤子エッセイに学ぶ、素敵な暮らしとインテリア:ジュエルトーンの空間
作家の母が残したエッセイを紐解きながら、娘である筆者が今の暮らしやインテリアに活かすヒントを探します。今回は「色ガラス的なもの」に惹かれる思いを綴った一節と、ジュエリーのような色のインテリアのお話。
ブラッキン・ヘザー
2017年2月21日
Houzz contributor.
Home Life Style インテリア、収納空間デザイン。
「贅沢な時間を過ごせる、あなたらしい心地よい住まいづくり」をモットーに、一人ひとりの個性や「好き」を引き出しながらのインテリアのコーディネーション、
より快適な暮らしのためのライフスタイルに合わせた収納計画のご提案をいたします。
著書「ふつうの住まいでかなえる外国スタイルの部屋づくり(文藝春秋)
Interior decoration and storage space planning in Tokyo, Japan. English/Japanese bilingual, with interior design and decoration experience in Europe and Japan.
Houzz contributor.
Home Life Style インテリア、収納空間デザイン。
「贅沢な時間を過ごせる、あなたらしい心地よい住まいづくり」をモットーに、一人ひとりの個性や「好き」を引き出しながらのインテリアのコーディネーション、
より快適な暮らしのためのライフスタイルに合わせた収納計画のご提案をいたします。
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今、母の残したエッセイや小説のページをめくると、目の前に懐かしい風景が蘇り、美しいシーンが浮かびます。記憶の中の母に年齢も近づいてきたからでしょうか、昔とはまた違うものが見える気もします。誰よりも身近な存在である母が書いた作品だからこそ、読むと切なさや苛立ちや驚きを感じたり、また、真実とフィクションの境界を探るように読んだりしたこともありました。振り返ってみれば私もまだ若い娘だったので、そういうことが気になるのも当然でした。でも今はそんなことは気にならなくなり、ひとつの作品として森瑤子の世界観を楽しめるようになりました。そして、恋愛や人間関係のことだけではなく、色や香りや手触りを感じる彼女の文章の中に、今の素敵な暮らしやインテリアのためのヒントが、たくさん見つかるように思ったのです。
「少女の頃、異様に執着した色ガラス。家の近くの広っぱや、まだコンクリートで固められていなかった道ばたに、キラリと日差しを受けて光っていた色とりどりのガラスの破片。
今のようにありとあらゆるものが溢れている時代ではなかったので、私にとっては、数少ない、そして一番好きな遊びの一つだった。それを集め、分類し、日に透かして色の美しさに酔うー 今だに、海岸など歩いていてみつかると、思わずしゃがみこんで拾い上げ、家にもって帰ってしまう。(中略)
意識してのことではなかったが、好きなもの、大事なものというと自然にそういったものが集まってしまうのだ。(中略)
その昔、色ガラスのコレクションに夢中だった少女の頃、私はいつも、自分を童話のお姫様に仕立てて、作り話の世界に遊んだものだった。その時、自分の頭に想像上の冠をかぶせて、実にいい気分だった。」
森瑤子「色ガラスの帽子」、『人生の贈り物』(集英社文庫)所収
意識してのことではなかったが、好きなもの、大事なものというと自然にそういったものが集まってしまうのだ。(中略)
その昔、色ガラスのコレクションに夢中だった少女の頃、私はいつも、自分を童話のお姫様に仕立てて、作り話の世界に遊んだものだった。その時、自分の頭に想像上の冠をかぶせて、実にいい気分だった。」
森瑤子「色ガラスの帽子」、『人生の贈り物』(集英社文庫)所収
母の好きだった「色ガラス的なもの」
少女時代に色ガラスに惹かれた母の心は、大人になっても変わりませんでした。その証は、母が大人になってから集めていた色ガラスのようなカラフルなコスチュームジュエリー。高価な宝石よりも、色ガラスの入ったアクセサリーを組み合わせて気軽に身につけるのが、彼女流のファッションスタイルでした。そして色ガラス的イメージは、母が選ぶインテリア小物にもよく見られました。
少女時代に色ガラスに惹かれた母の心は、大人になっても変わりませんでした。その証は、母が大人になってから集めていた色ガラスのようなカラフルなコスチュームジュエリー。高価な宝石よりも、色ガラスの入ったアクセサリーを組み合わせて気軽に身につけるのが、彼女流のファッションスタイルでした。そして色ガラス的イメージは、母が選ぶインテリア小物にもよく見られました。
ヴェネチアングラスの器や香水瓶、独特な色のガラスの花瓶。ピンクのソファに置いたエメラルドやアメジストのような色と光沢のあるクッション。キラキラと輝くモザイクタイル。少女時代の趣味が、大人になってからのライフスタイルにも自然と引き継がれていたのです。
きれいな色ガラスのかけらと想い出のシーン
世界各国を旅して買い集めた、素敵な「色ガラス的なもの」が増えても、海に行けば母は砂浜にしゃがんで、まるで少女に戻ったかのように、一心に色ガラスやきれいな色の石や貝殻を探していました。そして何かを見つけると、「見て見て! きれいなの見つけたわよ」と、うれしそうに私たちに声をかけたものでした。そんな母の姿は、まるで昨日のことのように目に浮かびます。
世界各国を旅して買い集めた、素敵な「色ガラス的なもの」が増えても、海に行けば母は砂浜にしゃがんで、まるで少女に戻ったかのように、一心に色ガラスやきれいな色の石や貝殻を探していました。そして何かを見つけると、「見て見て! きれいなの見つけたわよ」と、うれしそうに私たちに声をかけたものでした。そんな母の姿は、まるで昨日のことのように目に浮かびます。
そんなときの母の優しい、無邪気な表情は、作家・森瑤子として眉を寄せて原稿を書いている表情とは正反対でした。
素敵でお洒落な大人の女性だった母を、私は大いに尊敬しています。でも何よりも好きだったのは、浜辺で必死になって色ガラスを探しているときに垣間見えた、母の純粋な一面です。あの純粋な一面があったからこそ、母は作家になれたのだろう、と思うこともあります。
素敵でお洒落な大人の女性だった母を、私は大いに尊敬しています。でも何よりも好きだったのは、浜辺で必死になって色ガラスを探しているときに垣間見えた、母の純粋な一面です。あの純粋な一面があったからこそ、母は作家になれたのだろう、と思うこともあります。
ジュエリーのようなトーンのインテリア
ところで今、母が好きだった色ガラスや宝石のようなカラーが、インテリア界でも話題になりつつあります。2017年のインテリアトレンドのひとつとして注目されている「ジュエルトーン」。サファイヤやエメラルド、アクアマリン、ルビーやアメジスト、ターコイズといった、ジュエリーをイメージさせる色です。
ところで今、母が好きだった色ガラスや宝石のようなカラーが、インテリア界でも話題になりつつあります。2017年のインテリアトレンドのひとつとして注目されている「ジュエルトーン」。サファイヤやエメラルド、アクアマリン、ルビーやアメジスト、ターコイズといった、ジュエリーをイメージさせる色です。
落ち着いたラグジュアリー感を添える、輝きや光沢のある質感
色だけではなく、ジュエリーが持つ独特の輝きも大事な要素です。ガラスやクリスタル、メタルといった素材を使ったものや、ファブリックでいえば、高級感あふれたベルベットやサテン、シルクのような光沢のある素材。これらをミックスした、まさにジュエリーのきらめきを感じさせるトーンのことです。
色だけではなく、ジュエリーが持つ独特の輝きも大事な要素です。ガラスやクリスタル、メタルといった素材を使ったものや、ファブリックでいえば、高級感あふれたベルベットやサテン、シルクのような光沢のある素材。これらをミックスした、まさにジュエリーのきらめきを感じさせるトーンのことです。
ジュエリーというと、キラキラと光り輝く派手なイメージがあるかもしれません。でも今らしいジュエルトーンの使い方は、宝石の色が持つ独特の深みを生かした、落ち着いたラグジュアリーなイメージです。高級感がありつつも、どこかホッとさせるコージーな空間。色に加え、素材の質感も大きな役割を果たします。
写真の部屋では同じブルーでも、マットな質感の壁に対し、ソファは光沢のあるベルベット。質感の違いが、ソファを引き立てています。アクセントの鮮やかなグリーンのクッションや壁の鏡も、宝石のカッティング面をイメージさせる特徴的なデザイン。インパクトがありながら、気持ちをすっと落ち着かせてくれるコーディネートです。
写真の部屋では同じブルーでも、マットな質感の壁に対し、ソファは光沢のあるベルベット。質感の違いが、ソファを引き立てています。アクセントの鮮やかなグリーンのクッションや壁の鏡も、宝石のカッティング面をイメージさせる特徴的なデザイン。インパクトがありながら、気持ちをすっと落ち着かせてくれるコーディネートです。
色や質感のほか、模様にもジュエリーを思わせるイメージのものが。こんな幾何学模様のシャープなラインには、どこかジュエリーのイメージがあります。たとえば上の写真のクッションやヘッドボード、左の写真の壁紙の模様は、宝石のカッティングの形に見えます。輝きのある素材のランプや花瓶とも、さりげなくリンクしています。
繊細なモザイクタイルの輝き
具体的なアイテムをもう少し挙げてみましょう。モザイクタイルは、ジュエルトーンを感じさせる代表的なインテリア素材のひとつです。上のキッチンの壁や左のバスルームの壁は、それぞれターコイズブルーやエメラルドグリーンを中心に、濃淡のあるグリーン、ブルー、イエローなどのタイルが混じり合い、ジュエリーのような輝きを放っています。シンプルな空間の中にあるので、ひときわインパクトのあるアクセントになっています。
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キッチン、バスからリビングまで、タイルは家じゅうに使える万能素材
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ジュエリーのようなシャンデリアのポイント使い
シンプルなワンポイントアクセントとして、ジュエリー的なアイテムを取り入れるのも、今らしい方法。ここではモノトーンのモダンな空間の中で、アート作品のようなヴェネチアンガラスのシャンデリアが存在感を放っています。これぐらい特徴のあるデザインなら、周りをシンプルに抑えて、一点豪華主義のジュエリーのような取り入れ方がいいでしょう。
シンプルなワンポイントアクセントとして、ジュエリー的なアイテムを取り入れるのも、今らしい方法。ここではモノトーンのモダンな空間の中で、アート作品のようなヴェネチアンガラスのシャンデリアが存在感を放っています。これぐらい特徴のあるデザインなら、周りをシンプルに抑えて、一点豪華主義のジュエリーのような取り入れ方がいいでしょう。
「ハンサムウーマン」的スタイル
ジュエリーを思わせるインテリアと聞くと、フェミニンなスタイルを思い浮かべるかもしれません。しかし深みのあるジュエルトーンにはどこか力強さもあって、エレガントではあっても女性っぽいだけではありません。
「ハンサムウーマン」という表現を好んで使った母の理想としたスタイルは、ファッションでもインテリアでも、そして一人の女性の生き方としても、エレガンスやセクシーさと力強さをバランスよくミックスすることでした。今、注目されているジュエルトーンのインテリアは、まさに森瑤子の目指した暮らし方のスタイルにも通じるのではないかと思います。
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冒頭でご紹介した一節の他にも、母の本にはまだまだ、お伝えしたい言葉やシーンがたくさんあります。これからも折をみて、森瑤子のエッセイや小説から、インテリアやライフスタイルのヒントになりそうな一節をご紹介していきたいと思います。
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