Houzzツアー:自然な空気の流れで、季節ごとの快適さを実現した住まい
オーナーが「この工法で家を建てたい」と思い立ってから約10年。建物内の空気の循環で一年中快適に過ごせる、パッシブデザインの家ができました。
takako kawaguchi
2016年11月4日
機械設備を用いずに自然の風や太陽熱などの自然エネルギーを活用し、住む人の健康と建物そのものの健康を同時に実現することを目指す、「PAC工法」。「PAC」とはパッシブ・エア・サイクルのことであり、躯体内の自然な空気の流れによって、夏も冬も心地よく暮らせるシステムだ。このPAC工法に加えて通風や断熱、日射遮蔽を工夫したパッシブデザインの間取りを提案し、自然素材を活用した家づくりを続けてきたのが〈エアサイクルハウジング〉である。
今回ご紹介するオーナーは、実家の隣の土地に家を建てることが決まる以前から、あちこちのハウスメーカーのショールームや展示場へ足を運び、家づくりの知識や情報の収集を緻密に行っていた。そんなとき偶然、新聞で目にした〈エアサイクルハウジング〉の講演会参加をきっかけに、PAC工法に興味を持つことに。「建てるからにはいい家をつくりたい」。そう考えていたオーナー夫妻は大切な家づくりを、彼らと二人三脚で行うことを決定。その後、土地購入手続きが完了するまでの実に10年近くの間、オープンハウス見学などの機会を活かして、ライフスタイルからインテリアや素材の好み、コスト面に至るまでの相談を重ね、信頼関係を築き上げていった。
今回ご紹介するオーナーは、実家の隣の土地に家を建てることが決まる以前から、あちこちのハウスメーカーのショールームや展示場へ足を運び、家づくりの知識や情報の収集を緻密に行っていた。そんなとき偶然、新聞で目にした〈エアサイクルハウジング〉の講演会参加をきっかけに、PAC工法に興味を持つことに。「建てるからにはいい家をつくりたい」。そう考えていたオーナー夫妻は大切な家づくりを、彼らと二人三脚で行うことを決定。その後、土地購入手続きが完了するまでの実に10年近くの間、オープンハウス見学などの機会を活かして、ライフスタイルからインテリアや素材の好み、コスト面に至るまでの相談を重ね、信頼関係を築き上げていった。
「住んでみて、快適さを実感しています。漆喰の壁と無垢の木の質感も本当に心地よいですね」とご主人。「冬は寒くなく、夏は暑くないので、この家に引っ越して以来、エアコンを使うことはめったになくなった」とも。南向きのリビングは高さ5.2mの吹き抜けがあって、開放感は抜群。南と東にとった大きな窓からの温かな太陽光が、リビングだけでなく、家全体を明るく満たしている。圧巻の吹き抜けは視覚的な迫力だけでなく、室内の自然な換気と上下階をつなぐ縦方向の換気にも貢献。「冬はシーリングファンを使うことも多いです」とご主人が語るように、ファンを回すことでさらに空気を動かし、空間全体の温度差をなくして快適に保つことができるようになっている。
どんなHouzz?
住まい手: 40代夫妻、長男、長女の4人家族
所在地:東京都杉並区
敷地面積:142.71平方メートル
延床面積:102.31平方メートル
設計:エアサイクルハウジング
構造:木造軸組PAC工法
竣工:2013年10月
どんなHouzz?
住まい手: 40代夫妻、長男、長女の4人家族
所在地:東京都杉並区
敷地面積:142.71平方メートル
延床面積:102.31平方メートル
設計:エアサイクルハウジング
構造:木造軸組PAC工法
竣工:2013年10月
「先日、肌寒い日が続いたので、換気口を閉めました」と夫妻。床下と越屋根(こしやね/屋根の上に一段高く設けた小屋根)につけられた2種の換気口のことで、これらを閉じることで、屋根と壁の「集熱通気層」(太陽熱を集めるための、屋根面と壁面に設けられる通気層)と、開口部から集められた太陽熱と生活熱が、躯体内空間の空気の流れとともに建物全体に空気循環し、建物の冷たさを取り除けるというわけだ。
逆に暑い季節になったら、換気口を開くことで、風力と温度差によって空気が自然と躯体内空間を通り抜けていくという仕組み。夜間、基礎や、床下の土間コンクリートに蓄えた冷蓄熱も涼しさの源となる。「夏は無垢のナラ材の床がひんやりして素足に心地よく、土間を風が通っているのを感じます」。
越屋根換気口の操作レバーは、2階のウォークスルークローゼット内に設置されており、操作は簡単。また、越屋根の点検やエアサイクル機能用に確保した小屋裏空間にも床材を敷いて、物置きスペースとして有効活用している。
逆に暑い季節になったら、換気口を開くことで、風力と温度差によって空気が自然と躯体内空間を通り抜けていくという仕組み。夜間、基礎や、床下の土間コンクリートに蓄えた冷蓄熱も涼しさの源となる。「夏は無垢のナラ材の床がひんやりして素足に心地よく、土間を風が通っているのを感じます」。
越屋根換気口の操作レバーは、2階のウォークスルークローゼット内に設置されており、操作は簡単。また、越屋根の点検やエアサイクル機能用に確保した小屋裏空間にも床材を敷いて、物置きスペースとして有効活用している。
1階のリビングからキッチンを眺めてみると、まるでギャラリー空間のような、しっとりとした落ち着きを感じる。その秘密はキッチン背面に広がる見事な「磨き漆喰」の壁。「磨き漆喰」は熟練した高度な技を要する、非常に高級な仕上げといわれており、淡路島のカリスマ左官職人、植田俊彦氏が手がけたものである。ライトグレーの上品なつややかさと手仕事がもたらす素材感は、ステンレスのカウンタートップと絶妙のバランスだ。
奥様たっての希望だったというアイランドキッチンは、すべて職人による手作り品。幅2.4m、奥行きは90cmあり、下部収納はダイニングとキッチンの両方から使える形に。ダイニング側はカップ&ソーサーや書類など、キッチン側は鍋やフライパン類などの収納に活用している。
奥様たっての希望だったというアイランドキッチンは、すべて職人による手作り品。幅2.4m、奥行きは90cmあり、下部収納はダイニングとキッチンの両方から使える形に。ダイニング側はカップ&ソーサーや書類など、キッチン側は鍋やフライパン類などの収納に活用している。
幅広でたっぷりとゆとりのあるキッチン。「最近、長女と一緒にパンづくりを楽しむようになりました。ワークトップがステンレスなので、熱いものも気兼ねなく置けて料理がスムーズです」と奥様。厚さ1.2mmのフルオーダーステンレストップは美しく無駄のないシャープなデザイン。
食洗器は60cm幅の〈ガゲナウ〉をチョイス。「大型で、五徳もすべて入るので後片付けがラクです」。ガスコンロは〈ハーマン〉。高火力でダッチオーブンも入るのが魅力だ。
背面には4.2mの壁面幅いっぱいにカウンターを設け、上部にはコーヒーメーカーなどのキッチン家電が、下部引き出しにはストックの乾物類や食器、製菓グッズなどが整然と収まっている。床下収納もあり、ボトルやドリンク類はそちらに保存。
食洗器は60cm幅の〈ガゲナウ〉をチョイス。「大型で、五徳もすべて入るので後片付けがラクです」。ガスコンロは〈ハーマン〉。高火力でダッチオーブンも入るのが魅力だ。
背面には4.2mの壁面幅いっぱいにカウンターを設け、上部にはコーヒーメーカーなどのキッチン家電が、下部引き出しにはストックの乾物類や食器、製菓グッズなどが整然と収まっている。床下収納もあり、ボトルやドリンク類はそちらに保存。
LDKの脇に設けたワークスペース。現在は小学生の子供たちの勉強机として利用している。長男は勉強後、いつもきちんと掃除機をかけてきれいに片付けているそうで、このスペースが子供たちの大切なお気に入りの場所であることがうかがえる。カウンターにしたのはタモの間伐材。壁面のオープン棚も同材で造作したもの。統一感のあるボックスを並べて、見た目も使い勝手もアップしているところに、奥様のセンスのよさが表れている。
ワークスペースの先には洗面室とバスルームが。洗面台壁面にも一部、キッチンと同じ磨き漆喰を施し、水はねに強く、さりげないインテリアアクセントとした。洗面台は1階、2階ともに〈Tform〉が扱う陶器タイプを選択。1階は朝、家族がスムーズに身支度できるようにと〈グローエ〉の2口水栓に。
左手にかかっている〈マリメッコ〉のファブリックは、家を新築中に旅したフィンランドのマリメッコ工場で直接買ってきたものだそう。衣類ケースを収めたスペースの目隠しとして、カーテンのようにふわりと掛けた気軽な使い方で、空間にアクセントをつくっている。ワークスペースもこちらの洗面室も、中庭に面した窓があり、風と自然光が入るよう設計されている。
左手にかかっている〈マリメッコ〉のファブリックは、家を新築中に旅したフィンランドのマリメッコ工場で直接買ってきたものだそう。衣類ケースを収めたスペースの目隠しとして、カーテンのようにふわりと掛けた気軽な使い方で、空間にアクセントをつくっている。ワークスペースもこちらの洗面室も、中庭に面した窓があり、風と自然光が入るよう設計されている。
玄関ポーチから続く形で、家の中心にある中庭。北側に位置する1階の洗面室や2階の子供部屋も、中庭のおかげで暗さはまったく感じない。
LDの入り口にある扉は、真冬以外は開放してあり、ワークスペースとの境にも壁や扉はない。「若いご夫妻の家なので、先々いろいろな使い方ができるよう、区切りすぎないようにと考えました。収納や扉などもつくり込みすぎず、オープンにしています」と〈エアサイクルハウジング〉の内藤千春さん。「外張り断熱のエアサイクル構造で家全体の温熱環境を整えているという面からも、スペースを細かく区切る必要がないのです。つまり、滞在する居室の扉を閉めてエアコンをつける、ということをしなくていいので、このように広やかな間取りでも寒くなく、暑くないのです」。
階段の手すりと側桁は鉄骨。黒のマットな質感が、ナチュラルなインテリアの程よい引き締め役となっている。階段はタモ材で、床材に使った無垢のナラ材とも好相性だ。
家のほとんどの壁は、前述の左官職人、植田氏による漆喰のウェーブ仕上げ。軍手を使って円を描くようにぐるぐるとニュアンスをつける方法で、漆喰の表面積が増えるため調湿効果アップが期待でき、汚れや傷も目立ちにくい。「今までは冬は加湿器をつけてさらにマスクもして寝ていたのですが、この家に引っ越してから、乾燥がまったく気にならなくなって。加湿器は先日、処分しました(笑)」と奥様は語る。ご主人も「家づくりって、本当に手作りなんだとよくわかりました。職人さん次第なんだな、と」。良質な自然素材を使って、信頼できる熟達した大工、鳶、左官職人がとことん丁寧に仕上げた家。夫妻の言葉の端々から、この家への高い満足感がひしひしと伝わってくる。
階段の手すりと側桁は鉄骨。黒のマットな質感が、ナチュラルなインテリアの程よい引き締め役となっている。階段はタモ材で、床材に使った無垢のナラ材とも好相性だ。
家のほとんどの壁は、前述の左官職人、植田氏による漆喰のウェーブ仕上げ。軍手を使って円を描くようにぐるぐるとニュアンスをつける方法で、漆喰の表面積が増えるため調湿効果アップが期待でき、汚れや傷も目立ちにくい。「今までは冬は加湿器をつけてさらにマスクもして寝ていたのですが、この家に引っ越してから、乾燥がまったく気にならなくなって。加湿器は先日、処分しました(笑)」と奥様は語る。ご主人も「家づくりって、本当に手作りなんだとよくわかりました。職人さん次第なんだな、と」。良質な自然素材を使って、信頼できる熟達した大工、鳶、左官職人がとことん丁寧に仕上げた家。夫妻の言葉の端々から、この家への高い満足感がひしひしと伝わってくる。
2階にある子供部屋。中庭に面した窓のおかげで、北側とは思えないほどの明るさだ。変型の8.3畳で、将来的には長男と長女のために間に仕切りを設け、2つのスペースにする予定である。
写真奥右手はウォークスルークローゼットへの扉。クローゼット内部はもちろん、玄関や洗面室などもにおいや湿気がこもることなく、漆喰壁の威力を実感しているという。
写真奥右手はウォークスルークローゼットへの扉。クローゼット内部はもちろん、玄関や洗面室などもにおいや湿気がこもることなく、漆喰壁の威力を実感しているという。
こちらも2階の、南向きの寝室。「布団を干すのが大好き」という奥様にとって、ベランダに面した寝室は日々ラクに布団干しができる、うれしいレイアウトである。梁やカーテンボックス、吹き抜けからリビングを見下ろせる左手の小窓など、木のあしらいに目も心も癒される。
実際、家の中のどのスペースに立っても、思わず深呼吸したくなるクリアで快適な空気と自然素材を活用したインテリアによって、五感が安らぎ、心身が心地よくリラックスしていくことがよくわかる。
実際、家の中のどのスペースに立っても、思わず深呼吸したくなるクリアで快適な空気と自然素材を活用したインテリアによって、五感が安らぎ、心身が心地よくリラックスしていくことがよくわかる。
落ち着きのあるグレーの左官仕上げで、閑静な住宅地に溶け込んでいる外観。植栽の手入れも夫婦で共同作業し、四季ごとの美しいグリーンを育んでいる。南側に広がる庭ではご主人が家庭菜園を楽しみ、トマトやルッコラ、オクラ、アスパラ、サンチュなど、見事な採れたて野菜が食卓に彩りを添えるようになった。
自然な風と光、暖かさと涼しさ、そしておいしさで包まれた家族4人の幸せな暮らし。家づくりの主役であるオーナーのもと、親身なプランニング、自然を活かすPAC工法と職人の一流の仕事が結実した、理想の家づくりの好例である。
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