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My Houzz:ソ連時代の団地を改装した、元数学教師の心地よい住まい
1960年代、住宅不足の解消策としてロシアで次々と建てられたプレハブ団地。これまでリノベする価値もないとされてきた住宅を快適な住まいに変貌させたリノベーションの例は、日本の中古マンションのリノベの参考にもなりそうです。
Евгения Назарова
2016年11月15日
このプロジェクトを中心になって進めたのは、オーナーの娘さんでデザイン事務所〈DVEKATI〉のヘッドデザイナー、エカテリーナ・スワニーゼさんだ。退職まで数学の先生を務め、アマチュアのアーティストでもある母のエレナさんが、子ども時代を過ごしたアパートメントに戻ると決めたとき、エカテリーナさんは思い切って大改装することを提案。オリジナルのレイアウトの欠点をすべて取り除きながら、おじいちゃんのテーブルから1970年代の小物類まで、家族の思い出の品々はそのまま残したインテリアを実現するというプロジェクトだ。
どんなHouzz?
所在地:モスクワ、チミリャゼフスキー地区
規模:延床面積45平方メートル
住まい手:元数学教師のエレナさん、猫のオクーシャ
デザイナー:〈DVEKATI〉のエカテリーナ・スワニーゼ(エレナさんの娘)とエカテリーナ・リュバースカヤ
Photography: Nina Frolova, Aleksandr Vainshtein
どんなHouzz?
所在地:モスクワ、チミリャゼフスキー地区
規模:延床面積45平方メートル
住まい手:元数学教師のエレナさん、猫のオクーシャ
デザイナー:〈DVEKATI〉のエカテリーナ・スワニーゼ(エレナさんの娘)とエカテリーナ・リュバースカヤ
Photography: Nina Frolova, Aleksandr Vainshtein
住まいの歴史:「フルシェフカ」とは、5階建ての建物の中に小さなアパートメントが並ぶ、ロシアの典型的なプレハブ団地のこと。元来は、旧ソ連時代、住宅不足を解決するため、1960年代に作られた住宅だ。現在では取り壊されたものもあるが、多くのロシア人が今もこの小さなアパートメントに住み続けている。たいていのロシア人はフルシェフカについて、「住まいとしては最低のレベルで、改装にお金をかける価値はないし、それをデザイナーに依頼するなんてありえない」ととらえている。立地が良くてその地域から離れたくないという場合、より広くて設備も整った新しい建物を近所に見つけて引っ越していく人もいる。フルシェフカという言葉は、今では、旧ソ連時代の庶民が暮らし小さな団地を指すようにもなっている。
エレナさんは1960年代に、両親といっしょにモスクワ市内、地下鉄チミリャゼフスカヤ駅の近くにあるこのアパートメントに引っ越して来た。当時は、新しくできた団地の建物のほかは何もない地域だったと言う。実験農場の敷地内に建てられており、農場ではレーニンその人が電動型のすきをテストしていたそうだ。
「その前は、街の中心部にあるチスティエ・プルディという地域に住んでいて、近くには、木が植えられた大通りや、池もありました。中心地からへんぴな地区に引っ越したことで、母が1か月も泣き続けていたのを覚えています。私はとても嬉しかったので、どうして母がそんなに悲しむのか分かりませんでした。今にして思えば、ニューヨークで例えれば、セントラルパークが見えるマンハッタンのアパートメントからブロンクスに引っ越すようなものだったんですよね。私は小さかったので、新しい家はとても広く感じました。戸棚とバルコニーもいれて、全部で6部屋あると思っていましたから。」
「その前は、街の中心部にあるチスティエ・プルディという地域に住んでいて、近くには、木が植えられた大通りや、池もありました。中心地からへんぴな地区に引っ越したことで、母が1か月も泣き続けていたのを覚えています。私はとても嬉しかったので、どうして母がそんなに悲しむのか分かりませんでした。今にして思えば、ニューヨークで例えれば、セントラルパークが見えるマンハッタンのアパートメントからブロンクスに引っ越すようなものだったんですよね。私は小さかったので、新しい家はとても広く感じました。戸棚とバルコニーもいれて、全部で6部屋あると思っていましたから。」
エレナさんは結婚を機に両親の住む家を離れたが、1年前、家族で昔住んでいたこのアパートメントに戻ってくることを決意。2015年11月に改修作業を始め、短い冬休みを挟んで、4か月間で工事は完了した。
小さなアパートメントのスペースを最大活用するため、デザイナーたちは部屋の基本構造にもいくつか手を加えた。リビングとキッチンをつなぐ入り口を新しく作り、キッチンと短い廊下をつないでいた狭い通路はバスルームと合体させて、バスルームを広くした。アパートメント内に耐力壁はないため、このような工事は簡単に進めることができた。
小さなアパートメントのスペースを最大活用するため、デザイナーたちは部屋の基本構造にもいくつか手を加えた。リビングとキッチンをつなぐ入り口を新しく作り、キッチンと短い廊下をつないでいた狭い通路はバスルームと合体させて、バスルームを広くした。アパートメント内に耐力壁はないため、このような工事は簡単に進めることができた。
このプロジェクトでは、基本的な構造と家族の所有物をできるだけ残したい、というオーナーとデザイナー双方の希望を大切にしている。新しいインテリアのコンセプトを、ゼロから作るのではなく、回顧展を企画するのにも似た方法で組み立てていったのだ。そのため重要になったのが、家具の修復や、思い出の品を飾る場所を選ぶという作業だ。中にはエレナさんがみずから修復に取り組んだものもある。例えば、古い陶器用キャビネットは上段の引き出しを取り外して、テレビを置く台に作り変えている。
廊下を彩る主役は、壁にディスプレイされたベルのコレクションだ。「15年間、高校で数学を教えていたんですが、その学校では外国語を重視していたので、学生たちと一緒に旅行に行く機会がたくさんあったんです。このベルたちは、そんな旅行のときにロシアの各地や海外から集めてきたもの。卒業前の最後の日には、授業の合図にベルを鳴らす伝統があるんですが、それを思い出します。とても感慨深いときなんです」と、オーナーのエレナさんは言う。音色や見た目がそれぞれ異なるため、地理の授業でいろいろな地域を示す例として使うこともできそうだ。
「イタリアが大好きで、少なくとも年に1回は訪れるようにしています。そんなわけで、トスカーナ地方のモチーフを家じゅうに使いたかったんです」と、エレナさんは説明する。広大なトスカーナと小さなフルシェフカでは似ても似つかない。デザイナーたちはそれを十分承知しながらも、重厚なドア、床のフローリング、むき出しのレンガ壁といったディテールを効果的に使い、イタリア風の雰囲気をうまく表現している。天井は、工事業者に依頼して漆喰をはがし、下塗り剤をコーティングして、コンクリートのまま残している。ドア周りには、イタリアを思わせるスタッコ細工の装飾をあしらった。
「いつもクライアントには、好きなインテリアの写真を持って来てもらいます。トスカーナ風スタイルといっても、人によってイメージはさまざまですから、具体的な写真があると話が早いんです」とデザイナーの2人は言う。エレナさんのインテリア写真を見ると、ほとんどが明るい配色であることがわかった。必須であるミルキーホワイトのペンキは〈マンダース〉の製品で見つけた。リビングルームは壁を1つだけダークトーンにペイントし、視覚的に空間に奥行きを感じさせている。ダークブルーは飾られているアートの背景としても最適で、朝の光を受けた柔らかな色合いから、夜には深みのあるトーンへと変化するのも素晴らしい。
部屋のくぼみを活用して、ソファのあるラウンジゾーンを作り、壁にも床のフローリングと同じデザインをあしらった。オーク材のハードウッドフローリングは〈フィネックス〉の製品。このリビングにはもうひとつ、入口に近い本棚の横にもラウンジゾーンがある。このチェアとスツールは、大切な家族の歴史の一部で、フランス製のファブリックで張り直してよみがえらせた。
オリジナルの窓フレームは、木製のモールディングと取り換えている。プラスチックの窓枠だと息が詰まりそう、というエレナさんのたっての要望だ。窓の上のコンクリート部分は露出したままにしている。「私たちにとっては、レンガの模造品であるクリンカータイルよりも、本物の素材のほうがいいんです」とエカテリーナさんは言う。
このアパートメントではほとんどいつも窓を開け放っているため、カーテンは必要なかった。近所の建物とはかなり距離があり、中庭の緑も豊かだ。重いカーテンを付けてしまうと空間がより狭く感じられてしまうだろう。
このアパートメントではほとんどいつも窓を開け放っているため、カーテンは必要なかった。近所の建物とはかなり距離があり、中庭の緑も豊かだ。重いカーテンを付けてしまうと空間がより狭く感じられてしまうだろう。
エレナさんの父親が買ったディナーテーブルは、家族の宝物の1つだ。高級リネン製のテーブルクロスはペレスラヴリ・ザレスキーにあるお店〈ノーヴィ・ミール・ファクトリー〉で購入したもの。デザイナーの2人は、古い椅子を処分するようエレナさんを説得しようとがんばったのだが、結局は捨てずにペンキを塗り直して利用することになった。
キッチンからリビングへと続く壁は、オリジナルのレンガを露出させようと試みたものの、思っていたような美しい仕上がりにならず、バーガンディ色のペンキを塗った。
キッチンからリビングへと続く壁は、オリジナルのレンガを露出させようと試みたものの、思っていたような美しい仕上がりにならず、バーガンディ色のペンキを塗った。
エレナさんがクロアチアで買った「数学」時計。ただし、細かく見ていくと、数式や計算が間違っているところもあるそうだ。
このアパートメントの2人(匹)目の主は、美しい猫のオクーシャ。オカ川の岸辺で見つかったことからこの呼び名がついた。「2010年に、子どもたちが田舎にピクニックに行ったときに子猫を何匹か見つけて、その中のいちばん小さくて弱っているのを連れて帰って来たんです。みすぼらしい姿でしたが、体を洗ってやって大事に育てたら、立派な飼い猫として成長しました」とエレナさんは言う。
キッチンコーナーの引き出しの扉は、ナチュラルな色合いのグリーンに仕上げている。カウンタートップはオーク材で、その下には収納とオーブンのほか、エレナさんがヨーロッパから頻繁に買ってくるワインを保管するためのキャビネットもある。
カウンタートップより上の部分の仕上げには、ニュートラルで視覚的な圧迫感を感じさせないガラス素材を選んだ。スペイン、イタリア、ロシアのロストフ・ヴェリーキーで作られたタイルのほか、伝統工芸であるジョストヴォのトレーが、キッチンの壁を飾っている。
カウンタートップより上の部分の仕上げには、ニュートラルで視覚的な圧迫感を感じさせないガラス素材を選んだ。スペイン、イタリア、ロシアのロストフ・ヴェリーキーで作られたタイルのほか、伝統工芸であるジョストヴォのトレーが、キッチンの壁を飾っている。
もう1つの部屋はベッドルームに。もとは間口が非常に狭い部屋だったので、壁を移動させて幅を広げ、カーテンで仕切られたワードローブを追加して縦の長さを縮めている。
エレナさんの興味の対象は数学だけではなく、常にアートにも関心が高かったと言う。「大学時代は、絵画も勉強していたんです。野外で絵を描く授業も頻繁にありましたし、それ以外にも好きで描いていましたね。今も、旅行にはいつもパステルとフェルトペンを持って行くのが習慣になっています。2歳の孫息子にお絵かきを教えるのも楽しいですね。」ベッドルームの壁には彼女の作品が飾られている。明るいブルーの色調が、粗野な雰囲気のレンガやヴィンテージの家具と面白いコントラストを生みだしている。
この部屋の壁は比較的薄いため、快適に過ごせるように防音素材を使って加工した。窓際には小さなデスクエリアと本棚がある。
オリジナルでは、小さなバスルームとトイレが分かれていたのだが、2つのエリアをつなげ、さらに狭い廊下スペースも加えて広くした。より自由に動けるスペースを作るため、バスタブの代わりにシャワーユニットを選んだ。壁はセラミックタイルと、緑色の小さなモザイクタイルで仕上げている。洗面ボウルを載せる台には、アンティークのシンガーミシンの台を活用した。
バスルームのカーテンの向こう側には、収納ユニットと洗濯機が隠されている。イタリアの風景が描かれたタペストリーは、エレナさんの親しい友人からのプレゼントだ。
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